ブラジャーの日
2006.2.12
友人の訃報が続き. . . 三ヶ月前なら、確実にお酒を飲んでいただろうと思います。でも、もうアルコールを麻酔に使うわけにはいかないから(*1). . . 下着、買っちゃいました。
(うー. . . ブラジャーだけで¥15,000. . .贅沢すぎ)
いわゆる高級ランジェリー。その商品の価格は、高級ブランドの戦略例にもれず、「高いと思うけれど買う」人よりは、「高いと思わない」「高いからこそ買う」人たち寄りに設定されています。だから、全然お金持ちじゃないし、ブランドのタグが欲しいわけでもないわたしは、「うー」。
(だけど、やっぱり綺麗. . . それにこんな時だもの、ね)
結局は自分に甘甘で、トレフルやスタディオファイブのブラジャーを♪
洋服も和服も、靴やバッグも、アクセサリーも. . . 身につけるものはことごとく好きですが、下着はとくに好きです。たぶん帽子の次ぐらいに。
少ない収入とのバランスで考えると、わたしは「着道楽」の仲間に入ってしまうかもしれません。食事を抜いてもスカーフがほしい、なんてお馬鹿なことを思いがちだし。^^
「お揃いのタンガ(=ぱんつ)やスリップもいかがでしょう?」
店員さんはいい感じで、そう勧めてくれたけど、ごめんなさい。
ほしいです。でも、一枚7千円のぱんつや3万円以上するスリップは、わたしの受容価格をはるかに超えてます。下着をコレクションではなく、普段づかいにしようと思ったら、お洗濯を頻繁にするショーツ(=ぱんつ)のほうは、一つのブラに対し少なくても二枚。
すべてを揃えたら、お家賃が払えなくなります。^^
では、どうしてブラジャーだけは買えたのか?
──下着の中でもとくに好きだから。それに、E65やF65というサイズが、あまり売ってないから(ブラと色目や素材の合う、手頃な価格のショーツやキャミソールを探すことは楽しくできても、その逆は難しい)。さらに、ブラほど試着が必要で、そのときを逃したらもう逢えないかもしれないものはないと思うから. . . 。
繊細なレースづかいの新しいブラは、着け心地ふんわり、縫製もしっかり。──「きれい」と「実用的・機能的」の組合せに何よりも弱いわたしは、もう、うっとり。(踊ってしまう〜♪)……。
もちろん、今までのブラたちも大事です。だって、それぞれ価格以上の価値があるから。ほんとうにやっと見つけたブラなんです。ここ数年で、各社のサイズ展開はずいぶん充実してきたけれど、それでもデザインや色を "選ぶ楽しみ" はあまり味わえません。その上、E・Fカップって同じ商品でも割高なんです。
◇ 例: ウイングの "キュッとアップブラ"↓¥4,305→¥4,935)
http://www.wacoal.co.jp/products/wing/kyutup/size_color/index.html
下着屋さんでは、需要と供給という経済の原則が、"肌で" 感じられます。
それにしても、"キュッとアップブラ" って、すごいネーミング。コピーも、
"胸もとに女っぷり"
"谷間もシルエットも想像以上、女っぷり倍増しそう"
うーん。胸の谷間ごときで倍になるような「女っぷり」って……?
なんだかなぁ。男振りも、女振りも、心意気ではないのかなぁ. . . (*2)
そういえば、Eカップと聞いただけで、「巨乳!」と反応する人も、なんだかなぁ、です。
まず、パーツの大きさだけを問題にするような発想じたい嫌い。それに、E65のブラが合う、つまり、アンダーバストが65cmでカップがEの胸には、「巨」という文字が似合うような体積はありません。──カップの容量でいうと、D70, C75, B80, A85と同じ。わたしの骨格がしっかりしていて、アンダーがもう15cmあったら、ブラはBカップです。比率の問題であって、ABC…は、イコール、おっぱいの大きさではありません。
それに、同じサイズのブラを着けていても、胴体の断面が丸っこい人と楕円っぽい人では、雰囲気は違ってきます。おっぱいの底面積や固さ(マシュマロとかグミとか)だって人によってまちまち。──JIS規格のアルファベットや数字からは、そう大したことはわからない。(と思います)
ブースカついでに。胸の大きな女は「頭が悪い」と思い込んでいたり、「男を挑発している」と勘違いしてるような人は. . . 絶滅しちゃってください。それと、可憐な乳房の持ち主にコンプレックスを抱かせるような、脅迫的なモノの売り方も、どうか化石になりますように。
豊胸や減胸の手術などの「美容形成」を否定しません。とくに乳癌の術後、左右の乳房の大きさや固さに差ができてからは、わたし、けっこう支持派です。──カップサイズにしたら一つか二つの違いでも、からだ全体のバランスが変わります。肩こりもひどくなったし、新しい状態に慣れるのには一年ぐらい掛かりました。それに、胸に傷ができたり、アンバランスになるのはやっぱり淋しかった。さほど気に病むタイプでも、決して"胸自慢"だったわけでもないのに、です。
よく、「怪我ややけどの治療や失われたものの復元の形成だけは認める」という人がいるけれど、わたしは、純粋に美容のための形成もありだと思っています。もしもそれで、彼女や彼の不便やスティグマが解消されるなら素敵なこと。からだの傷もこころの傷も、痛いのは変わりないと思うから……。
ただ、標準的な(あるいは、流行の、理想の)体つきや容貌でないと幸せになれない、と思い込んでいる(込まされている)人がいたとしたら、すごく悲しい。それに、たとえ変身がかなったとしても、その先に待っているのは、たいていは「もっと」という言葉で. . . それじゃ、こころの痛みは消えない……。
誰が決めたのか、2月12日は「ブラジャーの日」。
1913年のこの日、アメリカのメアリー・フェルプス・ジェイコブ(Mary Phelps Jacob)が、現代のブラジャーの原型(ハンカチ二枚をピンでつなぎ合わせたもの)を考案したからだとか。(*3) 彼女のブラは、多くの女性の胸を支えながら窮屈で動きにくいコルセットから解放し、社会進出を後押ししたのだそう。
けれど、時代とともにブラジャーの目的もとらえられ方も変わります。
たとえば、
・ 女の魅力を最大限に引き出し、男を魅了する最も便利な武器。
・ 乳房を隠しながら見せつけるという、男のフェティシズムを刺激する装置。コルセットと変わらない。
60年代後半から70年代には、女性解放運動の高まりの中、ブラジャーが捨てたられたり、焼かれたりして、度々ニュースになりました。(*4)
「あなたの胸は、誰のもの?」
ブラジャーをつけないことは、解放を願う女たちの意思の表明でした。
日本でブラジャーが発売になったのは1949年。洋装の流行とともに一般に普及し、次第に身だしなみとして「着けなくてはならないもの」になっていきます。そして、70年代のウーマン・リブの時代には、やはりブラを捨てたり焼いたりする人々が現れました。
それから、さらに三十年。
フェミニズムの波と揺りもどしの波のはざまで、ブラジャーは、男性の目から見た「美」や「エロティシズム」ではなく、女性が自ら楽しむためのアイテムとして進化してきたようです。──でも、こと日本では、ブラジャーが嫌いでも、外出時など無理してつけている人が多いのが現状. . . 。
わたし自身は、ブラのおかげで飛んだり跳ねたりができるので、ブラジャーのことを生理用品や鎮痛剤と同じくらいにありがたい発明品だと思っています。きれいなレース、大好きだし。^^ だけど、もちろん「身だしなみ」としてつけたことは一度もありません。
ブラジャーをしたい人はする、したくない人はしない、そんなゆるい感じになったらいいなと思います。
最近の「おっぱい」の異様とも思える騒がれ方と、2月12日を前にして、
「これからブラジャーはどこへ向かっていくのか…… 」
なんだか、ちょっぴり気になります。
注1) 飲酒量・期間ともに浅い、わたしのような切迫性の(?)アルコール依存症者は、飲まずに過ごしていた日々のことを思い出しやすいです。そのこと一つ取っても、長年飲み続けてきた人たちと較べたら、お酒をやめるのは楽なはず。だのに、日に何度も飲酒欲求がわくなんて. . . アルコールはほんとうに怖いと、近ごろ心の底から思うようになりました。
一説によれば、日本国内のアルコール依存症患者の数は230万人だそう. . . 。
(わたしの「アル症」については、こちらのページ に詳細があります)
注2) 「女っぷり」「男っぷり」を、念のためにと調べてみたら…… ショック。
・男振り: 1. 男としての容貌・風采。特に、堂々とした男らしい顔だちや態度など。
2. 男性としての名誉や面目。=おとこっぷり。
・女振り: 1. 女の顔かたちや姿。女の器量。=おんなっぷり。
なんと「女振り」には 2がありません。 もしかして女に限って、外見だけ、とか?
ここの「女の器量」に "才能や徳" という意味が含まれるのかどうか. . . 。
引用は「大辞林」から。「広辞苑」も似ていて、男振りのほうにだけ「面目」とあります。うー。
注3) 翌1914年、下着メーカーのワーナーがメアリーのブラの特許を買取り、大量生産化。
注4) 1968年、アトランティック・シティで、リブの女性たちが「ブラジャーを焼いた」──これは伝説になっていますが、じつはジャーナリストのでっち上げだったそう。このときは、ブラはごみ箱に捨てただけ。彼女たちが焼いたのは、徴兵カードだったのでした。 〃⌒―⌒〃ゞ