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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第12話 とらわれし者たちの楽園 その6

 都市の一角に立つ超高層ビル。
 その最高階にある豪華な部屋から、腕組みをして街の風景を見下ろす人影があった。
 ガラス窓越しに見下ろす街は、整然と形作られている。まるで神が配置したかのように、無駄なく。現実世界ではありえない街。
「なかなか発展してきたなぁ。次は、そうだな……人口がだいぶ増えてきてるし、住宅問題か。あ、いや就職率も少し下がってるんだっけな。そっちの対応となると……工場か。立地をどうしようかな」
 人影はデスクについて、パソコンを立ち上げる。その画面には外に広がっているのと全く同じ街があった。
「川向こうは……動線がないか。となると、道路と鉄道の延伸も考えないと――あ」
 メールが届いていた。すぐに開いて確認する。
「――ああ、あーかむ11さんか。そういや航空路の相互乗り入れを打診されてたんだっけ。こっちの費用もかかるなぁ。税金が足りないや。上げるか? いやしかし……」
 腕組みをして唸っていると、影が差した。
「??」
 つられて思わず外を見やると――蒼い身体のウルトラマンが空から降ってきたところだった。
「えええ!? このタイミングで怪獣出現イベントかよ!? うわー、復興費用どれだけいるんだ!? いや待て、戦闘で破壊されれば街の再開発でリデザインしやすくなるか!? ……ってか、とりあえず防衛軍出動だ! ええと――」
 マウスを動かし、いくつかの選択肢を決める。
「ええい、都市経営は災い転じて福となすだ! これを転機にさらに成長させてやる! 目指せ、CITYランク!」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ベ○カ絶対防衛戦略空域『×7R』――
 広大なテーブル状の高原上空は、現実では絶対にありえない数と種類の戦闘機が乱舞し、撃墜されてゆく戦場だった。
 不意に、そこで戦う機体の全てのHUDに、突然ある文字が表示された。
 たちまち、乱舞していた編隊の一部が機首を翻し、エリアの外に向かい始める。
 残る機体もその挙動に戸惑いを見せる。
<<なんだ!? 全軍戦闘停止?>>
<<まだクリア目標は達成してないぞ!?>>
<<ターゲットが逃げるー!! 俺のポイントがー!!>>
<<騒ぐな、ミッションアップデートだ。……どうやら刺激的なミッションが来たらしいぞ>>
<<目標は――SIM−00025893221−MARUKI−TOWN。どうやら怪獣が出現したらしい>>
<<怪獣退治ミッションか。こっちの戦闘中止させるってことは、かなりヤバそうだな>>
<<SIMってことは、シム○ティ系の連中の領域か。時間との戦いだな。早く倒さないとポイントが減るばっかりだからな、あそこのは>>
<<TOWNてことは、まだ発展途上だね。重要施設潰されたら、終わっちまうよ>>
<<……E○Fの連中、航空支援に呼んでくれねえかなー。オレ、怪獣より宇宙船と戦う方が好きなんだが>>
<<どうせ地上戦力では連中も来てるだろうから直接言え>>
<<よーし、ベ○カに致命傷を与えるのは怪獣ぶっ倒してからだ。SIM−00025893221−MARUKI−TOWNに向かう。ミッション参加希望者はHUDの指示に従ってマーカーを追え。行くぞ!>>
 赤き高原の空を、機体の種類もばらばらな編隊が駆け抜けてゆく。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 津川○絶対防衛線。
 海から迫り来る白銀の二脚歩行メカ。海岸線に沿って一列に並び、無人の荒野を行くがごとくに侵攻して来る。
 対するE○Fも海岸線に沿って砲陣地を築き、これを迎え撃つ態勢を整えている。
 そして、白銀の二脚歩行メカが今しも射程に入ろうとした刹那、本部から新たな指令が下りた。

『――緊急警報だ、諸君。SIM−00025893221−MARUKI−TOWNにて身長40mを超える巨大生物の出現が確認された。至急、倒しに向かってもらいたい』

『ちょ……戦闘開始寸前www』
『本部の罠キタか!!??』
『いや、防衛要請だ。このミッションは一時凍結になるな。SIM−00……シムシ○ィ系の怪獣出現イベントだな。参加しておけば、いくらかポイントが稼げる』
『えー? このゲームでポイント稼いで意味あんの?』
『なんだ、お前新人か。じゃあ教えといてやる。一応これにも隠しポイントがあってな。ある程度集めてると、レア武器の出現率が上がると言われているんだ』
『マジ!?!』
『噂だがな』
『ガタガタうるせーぞ新人。侵略者がいたら戦う、それがE○Fだ! 野郎ども、オレたちの世界を守るぞ!』
『Eー○ーF! ○ーDーF! EーDー○!』
『○ーDーF! EーDー○! Eー○ーF!』
『EーDー○! Eー○ーF! ○ーDーF!』

 CREW・GUYSを思わせないでもない、派手な制服を着た一団は、口々に叫びながら戦車やエアバイクに乗って発進してゆく。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 都市に降り立ったレイガ。
 先ほどまでいた『都市のような空間』ではなく、完全な都市だ。
 街路樹が植えられ、ビルには看板が出ている。路上には車が走り、ビル街を人が行き交っている。
 だが、その動きはあまりにも単純かつ整然としており、動きがあるのに生気が感じられない。
(……ここは、どこだ? 現実世界――じゃないのか?)
 現状を確認する前に、街角のあちこちから唸るようなサイレンが響いてきた。
『怪獣警報。怪獣警報をお知らせします。ただいま、巨大人型異星人が出現しました。これよりヒュージサイズシューティング及びヒュージサイズアクションジャンルとのクロスリンクを行い、排除ミッションがアップデートされます。参加したい方は至急各ジャンルのポータルゲートにて登録をお願いします。なお、戦闘による被害が予想されるため、その他のジャンルエリアはこれよりリンクの一時停止を推奨します。クロスリンクサービスをご利用の方はご注意下さい。繰り返します……』
(なんだ? 何を言ってる? 巨大人型異星人? どこだ?)
 足元を見ると、人間を模した何かが蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく。
 そして、入れ替わるように空の彼方から何かが急速に接近してくるのが見えた。
(……なんだ!? 地球の、大気圏内専用飛行体か?)
 レイガは知る由もないが、現実世界で名の知れた戦闘機の編隊だった。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 アフターバーナーを噴かして領域内へと飛来した編隊は、すぐに街中に立ちはだかる巨大な人型異星人の姿を目視した。
 蒼と銀と黒の体色はかなり目立つ。

<<ありゃ。あれ、レイガじゃん>>
<<うわー、とうとうゲームの中でも邪魔者扱いされるようになったのか>>
<<つーか、怪獣扱いて>>
<<これ、現実の方のメーカーが街破壊キャラとして設定してるか、使う予定ってことだよな?>>
<<メーカーテラヒドスwww>>
<<とはいえ、しょせんはターゲットだ。全機手加減無用で行くぞ>>
<<ラジャー。――ターゲット・ロックオン! FOX2! FOX2!>>

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 高速で接近してきたそれらは、接近してくるなり一斉にミサイルを放った。
(なに!? ――くぅ!!)
 とっさに円形バリアを出現させてミサイルの嵐を受ける。凄まじい爆発の連続が大気を震わせる。
 戦闘機編隊はバラバラに分かれ、それぞれに旋回して再びレイガを狙う。
 一方向しか守れないサークル・ディフェンスでは対処できない。
(どういうことだ、何で俺を――まさか、巨大人型異星人って、俺のことなのか!?)
 再びミサイルが放たれた。
 飛び込むような前転で、ミサイルの集中着弾を躱す。それたミサイルはビルやその他の建物に命中して派手な爆発を起こした。
(くそ、なんだこれ!? 反撃していいのか!?)
 スラッシュ光線を放つ構えをしたものの、最後の一振りが出せない。
 ここは現実世界ではないはずだが、確証が持てない。もし、まかり間違って搭乗者を殺してしまったりしたら……エミ師匠やユミの笑顔が消える想像が頭をよぎる。
(く……くそうっ! ダメだ!)
 その時、背後から攻撃を受けた。炸裂する爆発。針を刺すような痛みが足を襲う。
 振り返ると、CREW・GUYSに似た制服を着た一団が、こちらに向かって銃火器を発砲していた。
(なんだ!? 今度は――ぐわっ!)
 一団の放ったロケット弾が顔面に炸裂して、レイガは仰向けに転倒した。
 そこへ、戦闘機のミサイルが雨あられと降り注ぐ。
(ちょ、ちょっと待て……!)
 両手でかろうじてミサイルを薙ぎ払うものの、捌ききれる数ではない。たちまちレイガは爆炎に飲まれた。 

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ヤマグチ家二階・カズヤ自室。
 勝手に開いたウィンドウ上で繰り広げられている戦いを見ていたサブロウは目を剥いて叫んだ。
「なんだ、これ……なにがどうなってる!? なんでレイガが攻撃を受けてるんだ!?」
「攻撃してるのはF−15、F/A−18、ラファール、タイフーン、F−22に、YF−23もいる? F−35まで!」
 同じ画面を見ているカズヤが、手早く画面を横切る機体を確認してゆく。
「それから……今のはSu−37に、こっちのはMIG−25、いや31か? なんだこの混成編隊。こんなの現実にあるわけない!」
「どういうことだ、カズヤ!」
「わからない。でも多分、これゲームだ。まだレイガはゲームの世界にいるんだ!」
「なんだと!?」
 レイガを包んだ爆炎が晴れてゆく。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネスト・ディレクションルーム。
 突然メインパネルで強制的に開かれたウィンドウで展開される光景に、CREW・GUYSの一同は呆気に取られていた。
「――ゴンさん、これはどこのライブ映像だ? なんでレイガがやられてる?」
 画面から目を離さずに聞いたアイハラ・リュウに対し、イクノ・ゴンゾウはすぐにコンソールを操作した。
「……日本じゃありませんね。というか、ライブ映像でもないのか? どこから来ているかわからない?」
「おいおい、どういうことだよ」
「これ、テレビ電波に乗って受信されてますね。発信源は――特定できません」
「どういうことだ? なにが起きてる?」
「――隊長!」
 アキヤマ・ユミの通報を聞いていたシノハラ・ミオが、携帯を押さえて呼ぶ。
「アキヤマ・ユミさんからの通報です。あれはゲームの世界だと」
「はあ?」
「ああ、確かに」
 セザキ・マサトが相槌を打つ。
「この現実にはありえない編隊構成といい、どこかで見たような陸上兵力といい」
 そう言いつつ、手元のコンソールをいじって映像の一部を拡大する。
 見たことのない、しかしどこかで見たことのあるような制服を着た一団が、レイガに向かって射撃を続けている。
「ミオ、通報ってなんだ。なにを知らせてきたんだ?」
「彼女は、【ゲーム病】は異星人の仕業だと。そして、被害者を救うためにレイガがゲーム機の中へ飛び込み、捕らわれていた魂を救い出した後、どこかへ連れ去られてしまったということなんですが」
「【ゲーム病】が異星人の仕業? んで、ゲームの中へ? なんだそりゃ。――なにが起きてるのか詳しく聞き出せ。ゴンさん、警戒警報出せ!」
「「G.I.G!」」
 二人が答えたちょうどその時、画面から声が流れてきた。

『……全世界の地球人に告げる』

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 レイガは黒く立ち昇る爆煙を突き抜け、空中へと逃げた。
 直ちに戦闘機編隊がそれを追う。
 間断なく発射され続ける後方からのミサイルを必死で躱し、地球の戦闘機では決してなしえない三次元機動をするも、数の差はいかんともしがたい。
 中には追いかけてくるだけではなく、こちらの回避行動を読んで先回りしているものもあり、全ての攻撃を躱すことは出来ない。
 そんな中での、突然のアナウンス。

『現在、君達が【ゲーム病】と呼んでいる現象について、真実を報告する時が来た』

(黒幕登場か!? どこだ?)
 周囲に目を配れば必然、戦いへの集中力は削げる。
 立て続けにミサイルが背中で炸裂し、レイガは墜落した。

『彼らは病気ではない。まして、ゲームのやりすぎで脳が変質したなど、原始的見解にもほどがある。彼らは、捨てたのだ。現実を。そして、その重い肉体を』

(うああああああああっっっっ!!!!)
 都市のど真ん中、野球スタジアムの中にレイガは頭から落下した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

『――私が何者であるかは、どうでもいいことだ。君達が知りたいのは、なにが起きているかということのはず。まず、それを説明しよう』

 とある商店街の電気屋。
 商店街に面したショーウィンドウに設置されているテレビの画面に、道行く人々が集まっていた。
 その中に、革ジャン・サングラスの男も。
 男は腕組みをしたまま、じっと画面を見据えている。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

『地球人社会において、つまはじきにされた者、いないことにされた者、何らかの解決し得ないプレッシャーを受けている者、性格的・能力的・思想的に社会の要請に添えぬことを自覚しながら社会にとけこむよう強制されている者など、社会から孤立した、いわゆる君達が【社会の落ちこぼれ】と呼び、蔑みながらも救うことも排除することも出来ずにいる彼らを救うために、私はこのシステムを作った』

 都心・超高層ビルの最上階社長室。
 重役椅子に身を沈め、大型テレビの画面を見つめる馬道龍。
 その傍で息を呑んでいる秘書カノウ。
 机の上には今置かれたばかりの湯飲みが、湯気をやんわり揺らめかせていた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

『彼らはもはや君達の生きる現実の中にはいない。意識を失って動かぬ肉体の中にはいない。ここにいる。君達の原始的な例えで説明するなら、魂だけの存在となって、【ゲームワールド】の中で新たな、そして望んでいた自由を謳歌している。君達の元にあるのは、ただの抜け殻だ。さっさと処分することをお薦めする』

 とある病院の待合室。
 ロビーに置かれた大型テレビに、患者、見舞い客、病院スタッフの全ての視線が集中している。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

『言っておくが、彼らの魂は私がさらったのではない。彼ら自身がこの世界、【ゲームワールド】で生きてゆくことを選択したのだ』

 ヤマグチ家二階・カズヤ自室。
「なに言ってやがる!」
 サブロウは机に両手を叩きつけて、モニター画面に叫んだ。
「おさむっちーくんを人さらい同然に連れ込んでおいて! しかも、意にそわねえと見るや削除しにかかりやがったくせに、ふざけんじゃねえぞ! ……くそ、何か……何か手はないのか。こうして見てるだけなのか! ……シロー!!」
 ふらつきながら立ち上がるレイガに、地上・上空から再び集中攻撃が続けられる。
 着弾するたび飛び散る土煙で、その身体はほとんど土色に染まりつつあった。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

『なぜ彼らが肉体を捨て、この世界に来ることを選んだのか。それを今さら私が説明するまでもないだろう。君達の方がよくわかっているはずだ。彼らをその選択肢へ追い込んだのは、彼らの悩み・苦しみを踏み台として現実世界で自由を謳歌する君たちなのだから』

 フェニックスネスト・ディレクションルーム。
 必要な報告以外、誰も口を開かない。
 だが、険悪な雰囲気が流れているのは確かだった。特にアイハラ・リュウとクモイ・タイチの表情が険しい。
 シノハラ・ミオはユミに一旦通話を切ることを告げて、携帯を閉じた。

『だが、私はそれを非難しない。君達の社会はまだ未熟で原始的であり、君達自身もそうであるからだ。弱者を仕立て、それを踏みつけにすることによって成り立つ社会。今はまだ、君達にはその程度の文明社会しか築くことも、維持することも出来ないことは承知している。だからこそ、私が彼らを救うのだ。そして、この件について君達の承諾も協力も必要としない』

「……へぇ。てっきり全員こっちへ来いってお誘いかと思ったのに」
 セザキ・マサトの軽口にアイハラ・リュウだけがちらりと視線を動かしたが、すぐに画面に戻した。

『だが……今、その自由と平穏を脅かす存在がこの【ゲームワールド】に侵入してきた。――彼だ』

 スタジアムに倒れ伏したレイガがクローズアップされる。
「レイガちゃん……」
 痛ましげに顔を歪めるヤマシロ・リョウコの横で、黙ったまま腕組みをしているクモイ・タイチ。その眼差しは明らかな怒りを宿していた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ヤマグチ家二階・カズヤ自室。
 倒れ付したままのレイガ。
 それを各々の携帯ゲーム機で見ているしかない小学生たちと高校生。
「……レイガ、起き上がらないよ? もうダメなのかな」
 ポツリと漏らすテッちゃんの声は力がなく、他の三人も答がない。
 そんな小学生たちの様子を見守っていたエミは、不意に両膝立ちになって拳を真っ直ぐ畳に突き下した。
 女子高生とは思えない重い打撃音が響き、衝撃が小学生たちの尻を揺らす。
「めそめそするな男の子っ!!」
 拳を握ったまま言い放ったその一言に、小学生たちはきょとんとしている。
「レイガはこんな逆境、何度だって乗り越えてきた! 君たちが信じて、応援しないで、誰が応援すんのさ!」
 顔を見合わせる四人。
 しかし、ひがしっちーはまたすぐ暗い表情に戻った。
「でも、このままじゃレイガはいずれ……」
「それでも、シロウは勝つ!」
 エミは腕組みをして、ひがしっちーをきつく見据えた。
「レイガは! シロウは! 背負った思いを力にして戦える漢なんだから! 背負う思いが多ければ多いほど、あいつは強くなれる! 絶対に勝つ!」
「でも……」
「不安だからこそ、信じようよ」
 そう口添えしたのは、ユミだった。
 サブロウがカズヤと何か小難しいことを話している隣の部屋から入ってきたユミは、エミの隣に正座して、ひがしっちーににっこり微笑んだ。
「ダメかもしれないって思っちゃうってことは、ダメになって欲しくないってことだよね。でも、自分でどうしようもない時は祈るしかないもの。……シロウさんのお兄さんも、ヤマグチさんもがんばってくれているし、CREW・GUYSの人たちも動き始めてるはずだもの。きっと、力を合わせれば何か突破口は開けるよ」
「お姉ちゃん……」
「ユミ……そうだね」
 エミがユミの肩を抱き寄せ、ぽんぽんと肩を叩く。
「うん。大丈夫だよ。絶対に――」
 その時、階下でインターフォンが鳴り響いた。さらにほとんど間髪入れず、玄関が開く音が。
 そして、二階にまで届く元気な声。
「こんにちはー!! しっつれいしまーす!! おじゃましまーす!!」
 どたばたがだどしと階段を駆け上がる音が挨拶の声とともに近づいてきて――
「みんなー!!! ぼく、帰ってきたよー!!」
 雪まみれで半泣きのおさむっちーが飛び込んできた。
「おおお! おさむっちー!! おさむっちー!!」
 てるぼんがゲーム機を放り出して駆け寄る。てっちゃん、ひろちゃん、ひがしっちーも集まった。
「大丈夫だった?」
「身体の具合はどう?」
「魂が身体を抜けてた間のことも覚えてるの?」
「うん。大丈夫、全然なんともないよ。みんなと、シロウ兄ちゃんのおかげで戻って来れた。シロウ兄ちゃんは?」
 目を輝かせて部屋の中を見渡すおさむっちー。しかし、そこに求める相手の姿はない。
「シロウ兄ちゃんなら、あそこで戦ってる」
 そう言っててっちゃんが指差したのは、パソコンモニター。
「え? なんで? まだ戻って来てないの?」
「それが……」
 別段自分たちが悪いわけでもないのに顔を見合わせた小学生たちは、お互いに頷いて同時に切り出した。
「……おさむっちーを助けた後、怪獣にさらわれちゃったんだ」
「そんで、今おさむっちーをさらった悪の親玉が演説してるとこ」
 四人はおさむっちーを促してサブロウの後ろへと近寄っていった。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】内・野球スタジアム。
 その時、グラウンドに倒れ伏したレイガは、自分にだけ向けられた黒幕の別の声を聞いていた。
(――くくく、どうしたウルトラマン。やけに大人しいではないか。地球人を傷つけるのではないかと心配しているのか? 相変わらずお優しいことだ)
(なん……だと……?)
 言われて、反発する心に火がつく。知ってか知らずか、声はなおも煽る。
(だが、反撃しても大丈夫だぞ? なにしろ連中は死ぬことがない。身体を持たず、おのれの意識体をキャラクターに同化させているだけだからな。【ゲームワールド】はゲーム世界で生きるのではなく、ゲームを体験して遊ぶ空間なのだ。生身で来てしまった君がどうなるかは保障しかねるが、君の反撃ですら、彼らはゲーム内のイベントとして楽しむだけだ。そして、この【ゲームワールド】の創造主として、私は君に彼らを楽しませて欲しいのだがね)
(勝手なことを!)
 見えないが、音が聞こえる。空気を裂いて飛来するあの音は、地球の大気圏内専用飛行体だ。
 勢いよく起き上がったレイガは、両腕を左へ伸ばした。それを右へ回して光を集め、立てた右腕に左拳を当てる。
 放たれたレイジウム光線が虚空を薙ぐ。飛来していた戦闘機編隊に命中し、数機が爆発炎上した。
(――こいつらなんぞどうでもいい! 出て来い黒幕! 俺と勝負しやがれ、こらぁっ!!)
 両拳を握り締めて気迫を放つ。周囲に漂っていた土煙が霧散した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――
 
 【ゲームワールド】内。
 思わぬ反撃で戦力の半分を失った戦闘機編隊は動揺した。

<<ちょ、今さら反撃とかwww>>
<<メーデー! メーデー! 直撃を食らった! 戦闘継続不能! 離脱する!>>
<<チョッ○ー!! がんばるんだ○ョッパー!!>>
<<てめー、縁起でもねえこと叫ぶなー!! おぼえてやがれー!>>
<<イジェークト!>>
<<ああっ、くそっポイントがぁぁ!>>
<<……残った各機は慌てず距離を置いて態勢を立て直すんだ。あの攻撃は現実と同じ予備動作を必要とする。よく見ていれば躱せる>>
<<オレは何度か怪獣退治ミッションに参加したことがある。もう少しで倒せるはずだ>>

 大きく弧を描いて仕切り直す戦闘機編隊。

 一方、地上の戦力はレイガに向かって包囲攻撃を仕掛けていた。
 スタジアムの中にまで入り込み、観客席や通路に隠れて攻撃をする。
 しかし、レイガは再びレイジウム光線を放つと、ぐるりと一周を全て破壊してしまった。

『ぐわああああああああああ』
『ぎゃああああああああああ』
『なんだそりゃああああああ』
『本部、応答してください本部! 光がー!!!』
『……なんという攻撃力だ……』

 スタジアムの外に待機していた少数戦力による散発的な攻撃に対して、スラッシュ光線で壊滅させたレイガは空を見上げた。
 態勢を立て直すために距離を置いていた戦闘機編隊が戻ってきている。

<<E○Fの連中が全滅だと!?>>
<<おい、なんかおかしくないか!? いつもの怪獣イベントにしちゃ、強すぎる>>
<<つうか、怒ってるように見えるんだが。いつからイベント怪獣に感情ロジック積んだんだ?>>
<<心を乱すな。ED○の連中が全滅したのなら、我々がやればいいだけだ。行くぞ――ん>>

 地上からレイガの姿が消えた。

<<消えた? どこ――>>
 レーダーの反応と同時にコクピットに影が落ちた。音速近くで飛んでいる戦闘機のコクピットに。
 思わず見上げた視界に、銀色の巨大な顔。
<<な――>>

 チョップ一閃、先頭を飛んでいたF−22ラプターはへし折れた。
 さらにその場で回し蹴り。
 後続のF−15とMIG−31が爆砕した。

<<ちょ、なんだぁ!?>>
<<戦闘機を素手で叩き落すとか、どういう思考ルーチンだよ!?>>
<<つーか、これ本当にただの怪獣イベントなのか!? 絶対おかしいって! こんなん無理ゲー――>>

 回し蹴りは危うく避けたものの、後方から追われて殴り飛ばされたSu−37が火ダルマになる。
 残る機体は三機。それぞれにアフターバーナーを噴かして戦域離脱を図る。
 それを追うレイガの飛行速度の方が、明らかに速い。距離は開くどころか、あっという間に消えてなくなる。
 レイガは飛びながら、両腕を左へ伸ばした。それを右へ回す。光がその軌跡に沿って集まってゆく。

<<おい、おいおいおいおいおいぃぃ、この距離でか!?>>
<<嘘だろぉぉぉ!?>>
<<ふざけんな、なんだこれぇぇ!?>>
<<誰か、誰か援護を! 誰か助けてー――>>
<<ブレイク! ブレーイク!!>>

 立てた右腕に左拳を当てると同時に蒼い光の帯が空を走り、バラバラに散開して逃れようとした三機を順に叩き落した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】内・都市の一角に立つ超高層ビル。
 その最高階にある社長室から状況を見ていた人影は、驚愕のあまり叫んでいた。
「えええええええええ!!?? ちょ、ちょっと! これ怪獣イベントじゃないの!? 防衛軍側が、それも高いポイント支払って召還した防衛軍が壊滅するなんてありかよ? もう税金も軍備もないぞ!? これどうすんのさ!?」
 その時、パソコンが軽やかな音楽を流し、メールが届いた事を知らせる。
「なんだ? 誰だ?」
 このタイミングのでメールに、人影は一も二もなく飛びついた。慌てて開く。
「……レイヤード・シティからの応援の申し出? こっちは……ASAMAYAMA・TOWN? あーも、どこでもいいよ、助けてくれるなら!」
 人影はすぐに受諾の手続きを取って返信した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 某所。
 暗がりの中に整然と積み重ねられた無数のモニター画面が光を放つ空間。
「ふむ。まあ、この程度はな。面白くなるのはここからだぞ。くくく」
 人影の手が空間に浮かんでいるコンソールをまたいくつか操作する。
「さあ、ウルトラマン。戦うがいい。そして、浴びるがいい、【ゲームワールド】の住人たちの生の感情を。地球人の欲望の声を。地球人など、お前が思っているほどには他者を思いやりなどしないことをその身で感じるがいい。そして、愛する地球人どもに倒されるがいい」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ヤマグチ家二階・カズヤ自室。

 レイガが街中へ降り立つ。
「いよっしゃらああああっ!!! よくやったレイガ!」
 一番派手なガッツポーズを取ったのは、椅子を蹴倒して立ち上がったサブロウ。
 その背後でも小学生と高校生がハイタッチで喜び合う。
「ざまーみろだ!」
「シロウ兄ちゃん、やっぱり強い!」
「あったりまえじゃん、あたしの弟子だもん!」
「シロウさーん♪ やったー♪」
「まあ、相手が相手だからねぇ」
「やったやった」

『ああ、なんということだ』

 再び、あの声が響いてきた。喜びに水を差され、一斉に画面を見やる一同。

『親愛なる地球人諸君。見ていただけただろうか。君たちも知る彼、ウルトラマンが我々の防衛戦力を壊滅させてしまった。現実世界に影響を持ちえぬ、ただこの世界を守るためだけのものを、彼は無慈悲に打ち倒す。この暴虐。この蛮行。彼の目的など、もはや火を見るより明らかだ』

 戦い終わって大きく肩を上下させているレイガをアップに映す画面。

「社会的弱者に貶められた者たちが、絶望や心労の果てにようやくたどり着いたこの世界へと、彼は無粋かつ横暴にも無断で侵入し、その平穏を破ろうとしている。独り善がりな正義を振りかざし、この弱者救済のシステムを破壊してしまおうと目論んでいる。地球人諸君、これがウルトラマンだ。地球の社会を守るため、ようやく産声をあげた【ゲームワールド】を破壊してしまおうというのだ』

「なに言ってやがる。なにも知らねえレイガをそっちに引き込んで抹殺しようって魂胆だろうが!」
 どっかり椅子に腰を落とし直すサブロウ。
 その背中にぴったりひっつくようにしてモニター画面を見やる小学生。女子高生二人はカズヤのモニターに回っている。
「シロウ兄ちゃん勝ったから、戻ってくるんじゃないの?」
「戻す気ないんじゃないか? だって、こいつが黒幕だろ?」
「なんか、シロウ兄ちゃんを悪者にしようとしてない? こいつ」
「ちょっと待って」
 てんで勝手な口を開いていた小学生たちは、てっちゃんの制止に一斉に口をつぐんだ。
 画面に異様なものが映っていた。
 視聴者に配慮するかのように、土埃まみれになった青い巨人のバストアップ映像から大きく引いてゆく。
 都市を分かつ川の向こう岸にたなびく戦塵。地平の彼方から大挙して押し寄せてくる新しい軍勢。
 それは、機械の軍勢だった。前衛に居並ぶのはレイガの身長の三分の一ほどの、いかにもメカメカしいロボット部隊。その後方上空にはレイガに負けず劣らずの巨大な――そして派手なカラーリングのロボット軍団。巨大な戦斧を担いだものや、背中に赤い翼を背負った西洋甲冑を思わせる黒いロボ、胴体がドクロのような形状のロボ、日本の兜を思わせる角飾りのロボなど。そのレパートリーは多種多様だ。

「なにこれ」
「ロボット軍団? 後ろのはスーパーロボット!?」
「前のには四脚とかタンク脚とかあるね」
「ああ。あれは確か、3Dメカアクションゲームのロボット型機動兵器だな。アーマーなんちゃらとかいう」
「あの赤くて腕組みしてる、マント付のロボット……どこかで見たことが……」
「ていうか、後ろのは全部どっかのアニメとかのロボットだよね?」
「世界観ゴチャゴチャになってきたな。なんだこれ」

『――彼らは、現実を捨て、【ゲームワールド】を選択した住人だ。この暴虐の輩に対し、立ち上がった戦士たちだ。自らの生きる世界は、自らで守ると決めた者達だ』

 画面がずらりと並んだロボット軍団を舐めてゆく。その総勢は数十体にも及ぶ。
 軍団はじっとレイガを見据え、歩調を揃えて迫り来る。
 レイガも軍団をじっと見据えている。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】内。
 都市の一角に立つ超高層ビル。
 その最高階にある社長室から状況を見ていた人影は、その恐るべき光景を前にガラス窓にへばりついていた。
「ちょ、ちょっと待て! そんな戦力に暴れられたら、この街が……再開発どころか廃墟になるー!! やぁぁめぇぇてぇぇぇ!!!!」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

『無論、彼らは【ゲームワールド】の中でも、このゲーム空間の中でしか戦えない存在であり、現実世界には全く関与できない。その彼らの勇気ある戦いを、とくとご覧いただこう。そして、これを見ている諸君にはこれを警告として受け取っていただきたい。いかなる者がいかなる手段でこの【ゲームワールド】へ侵入・干渉しようとも、この世界へ逃れた者達の自由と平穏を乱し、現実世界へと引き戻そうという試みに対しては、断固対抗し、排除するということだ』

 ヤマグチ家二階・カズヤ自室。
「――なるほど」
 憮然たる口調で納得したのは、サブロウ。その横顔には焦りの色がよぎる。
「おさむっちーくんのように引き込んだ地球人の魂を使って、戦わせようってわけか。けど……これは……さすがにレイガでもやばくないか……?」

『繰り返す。【ゲームワールド】は現実世界に干渉せず、現実世界からも干渉もさせない。ここは現実で生きられぬ者の最後のよすが。本日は特別に、ここを踏み荒らす者の末路をとくと見せて差し上げよう』

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネスト・ディレクションルーム。
「おやおや。強気ですね。現実世界に対する反撃能力もないのに、こんな風に出られるもんですかね」
 セザキ・マサトの批評に、アイハラ・リュウの表情が動く。
「現実世界にもなにか影響を及ぼせるということか」
「ネットを通じて何かする気かも。今現在ですら、通信回線や電波関連を抑えられているわけですし。奴のこと、通報者にもう少し詳しく聞いてみた方がよさそうですね」
「任せる」
「G.I.G。――ミオさん、携帯借りるね。アキヤマさんと話したいんで」
 返事を待たずに置いた携帯を取り上げると、リダイアル機能でアキヤマ・ユミの携帯へかけ直した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 とある商店街の電気屋。
 商店街に面したショウウィンドウに設置されているテレビの画面を見入る人々の間で、論議が起きていた。
「要するに、その【ゲームワールド】とかいうのが、社会不適応者を引き取ってくれるってことだよな?」
「こんなの、余計なお世話だろ」
「いや、そうとも言えないんじゃないかな。引きこもりとかニートの問題が片付くかも」
「こんな簡単に片付いていいわけないだろ」
「でも、そんなやつら生かしておくのは無駄じゃん。【ゲームワールド】とかの方で引き取るって言ってんだから、もらってもらえばいいんだよ。やる気のあるやつだけ残れば、この世はハッピー」
「無茶苦茶言うな。そんな簡単に生かしておくのが無駄とか言うなよ。引きこもってる人だって、好きでそうなった人ばかりじゃないんだ」
「そんな風に甘やかすから、社会のお荷物になるんだよ。あいつらが受ける社会サービスは、俺達働いてる人間や子供までが支払ってる税金で成り立ってんだぞ。働けるのに働かないのは、責められて当然じゃねえか」
「引きこもりやニートじゃなくても、働きたくても働けない人だっているんだぞ! 働かない奴は生きてる資格がないみたいな言い方するな! むしろ、お前みたいに人の気持ちってものを考えない奴こそ【ゲームワールド】に行って欲しいね。人を傷つける言葉を平気で吐けるような奴こそ、この社会にいらないよ」
「なんだてめぇ、さっきから聞いてりゃ……ケンカ売ってんのか!?」
「売ってんのはてめえだろうが! 物事はそんな単純じゃねえんだよ、このゆとり野郎!」
「俺は昭和生まれだ、バカ野郎! ゆとりなんかと一緒にするな!」
「その物言いが――」
 掴み合いのケンカが始まり、周囲の人間が慌てて二人を囲んで分ける。
 その様子を腕組みをしてじっと見ていた革ジャン・サングラスの男は、レイガの映る画面を見据えて呟く。
「……そうだ。簡単な解決法などない。地球人の問題は、一つ一つ、地球人自らの手で解きほぐしていかなければいけない。レイガ……そこで戦っているということは、お前もその結論に至ったのか……?」
 腕組みを解いた男は、騒がしさを増す電気店の前から歩き去りながら左手首を撫でた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】内。
 ずらりと居並ぶロボット軍団。
(さすがに、これはヤバイな……)
 この空間では何か特別な仕掛けがあるのか、いまだにカラータイマーが鳴らない。
 とはいえ、精神的な疲れはピークに達していた。肉体的にもダメージは受けている。
 相手が何者かはわからないが、見た目で判断する限りキング・ジョーとかのロボット系統らしい。疲れを知らずに攻め込んでくる連中を相手に、今の状態でも勝てると思い込めるほど、もうバカではない。
(くそ……ここは一時撤退するしかない、か)
 レイガは両手を頭上に伸ばして、空へと飛び上がった。そして、最高速で空の彼方目指して飛び去る。
 しばらく行ったところで、違和感を感じた。
 上空から見る地上の風景が、いくらか進むと元に戻る。ロボット軍団から遠ざかる方向へ飛んだのに、その背後へと回り込んでいる。そしてその上空を通過して、再びロボット軍団に背を向けて飛ぶ――を繰り返している。
 テレビ画面の右端へ進むと左端から出てくるように、進んでも進んでも位置が変わらない。眼下に見える都市の上空を、ずっと飛び続けている。
(なんだこれは……空間が捻じ曲げられているのか!?)
 戸惑っているうちに、置き去りにしたはずのロボット軍団の何機かが上空へと上がってきてしまっていた。
 放たれる迎撃のミサイルやら色とりどりのビーム。それを躱しながら、なおも飛び続ける。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ヤマグチ家二階・カズヤ自室。
「これは……」
 サブロウの表情が険しくなった。
 後方へ置き去りにしたロボット軍団からの攻撃が、ある時、不意に止まり、今度は前方から襲い掛かる。
 飛行していたレイガが明らかに戸惑って方向転換するものの、同じ光景が繰り返される。
「サブロウ兄ちゃん、これって……」
 険しい表情で効いてくるエミに、サブロウは頷く。
「まずいな……どうやら【ゲームワールド】から脱出できないらしい」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 【ゲームワールド】内・都市上空。
(くそ、出口はどこだ!?)
(――出口などない)
 笑いを含んだ黒幕の声がまた聞こえてきた。
(……こいつは……テレパシーか。やっぱりてめえ、地球人じゃねぇな?)
(逃げられはせんよ。ここは私の世界だ。……くくく、君はここで地球人の手によって倒されるのだ)
(てめえ、出て来い! 地球人のことなんざどうでもいい! 俺は、お前と――)
 テレパシーで怒鳴りつけ、上の空になった瞬間にロボット軍団の総攻撃が始まった。
 躱しようのない密度で襲い掛かる弾幕。ミサイル、ビーム、巨大手裏剣、レーザー、火炎、斧のような武器、エネルギー球、弾丸、斬撃、電撃、空間の歪みっぽい何か、色とりどりの光線、飛ぶ拳、ドリル、爆弾……etc,etc。
 咄嗟に円形のバリアを出して相当数を防いだものの、すぐにバリアは耐久力を失って砕けてしまった。防ぎ尽くせなかった分と追い撃ちをその身で受けてしまったレイガは、そのまま再び都市に向かって落下した。
(く……そ…………)
 そして、その落下途中で空に溶けるようにして消えた。


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