ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の拾壱
〜ジューサーバー〜




写真:加藤仁史

JR渋谷駅改札内のジューススタンド。
最近よく利用している。
ジューサーで絞った生ジュースの店。
バナナジュース、パインジュース、メロンジュース…etc。
どれもシンプルで美味しい。
飲み干せば何だか懐かしい気持ちになる。
昔はこういったジューサーでジュースを売っている店がどこにでもあった。
私が中学・高校と七年間通った桜木町駅。
学校帰りに駅構内のスタンドで飲んだオレンジジュース。
美味しかったなあ…。
一緒にアメリカンドッグも食べた。
ゆで卵に衣をつけて揚げてあるタマゴドッグも大好きだった。
ほとんど毎日寄っていたのでお店のおばちゃんと仲良しになった。
ある日の事。
「お兄ちゃん、これ新発売しようと思うんだけど食べてみて。」
タマゴドッグに続くその店のオリジナルで、メンチに衣をつけて揚げたモノ。
「うん、おいしいです!」
次の日からアメリカンドッグ、タマゴドッグと並んでバーグドッグがケースに並び始めた。
ただ値段が高かった。
アメリカンドッグが100円、タマゴドッグが90円、バーグドッグは120円だった。
学校帰りに立ち寄るといつもバーグドッグが売れ残っていた。
本当は私はタマゴドッグが食べたかったりしたのだが、バーグドッグを頼んだ。
責任を感じていたのだ。
オレンジジュースを飲み干した。
やがてバーグドッグは姿を消した。
私は何だか気まずくなってそのスタンドに立ち寄らなくなった。
今や桜木町駅はみなとみらいの玄関口、華やかな駅である。
あの頃のうら淋しい面影は微塵も無い。
もちろんあのスタンドもとうの昔に消えた。
“あのオレンジジュースが飲みたいなあ…。”
渋谷のジューサーバーでそんな事を思い浮かべている。
 
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