ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の七拾参
秋眠暁を覚えず





寝るのが大好きだ。


許される 事ならば毎日十時間以上眠りたい。
勿体無い なんてちっとも思わない。
“眠れな い”のは私にとって殆ど恐怖である。

不眠とは 程遠い私にも、赤い目を擦り朝を迎える事がある。
理由は様 々。

例えば “失恋”
その昔心 底惚れていた女性に完膚無き迄にふられた時、
一ヶ月近 くまともに眠る事が出来なかった。
女々しい という言葉は男の為にあるんだと知った。
最終的に は酒の力をかりて眠った。
浜省の歌 の様に“ギター抱えて眠った”事は未だかつて無いが、
“酒瓶抱 えて眠った”事はある。

ぼーっと、死んだ魚の目で、魂の 抜け殻となり、早く季節が変わって欲しいと願う。
むむぅ。 美しい思い出だ。

例えば “屈辱”
身に覚え ない所でひどい仕打ちを受けた時、悔しくて悔しくて眠る事が出来なくなる。
文字通り 泣き寝入る事が出来ない。
酒の力も 効かない。逆に煽られてしまう。
聖書の様 に“右の頬を打たれたら左の頬をも差し出す”のではなく
“目には 目を、歯には歯を”の自分が抑えきれない。
苛立った り、悲劇の主人公になったり、世界を破壊したい衝動にかられたり、
体力・精 神力共にかなり消耗する。
むむぅ、 醜い思い出だ。

寝るのが 大好きだ。

だがしか し唄という表現は、
眠れぬ夜 の中で磨かれたりもする。

非常に厄 介だ。

<<back
next>>