ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の壱百壱拾八
洗濯の鬼


旅巡業に出れば洗濯の鬼と化す私。
毎日、毎日、せっせと洗濯する。
決して潔癖症なんかじゃないのだが、汚れ物を持ち歩くのが嫌なのだ。
その日脱いだものはその日の内に、たとえ靴下一足でも洗わずにはおれない。
ナノレベルの汚れまで分解除去!液体洗剤は私の重要な旅道具である。
一晩で乾かない事もしばしば。そんな時は一旦洗濯袋に戻し、次の町で再び洗う。二度手間。
でも懲りずに毎日洗濯。だから宿に乾燥機があったりすると凄く嬉しい。
旅先で舞台に立っていない私は、洗って、洗って、洗いまくっているのである。

この夏、塚本晃・近藤智洋・そして私の3人で弾き語りの旅に出た。
題して『灼熱の三叉路にて』。気の置けない仲間との旅巡業は愉しい。
今回はビジネスホテル泊ではなく合宿所生活、全員で一っ所に滞在し、そこから各会場に向かった。
この合宿所が洗濯するにあたって最高のシチュエーションだったのだ。
雨の差し込まない屋根つきのベランダがあり、そこに物干し竿が設置され、しかもハンガーが大充実。
私は狂喜乱舞、天にも昇る気持ちになった。
舞台を終えた後我々が夜半過ぎに合宿所に戻るや否やas soon as、洗濯番長の私が声をかける。
「は〜い、皆さん洗濯物を出して下さい!」
全員の洗濯物を全自動洗濯機に放り込み、液体洗剤を注入!
洗い上がってベランダに干せば、後は放っておくだけ。カラッカラに乾くのを待つだけだ。最高である。
お調子に乗った私は、夜は衣装・普段着、翌朝は寝巻・バスタオル、と一日に二回洗濯に励んだ。
やがて誰も洗濯物を出さなくなった。

私のキャリーバックを開ければ液体洗剤の香りが漂って来る。
その時、私は至福を感じるのである。

<<back
next>>