ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の壱百八
〜松島客引き事情〜



山田晃 士・最鋭輝・柴草玲。
3人の唄うたいが音楽家から遠く離れ、舞台上で芸人魂を炸裂させる催し『メルシー兄弟と従姉』。

その北の旅巡業は正しく珍道中であった。その日は仙台から石巻へと移動、時間的にかなりの余裕があったので、途中、松島観光でもしようじゃないかという事 になった。さすが日本三景に数えられるだけある、素晴らしい情景にメルシー一族は大感動。海に浮かぶ島々と松の木のコントラストが雅な雰囲気を醸し出して おり、夜毎舞台で毒を吐いている我々の罪を多少なりとも洗い流す事が出来た。ありがとう、松島。リフレッシュ。神社でおみくじを引いたり、おみやげ屋さん を覗いたり、記念写真を撮ったり、束の間の休息は我々に生気を与えてくれた。

さて、お腹も空いて来たのでお昼にしようとお店を探し始めたメルシー一族。観光地という事で幾つもの食堂が立ち並ぶ。迷うなあ。個人的には解禁になったば かりの牡蠣に惹かれるぜ。
メイン通りから少し外れた海沿いに、昔からある様な昭和な佇まいの食堂が3軒並んでいる。あの辺りが良さそうだ、と近寄って行くと、それぞれの店の前にお ばちゃんが一人ずつ立っていた。おばちゃん達は潮焼けしたガラガラ声を張り上げていた。

“隣の店は全部冷凍だよ!ウチだけが新鮮、だまされちゃダメだよ!”
“他の店は高いよ!ウチはどの定食にも牡蠣が1個付いてるよ!”
“お隣は景色が悪いよ!ウチの二階からしか海は見えないよ!”

………。そう、この地帯だけの局地的呼び込み合戦が繰り広げられていたのであった。しかもかなりタチ悪い。ハッキリ言ってけなし合いである。攻撃的な空気 が客を遠ざける。呼び込みなのに逆効果。どの店にも入りたくありません。見てる分には面白いけどね。

従姉「誰かが始めちゃったんですね…」
弟「あれが仕事なんでしょうね…」
とポツリ。
兄「メルシーでは客引き合戦は絶対にやめよう」
と胸の中で誓った。

そそくさとメイン通りに戻った我々は、いかにも観光地的な大きな食堂に入り、既に牡蠣に気後れしてしまった私は牛タン定食を頂いたのでありました。

次の日石巻で美味しい牡蠣を食しました。
めでたしめでたし。


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