ガレージシャンソン歌手山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の壱拾壱

〜15歳のジーンシモンズ〜
秋といえば学園祭、文化祭。
ここでロックバンドを初体験し、勘違いをして人生を棒に振ったバンドマンも数多いであろう。
御多分にもれず私もその一人。私のステージデヴュ−は中学三年生の文化祭、同級生4人で結成した『KISS』のコピーバンドであった。
その名も『HELL』。ああ、恥ずかしい...。
『HELL』はとにかくヘタクソだった。
その分演出にチカラを入れていた。ギターにスプレー缶をつないでラメが飛び出るようにしたり、女の子からメーク道具を借りて、メチャクチャな、まるで宇宙人みたいな化粧をしたり。とにかく音よりもまず見た目ありき!とまあ、ある意味ROCKの真髄を見抜いていた訳だが、中でも忘れられないのはジーンシモンズのまねをして”血”を吐こうとした時の事。
何処で聞いたのやら「あれはトマトジュースとケチャップとチョコレートを混ぜて作ってあるんだよ」とのウワサを元に”血糊”を製作。ベーシストに飲ませた。
そのあまりの不味さに我慢するも束の間、予定のシーンまで待てずに、奴はオエッと全部勢いよく吐き出してしまった。
曲は中断。スポットを浴びるベーシスト、そのリアルさに拍手喝采だ。
真剣につらそうな表情も宇宙人メークでかなりシュール。そして何故か手にはバイオリンベース...。う〜ん、素晴らしい...。
その後奴はバンド道を歩まず、現在は力一杯とんかつを揚げている。
賢明な選択である。

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