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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第13話 進み行く先、路の彼方 その2

 翌日午前。エミの家の近くの公園、その片隅。

 最後となるであろうクモイ流護身術の稽古が開かれていた。
 これまで教わった護身術のおさらいをしていたエミとユミ、それにクモイ・タイチと組み手をしているシロウ。
「――!? ……待て!!」
「どぉわっ!?」
 それまでシロウと激しい組み手をしていたクモイ・タイチが、不意にシロウを合気投げで投げ飛ばし、ジャージ姿のエミとユミの間に割り込んだ。ほぼ同時に両者が突き出していた拳と蹴りを、それぞれ左右の手で受け止める。
「し、師匠!?」
「クモイさん!?」
「っつぁ〜……なんだ、いきなり!」
 口々に驚きやら不満の声を上げる弟子たち三人を、クモイ・タイチは鋭い目つきで睨み返した。
「今日の稽古は、やめだ」
 唐突な宣言に戸惑う一同。
「お前たちが揃いも揃ってそのざまではな」
「そのざまってなんだよ」
 投げ飛ばされたシロウが立ち上がり、尻をはたきながら近づいてくる。女子高生二人も顔を見合わせて小首を傾げる。
 クモイ・タイチはシロウが二人に並ぶのを待ちながら、腕を組んだ。
「一意専心」
 その言葉に、ユミだけがきゅっと唇を引き結んだ。
 エミとシロウは小首を傾げる。
「一つの物事に意識と心を集中させる、という意味だ。……アキヤマ、チカヨシ」
 名指しされたジャージ姿の二人は、びっと背筋を伸ばす。
「今、お前たちはお互いに自分ばかりを見て、相手を見ていない」
 思い当たる節があるのだろう。たちまち二人の視線が泳ぐ。
 クモイ・タイチはため息をついた。 
「中途半端な気持ちや覚悟で拳を振るうなと教えてきたはずだ。向き合った相手を見ないで振るう力は、必ず自分と相手に思わぬ怪我を負わせる。自省は大事だが、拳を握る今この時は脇に置け。――次にオオクマ」
 睨まれたシロウは、こちらも思い当たる節があるのか露骨にさっと目をそらす。
「二人ほどではないが……お前も動きにキレがない。だから今も俺の投げを簡単に食らった。お前も一緒だ。戦う時に、関係ないことで意識を揺らすな。集中しろ」
「ちょっと待ってくれ、クモイ」
 珍しく口を挟んだシロウに、クモイ・タイチは顔をしかめた。
「なんだ」
「いや……俺はともかく、始める前に話した通り、二人は今――」
「それがどうした」
 シロウの言葉を途中でぶった切り、女子高生二人をじろりと見やる。
「どんな悩みがあろうと、そんなものは今この時には関係ない」
「おいおい、そんな言い方は……」
「指が目を突いてからでは遅いんだよ、オオクマ」
 見やるだけで人を制する鋭い眼光がシロウを射抜く。
「受身を取り損ねれば首が折れる。腹にまともに蹴りを受ければ内臓が潰れる。よたついて倒れ込んだ先にあった尖ったものや硬いもので頭を割る――武術や格闘技ってのは、どこにでも死の影が突いて回る。たとえ寸止めと取り決めていても、だ」
「……………………」
「まして、護身術として学んでいるのに、身体を壊したり、あまつさえ命に関わるような事故が起きるようでは本末転倒。ゆえに、稽古であっても、一瞬たりとも気を抜くことは許されん。向かい合うお互いの身体と命を守るためにな。悩みだとかの精神的理由であれ、怪我だの疲労だのの身体的な理由であれ、それが出来ないなら、今は拳を握るべき時ではないということだ」
 一度言葉を切り、大きく吐息を漏らす。
「そして、これが一番大事なことだが……いいか。なにを悩んでいようと、どんな体調であろうと、どんな状況であろうと――襲ってくる奴らは一切気にはしない」
 二人の表情に、一瞬怯えが走ったのはいつぞやのツルク星人の件(※第3話)を思い出してか、それともクモイ・タイチの威圧に気圧されてか。
「お前たちに護身術を教え始めてまだ半年。特にチカヨシ、アキヤマの二人は本当にほんの少しかじった程度だ。それで暴力に立ち向かおうなどとは考えない方がいい。心得がある相手には通用しないし、ない相手にはむしろ怪我をさせかねん。痛みや脅しでは心が竦まなくなった、それだけがこの半年で得たものだと思え」
「はい……最初から、そういう話でしたもんね」
 少し寂しげにはにかんで、頷くエミ。ユミも神妙な顔で頷いている。
 そんな二人の様子に、クモイ・タイチの表情がふと緩む。仕方ない奴らだ、と言いたげに一息つく。
「だが……それでも教えたことを使わなければならない事態に陥った時は、一意専心、この言葉を思い出せ。戦いの最中に余計なことを考えるな。必要なことだけを考えろ。悩むのは、危機を乗り越えたあとでいくらでも好きなだけやればいい」
 頷く二人。
 クモイ・タイチも頷き返す。
「では、これにてクモイ流護身術の稽古は――」
「クモイ師匠」
 珍しく、クモイ・タイチの言葉を遮ってエミが手を上げた。
「あたし、少し頭を冷やしてきます。走ってきて、いいでしょうか」
「……………………」
 クモイ・タイチの心の内を見透かすような眼差しが、エミを見据える。
「……そうだな。ちょっと行って来い」
「失礼します」
 頭を下げて、その場を離れてゆくエミ。
 その背中を見送るシロウとユミだったが、すぐにクモイ・タイチの矛先は二人に戻った。
「アキヤマはどうする。ついて行かないのか」
 少し含むところのある言い方だったが、ユミは首を振った。
「……私は、もう……」
「クモイ、聞いてくれ。ユミは――」
「わかっている」
 怪訝な顔つきになる二人をよそに、クモイ・タイチのはエミの消えた公園の入り口をちらりと見やる。
「チカヨシのあれは焦りだ。悩んでいるように見えて、アキヤマと同じではない。勝たなければならない戦いを前に、しかし過去の敗北からどこまでやればいいのか、わからなくなっている、といったところか。だが……運がいいというのか、なんと言うのか」
 意味不明のクモイ・タイチの溜め息。その口元には微笑が浮かんでいた。
「今のあいつにうってつけの相談相手がもうすぐ来る。チカヨシはそっちに任せるとしよう。お前たちの話は俺が聞いてやる。……とはいえ……高卒の俺ごときがアキヤマの進路相談に乗れるかどうか、怪しいもんだがな」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 公園を出て、歩道を走り始める。
 歩を進めるごとに、ポニーテールが大きく揺れる。
 彼女の知らぬところでクモイ・タイチが口にしたように、エミは焦っていた。
 今度の夏は負けることが許されない。負けたが最後、来年はもうない。
 勝てるようにがんばる、では足りない。必ず勝たなければならないのだ。
 自分のために。水泳部のみんなのために。応援してくれる人たちのために。そして、部活を無駄と言い切った、あの進路指導のクソ教師の鼻を明かしてやるために。


 発端は今月初めの進路指導だった。
 いまだに進路についてはっきりさせないエミに対し、進路指導が諮られ、進路指導室に呼び出されたのだ。
 その席で、エミは今年の夏にかける熱い思いを進路指導の男性教師にぶつけ、それが終わるまでは進路のことなど考えられない、と訴えた。しかし、教師から帰ってきたのはあまりにも冷たい言葉だった。
『部長になって張り切る気持ちはわかるけどね、チカヨシさん? 君も、水泳部も、去年もその前も都大会には出られなかったわけでしょ? 実績がない部活でがんばると言われてもね』
『そもそも、これまで地区大会すら突破できなかった君達が、たまたま今年運良く突破できたとしてもさ。更なる実力者揃いの都大会で勝ち抜けるわけないじゃない。うちの学校のプール、屋内式ですらないからねぇ。ハンデありすぎでしょ。無理無理。時間も労力も無駄』
『ああいうのは全国大会で表彰台に登るぐらいでないと、進学にも就職にも意味がないしね。今の君の成績じゃあ行ける大学なんてないし……やっぱりここは、そんな報われない遊びにかまけるより地道に勉強して成績を上げなきゃ、君、将来が見通せないよ?』
 頭が沸騰しそうになるのをどうにかこうにか我慢して、エミは答えた。
「大学には行きません。どこかの実業団なり、プールのあるスポーツジムやスポーツセンターに入って、水泳を続けたいです。今、私に言えるのはそれだけです」
『落ち着きなさいって、チカヨシさん。今は頭に血が昇ってそう思ってるかもしれないけど、将来絶対それは後悔するから。少しでもいい大学へ入れば、就職先だって選択肢が広がるんだよ?』
「へ、へええ……私の将来の後悔がわかるなんて、先生はエスパーか何かですか?」
 怒りに震える頬を必死で押しとどめつつ、嫌味を返す。しかし、通じなかった。
『エスパーじゃないけど、進路指導だからね。先生の役割は、生徒がより良い進路を選んで良い人生を送ってくれるにはどうしたらいいか、考えることだから』
「大学に行かないと、良い人生は送れませんか」
『当たり前じゃない。今は大学全入時代とまで言われてるんだよ? 行けないのは――周回遅れみたいなもの? 第一、オリンピックの選手を目指して実績を積んできたわけでもない貴女の水泳競技なんて、社会に出たら通用するわけないんだから。そうそう、それに大学へ行けば水泳を続け――』
 もう我慢の限界だった。
 クモイ・タイチ直伝の拳を机に叩きつけ、目を丸くしている進路指導の教師を殺意さえ満ちた目で睨みつけて、エミは叫んだ。
「ゴシドウアリガトウゴザイマシタ! とりあえず、先生の指導は全くなんの指針にもならないということがわかりました。二度とここへ来る気はないので、もう呼び出さないで下さい。先生が心配してくれてる私の人生、そんなに暇じゃないんで」
『ちょっと、チカヨシさん! 僕は君のためを思って言ってやってるんだよ!』
 立ち上がったエミは、自分のカバンを引っつかみ、そのまま無言で進路指導室を後にした。


 あたしの全部を否定した先生に、今さら改心など求めてはいない。
 元々今年の夏こそ勝つつもりだったんだから、退くに退けなくなったからといってなにが変わるわけでもない。
 今考えるべきことは、勝つためになにをするかだ。
 黙々と走り続ける。
「――あれー? エミちゃん、だよね?」
 不意に声をかけられ、我に返る。
 足を止めると、目の前にパーカーとジーンズ姿の女性がいた。ショートヘアの活発そうな――
「リョーコさん!?」
 CREW・GUYSの制服以外の姿を見るのは初めてなので、そうだと認識するまでにタイムラグがあった。
「やっほー。おひさだね、エミちゃん」
「お久しぶりです、リョーコさん。その節はお世話になりました」
 会釈をするエミ。
 相変わらず軽快なノリで手を振りながら近づいてきたヤマシロ・リョウコは、ふとエミの顔を覗き込んだ。
「んん〜?」
「な、なにか……?」
「なんだか元気がない」
 ずばっと指摘され、エミは怯んだ。
「あの時(※第10話)は心配したりなんだったりでも、基本終始笑顔だったのに、今はなんだか疲れてるみたいに見える。……今も走ってたみたいだけど、トレーニング?」
「あ、はい」
「じゃあ、オーバーワークなんじゃない?」
「それは……」
「確か、この公園でタイっちゃんが護身術教えてるって聞いてたんだけど? なんでエミちゃん一人で走ってんの? あ、ひょっとしてもう稽古は終わっちゃった?」
「いえ、ちょっと頭を冷やしたくて……」
「なんだ、怒られたの?」
「ええ、まあ。――あ、それよりリョーコさんはどうして? なにかこの近所で事件でも?」
 これ以上の追求を躱すため、攻めに転じる。
 ヤマシロ・リョウコは公園の方をちらりと見やって苦笑した。
「いや〜ははは。今日非番だし、な〜んもすることなかったんで、前々から聞いてたタイっちゃんの護身術教室でも見てみようかな〜と思ってさ。あの一匹狼なタイっちゃんが先生役なんて、ちょっと見物だし。ちゃんと先生役やってる?」
「はい。やっぱり師匠は凄いです……今も……あたしの集中力のなさを見抜かれて」
「な〜るほど。それで走らされてるってわけか」
「あ、いえ。これはあたしから……頭を冷やそうと思って」
「ふむ……」
 なにを思うのか、ヤマシロ・リョウコは腕組みをして、しかめっ面でエミをじっと見据える。
「エミちゃん」
「はい?」
「笑え」
「は?」
 これ以上ない笑顔で命令されるという奇妙な状況に、エミは目をぱちくりさせた。
「わ・ら・え」
「笑えって……こうですか」
 口角を上げて微笑んでみせる。しかし、ヤマシロ・リョウコはたちまち元のしかめっ面に戻った。
「ひどいなぁ。なに、その疲れた顔。……鏡でもあれば見せてあげるんだけど。かわいい顔が台無しだよ?」
「ええと……ごめんなさい。今、本当にそんな余裕ないんで」
「はい、いただきました。『余裕がない』」
 ぽん、と手槌を打ってエミを指差す。どこかの芸人めいたその物言いに、エミは軽く苛つきを覚えた。
「あのー……」
「ないってわかってんじゃん。じゃあ、今の自分の状態、ダメだってわかるよね」
 今度は一転、真面目な表情。本当にころころ表情の変わる人だと、頭の隅で妙な感心の仕方をした。
 辺りを見回したヤマシロ・リョウコは、すぐ傍のパイプ型ガードレールに腰を預けた。そして、エミを手招きして隣に座れ、とガードレールを軽くはたく。
「ほらほら。まあ、ちょっと話そ? おねーさん、エミちゃんみたいな悩める青少年少女を放っておけないお節介焼きでさぁ。話すだけでも少し気楽になるかもよ?」
 エミは少しばかり逡巡したものの、やがて吸い寄せられるようにヤマシロ・リョウコの隣に腰掛けた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 クモイ・タイチはベンチに移り、隣に座るユミの独白を黙って聞いていた。
 シロウもユミの反対側に座り、神妙な顔をして昨日聞いた話を聞いている。
「――だから、エミちゃんと顔を合わせるのが辛くて……あ、いやその。裏切ったみたいだとか後ろめたいだとかいうんじゃなくて。ええと、その。エミちゃんはもう夏に向けて臨戦態勢で突っ走ろうとしてるのに、まだうじうじ悩んでる私が足を引っ張ってるみたいだって意味で、その、早く決めなきゃとは思ってるんですけど、でも」
「どっちでも同じだ」
 相変わらず、クモイ・タイチは一言で容赦なくぶった切る。
「悩みがなんだろうと、それが丸わかりなら相手に気を使わせる。中身より、その煮え切らない態度が問題だ。下らない言い訳はいらない。時間の無駄だ」
「はぁ……そうですよね……」
 そんなことはわかっています、と口には出さずため息をつく。
 すると、すかさずシロウが口を挟んだ。
「そんな言い方はねえだろ、クモイ。ユミは自分のかーちゃんもエミ師匠も大事だから、決めきれないんじゃねえか」
「……お前はお前で、この一年で丸くなったというか……甘くなったな。アキヤマに対してだけか?」
 ユミはその言外に込められた揶揄に気づいて、うつむいたまま少し頬を染める。
「はぁ? どういう意味だよ」
「まあ、年相応の悩みといえばそうなんだろうがな」
 シロウの疑義には取り合わず、立ち上がったクモイ・タイチは、腕組みをしてユミの正面に立ちはだかった。
「大学進学か、友人との夏か、か。ふん……一つ、疑問があるんだがな、アキヤマ?」
「あ、はい。なんでしょう」
 居住まいを正して、真っ直ぐクモイ・タイチの目を見つめ返すユミ。
「どうして、『両立させる』って考え方をしない」
 しばし、沈黙が漂った。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 エミから進路指導の件を話を聞いたヤマシロ・リョウコは、何度も頷いた。
「うんうん。なるほどねぇ。そりゃ先生が悪いわ。そんなこと言われたら、あたしだったらグーパンチで殴ってたよ。うん、啖呵を切って飛び出してきただけにした分、あたしよりえらいゾ」
 エミの頭を撫でる。
 しかし、今のエミははにかむことすら出来なかった。うつむいて漏らす。
「でも……わからないんです」
「なにが?」
「どこまでやればいいのか……なにをしても、どこまでやっても足りないような気がして。特に、うちの学校のプールは屋外式なので、今の時期泳げません。泳げるのは早くても5月です。今やってるトレーニングが本当に正しいのかどうか、きちんと身になってるのかどうか、物差しがなくて……だから、ただひたすらがむしゃらにやるしかなくて」
「だから余裕がない、か」
「はい。あたしは泣いても笑っても今度の夏が最後です。最後の最後に後悔しないよう、出来ると思えることは全てやっておきたいんです。余裕なんか……どこにもありません」
 そう言って、重い溜息を吐くエミ。
「余裕ねぇ」
 ヤマシロ・リョウコの呟きとともに、その視線がエミの横顔に刺さる。
 公園の中から届く子供の歓声が、遠い世界から響いてくるように感じる。そんな重い空気が二人の並ぶ道端にうずくまっている。
「どうかな。ないのは余裕じゃなくて、自信じゃない?」
「う」
 呻いたエミの表情が硬張る。それはすぐに苦笑へと変わった。
「あはは、さすが一流のアスリートですね。全部お見通しですか。……はあああああああああ」
 観念したようにがっくり頭を垂れ、盛大な溜息を吐き散らかす。
「ええ……そのとおりです。余裕どころか、自信だって……。だって、泳げないんですよ? 水泳選手なのに。それであと自信をつけるっていったら、もうトレーニングしかないじゃないですか。スタミナつけまくって、絶対体力で負けない身体を作るしか」
「スタミナねぇ」
 今度はヤマシロ・リョウコが溜息をついた。
「悪いけどさぁ、今のエミちゃんってアスリートとして全然怖くないよね」
「え?」
「だって、自分で試合前に潰れてくれる典型的なタイプだもん。あたしが対戦相手なら、まず最初にアウトオブ眼中だね」
「……はぁ………………ちょっと酷くないですか?」
「今のままなら、オーバーワークでゴールデンウィーク前に怪我をして今年の夏は終わるよ。間違いない」
「……自信満々ですね……」
「見ればわかるもの。疲労、緊張、抑圧、強迫……ある程度以上のプロならともかく、アマのアスリートがそんなんじゃ、あと半年なんて絶対持つわけない。一月だって持つかどうか」
「でも……今のあたしにはこれしか……」
「あのさ。そもそも競技に対する自信ってのはさ、どこから来ると思う?」
「それは……色々あるんじゃないんですか? 才能だったり、スタミナだったり、技術だったり、戦術だったり……」
「ん〜……よくそれでアスリートやってられるねぇ。っていうか、さっき自分で言ってたじゃん」
 ぺし、と額を軽く小突かれ、エミは顔をしかめた。さっき? 何を言っただろうか。
 呆れたように溜め息をつくヤマシロ・リョウコ。
「だいたいさ、走って走って走り抜いて、筋トレしまくって、それで泳ぐ力が上がるのなら、水泳選手の出番はないんじゃない? 陸上選手が全部ひっさらってゆくと思うんだけど」
「はぁ……そりゃ、考え方だけで言えば確かにそうですけど……。でも、基本的なスタミナや筋力がないと、そもそも――」
「ほんとダメダメになってるねぇ……。いい? アスリートが競技に対する自信を深めるのは、いつだって結果。自分の出した結果が、自信になるのさ。結果が出せなければ、自信なんてついてこない」
「そんなこと言ったら、一位の人しか……」
「一位の人間が自信を持つのは当たり前として、物差しはそれだけじゃないでしょ。点数だったり、時間だったり、形だったり。予選突破が自信になる人だっている。勝ち負けだけじゃない。明確でなくてもいい。だけど、どんな物差しを持ってこようと、一つだけ明確なことがある。なんだか分かる?」
「さあ……なんですか?」
「その競技をすること」
「えー……と。当たり前の話じゃ」
「そう、当たり前なんだよ。競技をしなくちゃ、結果は出ない。結果が出なけりゃ、自信はつかない。だけど、その当たり前を今のエミちゃんは出来てない。さっき言ったよね、泳げもしないのに自信なんかって。つまり、自信が持てない原因、自分でわかってんじゃん」
「そりゃそうですけど……そんなこと、あたしに言われたって……」
 話の要点がつかみきれず、エミは小首を傾げた。走るトレーニングにかまけていることを責められているのだろうか。だが、今も説明したとおり、自分は泳ぐことが出来ない状況に置かれている。泳げないのは自分の問題ではない。学校の問題だし、気候の問題でもある。神様じゃあるまいし、どうしろと言うのか。
 ヤマシロ・リョウコはなにが言いたいのだろう。
 困惑しきりに考えていると、ヤマシロ・リョウコは再び溜め息を漏らした。
「あのさ。まだわかんない? あたしの聞きたいことが。……なんで泳げないの? いや、泳ごうとしないの?」
「……は?」
 意図不明の問い掛けに、エミの混乱はさらに深まった。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 クモイ・タイチの出した問い掛けに、ユミはしばし呆れて声も出せなかった。
「『両立』なんて、そんな……無理です!」
 首を振る少女に、クモイ・タイチは少し間を置いて告げた。
「アキヤマなら言葉の意味はわかるだろうと思うが……自らの行く手を塞ぐ困難に対して、『戦えない』という選択肢は存在しない。それは状況であって、意志ではないからだ。選択肢は常に二つに一つ、『戦う』か『戦わない』かだ。お前は……『両立』という困難を前に、『戦わない』を選ぶのだな」
「え、と……だって、それは――」
 言い募ろうとしたユミは、クモイ・タイチの鋭い眼光に押し黙った。
「挑みもせずに、初めから『戦わない』という選択肢を選んだ者が、『戦う』ことを選んだ者の助けになれないことを悩む? 矛盾だと思うのは俺の気のせいか? 言葉のわりにずいぶんと余裕があるように感じるのも気のせいか? ――おい、オオクマ。お前も言ってやれ」
 不意に話を振られたシロウは、きょとんとした。
「え、なに? 俺が? なにを?」
「なにを、じゃない。欲しい物がいくつもあるなら全部奪れ、それがお前のスタンスだろうが。何かを諦めて何かを得て、それで満足するような奴だったか? ったく、なにここに来て丸くなってやがる」
「あー……さっきのは、そういう意味か……」
 困惑げにユミの横顔を見やるシロウ。しかし、クモイ・タイチの求める言葉は、出せない。
 その前に、ユミが口を開いた。
「でも……実際無理があります。医学部への入試対策と水泳部を両立させるなんて。時間的に」
「………………。なにか、そう判断するだけの経験が?」
「……全国模試の合否判定とか、偏差値とか……あと、医学部なんてどこの大学でも、どれだけ勉強してもし足りないくらいの難関ですから」
「ふむ。俺は大学受験を受けたことがないから、それが実際どの程度有効確実な情報なのかはわからんが……それにしても、他人の判断が入りすぎている気がするがな」
「どういうことですか?」
「合否判定なぞ数字だけを見て他人が適当に引いたラインだ。偏差値もその数字自体で入学できるわけではない。しかも、それはその模試の時のもので、入試の際の得点を保証するものではないはずだ。そして、医学部が難関だというが、まだ試験を受けたわけではないのに、なぜそう言える? 全て他人の言葉や判断に踊らされているだけに思えるがな」
「だって……いえ。確かに私はまだ大学入試を経験してませんけど……。それを言ってしまったら、先人の知識や教えは全部意味がないことになってしまいませんか?」
 ふむ、と頷いたクモイ・タイチは言葉を探して少し考え込む。
「つまり……今アキヤマは、その先人とやらの判断から、自分の実力・能力は部活との両立が出来ない程度のものだと判断したわけだな。誰がなにを言おうと、やってみなければわからん、とは考えずに」
「………………」
「まあいい。話を戻そう。……大学進学か、水泳部か、だったな? 結局そんなもの、どちらを選んでも大差はないさ」
 投げやりとも思えるその言葉に、ユミは不満げに口を尖らせる。
「大学進学を選んでもチカヨシを気にするだろうし、水泳部を選んでも勉強を気にする。チカヨシじゃあるまいし、どちらか一つに割り切れるような性格か、アキヤマは? 秋口にはいずれにせよ後悔の念に苛まれている。友達を助けなかったことをか、勉強に集中できないまま夏を終えたことをか、な」
「……それは、『両立』に挑んで失敗した時も、ですよね」
 そう反論するユミの目は、クモイ・タイチを睨んでいる。もちろん、彼がそんな眼差しを痛痒に感じることなどない。
「無論だ。要するに、どれを選んでも後悔はついて回るということだ。だが、『両立』には一つだけ希望が残されている」
「希望?」
「成功すれば、後悔などする必要がない」
「……それは……そう、です、けど…………でも……」
「アキヤマが出した選択肢は、どちらが成功しても選ばれなかった選択肢への後悔が残る。だが、『両立させる』選択肢だけは、成功した時、喜びしか残らない。無論、それに見合うだけの困難極まりない道だ。ま、そうでなくては『希望』に価値がない。また、『戦わない』ことを選択するのも自由だ。だが――」
 一旦言葉を切り、じっとユミを見据える。
「――覚えておけよ。道があったにもかかわらず、その道を選ばなかったことを。困難だという理由で、避けたということを」
 ユミの顔色が変わってきていた。血の気が引いて、青く――いや、白くなってゆく。
「アキヤマ。医者というのは、あれは――言ってみれば、生命と死の瀬戸際を綱渡りする職じゃないのか」
「はい……そういう面もあると思います」
「つまり、アキヤマが夢をかなえて医者になったとしたら……他人の能力や生き死にの瀬戸際を判断するということだな。自分の能力の瀬戸際、体力知力才能の限界に挑みもしなかった者が。自分の一番行きたい道を困難だからと戦う前から諦めた者が。アキヤマ、それをどう思う?」
「………………お医者さんは……」
 クモイ・タイチの視線から逃れるようにうつむいたユミは、呟くように答える。
「……お医者さんがみんな、そんな風に追い詰められた生き方をしているわけじゃありません……」
「そうだろうな。だから、ヤブもいるし、拝金主義の灰色医師もいるんだろう。ま、アキヤマの人生だ。好きなように生きればいい。なんらかの瀬戸際にいる患者に、自分自身の経験を振り返りながらどんな言葉をかけるのか、その言葉にどれだけ重みがあると自分で思えるのか。それは自分にしかわからんのだからな」
「………………」
 黙り込んでしまったユミ。そのうつむいた頭を見据えるクモイ・タイチ。痛々しげにユミを見守るシロウ。
 沈黙の時間が流れてゆく。公園で元気よく遊ぶ子ども達の声とともに。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「……あたしにどうしろっていうんですか」
 顔を上げてヤマシロ・リョウコを見やったエミは、今にも泣きそうな顔になっていた。
 しかし、彼女はそんなことなど興味なさそうに、取り出した携帯を弄っている。
 苛つきと情けなさに苛まれ、エミはつい声を荒げて胸の中に渦巻く不安をぶちまけずにはいられない。
「学校のプールが屋外式なのも、春が寒くて泳げないのも、あたし一人でどうにかなることじゃないじゃないですか! なのに、今年が最後だって、勝たなきゃって、それだけがいつも頭の中でぐるぐる回ってて、休まなきゃって思ってても、その間に体を動かしておけば、それが最後に効いて来るんじゃないかって思えてきて、気がついたら体を動かしてて……」
「体を動かしてるとキモチイイし、その瞬間だけは我を忘れられるもんね〜」
 なにを読んでいるのか、返事だけしながらも携帯の画面から目を離さず、しきりに操作をしている。
「そうなんです!」
「でもさ、部長なんて肩書きの人が、そんな風に自分だけのことに閉じこもっていていいの?」
「………………っ!!」
 たちまちエミの表情が強張った。
「今年の夏に勝つ、って言ってるくせに、そこへの道筋を示せないんじゃ、人の上に立つ意味ないんじゃない? エミちゃんの話はあたしが聞いてあげたけど、筋トレばっかりで不安な部員の話は、誰が聞いてあげるのさ」
「だって、それは……」
「……ふむ、結構あるもんだね」
 そう言ってにやりと頬を緩めたヤマシロ・リョウコは、携帯の画面をエミに示した。
「ほい、見てみ?」
「なんですか?」
 受け取って、画面を覗き込む。
「ネットで検索してみたの。この地区とその周辺でやってるスイミングスクールとか、プールつきスポーツジム、それに公営の温水プール。つまり、今の時期でも泳げるとこなんて、それだけあるってこと。これでもまだ泳げないって?」
「え、と……」
 携帯を操作しながら、示された情報を見てゆく。知っている施設もあれば、知らない施設もある。
「甘えだよ」
 ヤマシロ・リョウコの断罪めいた重い発言が、エミの胸をえぐり、思わず画面から顔を上げていた。
 アスリートの先輩はついぞ見たことのない真剣そのものの表情だった。まるで、怒っているようにも見える。
「学校のプールじゃないと泳げないとか、春は泳げないから筋トレしかできないとか。適当に泳げればいいだけならそれでもいいんだろうけど、勝ちたい目標があるときにそんなのは、あたしに言わせりゃ負けたときのための言い訳。勝ちたいなら、全知全能を傾けて勝ちに行かなきゃ」
「でも、こんなの……お金だって」
「ほら、また出来ない理由だ。そもそもお金の問題は、大会で勝つより優先すべき事項なの?」
「う……」
「あたしは何が何でも勝ちたいっていうエミちゃんの熱い思いだからこそ、応えてあげるつもりになったんだよ? でも、お金をかけずに勝ちたいっていうのなら、話は別。悪いけど、これ以上アドバイスする気はないよ。もう後は図書館でも行って、泳ぎ方の勉強でもするしかないんじゃない?」
「………………」
「いい? 勘違いしちゃいけない。どんな競技でも大なり小なりお金はかかるものだよ。あなたたちが毎年泳ぐプールの水だってタダじゃない。あなたが直接出してないだけで、あなたたちの親が出した学費で賄われてる。屋内プールのある学校は、年中通して泳げる代わりに、それだけの出費をしてる。結局、スポーツにしろ、勉強にしろ、争い競う場所に、初めから公平なスタート地点なんてないんだよ。他の競技者とついてしまったスタート地点の差を、まずどう埋めるか。そこから既に競争は始まってる」
「そんなこと言われても……あたしたちは高校生だし、ないものは――」
「親は出してくれないって言った? 部費はどう? 部員同士でお金を融通しあうとか、アルバイトをするとか、全部考えた? 話し合った? やった? そういう施設を使うのが難しいなら、ちゃっかり他所の施設をただ同然で借りればいいじゃない」
「? ……そんなこと、できるんですか?」
「毎週でも対外試合を組んだり、他所の屋内プールのある学校へ遠征すればいいじゃん? この辺じゃあ、屋内プールのある学校もあるはずだし、この際、もう私立の中学校とかでもいいじゃん。あるいは実業団の水泳部と合同練習とかでもさ。アーチェリーやってるとこよりは断然あると思うよ? そういうとこにエミちゃんでは頼みにくかったら、顧問のセンセにお願いしてみ?」
 怒涛の口数で、次々と思いもしない提案をまくし立てる先輩アスリート。
 エミはただただ圧倒されて、いちいち頷く他ない。
「競技をするって言うのはさ、プロアマ問わず、それだけやっていればいいわけじゃないんだよ。与えられた状況で満足したり、絶望してるような人は強くなんかなれない。強くなりたいなら、勝ちたいなら、自分を鍛え上げるだけじゃダメ。常に環境に気を配って、整える努力もしなくちゃ。むしろ、立場によってはそっちがメインになるかもね。部長さんとか、主将なんて肩書きのある人とかは特に」
「……環境に気を配って、整える努力……」
「そう。自分を鍛えるだけではどうにもならないなら、世界の方を変えちゃえばいいんだよ」
「世界を……変える……」
「エミちゃんのしたいことはさ、エミちゃんだけのものだから、誰も道なんか敷いてくれない。でもね――」
 携帯を両手で握り締めたまま、目が潤んでゆくのを我慢していると、不意にヤマシロ・リョウコが肩をそっと抱き寄せてきた。
「忘れちゃいけない。世の中には必ず、お願いすれば道を敷く手伝いをしてくれる人がいるってこと。きっとあなたのことを応援してくれる人は傍にいるから。自分一人だけで道なき道を行こうと思わないで。そういう人を頼っていいんだよ」
「……リ、リョウコさん……あたし……」
 瞳の潤みは、もうあふれ出そうだった。張り詰めていたものが解けて崩れて、流れ出してくるように。
 その胸に抱き寄せられ、頭を撫でられたら、もうダメだった。
「うんうん。大丈夫大丈夫。がんばれがんばれ♪ あたしも応援してるからさ」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 すっかり塞ぎ込んでしまったユミ。
 その瞳はしきりに目の前の宙を彷徨い、表情は見るからに追い詰められている。
 隣でその痛々しい横顔を見ていたシロウは、たまりかねて口を開いた。 
「おい、いくらなんでも言い過ぎじゃねえか? これじゃあ、ユミが……」
「可哀想か? それはむしろ、彼女に対して失礼だな」
 瞳だけシロウを見やるクモイ・タイチ。
「悩むのは、未練があるからだ。未練……と言えば聞こえは悪いが、捨て切れないもの、捨てたくないものがそこにあるということだ。人は往々にして、そうしたことで捨ててはいけないものや自分の行く先について気づかされる。悩めばいいんだ。悩んで悩んで悩み抜いて、自分の道を決めるんだ。それが、本人の生きる糧になる」
「……なんの解決にもなってないどころか、輪をかけて混乱させてるようにしか見えないんだが」
「本人のためにならないことは言っていないつもりだ」
「――やっふー♪ タイっちゃ〜ん♪ お、シロウちゃんもいるね〜♪ おひさ〜」
 唐突に、元気な――というより空気を読まない脳天気な声が聞こえてきた。
 一同が声のする方を見やると、パーカーにジーンズというラフな姿のヤマシロ・リョウコが手を振っている。
「ヤマシロ隊員……来たか。実は頼みが――と、チカヨシ?」
 ヤマシロ・リョウコから二、三歩遅れてついて来ていたエミに気づいて、クモイ・タイチは顔をしかめた。
 エミの表情ががらりと変わっていたからだ。焦りで思いつめ、知らず眉間に刻まれていた険の影が消えている。
「へへ〜……御心配おかけしました」
 それだけで、なにがあったかをクモイ・タイチは察した。
「……もう相談は終わったか。流石に早いな」
「ん〜、公園の外で偶然会ってさ。あんまり酷い顔だったから、放っておけなくて……って、こっちはこっちでまた」
 ユミの落ち込んだ表情を見るなり、ヤマシロ・リョウコは顔をしかめて苦笑を浮かべる。
「エミちゃんから聞いて、ちょっとや〜な予感はしてたけど……やっぱ進路指導みたいなデリケートな話は、タイっちゃんには難しかったかぁ」
「失敬だな」
 憮然たる面持ちで抗弁する。
「伝えるべきことは伝えた。あとは彼女が選ぶ問題だ」
「一応聞いておくけど……なに言ったのさ」
「大学か、部活かというから、両立という道もあると言っただけだ」
「あ〜あ」
 呆れた様子で額を押さえるヤマシロ・リョウコ。思わず天を仰いでいた。
「それが出来るなら悩みはしないってぇの」
「……挑みもしないで無理というのは、逃避だろう」
「人生がかかってる場面でさ、無理を承知で突き進むのは、勇気じゃなくて無謀だよ。バカのすることでしょ?」
「人生には無理も承知で進むべき時がある」
「かもしんないけど、それは少なくとも今じゃないと思うけど?」
「今ここで逃げれば、いざ本当に突き進まねばならないときに逃げることになる。人生は一事が万事だ」
「それこそ彼女がその時々に決めることでしょ。彼女にとって一番大事なその時には必ず逃げ出す、と今決めつける方がよっぽど失敬じゃない」
 ヤマシロ・リョウコの切り返しに、クモイ・タイチは思わず押し黙る。
 二人のやり取りを聞いていたシロウ、ユミ、エミは目をぱちくりさせていた。
 呆れ気味に肩をそびやかしたヤマシロ・リョウコは、ユミにはにかみかけた。
「ごめんね、ユミちゃん。この人、頭の中まで戦闘バカで、困難は全部拳で解決する人だから。言われたことはあんまし気にしないでいいよ。人生はそんな極端なものじゃないからさ。ハッピーに行こ、ハッピーにね」
 元気付けようと笑う。
 しかし、ユミは困ったように眉根を寄せたまま力なく笑みを浮かべるばかり。
 そこでエミが進み出てきた。きりりと表情を引き締めて。
「ユミ……あたし、ユミに言っておかなきゃいけないことがあるの。聞いてくれる?」
「え……あ、うん……」
 その真面目な表情に、ユミは思わず頷いていた。


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