ガレージシャンソン歌手山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の弐

〜星空を切り裂く宇宙のコトバ〜
 
 

 

十二月、『泥沼巡業』と題し全国を廻って来た。現メンバーでは初めての旅。
連日連夜、顔を合わせているとだんだん互いの”業”というモノが露になってくる。
そしての”業”をも含めてその人間を愛せた時、そこに深い絆が生まれる。我々の絆は深まった様である。今後は泥沼化に注意だ!  
ところで、私が高校生の時付き合っていた彼女は重度の虚言症であった。
空想の世界に生きていた。時に彼女は女優であり、絵本作家であり、医者でもあった。
ある夜、山下公園でデートしていた時の事、彼女の嘘があまりに支離滅裂だったのでケンカになり、私は彼女を怒鳴りつけてしまった。
するやいなやas soon as,彼女は宇宙のコトバを発しながら、夜の山下公園を端から端まで猛ダッシュ!
もうどうにもとまらない、リンダ山本。辺りにはスウィ〜トなカップルがいっぱい、星空を切り裂く宇宙のコトバに公園全体が金縛りだ。
やがて見るに見かねた一人の男性が「救急車呼びましょうか?」と声をかけてくれた。
とたんに彼女は正常になり、
「ああ怖かった、さっき鬼がアタシを怒鳴りつけたの...。」
十八歳の時彼女と別れた。スーッと胸を撫で下ろす音がハッキリと聞こえた。
私には彼女の”業”は重すぎた。
泥沼が底無し沼になる前に、やはり抜け出すべきなのである。
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