ＡＲＭＯＲＥＤ　ＣＯＲＥ　BATTLE FIELD OF RAVEN

第１話　戦場はアリーナ（前編）




　レイヴンには２種類あるという。
　それは、日向にいる人間か、日陰にいる人間か。
　それを厳密に見分けることは難しい、だが、簡単な見分け方なら素人でも可能だ。

　それは、アリーナで生きるか、戦場で生きるかである。

　彼らは互いを軽蔑している。
　アリーナに生きる物は、戦場に生きる者をこう評す。
　『金さえ貰えば恩人さえ裏切る唾棄すべき輩』

　また、戦場に生きる者もアリーナに生きる者をこう評す。
　『裏切りのない、死ぬこともない安穏とした中に生きるアマチュア』

　どちらも正しく、どちらも正しくない。
　そんな気がする、だが、どちらが強いかは明白であろう。

ヨーゼフ・エルンスト　暗黒の時代の真実　序文より



　彼らは、珍しくアリーナにいた。
　ただの賭け事、彼らはそれほど生活に困る訳でもない、
　そして、不特定多数からの注目を浴びることを嫌っていた。
　だから、こうしてアリーナに出場することはない。
　だが、今日彼らはここにいる。


　「ええっと………ジオ・ハーディーさん、出身は準市民、登録名はＴＨＥ・Ｏ
　　ＡＣ及びＭＴにおける戦闘経験はシミュレーターのみ・・・はい、ＯＫです」
　書類に目を通し、不審な点がないことを確認すると、手慣れた感じでカタログを手渡す。
　「どうも」
　受付にそう答えると、受け取ったカタログを少し見て。
　「これにします」
　一機の重装甲機体を指さした。
　「はい、分かりました」


　限定アリーナ。
　スポーツとして人気の高いアリーナを、一般市民を含め広く参加者を募集する。
　この辺りの８つの都市で大規模なトーナメントを開き、優勝者を決めようと言う者である。
　８つの都市（通称『連合都市』）でベスト１６までを決め、さらにそこでトーナメントを行うらしい。

　当然、レイヴンも出場可能だが、機体選択は、幾つかのモデルから選択する。
　そして、レイヴンにはハンデとして各所にデチューンを施される。
　それによって機体の差、腕の差を減少させ、純粋にスポーツとして楽しもうという企画である。
　大規模な賭けも行われているようだが、彼らには特に関係のないことである。


　「みんな〜、がんばれ〜」
　メイもアリーナに来ている。
　戦争には拒否反応を起こしても、スポーツは大好きという、
　ある種現金な考え方だが、彼らは少しだけ、彼らの真の姿を理解してくれそうな気がして、嬉しかった。
　「任せとけって、入賞賞金で飯でも食いに行こうぜ」
　あえて優勝賞金とは言わない、入賞すればいいのだ。
　「うんっ、約束！」
　「おうっ！」
　メイの隣に座る、彼女の父は、曖昧に笑みを帰した。

　＜ロクトール・カーチェス＞　男、３８歳、孤児であるメイを拾い育てた人物、
　　　　　　　　　　　　　　　本人は乗り気ではなかったのだが、彼女に連れられアリーナへとやってきた。

　『それでは！　一回戦開始！』
　観客の歓声が響き渡った。

　「とりあえず………ベスト８まででやめておこうかな〜」
　ノアが独り言を呟く。
　彼の前に現れたのは、中量級の逆間接機体だった。
　『それではＣブロック、新人『ＮＯＩＲ』対前回のベスト４『ヴァン・ガード』、開始します！』
　ＮＯＩＲはノアの登録名である。
　歓声と同時に、彼は飛び出した。

　彼が試合を終えると、既に彼らは控え室に戻っていた。
　「ナイスファイト」
　「早いなお前ら」
　「まぁ、ただのスポーツと戦いは違うさ」
　「………そうだな」


　日が沈みはじめる頃、Ｆブロックではベスト８決定戦が行われる。
　既にノアはＣブロックベスト４決定戦で『僅差で』敗北しており、
　ルシードにはＡブロックベスト８決定戦を『機体整備不良のため』棄権。
　カリナはＨブロックの決勝戦でレイヴン相手に『一歩も引けをとらずに僅差で』敗北していた。
　ミリアムはＤブロックのベスト４決定戦にて『場外となり』敗北していた。

　彼らが本気になれば、全ブロック制覇も可能だったが、あえてカリナ以外は本戦出場のみに留まったのであった。
　そして、彼もこの試合に勝利した後、敗北する予定である。

　『さあ、長時間戦闘の多かったＦブロックも遂にベスト８決定最終戦です！』
　半ばやけくそになった観客が大声で叫ぶ、さすがに人も減ってきたためか、さすがにそれほど声は大きくなかった。
　『数少ない新人ながらここまで危なげなく勝ち上がってきたＴＨＥ・Ｏ』
　少しだけ間をおいて
　『対するのは、現役のレイヴンで、これまでの戦いも圧倒的勝利を収めた、現在アリーナのトップを独走中！　トリニティーです！』
　両方の機体、重装の機体が対面した。
　『ＲＥＡＤＹ？　ＧＯ！』


　互いに遠慮のないバズーカによる応酬。
　打ち合いながら、片方は無造作に距離を詰め、片方は地形の丘を利用しながら砲撃を続ける。
　「アリーナのトップ………所詮は戦場を知らぬアマチュアと言うことか」
　ジオはそう言ってふと笑う。
　「ならば、一気に決める！」
　砲弾が丘に当たり、爆風が丘に響く。
　次の瞬間、爆風の影からジオの機体が現れる。
　タックルを当て、転倒させた。
　『おっとぉ、今のはノーカウントです、ダメージは無しです』

　通常のアリーナではダメージの判定は弾丸かブレードで行われる。
　だから、砲撃がどこに当たろうとダメージは一律である。
　例えば戦場で良くある光景だが、コックピットへのブレード攻撃も、アリーナではブレードの一撃としてカウントされるのだ。
　勿論、この行為は危険行為としてアリーナでは禁止となっているが。

　「くっ………このっ！」
　さすがと言うべきか、意識をはっきりさせたまま再度攻撃を狙ってきた。
　だが、持っているのは砲身の長いバズーカであるのが災いした。
　砲身は左手でガッチリと握られ、左手も脚で押さえつけられた。
　そして空いた右手でバズーカを頭部に向け、連射した。


　『しょ、勝者ＴＨＥ・Ｏ！　トリニティーまさかの敗北です！』


　本日でも有数の歓声が、場内に響いた。


　「さすがと言うべきかな？」
　２人の男がその勝負を見ていた。
　「だろう？」
　「お前の見立てに間違いはないな、奴は『エンジェル』だ」
　「ああ、そして『０９（ナイン）』なのは間違いないだろう」
　「そうだな………今現在の状況を説明しておこうか？」
　「大丈夫だ、一応全て分かっているつもりだ」
　「そうか………ならば、またしばしの別れを」
　「そして、地球に平穏を」
　「神を討伐せんとする天使に祝福を」
　片方の男は分かる、目の前で戦っていた男のマネージャー、ラグ・ヴォイドだった。


　「そうですか、少々お待ちを」
　電話の受け答えをしていたノアがジオのそばに近寄ってくる。
　「お前の知り合いだそうだ」
　どこか釈然としない表情で、雑談の輪から離れ、電話に出た。

　『やあ、こんにちわ』
　聞き覚えのある声だった。
　つい数時間前に聞いた声だ。
　その時は「殺してやる」と言う言葉だった。
　「トリニティー………」
　『君の処刑方法が決まった』
　「なにっ………」
　『今日戦ったアリーナに来い・・・安心したまえ、君が勝てば死ぬのは俺だ』
　「現役のレイヴン相手に実戦で勝てると思うほど思い上がっちゃいませんよ」
　そう軽くあしらう、だが。
　『まだそんなことを言うのかな？』
　次の言葉に凍り付く。
　『white fort………いや、ゼオとお呼びした方がよろしいか？』
　white fort、それは彼の戦場での呼び名『白い要塞』を意味し、『ゼオ』これは知るものの数少ないレイヴンネーム。
　「な………」
　『何故知っているのかって？』
　圧倒されている、何か言い返さないと、そう思っていた。
　『気にすることはない、それとも、仲間が心配かね？』
　「………悪いか？アマチュアボーイ」
　冷静を保てるラインを僅かに超える、超えに怒気がこもった。
　『ククク………そうだよ、そうでなくちゃいけない、安心したまえ、君が無事来てくれるなら何もしないさ』
　ただし、と付け加えた。
　『一人で来ないのならそこにバズーカを撃ち込むぜ』
　「………いいだろう、殺してやる！」
　ガシャン、そんな乱暴な音とともに電話は切られた。

　「少し出かけてくる」
　そんな声とともに、彼は出かけていった。
　何事も無い、ただ少し散歩に出かけていくような口調で、彼は出て行った。


　作戦名：The meaning of strength
　作戦領域：ラサシティーアリーナ
　作戦開始時間：０１：００
　作戦目的：レイヴン・トリニティーの撃破


　電子ロックが解除され、そこから白い重武装なＡＣが姿を表す。
　「来たか………白い要塞！」
　その瞬間から、決闘が始まった。

第１話　完


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