BATTLE FIELD OF RAVEN
第3話 戦闘オペラハウス−その演奏者達−
バリケードの近距離で弾丸が爆ぜた。
「MT部隊! こっちは生身なんだ! ドンパチは遠くでやれ! 遠くで!」
『やかましい! そんなに言うならこっから逃げるぞ! 馬鹿野郎!』
MTが人間の胴のような口径の大砲を発射しながら外部マイクへ吠えたてる。
「衛生兵! メディック! こっちだ! 破片で負傷した人間が居る! 民間人だ!」
「ここじゃやかましくって治療ができん! 後方から誰か呼べ!」
「仰角30、方位46、180ミリ砲、発射!」
「まだか、まだ避難は終わらないのか!」
「残ってるのは若い男連中ばっかりです! むさくるしくてやる気もでねー!」
「バッカ野郎! だったら歩いて避難させろ! 負傷者は装甲車でも何でも使え!」
「了解! おい、マルク! お前が先導しろ!」
標的に比してあまりに小さな機関銃の斉射を取りやめて衛生兵が叫ぶ。
「了解! ウェーバー! 右、右だ!」
「負傷者だ! 誰か、銃座を引き継げ! 急げ急げ! 敵が接近してきてるぞ!」
「残っている市民の皆さん! 脱出します! パニックにならず、落ち着いて付いて来てください!」
「弾切れだ! 弾倉! 早く持ってこい!」
「ハイムマン、隊長!」
「なんだ、今度はどうした?」
「左側の公園、炎上してますよね」
「それがどうした! 珍しくもないだろうが!」
「敵は左側から接近する様子がありません、もしかしたら、敵は、炎が苦手か、通過できない性質なのでは?」
「確かに、その可能性はあるな……通信兵! オペラハウスに電話を入れろ!」
「こちらダイヤ中隊、本部、応答せよ!」
「こちら本部、ダイヤ中隊、どうした?」
「空軍支援の要請だ、ランカークス通り市民会館から北全域に、ナパームを投下してくれ!」
「馬鹿野郎! 都市を灰にする気か!」
「敵は炎が苦手な可能性があるんだ! 全域じゃなくて良い! 敵の周囲にブチ撒けろ!」
「わかった、10分待て!」
「5分でやれ! オーバー!」
通信が途切れた。
「MT部隊にも知らせろ、支援爆撃があるとな! この陣地もそれまでは死守するぞ!」
「ジオ、気を付けろ、ガード部隊がナパームを投下するらしい」
「そうか、生物だからな、炎が弱点という可能性があるのかも知れないな……カリンに繋いでくれ」
『ジオ、どうしたの?』
「いや、敵は生物で、炎が弱点の可能性があるらしいからな、グレネードにナパーム詰め込んでおいてくれないか?」
『わかったわ、状況に変化はある?』
「いや、今のところ分からない、敵も見えていないしな、見えたら知らせる」
通信が切られる。
同時に、軽く飛び上がり、左右を見渡した。
「ノア、何か見えそうか?」
「ああ、爆撃機だ、予想進路と敵情報から判断すればだが……
このままランカークス通りを行くより、システィーナ記念会館の……なんだっけ?」
「ランバート通りだな、やや迂回しながら向かうって事か」
「その通り、こっちだって爆撃されたら目も当てられない状態になるからな」
「しかし、だからといって直進しなければ現場への到着が遅れるぞ」
「そうだな……よし、こうしよう、俺は全速でランバート通りから市民会館へ向かう、お前は直進して現場に突入してくれ」
「わかった、敵の足止めをするから後方から撃ち抜いてくれ」
「任せろ、そっちの到着とそう変わらないだろうから、遠距離攻撃に徹してくれ」
「分かってるさ」
「よし、これより爆撃機の投下が始まる、避難は終わってるな?」
「完了しました、現在ここから後方2キロの地点です」
「よし、歩兵部隊は陣地撤収、爆弾を仕掛けて盛大なトラップにする」
「了解、MT部隊はもうちょっと踏ん張って歩兵部隊の撤退を援護、依頼を受けたレイヴンもそろそろ到着する予定だ」
『アイサー了解、とはいえ、足止めはされてるし、問題はないと思うけどな』
「ヴェノム4、そいつは問題発言だ、俺たちに被害が出たら司令部に文句言っちゃうぜ」
『こちらヴェノム4、そいつは困る、根性で耐えてくれ』
「根性でどうにかなるならとっくにそうしてるさぁ」
「迫撃砲と設置機銃座の隊から車で撤収しろ、通信兵と対甲部隊は最後まで残れ、工兵、トラップの準備はどうなってる?」
「準備は大体終わりました、東と北は問題ありませんが、陣地西側、誘爆用の火薬は残ってますか?」
「待ってろ、今確かめる」
『こちらヤンキーアニマルス、支援爆撃の開始位置まで後僅かだ、歩兵部隊の安全は確保されてるか?』
「ヤンキーアニマルス、来てくれて嬉しいよ、市民は全部避難した、歩兵部隊も、攻撃要請位置からは撤退した、問題なしだ。
ただし、頼むから俺たちの上には落とさないでくれよ」
『了解了解、気苦労が多いね、陸軍の連中は』
「気楽で良いぜ、空軍はな」
『俺たちだって制空権のない中爆撃したりする事もあるんだ、怖いんだぜ、アレ』
「無駄口叩くな、さっさとやってくれ」
『アイアイサー、ナパーム投下開始する』
『ジオ、現場に到着しているか?』
「ああ、爆撃機のナパーム投下が開始されたようだ、正面、約3キロってところだな。
最後の市民の避難の車が見えるが、そっちはどうだ?」
『システィーナ記念会館まで1キロだ、爆撃投下完了と同時に突撃可能だと思う』
「いや、少し待て、通信を聞く限り、ナパーム投下自体がトラップらしい、詳しい内容が分かるまで突撃は控えた方が良いだろう」
『わかった、タイミングはそっちに任せる、こっちはあと3秒で到着する』
「ヴェノムリーダーよりヘッドクォーター、こちらの後方3.5キロ前後の位置にレイヴンらしきACを確認。
そっちでデータの照合は出来ているか?」
『こちらヘッドクォーター、その機体は、黒い重装機か?』
−こちら貿易センター前、レイヴンらしきACがいる、二機だ! 赤い中量級と緑の軽量級、確認急いでくれ。
「いや、重装ではあるが白いな、この位置からだとそれ以上は不明だ」
『ならば問題ない、そいつはWhite Fort、都市のトップランカーで、今回雇った連中の一人だよ、ヴェノム』
−馬鹿、そいつらは『敵』だ! 撃て、撃て、近隣の部隊を応援に向かわせる! 後退しろ、足止めだ!
−同時遂行は無理だ! どっちかにしろ! どっちかに!
「そーかそーか、そんな奴が依頼を受けたのか、ということはジュピターが来ているか……
了解ヘッドクォーター、前衛を連中に任せて後退して良いか?」
『問題ない、だがまだ戦域に歩兵部隊が留まっている、後退は許可するが離脱は赦されない、了解か?』
「了解ヘッドクォーター、交信終了、通信回線をレイヴンに繋いでくれ」
「わかった、少し待て」
『こちら市のガード、ヴェノムリーダーだ、レイヴン、聞こえているな?』
「聞こえている、どうした?」
『ナパームの投下炎が見えているだろう、それを避けて敵の兵器は行動するはずだ。
ルートは限定される、そこに火力を集中してくれ、できるか?』
「ルートは何カ所だ? そしてそれはここから目視可能か?」
『ルートは二カ所、そこから目視できる場所は一つだからそこだけ狙ってくれればいい』
「それは可能だが、もう一つはどうするんだ?」
『そこにはトラップが仕掛けてある、ルート以外の場所を強行突破してきたらこっちが攻撃するが、その際は射撃目標を変更してくれ』
「了解した……狙撃準備完了、ミサイル戦闘態勢のままロック」
通信機をスモールトークに切り替える。
「ノア、聞こえていたか?」
「分かってる、トラップから生存した敵を叩く、トラップは……」
モニタを狙撃用の拡大画像に変更し、陣地があった場所を注視した。
「見えた、ありゃ残ってる火薬の誘爆も狙った地雷の類だな、一匹はほぼ確実だろうがその後は考えているのかわからん」
「上空はどうだ? 戦爆でもいるならどうにかなるだろ」
「……いや、飛んでるのは、ありゃかなり旧型の対地攻撃機だな、えーっと、3機か?
偵察と通信用だと思う、ミサイルや爆弾は装備されていない」
「空中管制の装置でも積み込んだのかな……まあいいか、とにかく、陣地爆破の後のそっち側は任せた」
「わかった」
−戦域内残存生物兵器数、15。
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