ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の壱百弐拾七
〜旅から旅へ〜




旅巡業が好きだ。
知らない街に行って初めてのお客様の前で己を曝け出す。
其処にはマゾヒスト的快感が存在する。
素敵に恥をかけるかどうか?ぞくぞくしちゃうんだ。
そして繰り返しその舞台を踏む事により、やがて秘密の場所になる。密会。
私は多くの密会場所が欲しい。

そして又、舞台とは別に、その街を独りぶらぶらと歩く時、私は妄想する。
ある日突然、横浜での暮らしを置き去りにして、名前も変えちゃって、
この街で暮らし始めたらどうなるかな。
アルバイトを見つけて。アパートを借りて。
今までの私とはまるで別の人生…。
昼下がり、市電に揺られながら思い耽る。
ヤバイヤバイ。
今夜これから舞台なんだ。
富山とかヤバかったなあ…。

こんな日々も1週間程度ならすぐに現実に戻れる。
だが『灼熱の三叉路〜薫風の巻〜』は14日間続いた。
毎日毎日妄想し、夜な夜な舞台で恥をかき、夜更け過ぎまで酒を喰らう。
いつしかそれが日常となる。
旅が終わり横浜に戻ってから、暫く元の生活に馴染めなかった。
なんとか日常を取り戻した頃、私は再び旅に出る。
今度は流浪の民達と一緒だ。座長は私。
『空知らぬ雨』一蓮托生だ。
恥はともかく、妄想には気を付けなきゃ。

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