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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第11話 封印怪獣総進撃 その8

 フェニックスネスト・ディレクションルーム。
「総監! 現場の東側、サス沢山頂上付近に新たな影!」
 ミサキ・ユキの声に応じたかのように画面がそちらへ向き、クローズアップする。
「……お地蔵さん?」
 サコミズ総監が怪訝そうに顔をしかめる。
 確かにそれは、巨大なお地蔵さんだった。石質柄の肌に石質柄の法衣、喉元に赤いよだれかけ。右手に遊環(ゆかん)の6つついた錫杖を携えている。
 イクノ・ゴンゾウがすぐに検索を終え、伝える。
「――もう一体はドキュメントMATに同種族確認、レジストコード・発砲怪人グロテス星人です!」
 クローズアップされる金色の異星人。身体を揺らして笑っている。
「だとすると、あのお地蔵さんは……」
「はい。おそらく、グロテスセルを用いたものだと思われます」
「でも、お地蔵さんだなんて……」
 ミサキ・ユキも呆気に取られている。
 サコミズ総監は、厳しい表情で頷いた。
「ともかく、これよりあの巨大地蔵をレジストコード・コダイゴンザサードと呼称する。ミサキさん。リュウに対処を伝達」
「はい。――リュウ君、聞こえる?」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ガンフェニックストライカー。
 突如出現した二体について、フェニックスネストからの通信で理解したアイハラ・リュウは吐き捨てた。
「んだってんだ、このクソ忙しい時に!!」
 モニター画面で、他の三人も頷く。
 一方、空気を読まない侵略者は得意げに宣言をぶち上げていた。
『ふははははは、ウルトラマン。それに地球の防衛隊、ここがお前たちの墓場となるのだ! もはや疲れ果て、戦う手段もなくしたお前たちに勝ち目は無い! この地球は、今度こそ我らグロテス星人がいただいた。やってしまえ!』
『バチアタリメっ! バチアタリメっ!』
 どういう基準で選ばれた言葉なのか、外見にそぐわぬ甲高い――まるで九官鳥のような声。
 だが、その足取りは重々しく、ゆっくりと斜面を下り始める。
「……くそ、エンマーゴ一体だけでも攻めあぐねてるってのに! つうか、閻魔大王にお地蔵さんに烏帽子頭の宇宙人って、どういう取り合わせだよ!? 今日は仏滅か!?」
『いやもー、まさに神も仏もない展開だよねー……』
 モニターのヤマシロ・リョウコがうんざりした顔で、力無く呟く。それが余計に苛つく。
「言ってる場合かっ!」
『ちょ……隊長が先に言ったんじゃん!』
『――リュウ君、レジストコード・コダイゴンザサードは無視していいわ。グロテス星人を先に倒して!』
 ミサキ・ユキの指示に、アイハラ・リュウは戸惑った。
「え? でも」
『ドキュメントMATによれば、当時グロテス星人に操られていたレジストコード・魔神怪獣コダイゴンは、星人が倒されると巨大化が解けて元のサイズの御神体に戻ったそうよ。だから、迅速に』
「なるほど。……んじゃ、CREW・GUYSはこれよりグロテス星人を撃滅する! 行くぞ、お前ら!!」
 G.I.Gの唱和と共に、ガンフェニックストライカーのアフターバーナーに火が点いた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「デュワっ!!(どうする、ジャック!)」
 グロテス星人と巨大地蔵に気づいたレイガの問い掛けに、新マンはエンマーゴを見据えて構えたまま動かない。
 レイガのカラータイマーは点滅を始めている。
「ジュワ(あちらは地球人に任せるんだ。今はこいつを倒すのが先決だ)」
「シュエアッ!(だが、埒が明かないぜ、こいつ。何か手があるのか)」
「……………………」
 じりじりと迫ってくるエンマーゴに対し、二人も同じだけじりじりと後退する。
「ヘアッ!(ないのかよ!)」
「デア(ともかく――攻めるしかない!)」
 そう言い放つと、新マンは一転エンマーゴの間合いへと踏み込んだ。
 待ってましたとばかりに青龍刀を振るうエンマーゴ。
 それを右へ、左へ体を捌いて躱し、青龍刀を握る右腕の内側へこちらの左腕の背を当てて防ぐ。無防備になった右足に蹴りを入れ、右腕で盾を持つ左手を制して、腹部を蹴り飛ばす。
 この戦いが始まって初めて、エンマーゴがたたらを踏んで後退した。
 が、すぐに黒煙を口から噴き出した。 
 追撃をすることができず、大きく後方へ飛び退る新マン。間一髪、青龍刀が黒煙を薙ぎ払う――
 そこで、レイガが参戦した。
 エンマーゴの右手に回り込んでいたレイガは、姿勢低く突進し、その腰に組みついた。
 得意のタックルでの引き倒しを狙ったものだったが、エンマーゴは倒れない。数秒、力比べのように押し合った後、背中に青龍刀の柄頭を叩き込まれ、地に伏した。間を置かず、踏みつけてくる足を転がって躱す。さらに離れると、青龍刀が大地を切り刻むように何度も襲い掛かってくる。転がって転がって躱し続ける――
 その刹那、新マンのスペシウム光線が走り、それを受けた盾の表面で火花が散った。
 気をそらされた隙にレイガは青龍刀の虎口を逃れ、立ち上がって態勢を立て直す。
「ジェアッ! シュアッ! ディエアアアアッ!!(くそ、なんだこいつ! 強すぎだろう!? 怪獣のくせになんでこんなに!? まるでクモイの奴を相手にしてるみたいだ!)」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 地球の戦闘機が向かってくるのを確認したグロテス星人はほくそえんだ。
「くくく、思ったとおりの動きだ。だが……それが間違いだとすぐにわからせてやろう!!」
 腕をの前方に伸ばし、拳の先に突き出した二本の機関砲筒から弾丸を放つ。
 地球の戦闘機は反撃してくるものの、射線を避けて大きく旋回せざるをえない。命中率も当然下がる。
 その間に、自重によってか地蔵は滑るように湖へと降りてゆく。
『バ〜チ〜ア〜タ〜リ〜メ〜っ!』
「跳べ! 行け! そして、火を放つのだ!!」
『バチアタリメっ!』
 グロテス星人の命を受けたコダイゴンザサードは、斜面を蹴って大きく跳ねた。
 行き先はダム――ではなく、対岸で凍りついたまま放置されているズラスイマー。
 地響きと共にその傍へ着地した巨大地蔵は、手から炎を噴き出して、ズラスイマーを溶かし始めた。
『バ〜チ〜ア〜タ〜リ〜メ〜っ!』
 戦場の空気が目に見えてわかるほど緊迫した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ガンフェニックストライカー。
「あの野郎!! なにしてやがる!?」
『冗談じゃないわ、これ以上は手に負えない!』
『泣き言言ってる場合かシノハラ隊員。……どうする、隊長』
『分離して、バラバラに攻撃を仕掛けるしかないんじゃないかな』
 歯を食いしばったアイハラ・リュウは、しかし首を振った。
「いや、どちらにしろグロテス星人を倒さなきゃならねえんだ。向こう岸のことは後だ! 今はこいつを――」
 その目の前で、グロテス星人の姿が消えた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 新マンとレイガも状況を把握していたが、エンマーゴの脅威の前には如何ともしがたい。
「シェアっ!!(ジャック! バラバラでは埒があかねえ! 右手を任せる!!)」
 頷く新マン。
 二人は同時に走り出した。
 新マンは右腕だけを、レイガは左腕だけを狙い、それぞれに腕をかけて絡め取る。そして、護身術よろしく、背後に回りこんで足を払い、前方へ崩して潰す――この戦いが始まって、初めて地に伏せるエンマーゴ。
「ジュワッ!(やったぞ! これでとどめを――)」
 左へ水平に伸ばした右手に、蒼い輝きが集まる。
 新マンの左手首、ウルトラブレスレットが輝く。
 同時にエンマーゴの背中へ――落ちる前に、二人の胸で弾ける火花。
「グワッ」
「グオッ」
 吹っ飛ばされて転がり、態勢を立て直した二人が見たのは、いつの間にそこに現れたのか、拳の先の機関砲から白煙をたなびかせているグロテス星人。
「ジュアッ!?(なんで奴があそこに!?)」
「……ヘアっ(瞬間移動か)」
「残念だったな、ウルトラ兄弟」
 肩を揺らして笑うグロテス星人。その前で、エンマーゴが立ち上がる。
 その陰に隠れながら、グロテス星人は続ける。
「こいつがどういう怪獣かは知らんが、せいぜい戦力として利用させてもらう。お前たちは、ここで敗北するのだ。ふはははははははは――は?」
 笑い声が途切れたのは、エンマーゴが振り返ったからだった。
 その凶悪な眼がギラリと輝き、振り上げた青龍刀が日の光を弾く。
 ざっくり。
 左肩から右脇腹へ、袈裟懸けに。
 グロテス星人は真っ二つとなって、崩れ落ち――爆発炎上した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 奥多摩湖・小河内ダム近傍・水と緑のふれあい館前。
 唐突に現れ、唐突に倒されてしまったグロテス星人。
 ガンフェニックストライカー、フェニックスネストの面々が呆気に取られているのを他所に、シラサワ・ヒョウエノスケは鼻で笑っていた。
「ふふん、愚か者めが。宇宙人といえど、人は人。人に恐れをもたらすために地上へ顕現した無慈悲なる閻魔王が、人の浅知恵で操れると思うたか。加えて地蔵菩薩まであのような形で利用しようとは……まさしく仏罰てきめんじゃな」
「異星人に仏罰というのも凄い話ですが……なんにせよ、死ねばみな同じ。冥福を祈りましょう」
 フジサワ住職はそう言って、合掌し頭を垂れる。
「あれ?」
 セザキ・マサトがふとあげた声に、二人は怪訝そうな眼差しを投げかける。
「どうした、若いの」
「コダイゴンザサードが、消えない」
「コダ……なんじゃと? ……ああ、巨大お地蔵様か。消えるものなのか?」
「あれもシラサワさん流に言えば式神の一種なので、術者の星人を倒せば元の大きさに戻るはずなんですけど……」
 コダイゴンザサードはまだズラスイマーに火炎放射を続けている。
『バ〜チ〜ア〜タ〜リ〜メ〜っ!』
「くそう、どっちが罰当たりだよ」
 迫り来る轟音に振り返れば、ガンフェニックストライカーが機首をそちらへ向けて飛行中だった。
 しかし、ズラスイマーを解凍しようとする炎の威力は衰えることなく、氷が溶けて滴り落ちる水の量はいや増している。
 舌打ちをしたセザキ・マサトは、ディレクションルームを呼び出した。
「こちらセザキ。ディレクションルーム、コダイゴンザサードが消えません」
『……ええ。こちらでも確認してるわ。どうやらグロテス星人も、グロテスセルを改良していたようね』
 画面に出たミサキ・ユキはしかし、不安げな表情ではなかった。
『でも、対処法はわかってる。内部のグロテスセルを気化させれば元に戻る(※ウルトラマンメビウス第12話)。すでにリュウ君に対処を指示したわ』

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 湖上を翔けるガンフェニックストライカーの砲塔の一つから、メテオール弾が放たれた。
 それはコダイゴンザサードの背後で光の渦を巻いて実体化する――銀色のロボットを思わせる巨大な人型怪獣・マケット怪獣ウィンダム。
 身軽な動作で飛び跳ね、コダイゴンザサードをドロップキックで蹴り飛ばし、まずは火炎放射を止める。
『バ、バチアタリメっ!』
「うっさい! ――ウィンダム、射て射て射っちゃえ! やっちゃえぇ!」
 ヤマシロ・リョウコの命令を得て、左腕の火炎放射器をコダイゴンザサードに向ける。そして、火の玉を放った。続けざまに何度も放ち、炸裂させる火炎怪獣のデータを組み込んだ超高熱弾。
 しかし、コダイゴンザサードはさほどこたえた様子も無く、錫杖で地面に突いた。しゃりん、と杖頭についた遊環(ゆかん)が鳴る。
『バチアタリメっ!』
 途端に、ウィンダムの動きが止まった。
「え? ちょっと、ウィンダム!?」
『バチアタリメっ! バチアタリメっ! ……バ〜チ〜ア〜タ〜リ〜メぇぇっ!』
 コダイゴンザサードは再び錫杖を鳴らし、その杖頭をウィンダムに向け、ぐるぐると渦を巻くように動かし始めた。すると、ウィンダムもその場でぐるぐると回り始める。
「え? え? なにこれ!? あのお地蔵さん、本物? 不思議な力まで使えるの!?」
『リョーコ! 援護だ!』
「あ、ジ、G.I.G!!」
 射程距離に入ったガンフェニックストライカーの全砲門が咆哮をあげる。
 凄まじい爆発が連続し、爆煙が辺りに漂い立ち込める。
 しかし、それでも、コダイゴンザサードは悠然と佇んでいた。
 暑い日も寒い日も雨の日も風の日も雪の日も、ただ道端に佇んでいるお地蔵様そのままに。
『――バチアタリメっ! バチアタリメっ! バチアタリメっ!』
 ただ、少々やかましく。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 奥多摩湖・小河内ダム近傍・水と緑のふれあい館前。
 再びの合体光線も、エンマーゴを挟んで正反対から放つそれぞれの光線も、エンマーゴはその盾と刃で防ぎ切る。
 その様子を見ていたセザキ・マサトは、腹が立って腹が立って収まらぬ態で吐き捨てる。
「結局、あの盾が壊れないのも、それより強い、って設定のせいってことですよね。……じゃあ、あの二人の戦いなんか全く無駄じゃないか。あああああああああもうっ、何か手はないんですかあああああ」
「一応、無駄ではないのじゃがな。というか、盾が光線に強いのはその件とは関係ないぞい」
「は?」
「じゃから、閻魔王が強いのはいわゆる肉弾戦だけじゃわい。あんな光線、戦国時代にはなかったからのぅ。飛び道具といえばせいぜい弓か投げ槍、それに種子島といったところか。まあ、その辺には強かろう。そもそもあれは人が放つものでもあるまい」
「でも、現に盾で全部!」
「あの盾の強さは別の理由がある。陰陽五行の理よ。閻魔王は見てのとおり、鎧をまとう。五行における属性は金じゃ。ゆえに吐き出す黒煙が木を枯らす。金は木を克すでの」
「金? ……あれ?」
 ふとセザキ・マサトは指を折り折り、何かを考える。
「あー……うん。やっぱり。火克金だから、五行では金は火に弱いはずじゃ? だったら、光線の熱量であの盾なんて」
「誰が属性が一つと言うたか。閻魔大王といえば地獄、地獄といえば灼熱火炎地獄。ゆえに、閻魔王は火の属性をも持っておる。従って火にも強い。火とは熱。熱を生む近代兵器も、あの光線も、あやつには効かぬわけよ」
「となると、弱点は……ええと、火と金を属性として持つから、火・金……あと木、土、水で――」
 再び指を折り折り考え込むセザキ・マサト。
 しかし、ここは先にシラサワ・ヒョウエノスケが答を出した。
「あえて言えば水、かのぅ。じゃが、湖に沈める程度では封印すらおぼつかぬぞ。さっきお主らが使っておった白熊の式神、あれで凍らせるぐらいはせねばなるまいが……果たして凍りつくまで待ってくれるものか」
「流石にぶった切られる方が早そうですねぇ。……っと待てよ?」
 セザキ・マサトは顎に手を当てて、しばし考え込む。
「凍らせられる? ……肉弾戦では勝てない……けど、光線は有効……。ズラスイマーにはスノーゴンの冷凍攻撃も有効だった……つまり、それって……戦国時代になかった攻撃方法や超能力なら、エンマーゴやズラスイマーに通じるってことか!?」
「まあ、そうじゃな。あれらはまさしく人の力を超えた力、神仏の力の領域。広い意味ではわしらの使う地蔵菩薩の真言も、陰陽五行の力もそうじゃ。ご先祖様はそれらを駆使して五大妖怪を封印――って、聞いておるのか!」
「ってことは……!!」
 光が見えた。
 見えてしまえば、アイデアが湧く。鍵は、自分が――地球人が知っていること。ウルトラマンが知らないこと。そして、地球人ができないこと、ウルトラマンに出来ること。
 セザキ・マサトは、考える。何をどう配置し、どう動かせば、今現在の戦力で一番効率的に戦えるか。
 そして――フェニックスネストを呼び出した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネスト・ディレクションルーム。
 セザキ・マサトの申し出に、ミサキ・ユキとサコミズ総監は怪訝そうに顔を見合わせた。
「セザキ君、通信を遮断してくれって……それは流石に」
『……お願いします。ここから先は、データに残すわけには行かない会話があるんです。総監、どうかボクに任せていただけませんか』
 じっとセザキ・マサトの真剣な表情を見つめていたサコミズ総監は、一つだけ聞いた。
「それは……信義を守るために必要なことなんだね?」
 画面で頷くセザキ・マサト。
 それが何を意味するのか。セザキ・マサトだからこその言葉――サコミズは全てを了解し、頷き返した。
「わかった。ミサキさん、ここからは現場の通信レコーダーをカット。彼に任せる」
 一瞬、何か言いかけようとしたミサキ・ユキだったが、すぐに口を閉じて頷く。
「わかりました。……レコーダー、オフ。いいわよ、セザキ君」
『ありがとうございます』
 頭を下げたセザキ・マサトは早速、ガンフェニックストライカーの面々に通信をつないだ。
『――みんな、大事な話がある!』

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 セザキ・マサトの作戦を一通り聞かされた一同は、それぞれに思うところを含みながらも、頷いた。
『ウルトラマンとの本当の共闘かぁ。よぉし、やるぞぉ!』
 完全に乗り気のヤマシロ・リョウコに続いて、アイハラ・リュウも表情を緩める。
『本来なら褒められた話じゃねえが、この際、そうも言っていられねえな。その作戦に乗ったぜ、マサト。――ミオ、ガンローダーの操縦、できるな?』
『G.I.G』
『タイチ、思うところはあるだろうが――』
『そんなものはない。ただ、あのバカが計算どおりにやってくれるかどうかだけが不安があるがな』
『そんなものはやってみなきゃわからねえし、やらなきゃ何も始まらねえ。よぉし、行くぞ! ガンフェニックストライカー、スプリット!!』
 三機に分離したGUYSメカは、それぞれの航跡を残して戦場に散った。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 奥多摩湖・小河内ダム近傍・水と緑のふれあい館前。
「何をする気じゃな?」
「怪獣退治ですよ。無論、シラサワさんたちの力もお借りします。いいですよね?」
 先ほどまでの余裕のなさが演技だったかのように、にんまり不敵な笑みを浮かべるセザキ・マサトに、シラサワ・ヒョウエノスケたちもつられたように笑みを浮かべる。
「ほほう。わしらもか。面白そうじゃのぅ。では、お主の作戦とやら、見せてもらおうか」
「ご存分に。ボクらの敵は、最強の敵――エンマーゴです。古の退治屋と現代の退治屋、そして宇宙の彼方からやってきた退治屋による一大作戦、地獄の裁判官にとくと見てもらおうじゃありませんか。この世じゃあなたの出番はないってね」

 そうして、作戦は始まった。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――
 
 会話の間にウィンダムは制限時間を迎え、消えてしまっていた。
 代わって、ガンウィンガーがコダイゴンザサードに攻撃をかける。ウィンダムの超高熱火炎攻撃にもびくともしなかった相手だ。ビークバルカンとウィングレッドブラスターだけで倒せるわけはない。それでも、アイハラ・リュウは全身全霊をかけて戦いを挑む。
 勝ち負けではなく、この戦いを続けていることにこそ意味がある。
 負けないことが、勝利に続くと理解している。
 セザキ・マサトは言ったのだ。
『これはボクの推論で、シラサワさんにもお墨付きをいただいたんですが……水害から連想され、生み出された水属性の妖怪・水魔は、あらゆる攻撃の打撃力や衝撃、熱量などをボクシングなんかで使うウォーターバッグのように吸収・拡散してしまうんです。だから、それができない攻撃、冷凍攻撃は効いた。おそらく光線も効きが悪いはず。ですから、ここは彼が来たら、こう指示してください――』

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ガンブースターとガンローダーは、揃ってエンマーゴに攻撃をかけた。
 威力はないものの、クモイ・タイチとヤマシロ・リョウコの息の合った同時攻撃に、エンマーゴの両腕は防戦一方となる。
 その隙を突いて走るスペシウム光線とスラッシュ光線。
 エンマーゴは二機の攻撃を捨てて、その光線を防御した。
 勢い込んで間合いを詰めようとするウルトラマンそれぞれの前に、二機が割り込む。
 なぜ邪魔をするのかと、ガンブースターのコクピットを見たレイガは気づいた。ヤマシロ・リョウコが頭を指差し、次いで口の前で手を広げている。
(……テレパシーか?)
 エンマーゴとの間合いがあることを確認し――さらに、新マンがその間合いに入って盾となるように進み出ている――意識を集中させる。
(なんだ、リョウコ! 何かあるのか!? お前の声ならその中でも十分聞こえ――)
 ヤマシロ・リョウコは嬉しそうに頬を緩めて頷いた。
(レイガちゃん! それに、新マンにも必勝の作戦を持ってきたよ! お願いだから力を貸して!)
(わかった)
 レイガは頷いた。作戦の中身など聞かない。そんな時間もない。聞かねばならないのは一つだけだ。
(それで、何をすればいい?)

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ガンローダーコクピット。
 エンマーゴに向かって構える新マンの横に並びながら、クモイ・タイチは背後のシノハラ・ミオに告げる。
「シノハラ隊員。後は頼む」
「ジー……いえ。わかったわ。ガンローダーは守ってみせるから。必ずその席に戻って来てよ」
「ああ。もちろんだ。――ウルトラマン、聞こえるか」
 新マンの顔が、わずかにこちらを向き、返事とともに頷く。
 クモイ・タイチも頷き返した。 
「ここはいい。コダイゴンザ……巨大地蔵の方へ行き、隊長を助けてやってくれ。あっちのことは、隊長から指示を受けてくれ。こっちは、あのバ――レイガと俺たちで必ずやってみせる。任せろ」
 一瞬の迷いを見せたものの、新マンは頷いた。ちょうど点滅し始めたカラータイマーがその決断を促したかもしれない。
 ちらりとレイガを振り返り、頷き合う。
「――ジュワッ!!」
 新マンは飛んだ。湖の向こう側へ。
 その背を見送って、クモイ・タイチは起動認証装置に刺さっているメモリーディスプレイのソケット部にマケットカプセルを装着した。
「マケット怪獣ミクラス、リアライズ!」
 ガンローダーから放たれた光弾が炸裂し、光の渦の中から出現したのは、頭部を巨大化させた直立した牛のような怪獣。
 それは、エンマーゴの前に実体化した。
 凶悪な面構えの相手といきなり直面して目をぱちくりさせているミクラス。
 シノハラ・ミオは呼びかけた。
「ミクラス、少しだけ時間を稼いで! お願い!」
 普段では絶対聞けない女の声に、クモイ・タイチが思わずにやつく。
「おねがい、か。……そういう声色も出せるんだな」
「ぶつわよ」
 それはドスの効いたいつもの声。
 二人のやり取りなど知る由もなく、発奮したミクラスはエンマーゴを迎え撃つべく両腕を胸の前で打ち合わせ、鼻息荒く足で地面を蹴る。まさに牛。
「ふむ。あいつは扱いづらいと聞いていたが……その気になったようだ」
「私だって女ですから。女を甘く見ると痛い目見るわよ、タ・イ・チ君」
「胸に刻んでおこう。――来たな」
 ガンローダーの脇をガンブースターが駆け抜け、ミクラスに先駆けて攻撃を再開する。
 続けて、レイガが進み出てきた。そして、手を伸ばす。ガンローダーのコクピットをつかむように。
 その体は光を放ち、シルエットがおぼろげになってゆく。
「それじゃ、行って来る」
 クモイ・タイチも自ら光を放ちはじめ――

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 光り彩織る空間。
 クモイ・タイチはレイガと相対していた。
「……レイガ、お前は納得しているのか?」
「納得もクソもあるか」
 相変わらずのぶっきらぼう。
「俺じゃあ、あいつに勝てねえ。おそらく、このまま氷の剣を出せてもだ。だが、お前なら」
「さて、それはどうかな」
 クモイ・タイチは少し目を伏せた。セザキ・マサトの話が本当なら、自分が出ても結果は変わらないだろう。
 だが、このプライドの高い異星人が、素直に勝てないことを認めて、ひ弱とバカにしていた地球人に身体を委ねようというのだ。その覚悟、意志、成長を受け止め、ありえない勝利を奪い取る。それがなすべき唯一の役目。CREW・GUYSとしても、一人の人としても、一人の師匠としても、そして、一人の男としても。
「だが、お前の覚悟は受け取った。お前の身体、貸してもらう。その代わり、俺の全てをお前に貸そう」
「そういう言い方、好きだぜ。ああ、わかった。お前の全て、確かに預かる。やるぞ!」
「応!」
 真っ直ぐ歩み寄る二人の姿が重なり――

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「ジュワッ!!」

 辺りを照らし出していた眩く青い光が晴れた時、青い巨人は銀の巨人と化していた。
 その右腕から右肩、胸にかけて青と黒がねじれて集まっている。
 見下ろした両手を、確認するようにゆっくり握るレイガ。それはまるで、自分の肉体が存在することを認識し直しているかのような仕種。
 そして、構える。ミクラスを薙ぎ倒し、今にも止めを刺そうと青龍刀を振り上げていたエンマーゴに向かって。
 いつもの左拳を胸の前に握り締め、右手刀を前に突き出す構えではなく、足を肩幅やや広めにとり、腰を落として膝をわずかに曲げ、右拳を腰だめに引き、脱力気味に指を軽く曲げた左手を掌を前に向けて差し伸ばした構え。空手で言う正拳突きの形の、突き出した手だけ前に向けた構え。
 それは、CREW・GUYSの格闘訓練時にクモイ・タイチが見せる構えの一つ――というか、トリヤマ補佐官と無手対剣道で戦う時の基本的構え。
 いつもより深く引いた顎のせいか、表情が険しく見える。
 レイガが放つ気迫を感じ取ったか、エンマーゴは青龍刀を振り上げたまま、体を捌いて切っ先を新たな敵に向けた。
 威嚇するように咆哮し、ミクラスを蹴り飛ばす。パワー型の怪獣にもかかわらず、軽々と吹っ飛ばされたミクラスはそのまま空中で消えてしまった。
「デュワ(……いくぞ、レイガ)」
(おう、とっととやっちまえ)
 胸の内で応えるレイガ。
「シャアアッ!!(心得たっ!!)」
 大地を蹴って走り出すレイガ。
 迎え撃つエンマーゴ。
 絶対の威力を秘めて振り下ろされる青龍刀を、レイガの左手刀が横から迎え撃った。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 対岸。
『バチアタリメっ!』
 ガンウィンガーに向けて突き出される錫杖の柄頭。途端に、機体が空中で制止してしまった。
「!?」
 エンジンに異常はない。後部のモーターは盛んに炎を噴いている。機体状況を監視しているはずのモニタープログラムも、何の異常も報告しない。だが、全く動かない。何かの力場のようなものに捕らえられているらのか。
『バ〜チ〜ア〜タ〜リぃぃ〜メぇぇ〜っ!』
 やがて、コダイゴンザサードはその柄頭を回し始めた。催眠術の合図のように、しゃりしゃりと遊環(ゆかん)が鳴る。その音に合わせてガンウィンガーが回り始める……。
「く、くそっ!! 動け! 動けっ!!」
 回りながらその高度が徐々に下がってゆく。このままでは、山肌に激突して――
「シェアッ!!」
 叫びと共に飛来した新マンは、飛び降りざまに錫杖へチョップを叩きつけた。
 途端にガンウィンガーの呪縛が解ける。斜面すれすれで機首を引き上げ、舞い上がる。
 コダイゴンザサードは錫杖を構え直し、新マンはブレスレットを光らせて水平チョップを振りかぶる。
「デェアッ!!」
『バチアタリメっ!』
 突き出された左手に制されたかのように、新マンの動きが止まった。見えない壁にぶつかったように足が止まり、手が空を掻く。進もうとするが、進めず、もがく。
 地蔵の左手が押し出すような動きをする――新マンはそのまま触れもせずに突き飛ばされた。
 大きくよろめいた新マンは、背中からズラスイマーにぶつかった。その衝撃で、まだ溶け残っていた薄氷が体表面からぼろぼろと剥がれ落ち、その目に光が宿る。
 水害の象徴、生まれながらの人類の敵は、目前の敵に素早く対応した。
 むちを新マンの背後から首に絡め、締め上げる。
「――ォオアッ! ヘアッ!」
 首を吊り上げられるように立ち上がらされる新マン。
 そこへ、コダイゴンザサードが加わった。錫杖の柄頭でがら空きの腹部を突き、横殴りに殴りつける。
 無論、それを黙って見ているアイハラ・リュウではない。
 舞い戻ったガンウィンガーの全砲門でズラスイマーの頭部を狙い射ち、その眼前ギリギリをすり抜けるように飛ぶ。
 ズラスイマーが思わず気を取られた隙に、新マンはむちを振りほどき、転がるようにして虎口を逃れた。
「――よく来てくれたな、ウルトラマン!」
 旋回しながら告げるアイハラ・リュウに頷き返す片膝立ちの新マン。
「奴らは力押しでは倒せねえ! お地蔵さんの方は火が弱点だ!! 体内にある物質を気化させれば、元に戻る! むちの怪獣の方は凍らせるんだ!」
 再び頷いた新マンは、左手を立てて右手をその手首に添えた。
「ジェアァッ!!」
 敵にではなく、上空目掛けて投げ放った。
 光が空中で輪を描く。それは炎の輪となり、その直下へ同じ直径の炎の輪をいくつも落とし、コダイゴンザサードを囲い込む。それはちょうど円筒状の炎のシリンダーに閉じ込めたような光景だった。(※ウルトラ火輪:帰ってきたウルトラマン第39話・対バルダック星人戦で使用)
『バチアタリメっ! バ、バチアタリメっ! バチアタリメっ! バ〜チ〜ア〜タ〜リぃぃ〜メぇぇ〜っ!』
 いくつもの炎の輪を重ねて作り出されたシリンダーの中で、もがき苦しむような仕草を見せる巨大地蔵。
 それを助けようとするのか、近づくズラスイマー。
「ダァッ!!」
 新マンは両手の平を合わせて真っ直ぐ前に突き出した。その指先から白いガスを噴射する。
 冷凍光線ウルトラフロスト。
 一度は近づきかけたものの、再びの冷凍を嫌がって、むちを振り振り後退するズラスイマー。
 新マンを狙うむちを、ガンウィンガーの弾幕が撃墜してゆく。

 やがて。
「バ〜チ〜ア〜タ〜リ〜メ〜……」
 コダイゴンザサードは溶けるように縮み、姿を消した。
 そして、ズラスイマーも再び真っ白な氷の彫像と化し、その動きを止めてしまった。
 左手首に戻ってきたウルトラブレスレット。新マンの足元にちょこんと御鎮座ましますお地蔵様。
 全てを見届け、ふぅ、と安堵の吐息を吐いたアイハラ・リュウは、キャノピーの外の新マンに対して親指を立ててみせた。
「助かったぜ、ウルトラマン。最後に、、もう一仕事頼む。そいつを怪獣墓場に送ってやってくれ」
 頷いた新マンは、ズラスイマーを両手で頭上へ高々と抱え上げ――そのまま飛び去った。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 頭上から脳天めがけて落ちてきた刃を、レイガの両手が挟み込んで受け止める。
 真剣白刃取り。
 そのまま、青龍刀を外へねじってエンマーゴを薙ぎ倒す。
(今だ、やっちめー!)
 しかし、レイガは追撃せずに一歩間合いを空けた。
 そして、構える。
(なんでだよ!?)
(セザキ隊員の話では、こいつは必ず相手より強い力・技量を発揮する存在だそうだ。ゆえに、こちらからは攻めない。攻めればそれ以上の力でカウンターを受けるからな。防衛に徹し、相手の力を利用して奴の動きを封じる)
 エンマーゴは立ち上がった。
 そこへ、ヤマシロ・リョウコのガンブースターがガトリング・デトネイターを放つ――盾で防がれる。
 先ほどから同じ攻防をずっと繰り返している。こちらは受けて、流し、崩して、投げる。倒すだけ。攻撃はガンブースター任せ。
 ふと、レイガは気づいた。
 心なしか、エンマーゴが疲れているように見える。レイガと新マンでがむしゃらに攻めていた時ほどの迫力と動きの切れがないように思える。
 戦い、抗い、倒そうと頑なに勇む意志が、エンマーゴを強くしていたのだろうか。
(――集中しろ、レイガ!!)
 一瞬、気が逸れていたのを見抜かれたときには既に遅し。
 エンマーゴは次の攻撃動作に入っていた。
 二人の意識が交差する。ヤバイ、躱せない、と。
 その瞬間、エンマーゴの動きが不自然に止まった。そして、いきなり弾ける電撃。
 やがて、エンマーゴの右脇に組みついたミクラスが姿を現わした。
 ガンローダーの後部コクピットにいるシノハラ・ミオの声が聞こえる。
『いいわ、ミクラス! そのまま制限時間まで組みついて、電撃食らわし続けなさい!!』
 やる気の顔で、力任せにエンマーゴを抱き締め続けるミクラス。青龍刀を振り上げた姿勢のまま、感電して痙攣し続けるエンマーゴ。
(な、なんだ? あいつ、消えたんじゃなかったのか)
(そういえば、マケットミクラスには透明化と放電能力があったな。さすがだ、シノハラ隊員。そして……セザキ隊員も)
 レイガの眼差しがはるか北東、小河内ダムの方をちらりと見やった。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 奥多摩湖・小河内ダム近傍・水と緑のふれあい館前。
 シラサワ・ヒョウエノスケとフジサワ住職が、両手を顔の前で組み、ひたすら地蔵真言を唱えている。
「オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ。オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ。オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ。オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ。オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ……地蔵菩薩よ、閻魔王を鎮めたまえ。オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ。オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ……」
 セザキ・マサトはメモリーディスプレイを握り締めたまま、固唾を呑んで戦いの行方を見守っていた。


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