ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN



第9話 押し寄せる記憶−狂気−
 エアクリーナーの巨大な通路を走っている。  あと数歩で左への曲がり角だ。  ああ、少しづつ、少しづつ思い出してきた。  8年前、あの日のこと、ぽっかりと抜け落ちた、記憶が。  とてもとても大事な記憶をが。  不意に思考が途切れる。  誰かのナイフが閃く。  曲がり角。  目の前に飛び込んできたのは狂喜の眼。  獲物を見つけた狂喜の眼だ。  ジオは避けると同時に蹴りを放つ。  ナイフを持つ腕は、右腕。  体勢が崩れた男の右腕を掴み、投げる。  一本背負いの様に投げた。  だが、それで終わりではない。  手を捻る、そしてそのまま地面に叩き付ける。  「があっ………」  手と体が互い違いに地面に叩き付けられる、腕は暫く使い物にならないだろう。  男が、叫び声を上げようとした。  だが、声を上げることはできなかった。  首を切り裂く、血の吹き出る音。  素早くその場所から立ち去る。  恐らく偵察部隊の人間だろう、どこから分かったのかは不明だが、数分後には部隊が突入してくるだろう。  進路を変えて再び走り出す。  奪った血塗れのナイフを手にしたまま。  先程見た、狂喜の眼を自らに張り付けながら。  1分後、エアクリーナー内部から少しずつ硝煙と血の匂いが流れ出した。  「ギーレン様、閣下の予想通り、敵はエアクリーナー内部、エリアS−6にて発見との報告がありました」  「わかった、現地指揮官に委ねてある、パターン3を実行せよと伝えろ」  「了解」  「機甲部隊はどうなっている?」  「ハッ、現在損害率1割弱、敵機の損傷は軽微とのことです」  「私の第1戦闘部隊は使えるか?」  「現在都市に到着、区域まで全速で5分強です」  「よし、突入させろ」  準市民街第4区画  カリナは何かの匂いを嗅いだ。  彼女にとっては嗅ぎ慣れた匂いと、もう一つ、何度か嗅いだ事のある匂い。  「血と硝煙………」  慌てて周りを警戒する、だが血塗れの人間も、銃撃戦の痕跡もない。  「まさか………エアクリーナーからなの………」  まさか、と思う、だが、清浄大気供給エリアなら簡単に侵入可能な事も、それ以外に考えられない事も事実だった。  「行くしか………ないよね」  「残弾は?」  「残り138発、もう予備はない、そっちは?」  「その程度じゃ………あと10秒程度で弾切れだな、こっちはグレネード7発」  「俺はもう弾切れだ、あとはブレードがどの程度振り回せるか………」  「あとできる事と言えば、敵の武器を奪う事しかないわね」  既に3本目のマシンガンを奪った彼女はそう言った。  「ミューア、いつの間に………」  「ほらほら、疑問感じてる暇があったら集中しなさい、今度は………主賓みたいよ」  遠くから10機程度の部隊が接近している、行動、陣形、その他どれをとってもベテランのそれだった。  「さて、じゃあやれるだけやってみようか」  頭を軽く掻きながらあくまで軽い声で号令した。  「了解!」  そのノアの号令に、3人は力強く答えた。  そういえば、こうなったのはいつからだろう。  ああ、そうだ、8年前だ。  あの日、連合市軍士官学校の卒業旅行の日だったかな?  あの日は確か列車に乗ったんだ。  初めて都市外へ行く事になってワクワクしていたのを覚えている。  妹や、あの時の恋人と離れるのはそれなりに寂しかったけれど、すぐ帰れるんだからと自分を納得させたのを覚えている。  そうだ、何故今自分はこうして居るんだっけ?  そのままだったら連合市軍の士官になっているはずだよな?  いや、出世したとかどうとかはこの際置いておくにしても、だ。  士官というのは尉官からだ、だから8年もあれば最低でも中尉や大尉になっててもいいはずだよな………  でも俺は、レイヴンだ。  階級もない、家族も居ない、ただの、レイヴン。  ああ、でも妹や友人はいるな。  どうしてこうなったんだっけ?  どこで狂うとこうなるんだろうね?  アハハ。  10対4の戦いだった。  しかも数が少ない方が弾薬も欠乏していて疲労も激しい。  戦いは一瞬で終わる。  そう思われた。  だが、存外にしぶとい。  装甲へのダメージも殆ど無く、攻撃も一瞬、かつ効率的だ。  だが、自分もこの精鋭部隊の隊長なのだ。  狭い市街と言う条件下で選択した陣形、2列縦隊のまま突撃する。  「2番機から6番機、あの図体のでかい奴を集中攻撃、7番機から10番機は他の足止めを!」  「フリッツ、下がれ!」  叫びながらノアは冷静に見ていた、相手の陣形を。  そして崩れたビルに向かって−前へ向かって−跳んだ。  フリッツはノアが叫ぶと同時に下がる。  下がりながら、正面を晒した二機のうち左へ、グレネードを発射した。  接近戦に持ち込み、一撃で決める、彼はそう考えていた、ブレードを噴出させ、前傾体勢を取り、飛び出す。  そこへ飛んできたのは、グレネード弾だった。  反射的にバックブーストをかけて機体を静止させ、防御姿勢を取る。  同時にその機体の隣にいた機体が咄嗟の判断で防御態勢を取っていた機体を突き飛ばした。  突き飛ばされた機体はバランスを崩し、ビルに激突し、皮肉にもそれによって体勢を安定させる。  弾丸は突き飛ばした機体の腕に直撃し、爆発する、腕はそのまま千切れ飛んだ。  だが機体は倒れない、ACの姿勢制御システムはそれだけの衝撃を受けても、倒されてはくれなかった。  爆発が視界を遮り、機体の後方にいた8機は飛び上がる。  ノアが飛び上がった機体に向けてマシンガンを乱射する。  それを見たか見ないかのうちに3機は行動を開始していた。  ミューアは砲弾で体勢を崩した機体の懐に飛び込み、脇腹に−コアの右下に−掌底を叩き込んだ。  ブレードを噴出させるだけの時間はなかった、だが判断は悪くない、と彼女は思う。  一瞬だけ確認する、相手の機体がバランスが崩れているのは見るまでもない、確認したのは他の機の状態だ。  掌底と同時に踏み込んだ左足を軸に回し蹴りを首−頭部とコアの接合部−に打ち込んだ。  直接右足を地面に叩き付けるような一撃で頭部を地面に叩き付けられ、機体はその機能は停止した。  そして一気に後方に下がる、その直後に他のACからのブレードの攻撃が彼女の機体の装甲を軽く焦がした。  ルシードは突き飛ばされた機体へと飛び掛かり、突き出されたマシンガンを腕から切り落とすと、飛び上がり背後を取る。  四脚の特性を生かし、後脚で頭部を掴み、前脚で腰を掴むとそのまま空中で回転する。  回転までの動きは咄嗟の機転だったのか、ルシードへ飛んできた弾丸は掴まれた機体に命中する。  その程度では装甲は貫通しないが、パイロットにとっては恐怖そのものだった。  上下の感覚を失調したまま、パイロットは混乱し、そのマシンガンを手から放してしまった。  目聡く見つけた彼は、味方の−ノアの−方向に向けてマシンガンを弾きとばす。  回転の終盤、敵の頭部を思い切り地面に叩き付けて回転を遅らせると、上に向けてスナイパーライフルを撃ち出す。  FCSが感知すると同時の発射だった。  機械であるFCSが反応する時間さえもない瞬間射撃。  天才的勘と言うべきか、その一撃は右脚とコアの接合部を貫いた。  その数瞬後に腰も叩き付けられた機体は、頭部が吹き飛び、上半身と下半身の2つに折られ、その機体を停止した。  フリッツはその場に停止し、弾幕をはる。  大小の威力を混ぜ込んだ弾幕が突如として出現した。  ミューアをブレードで狙っていた機体が、その弾幕の前に正面装甲から剥がれ飛び、倒れ込む。  ルシードが右脚を貫いた機体がバランスを崩して着地し、離脱しようとしたところを弾幕に貫かれ、倒れる。  笑った瞬間。  熱い痛みを感じた。  ナイフが背中を貫いていた。  何も考えずに振り向く、痛いとさえ知覚しない。  遠くに、一人の男が立っていた。  ナイフは投げたのだろうか、だがとても深く深く体に突き刺さっていた。  必殺の一撃が有効打にならないと知覚したのかその顔は"驚愕"と題が貼られてもおかしくないような表情が張り付いていた。  対する彼は無表情のまま、自分に刺さったナイフを抜き取ると、予備動作も構えも何もなく投げ返した。  顔面にナイフが刺さり、倒れる。  既に流れ出た血は勢いが無く、数秒後には止まってしまった。  自分の異常さを自覚し、笑う。  これが、望まぬ力の正体だと。  これが、望んだ力の正体だと。  "彼"は知覚した。  その"彼"にとっての"記憶"はどうでも良い事だった。
第9話 完

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