ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN
第5話 10年前−それはレイヴンズ・ネスト崩壊の年−
倒れていた男を乱暴に揺さぶり、無理矢理意識を覚醒させる。
顎先に銃口を突きつけながら。
「ぐ………」
「よし、起きたな、これから聞く質問に答えろ」
ルシードが乱暴に聞く。
「あ、あんたら………生きて」
「質問に答えろ、頭動いてるだろう?」
ゴリっとこめかみに銃を突きつけるノア。
「まず、お前達に命令した奴らは誰だ?」
「その人間と私たちとの関係は?」
「お前達に出された命令の最終目的は?」
「そして、お前の所属する組織の名前は?」
「それは私たちと何が関係するのか」
「へへへ………俺は口が堅いんだぜ」
「そうか」
何一つ迷うことなく銃のグリップで右側頭部を叩く。
気絶させないように、狙った場所を正確に。
「もう一度聞く、さっきの質問の答えは?」
「お、おれは………口が」
無理矢理気絶させ、もう一度無理矢理起こす。
「嫌な気分だろう、言えば解放してやるぞ」
こういった拷問の類はルシードの方が向いている、そう思う。
そんな風に3人は考えている。
美形というのは時にサディスティックに見える物だからだ。
「し、知らないねぇ」
まだ余裕のある表情で男は行った。
ナイフを脚に突き刺し、そのまま体内で捻る。
「がああぁっ………」
「質問に答えろ、次は腕だ」
冷徹な声には変化もない。
こういった時、サディスティックの行動できる、というのはある種才能かも知れない。
そんなことを考えながら、無言で彼らは立っていた。
「わ、分かった………だが全てを知っている訳じゃない、さっきの質問で答えられるのは二つだけだ………」
左腕にナイフを突きつける。
「本当だな?」
「ほ、本当だ」
「では話せ」
軽く3人に目配せするルシード。
3人はこくりと頷いた。
「命令は、ジオという男の確保だ、生死を問わずの」
驚愕の表情を表に出さぬように注意しながら、ルシードが言う。
「その命令は誰に出された」
「その命令は………『四天王』の『グレイ・張』様から出されたんだ」
「四天王、とは?」
「組織の四天王だよ!張様は歩兵部門を統括された方だ」
「その組織は何から成る、他の四天王は何を統括している」
「オットー・リリエンタール様は機械化歩兵部門、アッシュ・エイガー様は長距離攻撃機部門だ」
「四天王ならもう一人いるだろう、そいつは?」
「ランス・ギーレン様は………組織全体を統括し、リオル様の副官を務めていらっしゃる」
「リオル、だと?」
ノアが小さく口にし、カリナは表情を変えた。
「リオル、そいつが組織のボスだな、組織の名前は、この街にはどの程度展開している」
「兵力の殆どだ………全てかもしれんがな、これ以上は知らないさ、我らは全力を挙げて攻撃すると説明されたのみだ」
「ほう、ではどの程度だ?」
「歩兵3個大隊、それ以外の部門は知らない、本当だ!」
「そうか、では言って貰おう、そのボスのフルネームと組織の名前は」
一瞬の躊躇、それによる一瞬の間、ルシードが腕に力を込め、ナイフを少しだけ上に上げたとき、男は観念し口を開いた。
「組織の名前はダイン・スレイブ、そして長の名前は、リオル・ヴァーノア」
ぴたり、と二人の時間は止まってしまった。
冷静な彼らにあるまじき行動をしてしまった。
二人は男の頭を貫いていた、銃弾が二発、頭の中で弾け飛んだ。
二人の表情は凍り付き、拳銃を撃ったその手は震えていた。
殺された男には一瞥もくれず、冷静にさせた、その手を軽く押さえ、肩を軽く叩く。
その後深呼吸させ、落ち着かせた。
「一体どうした」
ルシードが問う。
「リオル・ヴァーノアは………10年前に失踪した」
「私たちの兄の、名前なのよ」
「そして、あのヴァーノア財閥の、長男でもあるんだ」
<ヴァーノア財閥>
ラサシティーにおける最大勢力を誇る財閥。
また連合都市においても強力な発言力と影響力を有している。
12年前、グランブルシティーを統括・管理するレオニダス財団がこの財閥の軍門に下った事は有名な話。
兄。
兄が弟達、妹達の暗殺を命じたというのか、目的は何だったのか知ることは出来ない。
だが、それだけの何かがあるというのか。
一体目的は何だったのか。
ルシードは内心悪い夢としてベッドで寝込んでしまいたかった。
それにしても、何故その最大の財閥の一族が、市民権もなくレイヴンとして生きているのだろうか。
深くは知らないその理由を、あえて問おうとは思わなかった。
自分の過去にも、言えないことはあるからだ。
だが、そうするわけにはいかない、そうルシードとミリアムは目だけで理解し合った。
「とにかく、今は結論を出すのは早すぎるだろう」
「そうね、状況が不明すぎるし、なにより、兄さんの安否も分からないし」
「………じゃあとりあえずやることは決まったな」
一度深呼吸した後、冷静にノアは言った。
動揺していても何も始まらない、状況が理解できなければ、まずそれに対処する。
そうしなければ生きて来れなかった、それが今生きている世界だから。
「どうするの?」
まだ少しだけ涙声のまま、カリナが問う。
「まず、敵が機械化歩兵、つまりMTやACを持っていると言うことだ」
「うん、そう言ってたな」
「で、ある以上陽動戦力は欲しい、だが同時にジオの安否も確かめたい」
無言で3人は頷く。
「と、言う訳でだ、俺とルシードを陽動、カリンとミリィを探索と分けたい、良いかな?」
「え、でも………」
不安そうにミリアムが言った。
「同時に二人に頼みがあるんだ」
「頼み?」
「そう、頼み、この状況下での味方を作りたい、『敵の敵』で十分だが、敵がはっきりしない以上味方を作るしかないだろう」
「うん、そうね………」
その敵は自分の兄らしいというのに、気丈な物だとミリアムは思った。
そして兄の居ない、それどころか家族の居ないルシードもそう思った。
「でだ、連絡先は二つ、だから二人で担当すればすぐ終わるだろう」
「わかったわ」
「ミリィ、お前は公共回線でいいや、ヴィクセンシティーの『エア・ナイツ』に連絡をしてくれ、協力、頼めるよな?」
「うん、協力そのものは大丈夫だと思う、私とは知古だから、けど………間に合わないんじゃないかな」
「間に合わなくてもさ、目的は敵の分断だ、敵も対応策をうつだろうし、ここまで来るのに2時間かからないだろう?」
「あ、そうか、ただ戦力としてアテにするんじゃなくて、特に囮として協力して貰う訳ね」
「その通り、カリンは『あいつ』に頼む」
「あの人ね、ちょっと苦手なんだけどなぁ、でも信用できるしね」
カリナがちょっとだけ意地悪そうに微笑んでみせる、敵となったかも知れない兄のことは一応頭から外れたようだ。
「よし、この状況下でじっとしてるのは得策じゃない、すぐに行動を開始しよう」
「私たちのACはどうしよう?」
「まあそれは『あいつ』のガレージに預けておくんだな、ここよりは安全だろう」
「分かったわ」
こうして彼らはその場所から去っていった。
その15分後、彼らの探すジオがこのガレージを、住んでいた部屋を訪れるとも知らずに。
第5話 完
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