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* 人はなぜ「美しい」がわかるのか 橋本 治 著 (ちくま新書・798円)― 2003. 1. 31 記
PART 1
PART 2

PART 1 

  「美しい」と感じることが、私には大切、というより、「ほとんどすべて」のような気がしているので、 ―― 星占いにも、 For you " Beauty is truth, truth beauty, -- "  なんて、ジョン・キーツの詩が引用されているし^^ ―― この本のタイトルを見た時、「あ、橋本さん、書いてくれたんだ ! 」と思いました。

  もちろんそれは、「私のために」ということじゃなくて。少し変わったタイトルだったから、「美」についてではなく「美しい」と感じる心のありようのことを書いた本なんだろうと思い、それなら私に打ってつけ、と予感した、という意味ですけれど。

  案の定、とても素敵な本でした。

  美しいものやコトに出逢って、「美しい」と思わずにいられないのは何故なのか、「美しい」と感じるその心は一体どこから生まれるのか、そうしたことが丁寧に、ほんとうに丁寧に描かれています。

  帯やカバーに
  "最もシンプルな哲学書"、"「美」をめぐる人生論"
  とあるのだけれど、こう書くと本って売れるのかしら?  
  確かに、きわめて哲学的で、優れた文化論でもあって、生きていくということに立ち向かう勇気を与えてくれる。でも、なんだか、もう少し違った言葉の方がふさわしい気がするけれど. . . 。

  様々なこと(黄金分割や、ゴキブリ、一本グソ=うんち、『徒然草』と『枕草子』、恋、夕焼け、ドクダミなど)に言及しながら、軽やかに踊るように進んでいく橋本さんの論理は、やっぱりとてもカッコいい。

「人は知りませんが、少なくとも私はそうです。」
  というような愉快な表現が、随所にあるのも嬉しいし。

  第3章の "台風を「美しい」と思ってしまう人間の立つポジション" や、デザートのようなあとがき(実は、あとがきのようなおまけ)は、客観的な立ち方がみごとで、ちょっぴり切なくて、もうため息をつくしかありません。ふう。

  そして、この本全体に、存在する一切のものへの愛というか、慈しみのようなものが、ニヒルに、優しい通奏低音のように流れている。(と思います)


 (あれ? . . . あれ? . . . また?)
  読みながら、個人的な理由で、しばしば驚き、少しうろたえました。文中で取り上げられる事象やエピソードが、私にも馴染みのあることばかりだったから。
  たとえば、私も小さな頃から、夕焼けや嵐やドクダミの花を見て、著者と同じように感じてきたのです。「夕焼けを美しいと思う資格」だなんて、もう、そのまんま. . . 。
  橋本さんの言葉が、私の実感も「あり」なんだ、ということをいちいち裏打してくれるようで、―― 嬉しくてか哀しくてか(たぶん嬉しい方が8:2で多くて) ―― 何度も涙ぐんでしまいました。

  子どものころ、治少年が近所にいてくれたら、けっこう仲良しになれたかもしれません。私も、一人で空ばかり見ていたから。

「あの雲って、きれいだね」
「うん」


  これからも、「はぁ. . . なんてきれい(ぼーぜん)」という時を、積み重ねて生きよう、などなど、思わせてくれる「美しい」本でした。

  Beauty is truth, and truth is beauty. . .
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どくだみの花


― 人はなぜ「美しい」がわかるのか ― を読んで。

PART2


  これから読む人のために、あまり引用や種明かしをするのはいけないと思うけれど、一つだけ。

  " (ゴキブリは) ゴキブリの基準に従って合理的な機能美を有している― であるならば、「ゴキブリの立場」を理解しなければ、その「美しさ」は訪れない。" ・・・略・・・
  " ゴキブリに「美」を発見するのは、「思いやり」なんかではなくて、「敵ながら天晴れ」に近いものでしょう。それはなんなのかと言えば、もちろん「他者に対する敬意」というものです。"

  ちょっと身につまされました。かつてある人と、ゴキブリがきっかけで別れたことを思い出して。(笑)

  そう. . . 。昔々、好きだった人が、ゴキブリをスリッパで叩いた瞬間、「あ、この人とは続かないんだろうな. . . 。」と思いました。めちゃめちゃ好きな人だったので、自分の直感をどうにかして否定しようとしたのだけれど、やはりその人とは上手くいきませんでした。

  友人にもゴキブリを嫌いな人は多いし、決して「好き嫌いはいけない」なんて思ってはいません。たとえば、母親がゴキブリをひどく怖がって悲鳴をあげたら、その感覚は子どもに伝わるだろうし、そのままゴキブリを見直す機会に恵まれずに大人になる人がいて当然だと思います。

  蚊のように人を刺すこともないのに、ゴキブリがこれほど嫌がられるのは、「か弱さ」不足のためかもしれません。逃げ足の速さも、殺虫剤に対する抵抗力も、その繁殖能力も、何もかもがしぶとそうで、事実、希少価値も低いし。形や光沢だって、どこか原始的だし、ああいう風体は、一般には魅力的とは言わないんだろう、と思います。
  だから、ゴキブリが好かれない理由はよく分かるんです。私だって彼らのことを、ことさらに好きなわけではないし。──「カブト虫とゴキブリとどちらかあげる」と言われたら、100%カブト虫を選ぶもの。だけど. . .


  たぶん私は、恋人がゴキブリを叩くときの、「ためらい」のなさが、気に掛かったんだろうと、今頃になって思います。何の躊躇もなく条件反射のように動く感じがダメだった. . . 。

  その時の私は、橋本さんのように " 他者を「他者であるという理由」だけで差別するな" と、クリアに考えた訳では、もちろんありません。繊細で心優しい人たちには、"多数派に対して風変わりなものや、虐げられたものを愛さずにいられない" 傾向を持つ人が多いけれど、そういう感覚とも少し違っていたと思います。アンフェアだとか、可哀想だという気持ちとも違って. . . 。

  そう。憐れみや思いやりじゃない。
  たぶんもっと切実に、「ゴキブリ=わたし」でした。
  だから、「嫌ってもいいけど、ムゲに叩かないでよ」なんて思ったのであって。
  そうした共感のことを、どう表現したらいいか分からないけれど. . . 。(フリーク、相憐れむ、とか?)


  今、私は、「自分とゴキブリが等しい」とは感じていません。
  でも、時々は、「蛾(ガ)と蝶(チョウ)の違いは何だろう ?」と、ぼんやり考えたりはします。
  「そう簡単に退治なんかされないぞ」なんても思っていたりします。
  だから、やっぱり、カラフルでのんきなゴキブリなのかも知れない。

  昔々、好きだった人は、今頃どうしているだろう。
  幸せに暮らしているといいな. . . 。



  橋本治いわく、「世界は美しさに満ち満ちている. . . 」
  So true. . .  そう思います。
  ほんとうの「美しい」がわかる人でありたい. . . 。




追: 実はゴキブリも、けっこう人間の役に立っているらしい。 わーい♪
詳しくは、昆虫科学館 ゴキブリ列伝 の「ゴキブリの功罪」をご覧ください。

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