ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN
第3話 夢見跡−傷痕−
思えば、いつからここに居るんだろう?
昨日のような気もするし、何十年も前のような気がする。
投薬と実験の日々。
もう、何もない。
あるのは憎悪だけ。
ああ、体の感覚が無くなってきた。
目の前を見る視覚、声を聞く聴覚。
それしかない、他はもう、何も感じない。
人間の感覚って、確か5個あったよな、五感、だからな………
口の中に注がれた薬物さえも、感じない。
脚にも手にも、何も感じない、でも、下を見ると地面がないから、吊されているのが分かった。
「洗脳か?」
「ああ、そうだ、局長様の直々の話だ」
「この実験にご執心ですこと………」
笑い声が聞こえる、とても近く、とても遠い笑い声。
帰りたい、帰って、温かい食事が食べたいよ。
みんなの、顔が、見たいよ。
「洗脳は出来るのか?」
「出来るんじゃないのか、と言うより不可能な人間なんて居ないだろう」
「でもよぉ、あれだけ投薬されて、意識も失わず、睨まれてるんだぜ?」
「嫌なのは分かるが………仕方あるまい」
仕方ない?
この仕打ちが?
僕は何をしたんだっけ?
分からないよ………
分かるのはただ憎いって事だけ。
こいつらが………憎い。
叫びたい、叫んでから破壊してやりたい。
でも、叫ぶことも出来ない。
「え?局長が粛正されたって?」
「ああ………そうらしいぞ、なんでも組織のトップとソリが合わなくなってそのままって事らしい」
「おお………おっかねぇ、下っ端は気楽で良いよな」
また、笑うのか?
僕を、笑うのか?
もう、やめて、僕が、何をしたって言うんだ!
「あ………これは………様」
「殺せ」
そう言われたような気がする。
何故?
どうして僕が殺されなきゃいけないの?
どうにて、なの?
ああ、これは夢か。
夢なんだよね?
目が覚めれば、美味しい朝ご飯が待っていて、みんなが楽しく笑ってるんだよね?
ほら、夢だ。
飛んでくる銃弾が見えるよ。
そしてそれを手で受け止められたもの。
人が、殴っただけで肉片に変わる………なんて
なんて素晴らしい力。
鼓動が聞こえる。
優しい鼓動だ。
なんだろう?
「起きたか?」
なんだろう。
「目が覚めて頭はっきりしてるか?」
ああ、そうか………ここは『今』なんだ
「おはよう、ラグ」
「………まだ、夜だがな」
「どうしてここに?」
「お前がACに乗ってったようだったから、レーダーを頼りに来てみたんだが」
アリーナだった。
日のある時と違って、ここは不気味だった。
そんな感傷に浸っても、先ほどまでその不気味さの一端を担っていたことは全く分からない。
「………そうか、すまないな」
「後始末と事後処理は俺が手配して何とかしておこう、とりあえず一度帰るぞ」
周辺には、まだ血のにおいが漂っている。
「そうか………俺はまた………」
「『この程度』だったから良かったが、次やったらもう多分止められないぞ、気を引き締めな」
「………ああ」
「とりあえずそこのリグに着替えがある、着替えて来な」
「どうした?」
「自分の姿を見てみろ」
全身返り血だらけだった。
「………なるほど」
苦笑する。
一つの命が消えたこと、そんなことさえ、彼にはどうでも良かったことだ。
多くの命を奪った男が、また一つ命を奪っただけなのだから。
彼はそう考えていた。
『ああ、そうだ、とにかく………』
誰かと話している、後処理を頼む気なのだろう。
『わかった、口座に振り込んでおこう』
会話が途切れた。
「ジオ、家まで送ろう、ACは俺が戻しておく」
「わかった」
こうして彼は家へと戻る。
外見は殆ど変化のない、崩壊した家へ。
第3話 完
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