ガレージシャンソン歌手山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の参拾壱

〜愛しきコブラ君



私はすぐモノを失くす。自他共に認める”失くしん坊”である。
何故だか分からないが、身の回りから様々なモノが消えてゆくのだ。財布、鍵、
携帯電話、サングラス、帽子...。
帽子なんてもう三十個位はどっかいっちゃったなあ。余りに失くなるので被るのをやめたよ。
公演時に於けるシルクハットだけは失くさずにいるけどね。
指輪も随分失くした。今でも惜しいと思うのは龍<ドラゴン>のリング。
かなりリアルで可愛かったのに...。知らぬ間に私の指から消えていた。う〜ん今何処...。
そんな私がもう随分と長い間、失くさずに左手人指し指にはめている蛇<コブラ>のリング。
頭の部分が反り返り、牙もニ本ついているかなりキッチュなアイテムである。
アクセサリーって長年身につけてると愛着がわくものだ。
蛇という事も相俟って今やお守り代わりでもある。
そんなコブラ君だが、実は過去にポッキリと折れてしまった事があった。
家の近くの宝石屋に修理を依頼すると
”これ中の方はシルバーじゃないよ、メッキだねぇ”
とオールシルバーじゃない事実が判明。
ショック!知らなきゃ良かった...。
更に修理が終わったリングを受け取りに行ってみれば
”かなり汚れてたんでね、キレイに磨いておいたよ。ほら!”
とピカピカに青光りしたコブラ君を渡された。
マジっすか?ひえ〜、カッコ悪い...。
”ど、どうもありがとうございます...。”
私は二年程かけて『眩しく光り輝くコブラ君』を『渋い燻し銀のコブラ君』に育て上げたのだ。
それにより愛着が深まったという訳だ。
今となればオールシルバーじゃない所も愛おしい。
この指輪だけは失くしちゃならないと胸に誓う私なのであった。


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