ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の八拾弐
オチタ・コボレタ・キ レタ





流浪の朝謡、真夏日の稽古。
欲情ラテンナンバー『ジゴロとベラミー』の演奏にも熱が入るってもんだ。
うねるグルーヴ。
踏み出すステップ。
揺らす腰。
滾る血潮。
身も心もノリノリなその時、
バイ〜ン!
ギターが床に叩き付けられちまった。
ストラップが外れて落ちたのサ。
余りの勢いの良さにバウンドして戻って来たぜ。
購入して未だ一年とたっていないDホール。
無惨にもサイドからトップにかけて、き、亀裂が入りやがった…。
リペアに金も時間もかかるって訳サ。

かなり凹んだままいつものカフェへと。
こんな時は落ち着かなきゃな。
しらじらを装いながらコーヒーを注文。
ミルクとシュガーをタップリと入れようとしたその時、
バシャ〜!
カップが倒れちまった。
指が滑って零れたのサ。
股から膝にかけて、熱い熱いシャワーを浴びまくりだぜ。
軽いヤケドを負う程にな。
黒いパンツが更に黒く染まったって訳サ。

踏んだり蹴ったりで乗り込んだ東横線各駅停車。
満身創痍で家路を辿る。
乗客もまばらな午後3時。
空ろな瞳で見るでもなく車内吊り。
間もなく最寄り駅。
定期入れを出そうとしたその時、
スルッ!
シザーケースが腰から外れちまった。
ベルトが突然切れたのサ。
小脇に挟んでドアがしまる寸前に何とか脱出。
財布から携帯からぶちまける所だったぜ。
シザーケースがセカンドバッグになったって訳サ。

本番中でなくてヨカッタ。
白いパンツじゃなくてヨカッタ。
満員電車じゃなくてヨカッタ。

それもこれも日頃の行いが良いからサ。

 
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