ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の壱百壱拾参
〜会話無きコミュニケーション〜


夜の街が暗い。
車も少ない。街の灯りも少ない。
子供の頃はこんな景色だったと思う。
スウィミングスクールからの帰り道、バス停から家まで、暗くて怖くてダッシュしていた日々を思い出す。
あの頃はコンビニもファミレスもなかった。
近頃が明る過ぎたのだ、きっと。

先日、レコーディング終わりでスタッフとミーティングをしようと思ったのだが、やっている店がない。
ファミレスは軒並み閉まっている。夜半にミーティングが出来るって特別な事だったんだなあ…。

なんとか24時間営業のマクドナルドを見つけた。

チーズバーガーとコーヒーを買って2階席へ上がる。
22時半、ぱらぱらと客がいる。
ふと、喫煙ブースに目をやると6〜7人の客が。
おそらく全員お一人様なのだろう。
カウンター席に間隔を空けて座っており、各々が壁に向かって黙々と何かの作業をしている。
性別も服装も年齢もまちまち。シーンとしてる。
一見ごく普通の景色なのだが、不思議な違和感を覚えた。

…1時間経過…。

スタッフとミーティングも終わった頃、喫煙席の客達が一斉に帰り支度を始めた。
同じタイミングで立ち上がり、トレイを片付けている。閉店時間?いや、24時間営業だよな。
こりゃ連鎖反応か、と驚いていると、それぞれが何となく目配せしたり、何となく微笑んだりしている事に気付いた。あれ?グループだったのか。バラバラに 座ってたのに。一言も会話がなかったのに。

全員が鞄に任天堂DSをしまっていた。
対戦が終わったのだ…。

お一人様達は暗い夜の街の中、散り散りと消えていった。
別れの挨拶はない。
会話の要らないコミュニケーションが存在している。

私には未だ難しそうである。


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