−私的サイボーグ009−

Seit ich geboren bin, habe ich gesehen,
wie die getötet werden, die ich liebe.
Alle sind tot, alle.
Mit den allen bin ich selbst auch gestorben.
Ich bin schon hundertmal gestorben.
Nun bin ich ganz leer...
Nichts ist mehr übriggeblieben!
Tag für Tag kämpfe ich, um zu leben...
Wozu?


『地底帝国ヨミ編』−閉じられた孤独と開かれた空虚

この名作について私が言えることなどほとんどないのですが、004の二つの科白について 感じていることを書こうと思います。

私は、彼に「今後の恋愛論」はいらないのではないかと思う。
彼女を弔うこともできなかった彼は、その両腕に「血まみれの」彼女の亡骸を抱いたままでいるのではないでしょうか。
その腕に、現身の女の入り込む余地はありません。

愛する者の酷い死の記憶を、人は「昇華」することはできない。
美しい思い出すらも汚れてしまう。
それはその人の存在そのものを食いつくし蝕み、決して再び埋めることの出来ない欠落を生ぜしめるのです。
本当に失うのは、きっと自分自身の存在のための基盤なのです。
今まで当たり前に立っていた地面が崩れて落ち、何一つとして以前のままに留まりはしません。
血の雨は降り続ける、どこを歩いていても、いつもついて来る。
誰と笑っていても誰と眠っていても。
降り続けていつか身体を冷やしてしまう。
進む道をぬかるませ踏み出す足を絡めとってしまう。

あの機械の腕は、「今ここに、そしてこれからも存在する何か」に対して伸ばすべき腕の絶対的な欠落、喪失の象徴でもあるのではないでしょうか。
その腕を放して亡骸を埋め、彼に何を見ろというのだろう。
(ってこれも恋愛論だが(^_^;)

彼にはどうも「分断」のイメージが付きまとうように思える。
祖国の分断に愛するものを奪われ、血の通った身体を断たれもぎ取られて、容易に死ぬことのならぬ身体に死すべき者の心を抱え、 痛みに身を捩りながら、自分の中の間隙に時々足を取られているように見える。
「オレ自身のために闘い続けなければいけない」そう言った彼に、少女は何も言えなかった。一言も声をかけてあげることすらできずただ涙を流すしかできなかった。
これは、一つの痛ましい存在についての告白であり、絶望の言葉だと私には思えます。
恐ろしい欠落を抱えたまま、光のない闇の中を、走り続けるしかない。
その絶対の孤独、孤絶には誰も手を触れることなどできないのです。おそらく彼自身も。
その鉄の鎧を開いて出てゆくことはできない。その中で彼の心がどんなに血を流そうとも、その傷に手を当てて 押さえてあげることもできない。その存在の物凄い痛み。
この孤独と絶望は閉じられているように見えます。

ところが彼の宿命は全く同じように繰り返される。
彼がどうしようもなく、近づいていった暖かい存在は、あの恋人と全く同じように、目の前で 血に染まって倒れてしまう。その少女を腕に抱いたとき、彼の中で二人は似姿になったのではないでしょうか。
だた違うのは、彼が少女の仇を討つことがで来たこと、そして弔うことができた、ということです。彼が望んだ弔いでした。
葬る儀式は亡くなった人のためというよりもむしろ、生きて残された者のためにあるものだと思うのですが、 あの人を弔うことができず、腕に抱いたまま、でいる彼にとって、これはこの時絶対に必要なことだったのではないでしょうか?

そして最後、愛するものが死んでゆくのをなすすべもなく、泣いているしかないひとりの少女に彼は自分の胸を開きます。
ただその胸の空洞を開いて見せる。繰り返される死に、何も残っていない、虚無。

それは励ますようなことばでも、なだめる言葉でも、慰めの言葉ですらもなかった。
彼は彼女のその抱え切れない思いを容れる器になったのだ。 ただ、痛みを受け止める空っぽの器に。


私もまた、死について、行き場の無い思いを抱えていた。
突然出会った言葉。

彼の胸に吸い込まれて、
私はその砂の上に座っている。

(2000年3月記)

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