ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の壱百壱拾五
〜公演前に食するモノ〜


吉祥寺 STAR PINE'S CAFE。ガレシャンでは何度かお世話になった小屋である。
先日、久し振りにその舞台を踏んだ。山田晃士&流浪の朝謡の世界観もばっちり似合う素敵な空間であった。愉しき夜を過ごした。

ただ一つだけ個人的に悔やまれる事があった。
その日はギタリストのバモス福島と車で吉祥寺に向かっていたのだが、久し振りの場所で土地勘を失くし、店に辿り着けず、駅付近を少々彷徨った。その折に強 烈な看板が目に飛び込んできたのだ。真っ赤な店構えに真っ黒な文字で筆字で“バリ男”と掲げてある。縦書き。もの凄いインパクト!どうやらラーメン屋みた いだ。

リハーサル終わりで、腹ごしらえしようと外に出た。さっき見た看板が忘れられない。足は自然と“バリ男”へ向かう。店員の勢いが凄まじい。皆声を張り上げ ている。気合入ってるなあ。ノーマルなラーメンを注文した。ラーメンが運ばれて来た時、しまった!と思った。所謂“二郎インスパイア系”だったのだ。基本 的にこってりは好きな方だが、二郎系は食後にかなりのダメージを伴う為、滅多に口にしない。その日をラーメンに捧げる気持ちがないと食べてはいけないの だ。到底ライブ前に食するモノでは無い。しかし店員の勢いに呑まれ、店内はハイテンション。他の客はきれいに平らげている。とても残せる雰囲気じゃない。 気弱なガレージシャンソン歌手は胃袋にかなりの負担をかけながらやっとの思いで完食した。ううう…身体が重いぜ。

本番。一曲目は早川岳晴のコントラバスのインプロから。舞台裏でその音を聴いている。おそろしく重くうねっている。マイッタなあ、身体に響くなあ…。重い 足取りで舞台に躍り出た。その日は今一つ動きにシャープさが欠けていたと思われる。8月5日は同場所で映像収録を行う。舞台前の食事は要注意だ。

私は“バリ男”にはなれなかった。

<<back
next>>