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『ONE DAY──死ぬまでにやりたい10のこと』

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〜 10 Things to Do Before I Die 〜
ダニエル・エーレンハフト著 / 古屋美登里 訳
おおたうに 装画 /  木庭貴信 装幀 / ポプラ社
¥1,680 ─

 
* 『ONE DAY』

― 2005. 4. 17

    「ぼくの名前はテッド・バーガー。十六歳。兄弟はいない。ニューヨークに住んでいる。
    ぼくは十七歳まで生きられない。……」


  ふと読み始めたら、途中で止められなくなってしまいました。それで、夜中の二時半まで。^^
  ほとんど音読・遅読みの私が、こんなに "早口" で本を読んだのは、スティーヴン・キングの『IT』(イット)以来. . . 。

  ONE DAY. . . 一日。
  内気なギター少年、テッドは、ある日いきなり、「あと24時間しか生きられない」という事態に陥ってしまいます。
  さあ、どうしよう?
  事件あり、恋あり、友情あり. . .  16歳のノンストップ全力疾走、ロックン・ロール♪

  まず、心をひかれたのが、主人公テッドの、「自分のこともぜんぶ笑ってしまおう」的な、自嘲っぽい語り。おかしくて、せつなくて、いじらしいのです。
  友達のマークやニッキとの会話も、いい感じ──
 「その冗談を、これまでにないほど面白いものに、かっこいいものにするんだよ」
 「いいことをするんだから、その埋め合わせとして、悪いこともしなくちゃいけないんだ」
 「私たちは自分たちのパロディを演じていたときもあったのよ。無意識のうちにね」

  部分的にせよ「死」を扱った作品は(「そうね」と肯けるものが少ないせいで)、私には鬼門になることが多いのですが、テッドの反応には共感ができました──良くできた医療ドラマ(『ER/緊急救命室』とか)のシーンを見ているような、既視感。これは、きっと古屋美登里さんの端正な翻訳によるところも大きいんだろうと思います。

  疾走感があって、思春期の子どもたちのチクチクする感じがよく出ている、魅力的な一冊です。
  ── ぜひ、「中学校」の図書室にも♪
  でも、もしかすると、
1) 「セックス」や「お酒」、「ゲロ」や「うんこ」、その他もろもろの言葉だけで、眉をひそめる人がいるかしら?
2) それとも、せっかく「やんちゃ」をするのに倫理観が前面に出すぎ、と残念がる人のほうが多いかな?
3) 批評家によっては、小説の作りが甘い、展開やエンディングは「予想内」である、と指摘するかも. . .
  なんてことも思いました。
  実は、私には、3の「予想内」と言われかねない展開が、予想外だったのですが。──オシャレな会話や、繊細な心理描写に、さぞかし周到かと思いきや、ところどころ「マヌケ」でハチャメチャだったりするのです。どこか、ちょっと無防備な感じ. . . 。





  ダニエル・エーレンハフト ─ Daniel Ehrenhaft
  邦訳は、この『ONE DAY』が初めてですが、本国アメリカでは、共著も含めると、すでに20冊以上の作品を発表しているそうです。2003年には、Daniel Parkerの筆名で書いた"The Wessex Papers"で、MWA賞(エドガー・アラン・ポー賞)のYA部門、最優秀小説賞も。


  どれどれ?  と、Amazon.comBarnes & Noble.com を覗いてみて、ビックリ。
  米国のオンライン書店では、本の販売ページに、図書新聞や雑誌に載ったレビューが転載されていることがあって、たいていはそれが作品紹介と推薦文をかねています。が、エーレンハフト作品に対しては、かなり手厳しい評が少なくなかったのです。〈* 1〉
  もちろん、書評する価値があると認めた上でのものでしょうが、いわく、プロットが弱い、ドタバタして支離滅裂、意外性がない、通俗的、派手なソープオペラ(メロドラマ)等々。中には、「代わりにジェリー・スピネッリやクリス・クラッチャーの作品を薦める」といった文章まで. . . 。
  でも、読者、とくに若い読者の感想は、専門家の評とは正反対。そのほとんどが、エーレンハフト熱烈支持です。
 「今まで読んだ本の中で一番おもしろかった」
 「何度も読んで、そのたびに泣いちゃいました」
 「終章は、テッドの夢ではなく、現実でありますように」
 「この本の続編が読みたい」……

  私は、しばらくボーッとしてしまいました。
  文学の専門家の評価と、読者の人気投票の結果とは、往々にして相容れないものだったりするけれど. . .
  それにしても、この極端な温度差って. . . ?

  私は書評を読むのが好きです。いろんな見解なり感じ方なりに触れることは、とても楽しいから。
  とげとげしい評でも、ひたすら「売らんかな」のコメントよりはましかと思います。(子どもや若者におもねるだけの大人も、その存在を市場としてしか考えない人たちも嫌いだし. . . )  でも、子どもたちの活字離れ(aliteracy)を嘆きながら、彼らが受け入れている本のことを、簡単に「通俗的」と断じるような批評家はイヤだなぁ. . . 。

  あーん。終われなくなっちゃいました。^^
  予定では、「塾や部活動で忙しいティーンエイジャーにも、"今どきの子どもが理解できない"と戸惑っている大人にも、読んでほしい」とだけ書くつもりだったのですが. . . 。

  たとえば、エーレンハフト作品が「ちょっと支離滅裂」で「メロドラマチック」だとして、「エーレンハフト大好き」というアメリカの読者たちは、「だから、好き」なのか、それとも、「だけど、好き」なのでしょうか?  

  もう少し、感想を続けたいと思います。




* ONE DAY - 2


  最初のほうで、少年少女たちの「チクチクする感じがよく出てい」ると書きました。このチクチクは、思春期の彼らが抱えがちな、孤独感、焦燥、未来への不安、理解されることや親密さへの渇望、無力感、自己中心性. . . などを合わせたようなもの。
  と、並べていくと、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』や、尾崎豊の歌を連想される方もいるかもしれません。でも、そういう「青春」とはずいぶん違います。この本の中の16歳たちは、さほど激しくないんです。一見協調性が高く、とても醒めた感じ。クール(かっこいい)がすべて。もちろん閉塞感とか、一つ一つは確かに存在しているのですが、当の本人たちがあんまり自覚していない、とでもいうか……。

  とくに、主人公のテッド・バーガーは、自分のことを「情けない」と思い、それがイヤなのに変われずにいます。失敗したら「かっこ悪い」から、試してみない。摩擦や衝突をきらって、友達とのケンカはもちろん、親に「反抗」さえしません。(両親とも、相当に困った親なのに. . . ! ) ほんの少し斜に構えるだけ。実際には「やり過ごす」なんてできてないのに、すべてを愛想笑いやジョークにして、流したつもりになっちゃう。世の中、そんなもんだよね、と。
  でも、内には、感じやすい心もパッションも秘めているから、ずっと「つもり」を続けるのは、無理で . . . 。

  作者は、そんなテッドに、「あと一日しか生きられない」という深刻をつきつけて、生きることの意味を模索させます。それでいて、物語はあくまでも愉快に、ゴキゲンに、と決めているみたい。その重くて軽い感じが、おもしろい。

  もう一つ、興味深かったのは、おそらくはユダヤ系だろう主人公、テッドの描かれ方です。
  背景にシナゴーグやラビといった言葉が何度か出てくるのですが、そこに強いメッセージ性はありません。宗教観も、ホロコーストも何もなくて、「たまたまユダヤ教徒の家庭に生まれたんだよね」というニュアンス。
  ユダヤ教徒の数はアメリカの全人口の3%にも満たないそうなので、テッドは少数派には違いないのですが、彼の悩みや葛藤は、そのことによって生じているわけではない、からなのでしょう。
 「いろいろ話しているうちに、自然に話題に上った」感じが、爽やかです。── これも、掘り下げが甘いと見なす人が出てくるのかな? . . .  でも、私は好きです。


  二度目を(ゆっくり)読み終えて、ふと思いました。
  もしかしたら、ダニエル・エーレンハフトは、批評家たちにあれこれ指摘されるだろうことは、承知の上で、あえてハチャメチャをしているのかもしれない──物語がタイトになりすぎないように。本全体が、16歳になるように。
  そう考えると、なんとなく抜けて感じられた箇所も、
 「いくらなんでも、出来すぎじゃん?」
 「二人そろって、携帯、家に置いてくるか〜?」
  なんて言いながら、若い読者が「物語」にコミットするのに、ちょうどいい間(マ)だという気もしてきます。
  主人公たちを(あるいは作者をも)等身大に感じつつ、同族嫌悪みたいな感情は抱かずにすむような、微妙なゆるさ. . . とか。
  それとも、エーレンハフト、根っからハチャメチャな人なんだったりして!?  


  私は、スティーヴン・キングのことを、長いあいだ密かに、「ライ麦畑のキャッチャー」と呼んできたのですが、その基準でいくと、エーレンハフトも、キャッチャーの一人かもしれません。 彼は、子どもたちが崖のふちから墜落せずにすむことを、とても直接的に、強く願っているようなのです。みんな、無事に、軟着陸してほしいと. . . 。


  エーレンハフトの本が、日本でどんな読まれ方をするのか、少し心配で、すごく楽しみです。
  『ONE DAY 』が、この本を必要とする人、気に入るだろう人たちのもとに、どうか届きますように。
  できたら、一番必要なときに. . . 。


  私は、彼のほかの作品も、読んでみたいなぁ。(ポプラ社 さん、よろしくお願いします♪)
  とくに気になっているのが、 "Tell it to Naomi" という物語。15歳の少年が、「ナオミ」という姉の名前を借りて、学校新聞のコラムを書くのだとか。少年が少女になる──設定からして、おもしろそう。
  そして、できたら次も、ぜひ古屋美登里さんの翻訳で. . . 。〈*2〉








*  1.  米アマゾンのEditorial Reviews の下のほうに原書のプロローグの部分が掲載されています。英語のお好きな方はどうぞ♪ (05. 4./17 現在)

* 2.  『ONE DAY』を読みながら、つい想像してしまいました。古屋美登里さんが、カニグズバーグを訳されたらどんなだろうか、と。 『ONE DAY』、それくらい、自然で生き生きした日本語だったのです。
  ── テッド、マーク、ニッキ、レイチェル. . . 一人一人の声が聴こえてきそう。みんなが集まると、ガヤガヤしていて、でも猥雑ではなくて. . . 。
  それで、嬉しくなって、今、エドワード・ケアリーの『アルヴァとイルヴァ』(やはり古屋さんの翻訳)を読んでいます。あ〜、素敵。粘土細工したい。 こちらの感想も、いつか. . . 。


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* 10 Things to Do Before I Die ─ (テッドのリスト)

1) Lose my virginity ─ 初体験をすます
2) Apologize to Rachel
3) Get back at Biff
4) Jam and party with Shakes the Clown
5) Laugh in death's face
6) Go to Africa
7) Rob a bank
8) Tell Mark to screw himself
9) Find out why Grandpa and Dad don't talk
10) Tell the truth



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