ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の拾七
〜絶唱あるのみ




布施明が好きだ。
特に『シクラメンのかほり』以前の作品が大好きだ。
小学五年ガレージシャンソン歌手の愛唱歌は『愛は不死鳥』であった。
意味も分からぬままに
♪あいは、あ、あ〜、ふ〜しちょお〜う〜♪
と変声期前の歌声を御近所様に披露していた。
晃士少年の心を魅了したモノ、それは初期の布施明のヴォーカルスタイルである。
デヴュー当時の布施明の唄は“絶唱”と呼ばれており、一曲終わる毎に倒れてしまうんじゃなかろうか、そんな歌唱法であった。
まさしく魂全開、喉も全開、振り絞る唄声に晃士少年の琴線は震えまくったのである。
幼い頃からドラマチックな表現に弱い私であった。
 
さて、昨今巷に流れている様々な音楽。
ヴォーカルスタイルも多岐に渡り、その時々の流行が存在する。
近頃ではファルセットを多用し、狭い口腔で共鳴させ、近鳴りする声、といった所か。
それに引き換え私の歌唱法は
●ビブラート深め
●巻き舌
●低音
●野太い
●遠鳴り
この様なスタイルはきっと時代錯誤も甚だしいのであろう。
だがしかし私は一向に構わない。
イタリアオペラよりもドイツオペラが好きだし、スキニ―よりもベルボトムが好きだ。
こういう唄い方が好きだし気持ち良いし格好が良い。
自分を曲げてまで流行に迎合する気はさらさら無い。
時代は螺旋階段の如く廻っている。
運が良ければ時代との幸福な邂逅が訪れる、それだけの事だ。
“絶唱”に更なる磨きをかけようと思う。
 
『愛は不死鳥』レパートリーに加えようかな。
とうの昔に変声期後なんだけどね…。

 
<<back
next>>