ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN
第17話 命の砕ける音−still alive−
無知は日々の安らぎとはよくぞ言ったものである。
何も知らぬのならば安らかに生きていけたであろう。
だが、私は知ってしまったのだ。
そう、救い無き未来を。
必死になって殺そうとも、必死になって護ろうとも。
誰も救われない、救えない、そんな未来を。
もしそれを知ったとして。
それでもお前は戦えるのか。
殺気が部屋中に満ちていた。
そしてその中心にいる人物は笑みさえ見せた。
「お前の」
変化は突如訪れた。
刀が鞭のように見えた。
重量30キログラムに至ろうかと言う分厚い鉄の扉がそれだけで両断された。
笑っている。
本気で笑っている。
まるで先程までの自分の生き写しのように。
何故か無性にこの男と話してみたくなった。
だがこの男は話さない。
ただひたすら鞭のように剣を振るい、風のように距離を詰め、再び鞭のように剣を振るう。
だが、口が動いていた。
「間違った存在」
「過ち」
「殺さねばならない」
必死になって聞いていた、死を招く斬撃に切断される恐怖から逃げながら。
今までの認識を改めた。
自分は悪魔なのだという認識を。
世界には、悪魔以上の化け物が存在するという事を。
上下左右から一本の手で繰り出される斬撃。
その一つ1つが鉄塊を寸断する程の威力を有していた。
そして、再び世界の暗転。
自らの意志で暗転させた。
先程肉体と精神が入れ替わったように、スイッチが入った。
ともすれば再び暗転し、今度こそ元に戻らないと言う恐怖と、そして再びせり上がる脱力感に満ちていた。
だが、それに反して沸き上がってくるのは、紛れもない高揚感、昂揚感。
そして、見えていた。
まるで水面に揺れる海草のように。
ゆらりと、ゆらりと避けた。
もしかしたらそれは音速のような世界の出来事だったのかも知れない。
最終的に決着は一分と経たずについた。
胸から血を流しながら倒れた男。
そして口から血を流しながら膝をついた男。
胸から血を流しながら思う、ただひたすら家族の事を。
世界への高潔な理想も、ある種の清々しさで消えていた。
そして声を出す。
「やはり『人間』では、悪魔には勝つ事は無い、か」
そして口から血を吐いたあと男は言った。
「違うね」
まるで理不尽さに抗議するように、機関室から風が吹いた。
「あんたが悪魔だったのさ」
そして二人は笑う。
笑い声にしては余りにも小さく、か細い声だったが。
確かに二人は笑った。
死ぬ直前、彼は思う。
『ああ、そうだ、言い忘れていた、これを届けて貰わないと』
既に意識は混濁し、目の前にいたのが誰かさえも覚えていない。
ただ思うのは、家族の事、父親の事、母親の事、弟の声、妹の事。
そして、声がした、そう思えた場所に、腕を差し出し、そこで意識が途切れた。
リオル・ヴァーノア 死亡
差し出された腕を見た。
何かが握られていた。
それを手にとって見る。
そこには、幸せそうに笑う家族の笑顔が写っていた。
そして弾けるように走り出す。
それ程長い距離ではない、だがそれでも秒にも満たない恐るべき速度で機関室へたどり着く。
一見手当たり次第の破壊のように、だが極めて正確に破壊していく。
求めるのは、爆発。
それも、この巨体に致命的な程の大爆発。
すぐに見て、できるとわかった。
だが、できなかった。
「射角68、距離27600……」
味方からの狙撃が待っていたから。
第17話 完
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