BATTLE FIELD OF RAVEN



第2話 序曲
「『バグ』設置完了、タイマー準備も終了」 「カウントダウン、開演予定時刻まで、あと……3000、カウントスタート、離脱せよ」 「了解、予定地点まで移動を開始する」 「チャーリーズ、そっちはどうだい?」 「ああ、いつも通りだ、1時間前と同じ、何にもないぜ、さっさと帰って寝ちまおう」 「そりゃいい提案だチャーリー1、お前のカミさんの頼みでもある、カミさんとの夜間戦闘に備えて寝ておけや、ハッハッハ!」 「おいおい、ブラボー、そいつは野暮だぜ、なあ、チャーリー」 「全くだ、俺はいつだってカミさんを喜ばせてやれるぜ、俺様の杭打ち機は強力だぜ? 知らないのか? アルファ」 「俺のは家ごと吹っ飛んじまうぜ?」 「ハハッ! そいつは大変だな、家が吹っ飛んだ記念にドリンク剤でも届けてやろうか?」 「そいつは大変だ、街ごと吹っ飛ばしちまう」 それは定時の巡回時刻だった。 どんなに素晴らしい組織であれ、厳戒態勢を続ける事は極めて難しい。 まして、ここ数ヶ月間大きな事件もなく、安定したこの都市において、警戒心は薄れても仕方がない事だと思う。 とにかく、彼らは不運であった。 「ところでアルファ3、任務中に酒を飲むのは御法度だぜ?」 「素面でまともに仕事が出来るとは頭のいい連中だ、だから出世するんだよ、そう言うルールを作る連中はな」 「全く持って賛成だ、俺にも後でくれ」 「お前はどぶの水でも飲んどくといい、コイツは最高の……」 「おい、通信が途切れたぞ? 機材の故障か?」 「いや、反応は正常だ、アルファ、アルファチーム? 3はどうした?」 「おかしいぞ、IFFに反応がない」 「ブラボーチーム、本部と連絡を取れ、増援を寄越して貰う方がいい」 「ジーザス、コイツは事件だぜ」 「戦闘用意、全システムアクティブモードに変更、市民への避難勧告も出すように本部に要請しろ、反応消失地点へ向かう」 「了解だ、チャーリー、無理はするな」 「安心しろ、俺は500歳まで生きる予定だ」 「電話、か?」 長閑にハンガーの入り口脇でパンを頬張っていたジオが電話に出た。 「ハロー」 「ハロー、ジオ、ラグだ」 「ラグ、どうした?」 「整備の状態はどうなっている?」 「各部のラフチェックが終了、これから内蔵武装の補給とグランドチェックに入るところだが……何かあったのか?」 「ああ、事件というか、依頼だ、こいつは無差別にネット上に発行している、しかも最悪な事に事実だ、テレビをチェックしてみろ」 通常、レイヴンへの以来は極秘裏に−とはいえ、レイヴンは当然チェックする場所に−発行される。 一般市民へは公にしたくない依頼もあり、普通に考えれば一般人も目にする領域には発行されない。 「……内容は?」 電話を子機に切り替え、テレビのある休憩室に向かう。 「ああ、つい5分前だ、ガアルファ小隊が市内の哨戒中に連絡を絶ち、それを探索に向かったチャーリー中隊も全滅した」 「アルファに、チャーリーだと? 馬鹿な、軍隊混じりの精鋭じゃないか、しかも師団派遣の小隊が? その師団はどうした?」 テレビをオンにし、ラサ市内の番組にチャンネルを切り替える。 「なっ……」 「現在交戦中だが、状況は良くない、足止めで精一杯と言うところだ、しかも被害が拡大している」 −繰り返しお伝えします、現在ランカークス通りでは激しい交戦が繰り広げられており、その対象については不明という…… 画面が監視カメラらしい映像に移り変わり、直後に途絶え、キャスターの写る画面に再び移り変わる。 「こい……つは」 −市長は市民に対しランカークス通りだけでなく区画一体へ避難命令を出しており、住民の皆様は 「恐らく生物兵器、それもタチの悪い事に中途半端に機械が組み込まれて兵器も満載だ」 −ああっ、今ガードの機体が爆発しました! どうやら対象は巨大な機動兵器であるとの予想が軍事評論家の…… 「しかもランカークス通りだと? 10キロも離れてないぞ」 「そうだ、とにかく依頼を受諾してもしなくても良い、ACに搭乗してそこから離れるか、倒してこい!」 「わかった、整備の人に最低限の給弾だけでも急がせる、5人分受諾しておいてくれ」 電話を切り、休憩室から走って出て行く。 −つまり、この数ヶ月の事件の少なさは、どこかの企業がこういう兵器を開発、実稼働させる為の準備期間なんだから、当然…… テレビの声が、虚しく響いていた。 そこから先は慌ただしかった。 「とにかく、細かい状況は俺もよく知らないが、ランカークス通りの辺りで生物兵器が暴れているって事だ」 「とりあえず、分散して探索って事で良いかな」 「ああ、それが最良だろう、火器が強力らしいから、発見したら通信を入れよう」 「しかし、全員が対生物兵器レーダーが未搭載なのは参ったわね」 「そうね、情報の面で大きく差があるし、危険ね」 「ガードの周波数も、広域ラジオも、通信を全部拾えば多少カバーできるんじゃないか?」 「戦闘中、戦闘速度で吹っ飛んでるときに頭が着いていけばな」 「どっちにしろ、街中であんなもんが暴れてたんじゃおちおち昼寝も出来ないしな」 「その通りだ」 5人は、軽く手を合わせ。 「さあ、行こうか」 「おう!」 それぞれの乗機へと走り出した。 『クソッ、損害が出てきているぞ、市民の避難完了はまだか!』 「まだだ、市民会館と貿易ビルの避難が完了していない!」 『とにかく、弾幕だ、FCSがロックオンしなくても目の前に存在してるんだ! 撃ちまくって近づけさせるな!』 「こちら空中管制機エイト・アイ、現場に到着した、現在商業ビル前に展開中の部隊、FCSをこっちに繋げろ! オンラインだ!」 『了解! 避難よりもこっちを待ってた! 後方部隊! ロケット弾による直接火力支援要請! 接近中の三体に照準、ファイア!』 「ラフチェックは完了、動力その他、正常です!」 「計器による各部動力正常……確認、異常なし……内蔵武器、残弾数、変更無し」 「すいません、整備を優先しすぎました、補給はまだ行われておりません」 「いや、問題はない、半分以上残っているからな、それよりも、補給されてて整備がされてない方が怖い」 「そう言って頂ければ幸いです」 「火器管制、照準機、よし、装備チェック終了、固定装置を外してくれ!」 「了解! どうかご無事で!」 「右腕部、動力出力正常、内蔵武装……補給完了確認」 「現在肩武装の装備中です、もう少しお待ち下さい!」 「……両方か?」 「はい、前回と同じく両肩にチェインガンを」 「いや、右肩は爆雷に変更しておいてくれ、可能か?」 「わかりました、伝えます、他に何かありますか?」 「ああ、そうだな……特にない、終わったら伝えてくれ」 「脚部のホバーに異常検知、モニタにノイズがあるな」 「ホバーの修理はもうすぐ終わります、ノイズに関しては理由不明なので、現在モニタユニットを交換しています」 「分かった、それから、ライフルの予備マガジンと予備武装のハンドガンだが」 「既にハンガーに内蔵しました、損耗の激しかったライフルの銃身も交換が完了しています」 「助かる、ありがとう、今の作業が終わったら固定を外してくれ」 「FCS反応……正常、ホバーユニット試験……結果正常、対弾用増加装甲取り付け……終了、全整備完了しました!」 「出撃します、固定装置解除、動力起動開始を!」 「了解、武装はハンガーにつり下げてあります、出撃の際は忘れないでください」 「わかったわ、ありがとう」 本来、そんな事は言うまでもないが、整備員はここにプロとしての意地を駆けている物も少なくない、だから彼女は素直に頷いた。 「左腕武装、試験完了、FCSに若干の誤差があるようです、再度調整をかけます!」 「いえ、それは良いわ、もう固定を外して、それよりも、ブレードの出力に時々ブレがでるとあるのですけど……これは?」 「これはですね、通常の出力部の他に、もう一つあるでしょう、親指でで押す部分」 「ああ、これがどうしたの?」 「整備が終わってから説明しようと思ってましたが。普段ブレードでは人差し指しか使わないでしょう……  このボタンを押すとブレードの出力が上昇するようセットしたので、恐らくはそのせいかと」 「えっとね、当然突っ込まれるのは分かってたと思うんだけど、普段からの出力上昇はできなかったの?」 「ええ、ですからこれはあまり使わないで下さい、基本的に一発勝負仕様なので、多用すれば右腕部ごとブレードが吹き飛びます」 「怖いわね、分かったわ、上昇ピークは何秒の予測?」 「通常の出力から上昇しきるまで2秒前後、ピークをキープできるのは恐らく10秒でしょう」 「まさに一発仕様ね、分かったわ」 「ラグ、避難完了していない箇所はどこだ?」 「先程貿易ビルの避難が完了した、残っているのは市民会館だな。  他は不明だが恐らく無事、通行人が若干居るようだが、そっちはどうしようもない」 「市民会館だと……チッ! 昨日メイが行くって言ってたな……なんとしても避難を成功させないとな……」 「その通りだ、市民への被害は報酬の減額にも繋がるぞ」 「そういう事言ってる場合じゃないよな、全速で一気に行く! 劣ってる情報面でのサポート、頼むぜ!」 「わかった、準備次第情報を送信する、パニックにならずに冷静に対処しろよ!」 「了解だ! White Fort、出撃する!」 白き要塞が、動き出した。
第2話 完

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