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ぽっかり… 高橋フミコ

『ぽっかり穴のあいた胸で考えた』
(高橋フミコ 著、バジリコ出版) 

― 2006. 3. 19 (mixi3/2)

*  お友だちの "フーサン" が、本を出しました。

 友人の著書や訳書を紹介するのは、なんとなく気恥ずかしいので(+ わたしのせいで本が売れなくなったりしたらヤダ)、「ステキな本」が友人の手になるときにも、たいていは一読者としての感想のみを書くようにしています。でも、今回はちょっと変則♪


◇ 『ぽっかり穴のあいた胸で考えた
  高橋フミコ 著、バジリコ出版、¥1,575 ISBN:4-901784-95-1

 "Love Piece Club" のサイトで、好評連載中のコラム『半社会的おっぱい』(*1)に、多くの書き下ろしを加えてまとめたもの。タイトルの横に小さな文字で、「わたしの乳がん体験記」とあるとおり、「闘病記」「医療ドキュメント」としての読みごたえも十分です。だけど、タイトルと同じ大きさで書かれた、帯のコピーにもぜひ注目してほしい一冊。


乳がんで
解放感を味わう
ワタシって
どうよ?


「どうよ?」っていわれても、どうよ?  かもしれませんが. . . 乳がんになって、やはり、ほんの少しある種の解放感を味わっているわたしとしては、この言葉に惹かれる人が一人でも多いといいなぁ、と思います。ちなみに、コピーの続きは、次のよう……

" 40代、独身、「女であること」にちょっと違和感アリ。
 ピンクリボンキャンペーンにはなじめず。
 そんな著者によるトランスジェンダー的がん闘病エッセイ。"

 そう、フーサンは、「女であること」に "ちょっと" 違和感. . . 。本の中でも、自身を「やや男よりのジェンダーを持っている女」と規定しています。そして、ラブピースクラブでコラムを受け持つぐらいだから、当然、フェミニスト。
 なので、上のコピー、ほんとうなら、" …… そんな著者による、フェミ的・ややトランスジェンダー的、乳がん闘病エッセイ "  かな? (きちんと言おうとすればするほど長くなって、コピーには不向きになるのでした)
 わたしの思うフーサンは、情にあつく、純粋、直情径行、骨太で、しっかり地に足をつけて立っている雰囲気。素敵です。
 そして、彼女とわたしの共通の知人たちは、よく「あなたがた二人は何もかもが正反対だ」と言います。

(似てるところもあるんだけどなぁ. . . )
 わたしだって、ピンクリボンキャンペーンにはなじめないし、興味のないことはできないし、フーサンのパフォーマンスも文章も大好きよ、と抗議してみます。でも、

「フーサンは、常にストレート勝負。やみぃは、いつでも変化球」
 なんて、一蹴されるのが落ち。
(何だって、そんなに対照的に映るんだろう. . . )

 フーサンとの違い. . . ?
 わたしのほうは、「女であること」に、違和感をまったく感じていない。──その差は大きいような気がします。
 もちろん「女のくせに……」とか「オンナって……」などと言われようものなら、跳ね返ります。でも、わたしは、女であることには引っ掛かりがない、というよりも、女であるわたし以外のわたしを想像できません。

 先日も、別の友人から訊かれて、ちょっとパニック。
「この場合に、もしあなたが男だったら、どうすると思う?」
 ときには考えてみなくちゃ、と思ってきたはずのコトなのに、考えても、考えても、
(あり得ない……わからない…… (;>_<;) ビェェン)
 ネコだったら、宇宙人だったら、と訊かれるほうが、まだしも想像ができそう。

 きっと、わたしは、子どものころからずっと「女の子」でしかなかった……。
 オテンバだったし、カエルやヘビの解剖も平ちゃらだったし、思考はいわゆる「女らしい」ものではなかったけれど、嗜好やからだつきは、世に言うところの「女らしい」と悲しいほど合っていたのです。ああ、けっこうなゴチャゴチャ。
 おまけに、恋する相手は、男の人が六割ちょっと、女の人が三割ぐらい、というグラデーションのかかり方(*2)で、さらなるゴチャゴチャ。


 『ぽっかり穴のあいた胸で考えた』を読みながら、この三年ちかく、フーサンのコラムに触発されては考えたあれこれを、ちょっぴり懐かしく思い出します。────




 思想的には、わたしもフェミニスト。(*3)
 でも、フェミニンの代名詞みたいに言われてる。マニキュアや香水の瓶がすごく好きだったりするから。部屋で遊べるものはまだいいけど、ロングのタイトスカートにハイヒールって格好はなぁ. . . 。かつてリブの先輩たちが、ブラジャー (*4) と一緒に捨てたがったモノやコト。女という「記号」や「幻想」……。それでも好き、あえて好き、安心、って、どういうの? もしや、ちょっと窮屈な感じが気持ちいいんだとか?

 その上、性格だってパッシヴで、完璧にアシスト・秘書適任タイプだし。あー。でも、それって「女だから」じゃないと思う。 働かなくて済むなら、あんまり働きたくもなし、事実、サボり魔。やっぱり、長いこと困った家の中で小さなナースみたいな仕事をしてきたせいかしらん? いやいや、そういうのにも向いてたんでしょ、最初から。でも、それだって「女だから」ではないと思う……。

 そういえば、昔、占い師さんが、「前世を何代さかのぼっても、女性しか見えない」とか「高等内侍」とか言ってたなぁ。そのときはジーンズだったのに。タロットのオジサンは、「あなたは"植物"でした」と言ったっけ。
 別に、前世なんかなくていいけど、もしあるとしたら、フーサンは何だったんだろう?
 たとえばフーサンのちょっとの違和感をそっくり裏返したら、わたしのあまりの違和感のなさとリンクするんだろうか? 過剰にフェミニンという状態も、標準値からのズレは相当のはず……。
 エストロゲンやプロゲステロンのしわざも、関係があるんだろうか? 遺伝子に組み込まれた遠い記憶とか?

 まあ、いいや。
 フェミニンなフェミニストって語呂もいいし。わたしも、「地球にはヒト科だけ見ても、多種多様な個体が棲息する」ことのサンプルの一つ。
 そう、ゆっくり考えよう . . .
「好きなものは好き、イヤなものはイヤ」
 という実感だけは、すでに、いつも、この胸にあるから。──





 高橋フミコ著、『ぽっかり穴のあいた胸で考えた』は、きっと書店の健康コーナーによく並んでいる乳がん闘病記とは、ひと味もふた味も違います。

 そのことをお伝えしたくて──つまり、病気でない方にも、女性でない方にも、読んでほしくて──書きはじめたのに、道草ばかり。

 どうかこの一文が、どこかの誰かには通じる「本の紹介」になっていますように. . . 。



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 注
* 1. 「半社会的おっぱい」 by  フーサン♪
http://www.lovepiececlub.com/fusanframeset.html
 "ラブピースクラブ" (女性のためのセックスグッズストア)のコラム欄より。

* 2. おおよその生物学的な男女比です。
 おおよそなのは、たとえば、相手がトランスジェンダーの女性のとき、その人は彼なのか彼女なのか。また、わたしが恋しているのは、異性としての彼なのか同性としての彼女なのか。なかなか結論が出せないから。でも、出す必要、ないですね、きっと. . . ♪

* 3. フェミニズムの定義は難しいけれど、わたし個人は、女性の尊厳の回復をめざすためのコンセプトの一つだと思っています。ひいては男性の尊厳もなのですけれど。「一人の人間が個として、彼女/彼の望むように生きる」──それが実現可能な世界をめざす思想、と言ったらいいでしょうか。
 「尊厳」=たっとく、おごそかで、侵してはならないこと。

* 4. ブラジャーへの熱い想い(?)は、「ブラジャーの日」(06.2/12)をお読みください。



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