ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の拾九
〜島での退屈な生活




まったりするのが大好きだ。
日が暮れるまで何もしない一日。ちっとも苦にならない。
漠然とした罪と焦燥の意識を傍らに呆ける。
二年前、万座温泉に一週間独りで籠った時は正に至福であった。
そんな私だが一度だけ退屈すぎて暇すぎてどうにもならなくなった事がある。

十数年前、ダイビングにハマっていた。
ドライスーツを着込んで冬の海に潜る。透明度抜群。驚く程に神秘的な世界がそこにあった。
ダイビング仲間と“元旦に神津島で潜ろう!”という事になり、
重い器材を抱えてフェリーに乗り込んだのは大晦日未明。
冬の伊豆七島は物哀しい。観光客もまばら。

さて静かに年を越し、元旦の朝ホテルに電話がかかってきた。
“潮の関係で今日のダイビングは中止です”相手の声は明らかに酔っていた。
“あ〜あ、こんなに大荷物を持ってきたのにな、まいったなあ…。”

さて、どうしようか。
ホテルの人に“どこか遊べる所ありますかね?”と尋ねてみた所、
“隣の小学校の体育館で卓球がやれるかねえ、あ、でも元旦だから閉まってるわね”との返事。

散歩に出た。
おそろしく寒い。
看板や標識を頼りに名所巡り、といっても小さな神社を二か所廻って終了。
店もやってない。何にもない。
レンタルサイクルの看板を発見。借りてみたがタイヤの空気が緩い。
“空気入れ貸して下さい”と伝えると“今日はもう呑んじゃってるからウチの車使っていいよ”
と頼んでもいないのに軽自動車のカギを渡された。
かなりのポンコツ。その車で島内を一周。ちょっと愉しかったけど30分で終了。

仕方なく宿へ帰りテレビを見る。ビールを呑む。さほど酔えない。
“つまんねえな、暇だな“と夜九時頃には強引に就寝。夜中何度も目が覚めたけどね。
一月二日に横浜へ戻った。本当に静かな静かな年末年始であった。

やっぱりねえ、まったりするのは独りじゃなきゃ。
孤独中毒に陥れない。


 
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