ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の壱百壱拾七
時の過ぎゆくままに


山田晃士&流浪の朝謡、西の旅巡業楽日。
京都磔磔の楽屋で山田とロジャーはサブロッソの帰りを待っていた。
外は雨。土砂降りだ。
リハーサル終わりでその雨に辟易し、腹ごしらえに出るのを断念した山田。
朝から痛風が再発し、足が痛くて歩けないロジャー。
ふたりは空腹だった。
雨にも負けず風にも負けず、京都の街を放浪し続けるサブロッソに電話して、
ロジャーはお弁当を、山田はおにぎりを買って来てもらえないだろうかと懇願したのである。
“いいですよ〜、6時には買って帰りますね”と嬉しい返事が。
6時までにはまだ1時間近くあったが、わがままは言えない。
この土砂降りの中、わざわざ買って帰って来てくれるのだ。ゆっくり待つとするか。
山田とロジャーは首を長くしてサブロッソの帰りを待った。
やがて約束の6時を廻った。しかしサブロッソが戻る気配は感じられない。
“いやあ、腹へったな〜”
“そろそろ帰って来るかな”
山田とロジャーはじっとガマンでサブロッソの帰りを待った。
6時半を廻った。
“何しとんねん、三郎は…”
“忘れてんじゃなかろうか”
若干、声を荒げるふたり。
するとサブロッソから電話が…。
“遅くなってごめんなさい、後5分で戻りますね〜”
ホッとするふたり。
そして5分・10分・15分…。サブロッソは戻らない。
“ええ加減にせい!”
“あいつの5分って何分だよ?”
確実に声に怒りが混じっている。
7時になってようやくサブロッソ様御帰還。
“遅くなりました〜”って全くその通り。間もなく本番なんだけど。
いや〜でも助かった。雨の中をありがとう、サブロッソ。
美味しそうにお弁当を食するロジャーを横目に山田は受け取ったおにぎりを見て愕然とする。
…シーチキンマヨネーズ…!!!
山田の食べられない具でありました。

ありがとうサブロッソ…。

その夜の舞台は、かなり切ない唄となった。


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