ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の六

〜蒸発三代目〜
 

 


五月病の皆様、御機嫌麗しゅう。 
私も自他共に認めるナマケモノ、おまけに嫌な事があるとすぐに逃げ出してしまうこまったちゃん。 
そう、これは血筋の問題。三つ子の魂地獄まで、御先祖様から譲り受けた『血』がそうさせるのである。 
何せ私が初めて母方の祖父に会ったのは十歳になってから、それまでおじいちゃんは蒸発していたのだ。 
いつ遊びに行ってもおばあちゃんしかいない母の実家で、ある日突然、自分がおじいちゃんだと名乗る老人が現れ、私の頭を撫でた。“誰だ?この人? ”それが私の祖父に対する第一印象であった。 
思い通りにならぬ現実から逃避し、十二年間もの間行方をくらませていたらしい。う〜ん、筋金入りのこまったちゃんである。晩年はほとんど喋らず、食事もろ くにとらず、文字通り消え入る様に死んでいった…。 
その葬式の席、本来喪主を努めるべき長男(私の叔父)の姿が見当たらない。 何故か?叔父はその時蒸発中だったのだ。むむぅ、血は争えない。 世知辛い浮き世の風にどやされ、逃げるように行方をくらませていたのだ。
う〜ん、鉄筋コンクリート級のこまったちゃんである。二代続けてビバ蒸発! 
私にはその血が確実に流れている。駄目な方へ、駄目な方へと歩いて行ってしまう性分である事を知っている。
デラシネの旗は皐月の空に翻るのだ。気を付けねば…。 
もし私が行方をくらませたら…メンバー達よ、探さないでくれたまえ。

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