ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN



第7話 饗宴の贄−黒い影−
 ベッドの中で、気怠そうに荒く息をつく男女が一組。  そこに、電話が鳴った。  一瞬だけ身構え、軽く息を整えた。  女性の方がその電話を取る。  「はい」  「良かった、ミューア、聞こえる?」  「聞こえるわ、どうしたの?」  「今私たちは正体不明、としか言いようのない相手から攻撃を受けているの、救援をお願いしたいのだけど」  「………良いわよ、ただ、深夜料金は高いわよ」  「分かっているわ、ミューア、依頼を受けてくれるなら準市民街D−3区画へ」  友人であろうと頼み事は有料、そして気分次第、それが彼女のスタンスであるが、気まぐれな彼女は受けた依頼は完遂した。  だからこそ、彼女のレイヴンとしての信頼性は高い。  <フィレンツエイン・フォン・ミューア> 女、28歳、直接攻撃を得意とするトップクラスのミッションレイヴン  「仕事か………?」  未だ怠そうにベッドから起きあがる男性が一人。  「ええ、どうせだからつきあわない? フリッツ」  「良いだろう、分け前は撃墜数分で山分けって事でな」  「良い度胸ね」  素晴らしく眩しい笑顔で女は答えた。  <フリッツ・ハーシェル> 男、29歳、現在ミューアの恋人、トップとまでは行かないが、               自己の実力を弁え、決して無理はせず、寮機と連携を取るところに定評がある。  「お前が前衛で、俺が支援なら十分稼げるさ」  「ま、お手並み拝見と行きましょうか」  そういうと、数分で二人はACへと乗り込み、出撃した。  「で、何だよあの物量は」  遠距離から大部隊の侵攻してくる音が聞こえる、静かな夜だ。  まだレーダーには映らない、一通りの通信妨害はされているし、あの距離では目視も難しいだろう。  「わからんか? 圧倒的物量と言うんだ、こいつは」  「そんなことは分かってる、いつの間にこんな数がこの都市に運ばれたか、と言うことだよ」  彼の知る限り、都市に物資を運ぶには何カ所かのチェックを受けて運ばれねばならない。  効率は悪いがこれによって何十年間もこの都市の安全体制は守られているのだ。  仮に破られるにしてもこんな大隊、ひょっとしたら師団レベルに及ぶかも知れない物量は通常では考えられない。  「ひょっとして、どこかの企業がグルになってか?」  企業がこの都市内でひっそり作ったのだとしたら可能だ、だが、この数ならばその企業は限られてくるだろう。  「どっちにしてもだ、奇襲で混乱を招いてその間に、ってパターンが有効か」  「でも出来ようがないだろう、火力が絶対的に不足だ、せめてもう一機欲しいな」  『あらあら、だったら二機いれば十分かしら?』  通信が入った、どうやら周波数を会わせて発信してきたらしい。  「………盗み聞きは良くないぜ?」  「ふふふ、いいでしょ? 効率の良い情報収集が出来るんだから」  「それにしたってどうやってこの周波数を知ったんだ?」  「そりゃああなた達と長い付き合いをしてれば分かるわよ、曜日によってコードが変わるってこともね」  「フン、まあいいさ、作戦は単純だ」  そう言ってから簡単な説明をする。  ノアが適当なためではなく、臨機応変に動くためには大まかな指示しかできないためだ。  その上時間もない。  「じゃ、作戦開始って事で」  ノアとミューアの機体が大回りをしながら部隊の側面へ『歩いて』行った。  「で、お前は攻撃力に自信は?」  見覚えのない機体に向け軽く警戒しながらノアは聞いた。  「大丈夫だろう………一応自信はある、完全命中率は3割、通常命中率8割って所か」  「ま、及第点だな」  「ほざきな、ピンチになったら助けてやろうと思ったけどやめたぜ」  「お前の方こそ、だ」  二人は軽口をたたき合っていた。  軽くお互いの手の甲を触れるように叩き合わせる。  お互いを信用する、そう言った意味のジェスチャーだ。  「制圧目標まであと4km………部隊、展開開始」  そう言うと、部隊は3つに分かれ、攻撃目標のビルへ向けて進軍する。  油断がないと言えば嘘になるだろう。  攻撃目標はただのビルだ、どこかの企業のオフィスビルでも、都市の市庁舎でもない、ただのビル。  告知された防衛戦力はACが1個小隊にも満たない少数。  対して自分たちは分進攻撃部隊それぞれがMTが4個中隊にもなる。  ACも数機配備されていて布陣は盤石と言えた。  「ふふん………簡単な仕事だが、念には念をだ」  中央軍司令は一個小隊をさらに分化させ偵察隊とし、先行させる。  「残存した全兵力は奇襲に備えろ、全方位に対応用意」  「了解」  司令官は緊張していても部下達、パイロットは緊張感もない、通常この戦力差なら相手は降伏する。  そう思っていたからだ。  いきなりの爆音が来た。  背後から。  偵察隊は急ぎ本体へと合流しようとする。  だが、それは叶わなかった。  「7機目………」  偵察隊を一機一機冷静に撃破しつつ、状況を見ながらノアは呟く。  マシンガンとブレードとを効率的に動かしながら、いざというときは指揮を執るために戦局の移動を見ている。  そして、この瞬間の状況判断は終わった。  彼とは対照的に、ミューアの声は弾んでいた。  「アレが隊長機ね!」  一機のACが背後にMTの支援を受けながら接近してくる。  隊長機を示すように他の機体にはない機動性、そして肩に付けられたエンブレム・サインが隊長機だとはっきりと示していた。  ふっと彼女が背後を見ると何かを準備しているMTを発見する。  マシンガンでは間に合わない、そう判断して高速発射のロケット弾を発射する。  狙いは寸分違わずMTに命中し、破壊する、だがその何かは発射された。  それは、緊急連絡用の照明弾だった。  この時代に何故照明弾を使うのか。  それは説明が必要だろう。  確かに、戦闘において照明弾が使われることはまず無い。  見える範囲が狭い上に、それが何を意味するのか非常に分かりにくい。  だが、これは以前の時代からの発展型であるECMによって照明弾が必要となる。  例えば、センサー1つとってもそれを無効化することは簡単だ。  ECMは開発より発展に発展を重ね、既に通信への信頼性はかなり低い。  赤外線センサーは、それ以上の熱源を大量にばらまくことにより、無効化することは可能だ。  化学センサーも、微量な化学物質の動きで相手の動きを判断する為、煙幕でセンサーが破壊されてしまう。  だが、可視光線を使う照明弾だけは無効化することは非常に難しい。  それ以上の光を撒いたところで、『東の方向に光が見えたら作戦Bに移行』と言う指令ならば対策は不可能だからだ。  無効化するには照明弾を破裂前に破壊するしかない、だが、それは非常に困難だ。  だが、彼は追いついた。  ブレードを振り下ろし、破壊する。  そしてマシンガンを軽く上へ放り投げ、右手で掴むと、光は殆ど漏れなかった。  「これで、大丈夫か?」  握りつぶした後、マシンガンを再び掴むと。  下から機銃を乱射してくるMTに向けてマシンガンを連射し、近くのビルを蹴り、軌道を変えた。  「これで、止め!」  ブレードでフェイントを入れてブレードを構えた左手を脚部で押さえ込み、コクピットに突き刺した。  彼女は白兵戦を勝利すると倒したACを盾に、上に向けて機銃を乱射するMTに向けて突入した。  「広範ECM、出力正常、そっちはどうだ?」  「ああ、どうにか大丈夫だ、広範囲絨毯砲撃、準備完了」  「攪乱砲撃開始、右42度、距離7500前後」  「了解」  彼らは既に正面に展開した部隊は無視していた。  そして、次の攻撃地点を、通信出来ない彼らに伝えた。  その時。  「右か………」  ノアは空中を移動しながら敵に向けて攪乱射撃を続けていた。  「右ね………」  ミューアはノアに照準を定めていた部隊を壊滅に追い込み、次の目標を探していた。  中央の部隊は後退を開始する。  同時に二人も後退し、右の部隊へ攻撃をかけた。  左翼部隊  「状況! どうなっている?」  通信妨害の中、敢えて機体から降り、参謀と会議を交わす司令官がいた。  「現状不明です、ですが、可能性として考えられるのは中央、もしくは右翼部隊が奇襲を受けたのではないかと」  「馬鹿な、劣勢の中さらに攻勢に出るだと?」  「しかし、そう考えればこの通信妨害も、先ほどの爆撃音も説明がつきます」  「なるほど………よし、残存の部隊と合流する、全機行動開始!」  「了解!」  右翼部隊も、中央部隊も壊滅したことを、彼らは知らない。  そして、巨大な黒い影が、都市に迫っていることは、都市にいる誰もが知らなかった。  ………10人にも満たない人数を除けば。
第7話 完

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