ガレージシャンソン歌手山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の伍拾四

〜王様と乞食



舞台に立つ。
お客様を前に自分が紡いだ言葉を自分が描いた旋律で唄う。
何と傲慢で恥知らずなな振る舞いであろうか。
だが今の所、他にやるべき事など見当たらないのだ、私には。
全ては私に還って来る。
私は王様になったり乞食になったりする。

この春から所謂マネージメントをも己が賄う事態となった。
ただ唄っていれば良いのだ、などと悠長な事は言っておられぬ。
占い師が場所取りをする様に、
唄うたいも舞台を確保せねばならない。
そして時期を見て作品をまとめ記録し出版したい。
全ては己の所為、自分次第。
私は王様になったり乞食になったりする。

幸いな事に私の廻りには何人かの王様がいる。
幸いな事に私の廻りには何人かの乞食がいる。
互いが互いを尊敬し、時に軽蔑する。
鏡を覗き込む様に。

今夜、私は唄っていて良かったと心底思う。


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