ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の壱百九
〜永遠の愛を誓う〜




山田晃士・最鋭輝・柴草玲

3人の唄うたいが音楽家から遠く離れ、舞台上で芸人魂を炸裂させる催し『メルシー兄弟と従姉』。

北に続いて西の旅巡業もこれまた珍道中であった。

その日名古屋から金沢へと向かう途中、とあるサービスエリアに立ち寄った3人は、そこで世にもオトロチイモノに遭遇してしまう。

それは“愛のハートロック”!

1.    恋人達はまず売店で400円の鍵付きタグを購入する。

2.    そのタグに愛し合う2人の名前と愛の言葉を書き込む。

3.    展望台に設置されている金網に鍵付きタグを取り付ける。これぞ愛のハートロック!

4.    2度と外せない様に、鍵は出口のない投入口に投函する。

5.    2人のカタチある愛の証は永遠に残るのでありました。



日本海を見下ろすその一角は“恋人達の聖地”と銘打ってあった。

数えきれない位の愛のハートロックが所狭しとズラ〜っと並んでいる。

我々は震え上がった。

コアイ…。コアスギル。

人間の業の深さを垣間見るようだ。



タグにどんな文章が書かれているのか、恐る恐る3人は近付いてみた。

「この先ず〜っと一緒だよ」

「死ぬまで離さないぜ!」

「今までもこれからも一番スキ☆」

「ラブラブ無限大∞」

「もう2人は離れられない…!」



……………犯罪の匂いがする。

過ぎ去る日々に、鍵をはずして愛のハートロックを抹消したいやつらの怨念が渦巻いているぜ。



従姉は買った。

愛のハートロックを。400円で。

何も書かずに、取り付けもせず、紙袋に入れたまま旅中持ち歩いていた。

最終的にはその袋はメモ代わりになり、セッションの曲順を走り書きしていた。



『メルシー兄弟と従姉』金沢の舞台は、より一層毒々しいモノとなった。


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