ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の七拾七
もはや他人事





7年前迄住んでいた街へ出かけた。
広い道路、大型の店鋪。
典型的なニュータウンである。
車が無いと不便な街だった。
あの頃、クリーム色の古いVOLVO240に乗ってたなあ。
廃車にしちゃったけれど。
新築の賃貸マンション。
借りてた部屋はたしか106号室。
本当にあの扉の向こうに住んでたのかな?
まるで実感が湧かない。
大して昔の事じゃ無いのに。
あの日の自分はもはや他人事。

久し振りに古い仲間達と逢った。
かれこれ30年来になるか。
気のおけない連中。
何と!昔の恋人の顔がそこに…。
あまり変わってない。
あの頃、毎日のようにあちこち出かけて、
いろんな話して、愉しかったなあ。
本当に大好きだった。
彼女の隣で一体何考えてたんだろ?
全く想像がつかない。
アンナ事やコンナ事してたくせに。
あの日の自分はもはや他人事。

94年のデビューアルバム『舞踏会』を聴いてみた。
耳障りの良いハイファイな音。
鳴り物入りのデビュー。
あの頃、ハードスケジュールに追われてたなあ。
大物ミュージシャンとのレコーディング。
右も左も分からない私に出来たのは

一生懸命唄う事だけだった。
贅沢だった。
この曲どんな気分で唄ってたんだろ?
まるで思い出せない。
何テイクも録ったくせに。
あの日の自分はもはや他人事。

今日の自分もいつしか他人事になるのかな。 
 
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