ガレージシャンソン歌手山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の壱拾六

〜千鳥足の門出〜


卒業式、貴方は涙をこぼしただろうか?

悲しいかな、私は一度も卒業式で泣いた事が無い。
高校を四年間、大学を五年間通った私にとって、卒業式なんぞただのきっかけ。
互いに気持が冷めているのに中々別れが言い出せないカップルと同じ、一日も早くオサラバしたかった。
そんなアマノジャクな私だが中学校の卒業式だけは今も美しき思い出として胸に残っている。
同級生の一人に某歌舞伎役者の息子がいた。
彼は進学せずに稽古の道に入る為、中学が最後の学生生活であった。
そんな人生の門出には酒!という訳で十五歳のガキ共は、卒業式の後、制服のまま堂々と渋谷のBAR『エジャロ』に御入店。
サントリーオールドなんぞをボトルで入れてしまい、十五分と経たない内にヘベレケ状態、修羅場となった。
暴れ出す奴、泣き出す奴、吐きまくる奴、寝ちゃう奴...最悪のケースである。
終いには店員に「写真撮ってくださーい!」「君達もしかして高校生?」「いいえ、中学で〜す!!」「......」
店を出た後は「まっすぐ歩けないよ〜〜ヒャハハハハ!」
いやいや、ホントによく補導されなかったものだ。堂々としていたのが逆に良かったのだろうか?
結局その夜はその某歌舞伎役者の家に御厄介に。
家に着くなり「おばさ〜ん、おれの寝る所どこぉ?」
そんなクソガキ共を叱る事なく「そんなに酔っぱらっちゃって駄目ねえ」と笑顔でいなす母親。
次の朝は全員に美味しい朝ごはんまで用意してくれた。
そして一言、
「今までありがとう。高校には行かないけれどこれからもうちの息子と仲良くしてやってね。」

......誠に申し訳ございません。母の愛は偉大であった。

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