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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第12話 とらわれし者たちの楽園 その10

 【ゲームワールド】RPGジャンル・大規模戦争型MMORPGエリア

 とあるRPG系MMOの広野ステージに集まる様々なキャラクター達。
 引き連れたNPCも含め、その数は万に近い。
 第二次世界大戦中の各国軍服、現代各国の軍服、未来の軍隊スーツ、皮の鎧と剣と盾を装備した連中、モンスターめいた異形の甲冑を身につけた連中、きらめく甲冑を身にまとう神々しき連中、そこいらの街を歩いていそうな格好ながらバールのような物や日用生活道具を握り締めた連中、特別な道具は身につけずモンスターらしき仲間を従えた連中、あるいはもうモンスターそのもの……etc,etc。
 他にも、SF的な機械の巨人、上空を飛び交う種々雑多な機影の編隊、戦車、弓矢を持つ亜人種に火縄銃を構えた戦国足軽軍団、その先頭に立つ武将。
 果ては、ユニフォームを着たサッカー小僧に、バットを握り締めた野球選手はじめ各種スポーツ選手まで。
 それらが広野を見下ろす丘陵の上に建てられた砦に居座るウルトラマンを中心に、包囲陣を敷く。
 そして、その敵の姿は居並ぶ者達に少なからず動揺を与えていた。なぜ敵がウルトラマンなのか。

『――諸君、よく集まってくれた』

 開戦の時を待つ軍勢の頭上――天空から声が下りてきた。

『見ての通り、敵はウルトラマンだ』

 ざわめきが広がる。

『彼と、彼の現実世界の仲間は、どうやら君達を現実世界に引き戻すつもりらしい。君達を虐げ、侮り、蔑んで、傷つけてきたあの現実世界に。残念なことに既に多くの仲間が、送り返されてしまった。彼には、そういう力があるらしい』

 ますますざわめきが広がる。

『だが、いくらウルトラマンだからといっても、そんな権利などあるのか。君達の自由を奪う権利を持ちえるのか。現実世界の者が、この地に踏み込んでよいのか。諸君! 求めて来たる諸君よ! ここは、どこだ』

「ここは俺達の世界だー!!」
 誰かが叫んだ。すぐに応じる声が続く。
「俺たちの楽土だー!」
「あたしたちの約束の土地よー!」
「僕らは独立したんだ! 現実から!」
「ウルトラマンの手助けは何もいらねー!!」
「そうだそうだー!」
「帰れ帰れー!!」
「かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ!」
「かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ!」
「かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ! かーえーれ!」
 大地を揺るがすような大合唱にもレイガは動じた様子もなく、ただ立ち尽くすように佇んでいる。

『ならば諸君。戦え。地球人を侮り、現実世界に君たちを閉じ込めようとしているあの敵と! 君達が真の自由に目覚めた時、その力がいかようなものか、知らしめてやるのだ!』

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーっっっっっっ!!!!!!」

 湧き起こるときの声。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ヤマグチ家二階・カズヤ自室。
「ふっ……ざけんなこらぁっ!!!!
 背後にいた小学生たちが一斉にドン引きするような、唐突かつ迫真の怒声。無論、上げたのはサブロウ。デスクに叩きつけた拳の振動で、部屋全体が揺れたようにさえ思える気迫だった。
「なにが自分たちの世界だ! てめえらの存在を支えてるサーバーも、電気も、回線も、タダ乗りしてるゲームのプログラムも、グラフィックも、誰が作ったと思ってやがる! 全部現実世界頼りのくせになにが自由だ、独立だ! このバカども――」
 モニターをつかんで揺するサブロウを、カズヤは慌てて後ろから羽交い絞めにして制止した。
「ちょ、ちょっと待って! モニターに叫んでも向こうには聞こえないから!! 壊さないでえぇぇぇっっ!!」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネスト・ディレクションルーム。
 頬杖をついて画面を見ていたアイハラ・リュウは、思わずデスクを叩いていた。
「――ふざけんな!!」
 自席でコンソールを操作していたシノハラ・ミオが顔をしかめて隊長を見やる。
「異星人による精神操作の可能性もあるのに……冷静になってください」
『精神操作の必要を感じないがな、俺は』
 そう答えたのは、メインパネルに映る通信画面の一つに映っているクモイ・タイチ。
『あまりに幼稚で、自分勝手。……半年前の誰かさんを見るようだ』
『まあ、どっちでもあたしたちのやることは変わんないけどね。――セッチー、ゴンさん、状況はどう?』
 別のウィンドウに映っているヤマシロ・リョウコの問いに、シノハラ・ミオは頷いた。
 クモイ・タイチとヤマシロ・リョウコの二人はそれぞれガンウィンガーとガンブースターに乗り、ガンローダーの護衛についている。
 新しいウィンドウが開いた。
『――異常発生』
 言葉の内容ほどには締まりのない声で、セザキ・マサトが答える。
『メテオール照射したけど、人魂が出ないんだよ。……リストではここが二番目に被害者の数の多いゲームのサーバーのはずなんだけど……どういうこと?』

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 某所。
 暗がりの中に整然と積み重ねられた無数のモニター画面が光を放つ空間。
 ゲームマスターの手が、コンソールを忙しく這い回る。
「くっくっく、この数で攻められてはいかにウルトラマンといえども苦戦は必至。その間に、【ゲームワールド】が接続している現実世界のサーバーの全データをこちらのサーバーにコピー――、内部にて再構築――、各ゲームサーバーとの超次元リンクは閉鎖――。……よし、これでもうこれ以上の意識体解放は、GUYSには出来ない。ほとぼりが冷めた頃に再び超次元リンクを復活させ、データの同期を行えば【ゲームワールド】は再生、再び地球人の意識体を確保できるようになる。くくく、見ろ。まだイニシアチブは私の手の中だ。ふははははは」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】RPGジャンル・大規模戦争型MMORPGエリア

 戦闘が始まった。

 レイガの左手が放つ白い光線を受けた騎士が、武将が、傭兵が、狩人が、スポーツ選手が次々と昇天してゆく。
<<くそっ、やらせるなー!!>>
<<FOX2! FOX2!>>
<<レーザーキャノン発射!>>
 上空を飛んでいた編隊がレイガへと殺到、ミサイル、レーザー、光弾、バルカン、ザッパー……様々な弾幕を叩きつける。
 レイガは円形バリア(ディフェンス・サークル)を作ってそれらを防御すると、瞬間移動で編隊の背後に回り込んだ。
 次々放つ白色光線を受け、コクピットから光球を放出して墜ちゆく機体。
《くそっ――消えろ、イレギュラー!!》
《墜ちやがれ、レイガ!!》
《瞬間移動とか、Hよりタチが悪いぜ!!》
 丘陵を跳ねるようにして迫るロボット兵器部隊。統制の取れていないその部隊は、てんで勝手に射撃を始めた。
 たちまちレイガの周囲で爆発が起き、粉塵が舞い上がる。
 その姿が隠れたと思った次の瞬間、煙のように立ち込めた土埃を切り裂くようにして放たれる蒼い光線の帯。
 油断していた数機が、直撃を食らって爆発した。
「退がれ、ロボット兵器部隊! ――全軍、射てー!!」
 戦車とヘリと数多くの火器が粉塵を払って出現したレイガに向かって発砲を開始する。
 再びレイガ周辺で炸裂する爆発。的確にレイガを狙って当てている者もあり、レイガも腕で防御するものの少なからずダメージを受けざるをえない。
「効いている!? 効いているぞ! ……怯むなっ! 射て射てっ! じゃんじゃん射てー!! 射ちまくれー!!」
 司令役の声にあおられ、いっそう火力が容赦なくレイガを襲う。
 現・近代兵器に加え、火矢や特製の矢、火・氷・稲妻・風の刃・光など様々な属性の魔法、鎖付きの円盤や、ひも付きの小剣、果ては炎をまとったサッカーボールに野球の硬球なども飛んでくる。
 ありとあらゆるゲームのありとあらゆる攻撃手段がレイガを襲い、多くの流れ弾が巻き上げた土埃はレイガを隠す。それでも、弾幕はこれでもかと見通せぬ粉塵の中目掛けて放たれ続ける。

「……きかねえなぁ」

 その声は、軍勢の背後から聞こえた。
 たちまち射撃がやみ、全員が背後を振り返った。
 いつからそこにいたのか。
 レイガの差し伸ばした左の掌が、白く輝いていた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ヤマグチ家二階・カズヤ自室。
「サブロウさん、僕らの出番まだ!?」
 画面で展開される戦争に興奮したてるぼんが、勢いづいて聞く。しかし、サブロウは難しい顔をしたまま首を振った。
「慌てんな。まだ条件が整ってねえ。あいつが本当に窮地に立った時に発動するように組んでるんだ。もうちょっと待て」
「はーい」
 わくわくを隠しきれない様子で、しかし素直に頷くてるぼん。
 しかし、サブロウは画面へ視線を戻しながら考えていた。
(やべーなー。なんでかしらんが、サーバーとのリンクが切れちまってる。これ、発動してもこっちからの入力、届くのか?)

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】RPGジャンル・大規模戦争型MMORPGエリア

 圧倒的だった。
 レイガの左手が一払いする度に数十からの意識体が光の弾となって昇天する。
 誰もそれを止めることが出来ない。戦車も、戦闘機も、人型を模したロボット機体も、そして人の姿をしたキャラクターたちも。
 元々戦術的な打ち合わせも、戦闘の先行きの予見もないまま漫然と集められた軍勢である。局所的な協力・援護はあっても、それを以ってレイガを打倒するようなことは、到底無理な話。
 現実であれば眼も覆わんばかりの虐殺と殺戮。ゲームの中とはいえ、その光景こそがウルトラ族と地球人の力の差を如実に示していた。


『くそ、ロボット兵器部隊! もっと動き回って奴を撹乱してくれ! ああも自由に動き回られちゃ狙いにくい』
 という要請は、戦車部隊を率いる人物からの通信。
 それに対して、戦場を縦横に駆け抜けるロボット兵器の一つから返答が入る。
《はあ? バカ言え。囮役は鈍足の仕事だ。ぐだぐだ言わずに弾射ってろよ。それしかできねえんだから》
『んだとコラ? てめえらが際限なくぴょんぴょん飛び回るせいで、何回射撃の邪魔されたと思ってんだ。自重しろウサギ跳び野郎』
《自動ロックオン機能も搭載してねえドン亀の分際でなに抜かす。てめえの腕の悪さをこっちのせいにしてんじゃねーよ》
『自動ロックオン頼りのお前の方が、よっぽどヘタだっつーの。ぐだぐだ言ってっと先に潰すぞ、コラ』
《上等だ、やってみろコラ》
「――そんなこと言ってる場合かっ!」
 無線のやり取りのはずの会話に割り込んだのは、先ほどのレイガの攻撃で半壊した砦の門上に立つ、フードの男。そして、その周囲には徒歩の軍勢が集まりつつあった。そのほとんどが魔術を使うタイプの職業と設定された者達。
「よーし、魔力を集めて奴を封じる術を繰り出す! 動きさえ止めれば、後は火力の勝負で勝ちを拾える! みんな、お互いに魔力を融通しあうんだ!!」
「おーし、魔力アップの薬飲め飲めー。今が使い時だぞー」
「誰か余ってないー?」
「足りない奴いるかー」
「助かるわ」
「うわーレベルアップしときゃよかったー」
「遅い遅い」
「始めるぞー!」
 魔術師から魔法使いへ、魔導師から魔女たちへ、それぞれの魔力を統合し、先頭の高レベル集団へと注ぎ込む。
 選ばれし者達は、その有り余る魔力を以って普段なら使えるはずもないレベルの魔法拡張を行うことで、巨大な魔法陣をレイガの足元に浮かび上がらせた。

《ひゅー。なんだかしらねえけど、生身の連中がえれえことやってるぜ! 援護だ援護!》

 ロボット兵器の動きが変わる。ウルトラマンを四方から攻め立て、防御一辺倒に追い込む。

<<全機、魔法使い連中の援護だ。ウルトラマンレイガをあそこに釘付けにしろ>>

 上空からも戦闘機の一群が弾幕を放ち、レイガの移動を封じる。
『逃げる暇を与えるな! 全車両、砲撃用意! ……斉射ー!!!』
 戦車砲やヘリのロケット砲が火を噴き、レイガの足元に着弾、その膝をつかせる。
 そして――

「【蔓樹縛鎖】(バインド)!!」

 レイガの足元から生えてきた無数の蔓植物が、その手、その脚、その体、その首に絡みつき、締め上げて縛り上げた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 某所。
 暗がりの中に整然と積み重ねられた無数のモニター画面が光を放つ空間。
 縛り上げられて身をよじるレイガの姿に、ゲームマスターは歓喜する。
「ははははは、よぉし、よくやった。それでは、とっておきを出して奴を抹殺してくれる――行け、ブラックキング・レックス!!」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】RPGジャンル・大規模戦争型MMORPGエリア

 ゲームマスターが送り込んだ新たな戦力。
 それこそが、アニメなどに出てくるロボットたちや怪獣だった。
 レイガをも上回る巨体を誇る鋼の巨神の軍勢。そして、猛り狂う巨大なる野生。

「うおおおおおおおお、きたきたきたー!!」
『でかいってのはそれだけで安心感あるわー』
<<流石にこれは、勝ったな>>
《つーか、最初に出しとけって話だよ》
【まったくだ】

 狂喜の歓声を以って応援を迎える軍勢と、 蔦でがんじがらめにされた蒼の巨人。
 そして、その新しい軍勢の中に潜む殺意――

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ヤマグチ家二階・カズヤ自室。
「よーしきたー!! てめえら、条件が揃ったぞ!!」
 サブロウのあげた歓声に、小学生たちは嬉々として携帯ゲーム機を手にサブロウの背後に集まる。
「……どういうことなんですか、サブロウさん。条件って?」
「ブラックキングだよ、ブラックキング! 見ろ、この奥にいやがる!」
 怪訝そうに聞いたカズヤに、サブロウは画面を最大化してある一点を指差した。
「レイガを倒す気なら、こいつのデリート光線が必要なはずだと踏んでな。こいつの出現をこっちの応援登場の条件にしておいた。さあ、出るぞ、怪獣戦隊モンスターファイブ!」
「おおー! 戦隊モノみてぇ!」
 呑気にはしゃぐてるぼん。
 そして画面上、レイガを守るように出現する新たな影――五体の怪獣。
 ゴモラ(※ウルトラマン』第26話、第27話他登場)、ゼットン(※ウルトラマン第39話他登場)、バードン(※ウルトラマンタロウ第17〜19話他登場)、ベムスター(※帰ってきたウルトラマンス第18話他登場)、パンドン(※ウルトラセブン第48話、第49話登場)。
「おおおおおおお、俺達の育てた怪獣だー!!」
「よーし、シロウ兄ちゃんを助けるぞ!」
「助けてもらった借りを返すんだ!」
「行け、ゴモラー!」
「パンドン、ファイヤー!!」
「……ですが、ここでみんなに残念なお知らせです」
 いやが応にも盛り上がる小学生たちに冷や水を差す、サブロウの一言。
「サーバーとのリンクが切られてて、当初の予定だった君達の操作による戦闘は出来ません」
「………………え?」
 小学生たちの目が点になる。その表情は凍りついている。
「どうも向こうから切られたらしくてな。すまんなぁ。こればっかりは俺ではどうにもならん。操作入力しても、その信号があっちのサーバーに届かないからな」
「じゃ、じゃあ……俺たちの怪獣は出ただけ?」
「何のために……」
「せっかくシロウ兄ちゃんを助けられると思ったのに……」
 四つん這いになってがっくりうなだれる五人の小学生。
 その様子を傍目に見ながらも、サブロウは余裕の表情を崩さない。
「まあ、こんなこともあろうかと? 一応レイガを援護するプログラムは入れといたけどな」
 画面内では五体の怪獣が、迫り来る巨大軍団に戦いを挑み始めていた。
 サブロウの頬に笑みが浮かぶ。
「こちらとのリンクが確立できない時には、レイガ以外のキャラクターを敵とみなして攻撃するようにな」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 とある商店街の、閉店間際の電気屋。
 行き交う人々は冷え込みの強さから足早に通り過ぎてゆく。時折、ショーウィンドーのテレビに映るレイガの戦いに気づく者がいても、ほとんど足を止めずに去ってゆく。遠い世界のことなど興味ないように。
 店主でさえも、放送内容に気を止めることなく、閉店の準備に忙しい。
 不意に、その前でジープが停まった。
 運転席の郷秀樹は、画面を見やり小さく一つ吐息を漏らす。
「……レイガ」
 画面の中では、レイガが絡みつく蔦を引き剥がそうともがいていた。しかし、引き剥がし、断ち切る端から蔦は延び、絡みついてゆく。さらに周囲からの容赦ない攻撃が炸裂し、明らかにダメージを受けている。
 そんな画面の前を横切って、店主はシャッターレールを立てた。そうして、また店内へと戻ってゆく。シャッターを下ろす棒でも取りに戻ったのだろう。
 郷秀樹は、頷いて左手首に右手を添えた。そして、その右手を画面に向ける。きらめく光の塊が画面に飛び込み――店主が郷秀樹の仕草に気づいて、怪訝そうに画面を見やる。
 そのとき、信号が青に変わった。郷秀樹はそのまま何事もなかったかのように、ジープを発進させた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 某所。
 暗がりの中に整然と積み重ねられた無数のモニター画面が光を放つ空間。
 反乱を起こした五体の怪獣にも、ゲームマスターは慌ててはいなかった。
「……裏切り者か? まあいい、この程度で状況がひっくり返るわけはない。ブラックキング・レックスよ、さっさとレイガを倒してしまえ」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】RPGジャンル・大規模戦争型MMORPGエリア

 怪獣、巨大ロボット軍団の一斉攻撃は凄まじいものだった。
 大地の揺れはとどまるところを知らず、飛び交う光線、火炎、爆発は視界を覆い尽くす。
 それまで戦っていた戦車軍団や戦闘機編隊、ロボット兵器部隊、人間の軍隊は下手に手出しも出来ず、もはや傍観するしかない。
 その上空を、きらめく流星が走った。
 流星は乱戦の最中にある怪獣やロボットを次々切り裂いて飛び、レイガを縛めている蔦を瞬時に断ち切った。
(……これは、ウルトラスパーク!?)
 仕事を終えたウルトラスパークはレイガの左腕に宿り、ブレスレットに形状を変えた。
(ありがたい! 借りるぜ、ジャック!)
 蔦を呼び出す魔法陣から大きく飛び退がりながら、右手で左手首のブレスレットに触れる。そして、そのまま左の掌を前に差し出した。白い光が、これまでになく光り輝く。
 左掌から放たれる、レイジウム光線以上の帯状白色光線。
 前方で乱戦を繰り広げている怪獣とロボット軍団がその直撃と掃射を受け、たちまち光球を放出して消える。
 無論、最初から中の人などいない怪獣戦隊モンスターファイブに影響はない。

 その一掃射で戦場の空気が変わった。 

 その数に物を言わせて押せ押せだった怪獣・ロボット軍団が怯む。
 予想外のその空気を感じ取った観衆も、思わず歓声を止めた。
 その隙を逃さず、再びレイガの増幅白色光線が迸り、またいくつもの光の玉が溢れかえる――
 不意に、その白色光線が真っ向から放たれた別の白色光線に打ち消された。
「!?」
 立ち昇る無数の人魂と恐慌に陥り始めた軍団の最後方、ただ一体揺るぎない怪獣がいた。

 ブラックキング。

 元になっているブラックキングより、体に生えたとげや腕・脚が太くなり、牙の数も増えている。その目はより凶悪に吊り上がり、レイガを睨みつけている。
 ブラックキングが口を開け、白色光線を放つ。
 いくつもの人魂、途中に立っていたスーパーロボット、魔法陣から伸び続ける蔦を全て薙ぎ払って消去し、レイガを襲う。
 とっさにレイガは横っ飛びに躱した。
 飛び去った白色光線は、遥か彼方の山を消失させた。
 立ち上がったレイガは、ブラックキングを指差して叫んだ。
「……てめえ……今…………地球人の意識体を巻き込みやがったな!?」
 ブラックキングは答えない。
 周囲の観衆たちもざわめく。
 
(お、おい……今、人魂も消滅しなかったか?)
(まじかよ)
(え? 人魂になったら現実に戻されるんでしょ? 戻る前に消滅させられたら、どうなるの?)
(そりゃお前……)

 じりじりとあとずさってゆく観衆と軍団。
 ブラックキングはそれらには目もくれず、レイガに向けて口を開き――
 甲高い声が二つ、大空に響いた。
 レイガの前に立ちはだかるように降りて来たのはベムスター。ブラックキングが吐いた白色光線を腹で受ける。
 そして、上空から物凄い勢いで急降下してくるのはバードン。口から吐く火炎でブラックキングを包み、そのまま体当たりをして押し倒した。勢いのままに引きずられるブラックキングは地面に深くえぐれた跡を残し、砦を木っ端微塵に打ち砕く。
 そうしている間に、ベムスターは消滅した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ヤマグチ家二階・カズヤ自室。
「ああ、僕のベムスターが!!」
 自分の怪獣の最後を見届け、意気消沈するのはひろちゃん。
 サブロウは頷いていた。
「ベムスターの攻撃吸収能力は、一旦相手の攻撃を受けないといけないからな。当たれば相手を消去する以上、デリート光線は吸収できまいよ。となると……モンスターファイブの中では、多分ゼットンが鍵になってくるな」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】RPGジャンル・大規模戦争型MMORPGエリア

 ブラックキングにのしかかり、その鋭いくちばしを振り下ろしていたバードンだったが、デリート光線を胸板にまともに食らってはひとたまりもなかった。消失するバードン。
 立ち上がる所へ、ゴモラの超振動波が襲い掛かる――が、それもデリート光線で打ち消された。
 さらにゼットンの一兆度の火球も、パンドンの火炎放射もデリート光線でことごとく打ち消される。
 次の標的となったのは、パンドンだった。得意の腕力を生かすことも出来ず、デリートされる。
 しかし、その間にゼットンが瞬間移動で近づいていた。ブラックキングの背後に出現したゼットンは、ブラックキングの尻尾をつかみ、勢いよく引き倒す。さらにいつの間にか地中に潜っていたゴモラが、地中からブラックキングの腹部に鼻先の角を突き立て、0距離からの超振動波。
 大きく跳ね飛ばされたブラックキングだったが、ゼットンが尻尾をつかんでいたために、再び同じ場所へと降りてくる。
 そこで、ブラックキングはデリート光線を放った。地中にいるゴモラを、地面ごと消失させる。大穴が開いた地面には、底知れぬ闇が覗いた。

(ちょっと待て、なんだあれ!? 何が起きた!?)
(地面が消えたわよ!? そういえば、さっき山も……)
(要するに……地面のグラフィックデータが全部吹っ飛んだってことか?)
(つまり、あの白い光線に当ったら……)
(データ消去ってことか?)
(文字通り魂も残さずに消える……)
(じょ、冗談じゃないわ! この世界に死は無いんじゃなかったの!?)
(死ぬくらいならまだ現実に戻った方がましだ!)

 ゼットンに向けて放ったブラックキングのデリート光線は、瞬間移動で躱された。しかし、その射線上に人間サイズのキャラクターの一団が。

「う、うわ」
『まじかよ』
「ぎゃあああああああ!」
「いやああああああ!?」

 迫り来る白い死の奔流。
 その前に、銀と蒼と黒の巨体が立ちはだかった。
 円形のバリア・ディフェンスサークルを作り、対消滅させて防ぎきる。

「レ、レイガ!?」
『何で私たちを……』
「敵なのに……」

 答えず、レイガは次の流れ弾を処理するために飛んだ。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 港。
 停泊しているとある貨物船の桟橋前に、ジープが到着した。
 そこから降りた郷秀樹は、船を見上げて漏らす。
「……馬道龍の言っていたのはこの船だな。よし」
 頷いた郷秀樹は、フットワークも軽く桟橋を駆け上がっていった。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】RPGジャンル・大規模戦争型MMORPGエリア
 
 デリート光線がゼットンを襲う。
 瞬間移動で躱しきれず、バリアを巡らせたが、バリアはデリート光線にかき消されてしまう。
 そして、ブラックキングはゼットンに組み付いた。宇宙恐竜対用心棒怪獣の力比べが続き、やがて、ゼットンがブラックキングを投げ倒した。そして、とどめの一兆度の火の玉――
 同時に、倒れたままブラックキングはデリート光線を吐いた。一兆度の火の玉と交差し、ゼットンを撃つ。
 仰向けに倒れながら消滅するゼットンと、一兆度の火の玉の直撃爆発で濛々と立ち上る爆煙。
 やがて――漂う粉塵が薄れてくると、その中にブラックキングが立っていた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ヤマグチ家二階・カズヤ自室。
「サブロウさん、あのブラックキングおかしいよ!」
 口を尖らせて抗議するのはゼットン使いだったひがしっちー。
「僕の計算では、すでに三回ぐらい倒されててもおかしくないダメージを受けてるのに、全然弱ってない」
 腕組みをして唸るサブロウ。
「う〜ん。やっぱ、これ無敵チート使ってるな。普通じゃ倒せねえぞ」
「じゃあ、どうすればいいんですか!?」
「………………。無敵チートっつーてもゲームの中だけの話だからな。データ自体を消されちまったら、どうにもならないはずだ。つまり……」
「なるほど! あいつ自身の光線を浴びせかければ、ということですね」
 突破口があることに、興奮気味の表情で頷くひがしっちー。
 しかし、言った本人は渋い表情を崩さない。
「でもなぁ。あいつが気づくと思うかぁ? それに、どうやってそれをするんだよ。反射させるとしたって、当たればその時点で消滅確定なんだぞ? 反射する前に消されるのがオチだぜ」
「………………」
 沈黙が落ちた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 都内上空。
 三機のGUYSマシンが港へ向かって飛翔していた。
「それで、その匿名の情報って、信用できるの?」
 ヤマシロ・リョウコが、通信画面上のシノハラ・ミオに問いかける。
 シノハラ・ミオは頷いた。
『ミサキ総監代行から、サコミズ総監自らが連絡を受けた信じられる相手だって聞いてるわ。とにかく、逃げられると厄介だわ。早急にその船に向かって』
『手順はわかってるな、お前ら』
 割り込んできたのはアイハラ・リュウ隊長。
『もちろん』
 答えたのはガンローダーに乗るセザキ・マサト。
『船の臨検はリョーコちゃんとタイっちゃんで、ボクらは上空に待機。船内を二人が制圧できればよし、もし宇宙船なんかが飛び出してきたら、ガンローダーからメテオール照射で地球人の魂を解放する――ですよね?』
『ああ。地球人の魂一つとして、宇宙なんかに持っていかれてたまるか。俺もGUYSアロー1号ですぐにそっちへ向かう。解放の後の撃墜に、ガンローダーだけでは手が足りねえだろうしな。逃がしゃしねえ。……よぉし、行くぞお前ら! GUYS・サリー・ゴー!!』
 まだ雪残る都心の夜空に、G.I.Gの唱和とGUYSマシンの轟音が響いた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】RPGジャンル・大規模戦争型MMORPGエリア

 デリート光線を吐くブラックキングと、それを防ぎ続けるレイガ。
 地球人の意識体達を守るレイガに、ブラックキングに格闘戦を挑む選択肢はない。至近距離で吐かれたデリート光線を躱した時、流れ弾から地球人の意識体を守る術がないからだ。
 左腕に輝くウルトラブレスレットが唯一の攻撃手段だが、今のところそれを使うだけの隙はなく、またどうもいかなる攻撃に対しても無敵を誇っているらしい相手に、どう攻撃したものか思いつかない。
(……このままこれを続けても、埒が明かねえ。さぁて、どうしたものか)
 考えつつも、次々襲い来るデリート光線を円形バリア・ディフェンスサークルで阻む。守りに徹することは、もう苦痛ではない。
 それに、守りに徹することで見えてきたこともある。ブラックキングは、デリート光線を吐く前動作に、必ず首を僅かだが上下に揺らす。それを見てバリアを張れば、基本的に間に合う。
(だが、どうすればいい? 奴を倒すには……無敵の相手を倒す方法は……)
 行動のルーチンワーク化に成功したため、思考に集中しすぎていた。
 突然、後ろに引いていた左足が何かにとられて片膝をつく――その片膝までもが、沈む。
「!?」
 見やれば、ブラックキングのデリート光線が空けた大穴に左足が沈んでいた。
 その隙が命取りになる。
 放たれたデリート光線が、レイガにバリアを張る隙を与えず――その鼻先で炸裂した。
 いつの間にかレイガの前に展開していた巨大な防御魔法陣が、デリート光線の効果で消滅してゆく。
 そして――
 
「がんばれレイガー!!」

 応援の声が聞こえた。
 見れば、退避した連中が離れた丘の上に集まり、黒山の人だかりとなって騒いでいる。

「勘違いしないでよね!? 魂ごと消されちゃうより、あんたの方がまだましだからよ!」
「早くそいつを倒してくれー!」
「出来たら相打ちになってあなたも消えてー」
「ひでーなおいwww」
「でもまあ、気持ちは俺も同じだ」

(よくもまあ、好き勝手に)
 心の中で苦笑し、穴から足を引き抜く。
 どっしりと構えて、再び防御の姿勢をとる。
(しかし、助けられたのも確かだ。守り抜いてみせるぜ、てめえらの魂――)

「ウルトラマンなんだから、あいつと同じデリート光線とか撃てー!」

 誰が放ったかもわからないその一言。
 その瞬間、レイガの脳裏に光が閃いた。
(それだ!!!)
 思わず振り返って声のした方向を指差す。

「バ、バカアアアアアアアアアア!!!!」

 再びレイガのすぐ傍で炸裂する白色光線と、それを防いで消える巨大防御魔法陣。
(うおっ!? あっぶねぇ)
 レイガは慌てて飛びのいた。
 
「戦いの最中に振り返るとか、素人かお前!!」
「魔法だって無限に使えるわけじゃねーんだぞ、このボケ!!」
「次やったらもう知らねーぞ!」
「いいから前向いて戦え!」
「頼りになんねーな!」
「やっぱウザトラマンか、お前!」
「変な期待だけ持たせて、ダメでしたとか、やめてよ!?」

 散々な罵声を背中に浴びながら、レイガは拳を握り締める。
(くっそぉ……こいつを倒したら全員漏れなく現実世界に叩き戻してやるからな、首洗って待ってやがれ!)

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 某所。
 暗がりの中に整然と積み重ねられた無数のモニター画面が光を放つ空間。
 その中に独り佇むゲームマスターに、もう焦りの色はない。
「むぅ……地球人め。ウルトラマンを手助けするとは。自分たちの立場がわかっていないのか? 守られてほだされたか? これだから感情を優先する原始的な知性体は――」
「――お前は地球人を知らなさ過ぎる。それが敗因だ」
 闇に響く静かな男の声。
 ゲームマスターはぎょっとして振り返る。
「誰だ!」
 暗がりの向こうから歩み寄る靴音。そして、近づく人影――郷秀樹。
「……お前は……そうか、もう一人のウルトラマン! ウルトラマンジャックか!」
「地球人は大事なものを守るためなら、良く言えばこだわりなく、悪く言えば無節操に主張を変えられる。柔軟であり、豹変しやすい。唯一の価値観を信じて疑わないお前では、そのしなやかな強さを理解できないだろう――メトロン星人」
「……むぅ。流石に見破られているか」
 空間が振動するかのような音が響き、ゲームマスターは地球人男性の姿から本来の姿へと戻った。オレンジ色ののっぺりした流線型の上体、その両脇を黄色い明滅が上下に走る。
 メトロン星人はその触手じみた手を、郷秀樹に向けた。
「ウルトラマン。これは地球人と私の交渉だ。関係ないお前には、関わらないでもらおう。地球人は私の造り出したこの【ゲームワールド】システムを必要としている。それを、お前の独善で破壊するというのか。地球はお前の支配する惑星ではないはずだ。地球人が望むのであれば、お前に――」
 郷秀樹は掌を向けて、続く言葉を遮る。
「勘違いするな、メトロン星人。私はお前と戦いに来たのではない」
「なに?」
「ウルトラ族の仲間を助けに来ただけだ。邪魔をするなら戦わざるをえないが、そうでないのなら君の手で解放してもらいたい。それを見届ければ、私は何もせず立ち去ろう」
「レイガ……を?」
 メトロン星人はしばし黙り込んだ。ちらりとモニター画面を見やる。レイガはブラックキングのデリート光線を防ぐことに精一杯でまだ反撃に転じる様子はない。
「いいだろう」
 メトロン星人は郷秀樹に顔を戻して、頷いた。
「だが、一つだけ条件がある。レイガに、ここで暴れさせるな。君が責任を持って彼を拘束し、ここから立ち去らせるのだ」
「それは無理だ」
 郷秀樹は首を振った。
「なぜだ」
「言ったはずだ。私は助けに来ただけだと。お前とレイガの間に何があったかは知らないし、どちらが正しいのかも知らない。だから、二人の間の問題に立ち入るつもりはない。地球人とお前の問題に立ち入らないのと同様に、だ」
「ウルトラマン! 貴様は……!!」
 メトロン星人はたじろいだ。
 レイガを解放すれば、ここで自分を狙って暴れるだけでなく、せっかく集めた地球人の魂も全て解放してしまうだろう。それがわかっていて、言っているのだ。
「狡猾な奴め」
「それは、褒め言葉として受け取っていいのかな?」
「いいだろう。今からあいつと交渉する。それまで――」
 交渉中にブラックキングに倒されてしまえば不可抗力を主張して――
 突如、警報音が鳴り響いた。
 慌ててモニターの一つを見やる。船外の様子を撮っているカメラにGUYSマシンが三機、映っていた。その内二機が着陸し、そこから降りたCREW・GUYSの隊員が二人、銃を構えて桟橋を駆け上がってくる。あとの一機は上空を旋回している。
「GUYSだと!? ……ウルトラマン、貴様がここを教えたのか!?」
「まさか。私が来ているのになぜそんな必要がある? ……だが、これで悠長にしてもいられなくなったな。彼をなだめるなら早くした方がいいぞ」
「く……おのれぇぇぇ!」
 メトロン星人は、デスクを殴りつけると郷秀樹に触手めいた腕を突きつけた。
「よかろう。計画自体がここまで破綻した以上、もはやここにいる意味はない。望みどおり今回は手を引いてやろう。奴は貴様が助けてやるがいい」
 メトロン星人の姿が、足元から消えてゆく。
「だが、憶えていろウルトラマンジャック。今回のように、そして以前のように、少し後押しをしてやるだけで地球人はお互いにいがみ合う。いずれ我々が手を下さずとも、この地球は必ず分裂し、地球人同士の手で滅ぼし合うだろう。多様な価値観など、対立しか生まないのだからな。そしてその隙がある限り、メトロンは決して諦めない!! ふあははははははははは……」
 笑い声を残して、完全に姿を消すメトロン星人。
 その数秒後、郷秀樹だけが佇む部屋に二人のCREW・GUYS隊員が乗り込んできた。


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