ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN



プロローグ ある一日
 地球歴166年。  後の歴史から見れば、大深度戦争の時代とも、暗黒の時代とも呼ばれる時代。  とにかく後の歴史家の評価からすれば、地獄を連想させるような暗い暗い時代であったという。  だが、そんな時代でも、彼らは明るく生きている。  市街地にある緑地、市民居住区と準市民区画を分ける公園に二人の男女が居た。  辞書的な意味で彼らは「遊んで」いた。  子供っぽい、と言われても仕方ないかもしれないような、幼稚な遊びに興じていた。  男は見たところ20代半ばと言ったところか、ともすれば幼稚と言われてしまいそうな遊びを、楽しそうに少女と遊んでいた。  「ジオお兄ちゃん! こっちこっち!」  <ジオ・ハーディー> 男、24歳、おさまりの悪い茶色の髪をした中肉中背の青年  「待てよ、メイ、そっちは、まだ工事中だぞ」  追いかけっこをしながらメイは立ち入り禁止の工事区画に入っていく。  「待てって!」  「へへへ、やーだよっ」  <メイ・カーチェス> 女、15歳、金色の髪を後ろで2つ束ねた様が似合う小柄な少女  建物の陰に隠れると、追いつくのは難しかった。  「まったく………あの時の自閉症少女がねぇ………」  と、彼は去年のことを思い出す。  彼が古傷を診てもらうために訪れた病院に彼らはいた。  何の表情もなく歩く少女と、その両親。  彼女にちょっとした興味を持った彼は、同居している友人や妹と一緒に、毎日のように彼女の病室に通った。  最初は怪訝な様子で見られたが、その献身な行為に感激し、感謝していた。  そしてその半年前、ようやく彼女は表情を取り戻したのだった。  そして、そのあとで知ったことだが、家が近所だったのだ。  と、言っても彼らはマンションの上階、そして彼女達の家は一軒家であった。  しかも彼らは準市民と、市民で分けられていた。  だが彼女達は、それを気にする様子もなく、時折こんな風に遊んだりするのだ。  「とう!」  その声に振り返る、飛んできた蹴りをガードした。  多少腕がジンとなったが、こればかりはしょうがない。  「あれ〜、惜しいなぁ………」  惜しかったね、と言うと彼は両手でひょいと彼女を捕まえた。  「一日中好きな物奢りツアーには程遠いな」  笑顔で言うと、メイがむっとなって言った。  「来週には奢らせてやるもん!」  「ははは………じゃあ今度は俺が逃げる番だな」  「ん〜ん、もう一回私が逃げる、それでお兄ちゃんにクリーンヒットを決めれば良いんでしょ?」  「そうだぞ………ってこれで何度目だ」  「何回目だろ?」  逃げる方が追う方にクリーンヒットを加えたら勝ち、そんな遊びだった。  物陰に隠れるのは上達したがまだ気配が全く消せてない、  そんな状態では考え事をしながらでも攻撃を受けることは無かった。  彼は、隠していても、まごうことなき戦士なのだ。  「こらこら、何時までラブラブカップルしてるのかなぁ?」  「あ、カリンお姉ちゃん!」  「おおい、どこがだよ」  そんな声が重なる、視線の先には、女性が一人立っていた。  <カリナ・ヴァーノア> 女、22歳、「カリン」の愛称を持つ、              常にウォークマンを手放さない、音楽好きな黒髪の女性  「まったくねぇ、ジオみたいな悪い奴に引っ掛かっちゃダメだぞ?」  「うん!」  「おーい人の話を聞け〜」  ジオは蚊帳の外に追い出されて少しだけ寂しそうだ。  「ところで、何をしてたの?」  カリナが中身を聞くと、薄い笑みを浮かべて言った。  「ちょっと、そのゴムのヘアバンド、貸してくれる?」  「え?うん、良いけど………」  そう言うとヘアバンドを外して彼女に手渡す。  受け取ると、近くの木の枝を拾い、『準備』をする。  「ジ〜オ〜」  その声で上を向く、本気でいじけていた訳ではないので、すぐ正面にカリナの姿を捉える。  手に何か持っている、あれは………石?  と、思うと同時に石が強烈な勢いで迫ってくる。  ゴムのヘアバンドと木の枝を使ったパチンコだった  「うおおおおおおおっ!」  何とか回避する、そしてその先は穴になっていた。  足を取られてバランスを崩す。  その時、側面に回り込んでいたメイが走り込んできた。  「うおっ!」  強烈な蹴りを両手で受け止めるが一緒になってバランスを崩してしまった。  メイを下にする訳にも行かず、彼女のクッションになったジオは、地面に倒れ込んでいた。  「いってぇ………」  そう思うと目の前にメイの、悪さをする前の少女の顔がそこにあった、ふと手を見ると、同じようにパチンコが。  「わわわっ、ちょっと待て!」  そのパチンコから石が発射された。  両手と腹筋を使ってメイのバランスを崩し、首を捻ったから良いような物の、  そうでなければ大きな石が顔にめり込んでいただろう。  「あっぶねぇ………」  「惜しい」  「惜しい、じゃないだろこの馬鹿娘がぁ!」  「きゃ〜」  全く緊張感のない声と、怒りを露わにした声が重なり、向こうに消えていく。  「全く………どっちが子供か分かったものじゃないわね」  「いや、アレはお前が悪いだろう」  びっくりして振り返ると、青年が立っていた。  「ルシード、いつの間に!?」  「ついさっきさ」  <ルシード> 男、年齢不詳、元々が孤児であるため、詳しいデータがない、かなりの美形。  「そう………で、どうだったの?」  「思った通りだよ、やっぱりアザゼルはムラサメに対し大攻勢を仕掛けようとしている」  「そう………で、どうなの?」  「現状のまま状況が推移すれば間違いなく大戦争になるだろう、どっちが勝っても都市への被害がでかすぎる」  「と、すれば?」  「決まりだろう、それにちょうど良い仕事があるんだ」  いつの間にか、悪戯好きそうな女性の顔は、戦士のそれになっていった。  「よーし、つ、か、ま、え、た、ぞ!」  「ひぎぃっ!」  襟首を掴んで無理矢理動きを止める、スポーツ用のシャツとはいえ思い切りやられるとかなり首が痛い。  「どうしてくれようこの馬鹿娘に」  手に石が飛んできて、その手に思い切り当たる。  「いてっ!」  「やめておけよ大人げないなぁ………」  草むらから声がした、どうやらそこから『狙撃』したらしい。  「ノアお兄ちゃん!」  「よっ、一週間ぶりだな、メイ!」  「ノア………草むらから出てくるのって相当恥ずかしいぞ、落ち葉まみれだし、プププ………」  「やっかましいわい」  <ノア・ヴァーノア> 男、24歳、読書好きなこれと言った特徴はないようだが、この時代には珍しい眼鏡愛好者で、             銀色がかった薄茶色をした髪と目の色をしている。  手には先ほどのパチンコ、どうやら落としたのを拾い、わざわざ草むらに隠れてから打ったらしい。  「まったく………芸の細かいことで………」  「無駄が多い、ってことかしらね?」  「あ、ミリィお姉ちゃん!」  「ミリィまでそう言う事いうかぁ………ショックだぜ」  <ミリアム・ハーディー> 女、22歳、ミリィの愛称でしられている  「あ、そうそう、兄さん、お仕事の話があるんだけど・・・」  「ん、わかった、悪いけど、メイはちょっと向こうに行ってて、社内秘の話とかあるから」  「うん、分かった、急いでね〜」  メイが向こうに行くと、3人とも真面目な表情に変わっていた。  「予想通りだったわ」  それが最初の言葉だった。  作戦名:breath  作戦領域:ラサシティー郊外  作戦開始時間:22:00  作戦目的:ムラサメ本社に侵攻を開始する部隊の迎撃  作戦名:fear  作戦領域:ラサシティー内部  作戦開始時間:22:00  作戦目的:ムラサメ本社防衛部隊の排除  「ムラサメ本社はオフィス区画にある………とはいえ大部隊が侵攻できる区画は再開発区画しかない」  「と、すれば居住区が戦場になるな………」  「そう、身勝手かも知れないが居住区が戦場になるのは避けたい………」  「かといって………侵攻部隊だけを排除する訳には………」  「そうだな、それは他のシティーが戦場になる可能性だってあるんだ」  「侵攻してきているのは向こうだって察知してるんでしょう?」  「そう、だから本社は異様なまでの警備をしいているわ」  「と、すれば両方を適度に叩くべきでしょうね」  「そう、だからあの二つの依頼を受けたんだ」  そんな会話の中、ノアがふっと溜息をついた。  「どうした?」  「いや………今更ながら、メイ達にはこんなの見せられないなってな………」  ふとみると、メイは向こうでブランコに座って空を見上げていた。  「そうだな………メイが自閉症だったのも、戦争からだからな………」  彼女は戦争孤児だった。  今の両親にしても、育ての親と言うだけで、生みの親という訳ではないのだ。  「責任、重いよな………」  「そうね………」  「戦争は、非戦闘員を巻き込まず、か………」  「何それ?」  「いや、地球歴が始まる以前の戦争のルールだそうだ………守られたことはなかったそうだが」  「そうなんだ………」  「まあ思っていてもしょうがない………実行するだけだ」  「そうだな………俺たちは外部での侵攻部隊を撤退させる」  「ルシード達には奇襲でもって本社部隊を撃破する」  「じゃあそれで決まりね」  メイがボーっとして空を眺めていると、視線の先にノアが現れる。  「あ………」  「今度は俺の番だ」  ニッと笑った。  「いいか、敵はラサシティーの本社に立て籠もっている」  指揮官のそんな言葉から始まった演説は、部隊の全てに届いていた。  そして、他の人にも届いていた。  「その民衆に被害が出るであろう、そして我々は恨まれるであろう!だが!我々は為さねばならぬのだ!」  「ったく………御大層な事言っちゃってさあ」  言葉は誰にも届かない。  「我々は、人々に恨まれ、蔑まれようとも、為さねばならぬのだ!」  『さて、そろそろ作戦開始するが、通信波はカットして、気付かれないように一気に行くぞ、妨害波は?』  『大丈夫だ、開始と同時に広域通信波を除く全ての波、赤外線から何もかも阻害するようになってる』  『そりゃありがたい、これで、後方から奇襲を仕掛けて指揮を混乱させる、そしたら妨害波を』  『わかってる、広域通信波も妨害させて止める、これで通信終わるが………』  『わかった、狭域通信波も妨害させる』  「作戦開始」  白いACが駆け出し、2機のACがそれに続く、目標から死角となる開けた場所で、妨害波を出していた。  「生き残れよ………」  彼にとって辛い時間が始まる。  彼が出来ることは声をかけ励まし、戦局を伝えるだけ、だが、この作戦ではそれも出来ないのだ。  <ラグ・ヴォイド> 男、年齢不詳、ジオ達のレイヴンチーム『ジュピトリス』のマネージャー。            これと言った特徴はないが、初老ながら鍛え抜かれた体が人の目をひく。  「予想通り本社前に集合しているな」  「そうね………やっぱり高機動系が多いわね、ああいうのは市街戦には不向きなのに」  「いや、問題はそこじゃないだろう………」  彼らは本社からやや遠い丘の上で望遠鏡からその本社を覗いていた。  ここからなら例えば大型の迫撃砲でもなければ射程圏にはおさめられない上に、  それに対する固定砲が用意されていて、攻撃は不可能だと想定し、そしてその予定通り、防衛部隊は居なかった。  「市街地で撃破されたら事ね、今もあそこは人が生活してるのに………」  「その通り、だからあの本社の大広場でまとめて吹き飛ばすのさ、あそこなら現在民間人は一人もいない」  「そうね、あ、そろそろ時間よ、広域のジャミングは?」  「俺の機体の半径50メートル以内なら黙視されない限りは大丈夫のはずだ」  「全然広域じゃない気がするけど………まあ何とかなるかな………」  「よし、作戦を開始するぞ、行こう」  黒い機体と黒く偽装された機体に乗り込む二人が居た。  「そろそろ良いか………」  白い機体が大きな閃光弾を撃ち上げた。  「撤退の合図………」  戦場の中、指揮系統が混乱した陸上機を、目に入るだけまとめて撃破していくジオ。  そして、対空砲の弾幕の中、空中を果敢に飛び回り上空でヘリを撃破しつつ回避するノア。  その対空砲を、残骸の陰に隠れながらマシンガンで乱射して撃破していくミリアム。  三者三様の数時間の中、いつの間にか撤退した彼らに気付くことなく、いつの間にか始まった同士討ちが続いていた。  「敵はどこからだ!」  「分かりません!敵は恐らくこちらと同等の戦力」  通信が途切れる。  初弾から数発で、指揮系統は混乱していた。  最初の砲撃で、迎撃部隊の最高司令官の司令車が撃破され、残るは中級指揮官しかいないのだ、指揮系統はどうしても乱れる。  彼らを攻撃している戦力は2機のACでしかない事を知れば彼らの怒りは計り知れない物となるだろう。  「よし、戦力の約6割を撃破した、撤退するぞ」  「分かった、逃げましょう」  砲撃の度に位置を変え、50を超える砲撃の後、彼らは撤退する。  翌日彼らは何事もなく少女と共に笑顔であった。  彼らが、彼女の忌み嫌う者なのだと言うことを、少女は知らない。
プロローグ 完

第1話へ 戻る