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コンピュータのきもち 山形 浩生 著 (アスキー・ 1,575円) ― 2003. 1. 31 記
< 新教養としてのパソコン入門 > という副題がついている。
コンピュータの歴史や用語をはじめ、コンピュータというものの概念がよくわかって、楽しい。
「わたしみたいな初心者には、説明やジョークのところどころは難しい. . . 。でも、わからない言葉は調べれば済む。
この本、『どうせ理解できないでしょ』ってハナから見下すところがないの、さわやかで嬉しいな。」
なんて思っていたら、「あとがき」にちゃんと、
" それなりの深さと正確さを持って、コンピュータの本質にそれなりに迫って読者をバカにせず、一方で理解しやすくて、わかんないところでも、少なくとも読んでおもしろい " ―― そうしたものを書くことが著者の希望とあった。
山形さんの望み通りの一冊になっていると思う。
私は、コンピュータとつきあいはじめて3年。なんとか使えているのは、ワープロとEメール、音楽やお絵描きのソフトウェアくらいで、あとは知らない。それでも、私はコンピュータが好きで、相性も悪くないような気がしている。
じつは、「コンピュータとはつきあえない」と、ずっと思っていた。 "数というもの" がわかからない(ついでに時間や空間の感じ方もズレている)私には、どうあがいたって無理よね、とあきらめていた。
だけど、実際に触ってみたら、楽しくてビックリ。まったく飽きなくて、時間がたりないくらい。
「あらら? ? 算数が苦手でも関係ないの? 」
目からウロコだった。
この本を読んで、そのワケが納得できた。
人間の世界でズレていると、別の立場=機械の側 に立つことに、それほど難儀しない。それに、どうやら、私には、山形さんのいうところの「コンピュータおたく」の傾向がちょっと。あるいは、コンピュータと私はちょっと似ている、ということなのらしい。 そういえば、コンピュータ用語で自分のことを説明すると、違和感のないことがけっこう多い。(擬人法ならぬ擬PC法. . . ^^)
ファイルと階層化フォルダについての説明が、とてもわかりやすかった。
「コンピュータにとって、人間というのはソフトウェアの一種」という考え方も、楽しい。―― 人間というソフトウェアが変な動きばかりをするので、コンピュータは、その扱いにとまどってしまう。それで、みんなでユーザグループを作り、人間ソフトの使い方について情報交換をするんだけど、その時のコンピュータたちの会話が、ユーモラスなんだな。
ときには、こんな視点でいろんな関係を眺めてみることも大事、だと教わった気がする。
全編を通して、興味深いけれど、中でも「番外編」のコピーと知的財産のことは、ほんとうに素敵だ。
" 知的財産は人類全体の財産。"
" ぼくの知っていることをあなたに教えても、ぼくの知識は減らない。"
" その知識を知っている人が多ければ多いほど、生産できるものは増える。"
私は山形さんのことを「プロジェクト杉田玄白」という、外国の著作権の切れた文章などを翻訳し、フリーで公開しているサイトで知ったのだけれど、ほんとうにそのプロジェクトの主催者らしい言葉だと思う。
はじめて、山形さんによる『不思議の国のアリス 』の翻訳をWeb上で見つけたときには、「うわぁ、こんなに気前がいいのってあり? 」と、目を疑ってしまったほどだったもの。
じつは、この本の中味も、雑誌に連載していた部分は、山形さんのサイトで読める。発売中の本のテキストまで公開しちゃうなんて. . . 。
でも、本の方には、図や写真もいっぱいで、詳しい注釈は辞典のようだし、マスコットのような挿し絵の子犬も可愛いし、何よりも、素敵な「番外編」があるしするので、私みたいに「本」として持っていたい人も多いんだろう。
だからきっと大丈夫なんだろうな。
こんなふうに、言うことと行いとがキチンと一致している人というのは、なんて気持ちがいいんだろう。
私も、著作権を拡大解釈してこの世界が窮屈になるのは悲しいから、せめて自分で書いたり描いたりしたものくらい「ご自由にどうぞ」を続けていこうと思う。註 1
できたらコンピュータと付きあい始めたころに読みたかった。それくらい、コンピュータのことが愛おしくなる本なのだった。
おまけ:
私の取り扱いに困っている人に、この本を届けてマニュアルとして読んでもらう、というのはどうかな? と考えました。マジメに。 ―― きっと役に立つと思うんです。
- 註 1 -
WWW上にあって、ロボット検索できて、誰にでも見えちゃうリソースなのに、「無断リンク禁止」とうたっているサイトって不思議だよな、わからん . . 。
などと思いながら、調べものをしていたら、また「無断リンク」の文字。
「え? こんなにいい感じのページなのに、がっかり. . . 。」
もう一度、よく見ると、「無断リンク奨励」と書いてあったのでした♪ ―― めでたし、めでたし。