HOME > おしゃべりな椅子 > 読書ノート6  『アルヴァとイルヴァ』 〜 『望楼館追想』 ─ Edward Carey ─


アルヴァとイルヴァ (USA)

アルヴァとイルヴァ望楼館追想
(ともに、エドワード・ケアリー 著 / 古屋美登里 訳 / 文藝春秋)
 

― 2005. 5. 29

*  「字が読めてよかった. . . 本が読めてよかった. . . 」

  何をいまさら、ですが、文字や印刷技術を発明した人たち、紙屋さん、インク屋さん. . . みーんなに感謝したくなりました。

 『アルヴァとイルヴァ』〜 『望楼館追想』
  どちらも、風変わりな人々の、無言劇のような、静かで雄弁な物語。
  ミステリータッチな展開といい、細部の描写といい、伏線のめぐらせ方といい. . .華麗なるエドワード・ケアリー。
  でも、私がより好きなのは、たぶん全体の、なにやら妖しい雰囲気のほう。そういう本の感想を話すのは難しくて、にもかかわらず、「好き!」とだけはどうしても言っておきたい. . . そんな二冊です。

  『望楼館追想』が、ケアリーのデビュー作(2000年/邦訳02年)で、『アルヴァとイルヴァ』は、彼の二作目(03年/邦訳04年11月)の小説ですが、私は、『アルヴァとイルヴァ』のほうを先に手にしたので、感想も読んだ順に. . . 。





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『アルヴァとイルヴァ』
日本語版


N   『アルヴァとイルヴァ』


  舞台は、ヨーロッパのどこかの「エントラーラ」という小都市。双子の姉妹、アルヴァとイルヴァは、その町のミニチュアを粘土で作り上げていく。やがて、二人の精巧な模型が、大地震で無残に崩壊したエントラーラの町の住人たちに希望を与えることに. . . 。

  かなりの度合いで悲しい物語のはずなのに、随所でうっとり。思わず吹きだしちゃうようなユーモアに満ちていて、どこかホッとするような明るさもあって. . . 。それに、どのページのどの一行を読んでも、きれいなんです。イメージも、日本語も。
  双子の姉アルヴァの手記(伝記)と、のちにある人物によって、姉妹と町との関わりなどが書かれた文章が入り混じって、本じたいが、エントラーラの町の「ガイドブック」になっているのも、お洒落。

 「あ〜! プラスティック粘土、買ってこなくちゃ!」
 「いつか、エントラーラへ行くんだ。まず、カフェで珈琲を飲んで. . . それから教会へ. . . 郵便局にも 」
  なんて、 いつのまにか私は、ケアリーの術中に、すっかり落ちていました。^^

  未知の領域に憧れる姉アルヴァと、外の世界を恐れ、ひきこもる妹イルヴァ。
 (これほど性格が違っても、双子の姉妹の外見は、他人からは見分けがつかないほど似続けているかな? )
  そうではない一卵性の双子の友人の顔を思い浮かべながら、少しだけ疑問. . . 。だけど、広い世界を夢見るアルヴァと、部屋の中で、ひたすらじっとしていたいイルヴァは、私の中にも、たしかに存在しています。

  アルヴァとイルヴァは、愛し合い反発しあい. . . 二人だけで充足しているようで、でも、やっぱり二人だけでは生きられなくて. . . その感じが、せつないです。
  Alva & Irva . . .  アルヴァのルは L で、イルヴァのルは R なのも、「ああ. . . ! 」な感じ。


  ケアリーが自ら作ったという、愛らしい粘土細工(or 彫像)の写真が、各章に載っていて、そういえば、彼の文章も、思うにまず視覚に訴えるようで、目にも嬉しい。
  ただ、大きな災害に遭われて、PTSD(外傷後ストレス障害)を持つ人の中には、作中の地震や火災のリアルな描写を、つらく感じる人がいるかもしれません。逆に、こうした物語によって、それぞれの耐え難い経験を、実際に起きた「出来事」として受けとめる準備のできる人もいるかもしれません。


  みんなではないとしても、この本は、きっと、誰かの心をなぐさめる. . . 。
  そんなふうに思います。
  アルヴァとイルヴァの模型が、エントラーラの町の人たちをなぐさめたみたいに. . . 。






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『望楼館追想』
日本語版

『望楼館追想』

  主人公の「ぼく」ことフランシスは、年老いた両親とともに、古い邸宅を改装した「望楼館」というコンドミニアムで暮らしている。かつては蝋人形館で働いていたが、今は人形(彫像)になりきるストーリート・パフォーマンスをして日銭を稼いでいる。 なぜか、他人が愛したものを盗んでは蒐集するのが趣味。その手にはつねに白い手袋. . . 。
  望楼館には、汗をかき涙を流している元教師、日がな一日テレビを見て暮らす老婦人、人の言葉を理解せず犬とだけ通じ合う「犬女」など、奇妙な人ばかりが住みついて、ひっそりと生きていた。けれど、ある日、新しい入居者がやってきて……。

  ──どう言ったらいいか. . .  ちょっと、デヴィッド・リンチの異形ものの映画とか、ヴィム・ヴェンダースの『ミリオンダラー・ホテル』なども連想させる、怪奇小説のような恋愛小説のような. . . 、とにかく、すごいんです。
  でもって、単行本の帯も、とってもすごい。

もしあなたが小説好きで、
  1. ひとりでいるのが好き
  2. 体育会系は苦手
  3. 新しい才能を本気で探している
どれかに当てはまるのならば、保証します。
この本を読まない手はありません。


  友だちと一緒にいるのも好きだし、どちらかと言えば「体育会系」(体操、陸上競技 etc.)だし、すでにある才能だけでも全然読めてないしな. . . の私は、この「保証します」というコピーに、少し気後れを感じました。
 (それもあって、二作目の『アルヴァとイルヴァ』を先に読むことにしたのですが. . . )
  でも、読み始めてすぐに反省。

 「ごめんなさい。読まない手はありませんでした」

  帯を作った人の──『望楼館追想』という作品を、ケアリーという新進作家のことを、一人でも多くの人に知ってほしい、という熱を帯びた思いが、今はよくわかります。


  もしかしたら、『望楼館追想』は、人によって好き嫌いの大きく分かれる作品でしょうか。
  私は、もちろん好きで、でも、「この物語には抵抗を感じる」っていう人のことも、好きだな、というような本。
  たぶん、『望楼館…』には、優しく甘いまなざしと、少し残酷な怖い感じが混在しているから. . . 。
  たとえば、テレビが友だちで、現実と虚構の区別がつかなくなっちゃってるクレア・ヒッグの最後は、つらかった。ことさらハッピー・エンディングを望んでいるわけではないけど、「それにしても、あんまりだ〜」と、私は言いたい. . . 。

 「どうして?  彼女くらいは、夢を見たままでもいいじゃない!? 」

  読んでいて、ときどき、唇や目が痛くなるんです。ページをめくる指先がささくれるような気もしました。でも、それも、『望楼館追想』の魅力の一つ。そう、この本を「読まない手はない」と言わせる魅力の. . . 。

  不思議な人ばかりが暮らす「望楼館」。それは、かつて「偽涙館」(Tearsham)と呼ばれた由緒あるお屋敷を、分譲用に改装したもの。で、そんな「望楼館」と「偽涙館」が交互に語られるところが、もう圧巻です。めくるめく、時間のオルターネート. . . 。 それと、巻末につけられた収集品のリストにも、ぞくぞくしちゃいました。


  この作品は、2004年11月に文庫になっていますが、そちらの帯には、

派手ではありません。けれど、
じわじわと本好きたちの心をとらえた
よい小説です。


  私にとっては、『望楼館追想』は、十分に派手で華やか. . .  ですけれど、
  「じわじわ」と「よい小説」というのは、まさにぴったり♪





『アルヴァとイルヴァ』 &  『望楼館追想』

  どちらの作品でも、「家」が重要な役目をしています──「家庭」ではなく、建物としての「家」。(おまけに、どちらにも屋根裏部屋が出てきて、きゃー!  ^^)
  そうした「家」を、シェルターや隠れ家と考える人と、世界から隔絶された、閉ざされた場所と感じる人とでは、読後感も、少し違ってくるかな. . . 。(皆さんの感想を、お聞きしたいです)

  二つを合わせて読んだせいか、私は、ふと、アルンダティ・ロイの『小さきものたちの神』(The God of Small Things) のことも思い出しました。双子が強く惹かれあう感じと、上流の家系の濃くなってしまった血、みたいな話が入り混じって。──世代を経るごとに発症年齢が若年化し重症化する壊れ方とか. . . 。


  二作とも、装画を影山徹さんが、装幀は石崎健太郎さんが担当されていて、『望楼館追想』の表紙、(↑)すごくかっこいいです。カバーを外すと、またしても、「ああ. . . ! 」な仕掛けだったり. . . 。
  『アルヴァとイルヴァ』の表紙も好きですが、海外版(↓)にあるような淡い色のも、旅行のガイドブックぽくって良かったかなぁ?  表紙で買うとしたら、うーん、迷いそう. . . 。
  ともあれ、各国、各出版社のケアリー作品のカバーは、それぞれに雰囲気があって、眺めているだけで楽しくなります。


  まるごと「ケアリー的」と形容したくなるような、独特の幻想世界. . . 。
  『アルヴァとイルヴァ』と、『望楼館追想』、どちらも、読み終えて、25分くらいして、涙がじんわり、あふれてきたのでした。

  ほんとうに、私、字が読めるようになってよかった. . . ♪




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