BATTLE FIELD OF RAVEN
第4話 小規模戦争−突破戦、殲滅戦、防衛戦−
ルシードは、ランバート通りで通信を受けた。
『レイヴン、緊急事態だ、生物兵器テロに便乗した物と思われるテロリストの蜂起が発生した、鎮圧せよ』
「こちらレイヴン、了解、その二つが関係する可能性は?」
『その可能性は薄い、現在被害が拡大しているランバート通り周辺の北区で生物兵器とテロリストが交戦しているとの情報もある』
「なるほど、了解、何か情報があったらこっちに回してくれ」
『分かった、一番近いテロリストは北区の空港施設で補給物資を破壊している、ガードだけでは戦力に不安がある』
「戦力詳細を頼む」
そこまで言ったところで既に機体は空港を視界に収めていた。
目の前には戦闘の跡らしき残骸が存在する、ガードの物も、テロリストらしき機体の物もあった。
『現在空港施設で確認されているのは、AC2機、MT10機、それから地上の歩兵が一個小隊30名前後だ。
護衛に当たっているガード部隊はMTが15機、それから対空対地用のミサイルランチャーだ』
「テロの対象になりそうな大物はあるのか?」
空港の敷地内部に突入する、足下の鉄条網はACの重圧と速度の前に脆くも千切れた。
『市の発電施設用のプルトニウムを搭載した機体が現在上空を旋回している、着陸は不可能。
かといって他の空港へ向かわせる燃料もない、間に合わなければ核が都市に落ちる』
「そいつか、分かった、その護衛を最優先する、他の民間機は?」
愛用のライフルを機体下部右側に固定し、左側から新型の重機関砲を取り出す。
『現在停泊しているのは3機、他は全て他の空港へ待避させた、急いでくれ、被害は最小限に抑えたい』
ガードとの戦域から遠ざかっていたのであろう、砲撃用MTが滑走路を攻撃していた。
「了解だ」
重機関砲がそれぞれ精密狙撃のような正確さで乱射され、MTは完全に沈黙した。
−戦域内残存敵機数、11
カリナは、ハンガーで、各メディアと通信の傍受で情報を収集しながら、もうすぐ来るであろうパートナーを待っていた。
−弾着5秒前、隠れろ! 急げ!
『この事件は、ラサシティー北区で発生しています、市民の皆様は北区より脱出し、最寄りの避難シェルターに避難してください』
−ランバート通り周辺の北区で生物兵器とテロリストが交戦しているとの情報も……
−おい、まだテロリストがいるのか!?
−空港西の商業区画に展開中の各隊、そこでテロリストと生物兵器が交戦する可能性が高くなってきた、避退しろ!
−馬鹿言うな、ここはラサの経済基盤だぞ! せめて情報基盤センターとその周辺の各工場の死守命令を出してくれ!
−展開中のイエロー中隊、ブルー中隊撤退しろ、これは司令部からの命令だ!
−チッ! ラサが破産しても責任なんざとらねーぞ!
−司令部! こちらジュピターのレイヴン、おい、上空の旧型機、あれはなんの冗談だ?
−馬鹿野郎! MT二個中隊が何を抜かす、奴らはその三倍だぞ! 増援が来るまで精々ダラダラ後退しとけ!
−ジュピターの要塞、あれは重要な対地攻撃機だ、少なくともあんたらの邪魔にはならんよ。
「カリン!」
「ミリィ、整備は終わったのね?」
−ホントウだな? 嘘付いたら後であんたらにミサイルぶち込むぞ!?
「ええ、終わったわ、あなたもさっさとランバート通りへ行けば良かったのに……」
「いえ、生物兵器の攻撃開始に便乗してテロリストが都市北側の全域で蜂起したらしいわ」
「なんですって?」
−そいつは困るな、あんたらに対抗できる連中を警備に雇わにゃならん
「というわけで、私たちが向かう場所は空港西部の商業区画、どうやらテロリストも生物兵器も主力はこの辺りに居るらしいわ」
「なるほど、最初のは囮って事ね……」
「その可能性があるってだけよ、とにかく、最初の地点制圧は兄さん達に任せて、私たちは商業区に急ぎましょう」
「了解!」
−戦域内敵機数6個小隊、生物兵器総数不明
「無茶だろ! 相手はMTサイズのデカブツだぞ? それを歩兵だけで止めろってか?」
「だがここは死守だ! 人が居る避難シェルターなんだぞ!」
「ここにある全部の補給車には武器が満載だ、しかも敵は単独、全員で撃ちまくればなんとかなる!」
「駄目だったらどうする気だ? 俺たちもシェルター内の人間も全滅間違い無しだ!」
「そうだ! それなら別のシェルターに各個に分かれて避難させる方が良い!」
「レイヴンも呼んでいる、連合から推薦されるほどの奴だ、大丈夫だ!」
いつ来るか、それは誰なのか、そもそも来る保証があるのか、全く説明されなかった。
「チックショー! 生きて帰ったら加重労働と危険手当の訴え起こしてやる!」
「生きて帰ったらってのが物騒でならねーぜ!」
「どっちにしろ明日訴えを起こすなら今日死ぬんじゃないぜ! 兄弟!」
「ああ、わかったよ! シェルター守って生きて帰る!」
「敵、5キロ圏内に接近」
「対戦車砲一斉射! ランチャー兵各員、各個に発射!」
「おい、モハッド、ガードの連中が来てるぜ、混乱もしてねぇ、大丈夫なのかよ?」
『心配するな、さっさと橋を落として脱出すりゃあいい』
「しかしなぁ、その橋からずんずかMTが来てるんだぜ?」
『うっさいなアッディーン、そんなに心配なら空港のプルトニウムを取りに行くの手伝うか?』
「おまえはどうするんだよ、モハッド」
『機体を自爆させて橋を落とす! 神の為に!』
「無茶言うんじゃない、ったく……手伝うよ、手伝えば良いんだろ……アッラー・アクバル、インシャーラー!」
イスラム教の祈りの言葉を、シヴァ神のエンブレムを付けたACのパイロットは呟いた。
『南無阿弥陀仏、ってかぁ!』
仏教の言葉を、十字架のエンブレムを付けたACのパイロットが呟いた。
3機の旧型機が、生物兵器の上を飛び回っている。
その旧型機はとても遅く、生物兵器の放つ『砲撃』の射程外にいるから助かっている。
少なくとも、彼の目にはそうとしか映ってはいなかった。
だが、その目が曇っていると知らされたのは、ほんの一瞬の間だ。
トラップが発動し、一体が吹き飛んだ。
そのタイミング、その刹那。
爆炎がACのモニタを、レーダーを、周辺に存在する全ての視界を一瞬だけ奪った。
低空飛行が始まり、3機は接近した。
それは、3機が並んでビルとビルの間を疾走するほどの近距離だった。
中央の一機の胴体の下で、左右の両機の翼が接触していた。
それほどの距離。
その距離から30ミリ機関砲の6門が一斉に放たれた。
一直線に並んだ間抜けな敵への情け容赦のない掃射。
一体を除いて生物兵器が苦悶の咆哮を上げ、残りの一体は即死していた。
思わず口笛を吹いていた。
『Let's Go! Let's Go! Let's Go!』
『Fire! FIre! Fire!』
いったいいつの間に配備されたのか、ビルの上からも機関砲が掃射し始めた。
その音で、ようやくここが戦場である事を思い出し、気付けば旧型機は視界から消えていた。
『どうだい、良い戦闘機だったろ、A-10はよう!』
「ああ、最高だな」
−戦域内残存生物兵器数、13
重機関砲の精密射撃が次々とMTを屠っていく。
その射撃は真実神業であり、少なくとも全ての弾丸が命中していた。
7機を沈黙させたところで横合いから軽装のACが突撃してきた。
倉庫の影からの奇襲であり、通常ならば即座に倒されていたであろう。
だが、その一撃は、旋回させた重機関砲の銃身に弾かれ、重機関砲の銃身をひしゃげさせただけに終わった。
重機関砲を放り投げ、即座に左のブレードで斬りかかる。
その薙ぎ払いは相手の右腕のハンドガンで腕ごと受け流された。
だが、ブレードを抜き放つと同時に抜き放っていた右のハンドガンで敵機のモニタを狙う。
白兵戦での照準から発砲までは半呼吸にも満たない時間、だがそれでも引き金を引くまでの僅かな時間に逸らされた。
モニタに命中するはずの銃弾は僅かに逸れ、虚空へと消えた。
受け流された動きを利用、そのまま加速、回転。
4足の、右後脚部が相手の足を倒そうとし、同時に軽装機が僅かに下がり、足払いを回避する。
回転しながら、再度抜き放たれた左のハンドガンを照準も付けずに発射する。
一発は装甲に弾かれ、もう一発は頭部左のレーダーを破壊した。
回転しながら、敵の存在する方向に飛翔、体当たりを仕掛けた。
左右に避ける事は不可能だったのか、そのまま体当たりを受け、さらに軽装機が後方へよろめく。
体当たりの衝撃で、回転を4分の3で強制終了させると、回転の方向を90度倒す、即ち。
豪快な回し蹴りが側面から軽装機を叩く。
軽装機は軽装であるが故の脆さを露呈し、機体左腕部がもげ取れ、コアの装甲すらもひしゃげてしまった。
そして当然、ベクトルの強制変更は軽装機のパイロットがコクピットに叩き付け、機体もそのまま横倒しに倒れていく。
それで終わらず、倒れていく機体に、回し蹴りで使われなかった後ろ足が叩き付けられる。
前足が着地し、無理矢理に4脚で地面に立とうとし、そして軽装機は地面に叩き付けられ、沈黙した。
−戦域内残存敵機数、3
「無茶だと思っても、やってみりゃ何とかなるもんだな……どおよ、兄弟」
「全くだ……生身でこんなデカブツと戦うなんて経験はこれっきりにしたいものだが」
「で、被害の程はどうだ?」
「補給車のランチャーは全滅、搭載してた対戦車砲も弾切れ、携行火器なんか拳銃含めてもうなんもねえ、
……なんとまぁ支給品のナイフまで無いぜ? しかも補給車はコイツ以外炎上全滅だ」
「そいつはまた派手だな、俺たち以外の生存者は?」
「居るとしたら半分は運だな」
「もう半分は?」
「それも運だな」
「全部じゃないか」
「いや、違うな、半分は天運、もう半分は自力で勝ち得た運だ、とりあえず、歩けるくらいに休憩したら生存者の捜索だ、了解か?」
「あいよ、了解」
二人は地面に突っ伏して大きく息を吐いた。
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