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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

  第9話  次郎とジロウ その3

 フェニックスネスト・ディレクションルーム。
 救助活動の状況を確認しつつ、情報の分析に当たっているイクノ・ゴンゾウ。
 アイハラ・リュウ隊長は腕組みをしたまま、イクノ・ゴンゾウが時折告げる情報に耳を傾けていた。ただし、その目は正面パネルに繰り返し映し出される駅舎と、その周辺の破壊状況の映像を睨みつけている。
「一体なんなんだ、これは。怪獣暴れた以外で、何がどうなったらこんなことになるんだ? ――ゴンさん、過去にこういう事例はないのか?」
「ありすぎて絞れないんですよ、隊長」
 少し手を止めて答えたイクノ・ゴンゾウは、困り顔を隠しもしない。
「透明怪獣に極小生物、透明円盤からの攻撃、星人の超能力。あるいは自然の猛威や他の天体の影響など、可能性を挙げればきりがありません。情報が中途半端なので、アーカイブの検索も今ひとつ反応が悪いんですよ」
「ふむ。なんにしても、こう、ばしーっと、はまる手がかりが必要ってことか」
「そうですね。……現場で何か見つかればいいんですが」
「山へ向かったミオとリョーコはどうしてる? まだ到着してないのか?」
「まだですね。隕石の方も――」
 キーボードを叩いて情報を呼び出す。
「登山隊はまだのようですね」
「そうか……」
 顎に手を当て、考え込むアイハラ・リュウ。
「うん。ゴンさん、登山隊にも注意勧告を出しておいてくれ。確かに関連は不明だが、隕石落下とこの事件のタイミング……俺の勘が、なにか関わりがありそうだって言ってるんでな。隊員が向かってることも含めて、それを伝えておいてくれ」
「G.I.G」
 コンソールをいくつか操作し、ヘッドセットマイクに話しかけ始める。
 その時、メインパネルに新しいウィンドウが開いた。
 出たのはクモイ・タイチ。
『隊長、証言だ』
 簡潔極まりない宣言とともに、画面がぐるりと横に流れた。そして正面に捉えられたのは、三人の男。もう老人と言っていいぐらいの年齢だが、きっちりとした制服を着込んでいる。ただし、その制服自体は埃まみれで真っ白になっていた。
『見ての通り、タクシーの運転手だ。この件が起きた時、ロータリーの隅で食事を取っていたらしいんだが……とにかく、黙って話を聞いてくれ』
 思わせぶりなその言い回しにアイハラ・リュウが怪訝そうにしている間に、クモイ・タイチは画面の三人に話しかけていた。
『――いいぞ。今、回線が繋がってる。見たことをそのまんま言うといい』
『あ……じゃあ、俺から……』
 まず向かって一番左の、細身で気弱そうな運転手が話し始めた。
『そこの潰れっちまった駅のコンビニで弁当買って、この隅で食べてたんだよ。そしたら、急に、いきなり、全く突然に、駅がぶっ潰れちまったんだ』
『姿を見てないんだな?』
 画面外からのクモイ・タイチの問いかけに、細身の運転手は頷いた。
『姿も気配も前触れも何も、全然全く少しもこれっぽっちも感じなかったよ。本当に、いきなりだったんだよ。けど……』
 何か言いたげに口ごもり、真ん中の隣の四角い顔の運転手を見やる。
 すると、視線を送られたその運転手は大きく頷いた。
『いや、こいつはこう言ってるけど、俺は見たんだよ。その、でっかい影をよ』
『影?』
『ああ、でけえ影だ。なんか、象を人間みたいに立たせたような、鼻の長い影が映ってたんだよ。それがこう、ぐわぁーっぶんぶんって、鼻を振り回して暴れてる感じだったんだよ』
『私は見てないんですけどねぇ』
 口を挟んだのは、右端の禿げたメガネ運転手だった。
『そっちの方が仰っていたように、駅を壊す怪獣みたいなものの姿なんて、何にも見えませんでした』
『じゃあ、俺が嘘ついてるって言うのかよ! 冗談じゃねえぞ、俺は――』
 四角い顔の運転手が、メガネ運転手に食って掛かる。
『待て待て。熱くなるな』
 すぐさま、画面外からクモイ・タイチの手が伸びて二人を止めた。
『喧嘩は話が終わってからにしろ』
『……あんたも信じてないんだろう!』
 その途端、その四角い顔の運転手が何を見たのか、フェニックスネストの二人にはわからない。
 ただ、ぎょっとした顔になった運転手は、たちまち意気消沈して大人しくなった。
 すぐに落ち着いた、というよりは感情を殺したようなクモイ・タイチの声が聞こえた。
『二人は見てない、あんたは見た。相手が怪獣なら、そういうこともある。いちいち喚くな、時間の無駄だ。いいから、話を続けるぞ。……確認しておく。潰れた駅舎の中で暴れる影を見たって事は、空中にそういう映像が映ってたって事だな?』
『いや、違うぜ?』
『あ?』
 クモイ・タイチの怪訝そうな声と全く同時に、画面を見ていたアイハラ・リュウも顔を怪訝そうにしかめて、腕組みを解いていた。
 運転手は、画面の横手を指差した。
 画面もそれにしたがって、横を向く。指差した先には、ビルの瓦礫がうずたかく積もっているだけだった。
『今はもうねえけど、あそこに建ってたビルの壁面に映ってたんだよ。この二人は潰れる駅舎をボケーっと見てるだけだったんで、俺は安全な逃げ道を探してあちこち見てた。そしたら、あの壁に』
 画面は再び三人に戻ってきた。
 クモイ・タイチの声が聞こえる。
『……………………。隊長、今、辺りを視認してみたが、当時の太陽の高度や角度と彼の証言は矛盾しない。何かが駅舎を踏み潰して暴れていたのなら、その影はあそこに映るだろうと思われる。二人は壊される駅舎だけを見ていたので、その影には気づけなかったのだろう、と結論付けても問題はない。現場を見る限り、そこに何かがいたかどうかの結論はともかく、彼らの証言に齟齬はない』
 運転手三人はクモイ・タイチらしい、以って回った物言いを飲み込みきれずにお互い顔を見合わせている。
 その画面がまたぐるりと回って、クモイ・タイチを正面に捉えた。
『今の証言を元に、他の証言も集めてみる。何かわかったら、また連絡する――っと、悪い。そっちから何かあるか?』
 アイハラ・リュウはイクノ・ゴンゾウを見やった。彼は今の証言から情報を引き出そうと、一心不乱にアーカイブ情報とにらめっこしていた。
「……いや、とりあえず今の証言を元に情報を分析している。こちらも何かわかったら連絡する。引き続き、頼む」
『了解した。それでは』
 画面が消え、メインパネルに再び瓦礫の町が映る。
 アイハラ・リュウは、モニター画面と絶賛にらめっこ中のイクノ・ゴンゾウを再び見やった。
「ゴンさん、今の話――」
「――だけでは判断のしようがありませんが、一応アーカイブを確認しています」
「どう思った?」
 顔をこちらに向けもしないイクノ・ゴンゾウを咎めもせず、アイハラ・リュウは問うた。
 返ってきたのは、悩み多き唸り声。
「ん〜〜〜〜〜む。確定材料よりも、迷う材料が増えたとしか。とりあえず、姿を隠すだけの透明怪獣、ネロンガやエレドータスなんかは除外できそうですが……。しかし、影だけでは……実際の映像がほしいですね」
「さっきマサトが言ってた、痕跡が残ってないという話も腑に落ちねえしな。……ん?」
 不意にアイハラ・リュウは何かに気づいて、自席に戻った。
 コンソールを何度か弾いて、メインパネルに表示されている映像をもう一度頭から流す。
 じっとそれを見ていたアイハラ・リュウの目が、少し細まった。
 再びコンソールをいじって、今度は今回被害を受けた地区の住宅地図を呼び出す。
「ゴンさん、悪りィ。これ、破壊された区画がわかるように表示できるか?」
「は? ……はあ。ええと、ちょっとお待ち下さい」
 イクノ・ゴンゾウはすぐにキーボードを操作し始めた。
「元の画像とガンカメラの画像データを比較して、高度がある物体の有無で区画を赤表示、と。……画像データの比較から出したデータなので、不正確ですが、こんな感じですか?」
 地図上の区画が次々と赤く染まってゆく。
 しかし、確かにセザキ・マサトが報告した通り、その被害地域には偏りがある。
 具体的には、駅前周辺と少し離れた場所。
 データ上で見る限り、駅前ロータリーから出た大通り交差点を渡った向こうの商店街には、被害は出ていない。
「ゴンさん、もう一つややこしいことを頼みたいんだが、壊された建物がどんなものだったか、ガンカメラの映像の方にわかりやすく再現出来るか?」
「……そうですね。画像データの比較で、データ変動のあった区画の建築物を半透明にして再投影……こんな感じでいかがです?」
 たちまち、今まで見ていたガンカメラの映像上に、幽霊めいた半透明の建物が出現した。
 一通り画像を見たアイハラ・リュウは、頷いた。
「――ふむ。ゴンさん、これ、どう思う?」
 同じく画面を見ていたイクノ・ゴンゾウは、共通点を見出しかねて首を傾げる。
「どうと聞かれましても……被害を受けているのは高層建築? 離れてますが、都営マンションもやられてますね。あ、でも、3階建ての住宅でやられてないものもあるし……」
「都営マンション? ああ、これか」
 地図の右上に端っこだけ赤く映っていた区画が見渡せる程度に、縮尺が変わる。
「周囲の被害は……ほとんどないな。マサトが言ってた限定的って、こういうことか」
「駅前からマンションまではかなり離れてますね。間に商店街もあるのに、そちらにはほとんど被害なし。何でしょう、この飛び具合……?」
「ふむ……。高層建築、か。案外それがビンゴかもしれねえな。商店街見てみろ、ほとんどが店舗一体型の普通の民家だ。ほれ、よく火事の時にアナウンサーが言ってる木造モツナベ、みたいな」
「モルタルですか?」
「そうそう、それそれ。そんで、壊されてるのは鉄筋コンクリート製……3階建ての住宅が残って駅前の3階建てビルが潰れてるから、おそらく高さは条件じゃねえ。それに、ここ――」
 アイハラ・リュウはマウスを動かして、地図上の一区画を示した。両側は赤いが、そこだけ元のままだ。
「両サイドの建物が破壊されているのに、全くの無事だ。不自然すぎねえか? 映像を見ると、昔ながらの和風建築。広い庭のおかげで、両隣から落下した瓦礫に壊されなかったんだろうが……普通、ここも潰れてるだろ」
「言われてみれば」
「あと……山ん中の壊れた施設だ。あれ、なんだっけ?」
「官僚が作った福利施設――ですが、外観だけを見れば下手なホテルより立派に作られた、鉄筋コンクリート製5階建ての建物でしたね、そういえば」
「やっぱりな。……怪獣か自然現象か、正体はまだわからねえが、少なくともこいつは選り好みしてる気がする……。と、待てよ?」
 アイハラ・リュウの指がコンソールを走る。
 画面上の地図表示の視点が高度を上げ、広範囲を示してゆく。
「隕石落下地点、不自然な施設破壊跡、この駅、それと都営マンション、か……」
 それぞれにポインターを置き、ラインでつなぐ。それはシノハラ・ミオが出て行く前にチェックした情報。
 アイハラ・リュウは、さらにそのまま赤いラインを伸ばしていった。
 その先は――
 隊長の行動を注視していたイクノ・ゴンゾウが叫ぶ。
「都内へ向かってる? 狙いは都心ですか!?」
 しかし、顔を歪めたアイハラ・リュウは首を振った。
「いや、その前にえらいものがあんぞ!」
 慌てて通信回線を開く。
「――くそっ、マサト!! 応答しろ!! 大至急だ!!」
 すぐにセザキ・マサトのウィンドウがメインパネルに開いた。
『はいはーい。セザキで〜す。隊長、何かわかり――』
「連続破壊事件の進行方向に、小学校がある!!」
 アイハラ・リュウの叫びに、イクノ・ゴンゾウが慌てて地図を拡大する。今、アイハラ・リュウの手で便宜上引かれた赤いラインが、隣町の外れに建つ小学校をものの見事に下敷きにしていた。
 画面上のセザキ・マサトもたちまち表情が硬張った。
『……それで、"何か"の正体は!?』
「わかってない! だが、今のところ高層建築、それも鉄筋コンクリート製の建物が主に破壊されている!」
『そうか、都内の小学校校舎はほぼ鉄筋コンクリート製……!!』
「そうでなくとも、これまでの被害地点をつないだラインの延長線上にあるってだけで理由は十分だ! こっちでも至急トリヤマさんに連絡してライン上にある地区住民の避難誘導を頼むが、そこはお前が行く方が早い! 俺が許す、すぐに行って全員を避難退去させろ!!」
『G.I.G!! これよりガンローダー・セザキは小学校の避難・退去の勧告・誘導・警備に向かいます!!』
「頼むぞ! ――ゴンさん!」
 セザキ・マサトの通信が落ちると同時に振り返る。
 既に内線をつないで呼び出しを掛けていたイクノ・ゴンゾウは頷いた。
「はい。今、トリヤマさんへつないでます。隊長は、総監への連絡を」
「わかった」
 頷いて、アイハラ・リュウは総監執務室の内線を呼び出した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 郷秀樹の見守る前で、坂田次郎は兄と姉の眠る墓に手を合わせていた。
「……兄ちゃん。兄ちゃんの夢、俺が叶えてみせるよ。まあ、元気だった頃の兄ちゃんみたいに、レーサーからっていうわけには、もういかないけどさ。必ず勝って、兄ちゃんに報告に来るから。そっちから応援してくれよな」
 束の間、うつむいて目を閉じる。
「それから姉ちゃん。返ってきた郷さんは、やっぱり郷さんで、無茶ばっかりしてるみたいだからさ……守ってあげてよね」
 その言葉を当の郷秀樹は微苦笑で聞いている。
 爽やかな秋風が供花を優しく揺らし、アキアカネが墓の上に止まった。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 霊園の階段を下りる二人。
 ちょうど最後の踊り場についたところだった。ここを渡って次の階段を下りれば、駐車場だ。
「なぁ、ジロー。イチローの――」
「兄さんのことは訊くなと言っただろうがっ!!」
 その理不尽なほどの語気の荒さには、さすがにシロウも頬を引き攣らせた。
「最後まで聞けよ! イチローのことはともかく、訊きたいことがあるって言いたかったんだよ!」
 立ち止まり、振り返ったオオクマ・ジロウは、明らかに不機嫌そうだった。
「ああ? ……そんな以って回った言い方するからだ、バカが」
「な……バカってなんだ、バカって! そこまで言われる筋合いは――」
「うるさい!! 言葉の使い方も十分でない奴をバカと呼んで何がおかしい!」
 振り返ってびしり、とシロウに指を突きつける。
「バカってのは世間一般的に、頭の足りない奴を指すんだ!! 悔しかったら、もっと簡潔に物を言え! 『訊きたいことがある』のなら、それだけで十分だろうが!! 兄さんの名前を持ち出す必要がどこにある! 言葉の遊びだ!! 無駄だ!! 無意味だ!! 意味のないことをするな!!」
「ぬぐぐ……!!」
「それから、俺のことはジロウ兄さんと呼べ。いいな」
 たちまちげんなりした顔でそっぽを向くシロウ。
「けっ、誰が」
「それで」
 叫んだり怒ったりで体温が上がったのか、オオクマ・ジロウはネクタイを弛めてワイシャツの襟を開いた。
「何を訊きたいんだ。兄さんのことなら、何も言わんぞ」
「いや、訊きてえのはとーちゃんのことだよ」
 怒りをジト目に込めて睨むシロウ。
 オオクマ・ジロウは何か言いかけて、口をつぐんだ。
「ふむ」
 その瞳がちらりとオオクマ・タロウの墓のある方角を見やる。
「父さんか。……知ってどうする? 母さんが強引に家族に仕立て上げたとはいえ、お前にはもう関わりのない人だろう。会えもせず、話も出来ない。そんな人のことを聞いても、何もならない」
「そんなことはねーだろ」
 シロウは食い下がった。
「かーちゃんは、ことあるごとにとーちゃんとの約束やらオオクマ家の掟やらを持ち出してくる。それに、毎日ブツダンに手を合わせて祈ってる。イチローがやばくなった時もそうだった。前はそうも思わなかったんだけどな、死んだ人間が生きてる人間を縛ってたり、支えたりしてるんだよ。それが不思議でならねえ。相手はもう死んでるはずなのに、どうしてそこまで――」
「死んでるからだよ」
 オオクマ・ジロウはため息をついた。妙に重く、少し長めのため息。その目は階段の下に向いている。その先にいるはずの母シノブを見ているのか。
「この世の中で何が厄介って、死んだ相手との約束が一番厄介なんだよ」
「???? なんでだ? 一旦約束したにしても、相手が死んじまったんならそんなもんは――」
 再びオオクマ・ジロウはため息を漏らした。今度は軽めの、しかし明らかに呆れてるかバカにしているのがわかるため息。
「さびしい奴め。……いいか、死んだ者は新しい約束もしないし、これまでの約束をなしにするとも言ってくれない。それは、約束を守ることに価値を見出す人間にとって、時に『呪い』と同じ意味を持つこともある。終わらないんだよ、約束が」
「……のろい……」
「ま、こんな説教したところで、お前みたいに『死んだら約束はなし』なんて、お気楽な生き方をしている奴にはわからんだろうがな。約束の本質もわかってない奴にこれ以上は言っても無駄だ」
 その途端、シロウのこめかみに青い血管が走った。
「ちょっと待てこらふざけんなっ!!」
 踵を返して歩き始めようとしていたオオクマ・ジロウの背中に、シロウは喚いた。
 許せなかった。
 兄=かーちゃんの息子、という意識があればこそ、殴りかかることだけは思いとどまりはしたが、これまで結んできた幾多の約束を、そんな風に軽いものだったかのように言われることだけは許せなかった。
「ふざけんなよ、てめえ! 俺がお気楽かどうかはともかく、俺だってそれなりの約束背負って、守ってきたんだ! いくら兄貴で、俺のことを知らなくても、そこまで言われる筋合いはねえっ!! 俺は……かーちゃんや師匠との約束を、一度たりともそんな風に軽く考えたことはねえんだよっっ!!」
 足を止めて聞いていたオオクマ・ジロウはゆっくり振り返った。黒ぶちメガネのレンズの奥で、感情の色を映さない瞳がシロウを見据える。
「だったら、どうしてあんなバカな問いをする。お前がそうであるように、母さんにとって父さんとの約束が大事だという、それだけの話だ。俺に聞くまでもなく、お前自身の中にある答だろう」
「それは……そう、だけど」
「まったく。だからバカだというんだ。自分でわかっている答えを他人に求めるな。時間と労力の無駄だ。自分が無駄にするだけならともかく、他人まで巻き込むな。口に出す前に、少しは考えろ。バカめ」
「ぬ、ぐ……!!」
 思いっきり頭にキたものの、正論すぎてシロウは答えられなかった。あああ、殴り飛ばせたらどれほどすっきりするだろう。
 義理と感情の板ばさみになって握り締めた拳を震わせているシロウを置いて、オオクマ・ジロウは再び歩き出した。階段ではなく、日除け付のベンチへ向かう。
 シロウもしぶしぶ後をついてゆく。
 ベンチに腰を下ろしたオオクマ・ジロウは、メガネをむしりとるようにして外し、背広の胸ポケットからハンカチを取り出した。それでレンズを拭き始める。隣が空いているものの、シロウに勧める仕種はない。
 オオクマ・ジロウはレンズを磨き続ける。
 メガネを少し掲げ、目を細める。レンズの汚れを見ているらしい。すぐにメガネを戻し、再びレンズを拭う。
「それで」
 手を止めることなく、オオクマ・ジロウは問いかけた。
「父さんの何を訊こうというんだ。お前みたいなバカが、父さんの話を聞いて何か得られるものがあるとは思えんがな」
「バカバカ言いやがって、くそ」
 シロウは鼻息を荒げつつも、腕組みをしてオオクマ・ジロウを見下ろした。
 一呼吸置いて、口を開く。
「あのな。かーちゃんってすげえよな」
「あ? ……ああ、まあな」
「かーちゃんのやることなすこと、言うこと考えること全部、全然かなわねえ。正直、最初は殴りあいになれば俺が勝つって思ってたけど、最近じゃそれもどうだか怪しいもんだと思ってる……例え殴り合いで勝てたとしても、もっと大きなもんで負けてる気がするんだよ」
「………………」
「そもそもよー、かーちゃん相手ってだけで拳が鈍りそうな段階で、既に俺、負けてると思うんだ。何に負けてるのか、ぜんっぜんわからんのだけどな」
「ふん。バカにしちゃ、素直で殊勝じゃないか」
 皮肉を込めた笑みを頬にたたえつつ、オオクマ・ジロウはメガネを再び掲げてレンズの汚れ具合を見ている。
「確かに母さんはすごい人だ。何しろ、父さんが死んだ後、俺たち兄弟三人を女手一つで社会に送り出し、今またお前みたいなのを息子に迎えるっていうんだからな。俺の妻も相当できたい〜い女だとは思うが、母さんの域に届くにはまだまだだ。まあ、妻に俺の理想を押し付けるのは無粋ってものだが、娘には是非見習ってもらいたいものだと思っている」
「……はあ。いや、そんなことはどうでもいいんだがな?」
「あ゛あ゛??」
 オオクマ・ジロウの手が止まった。じろりと半目がシロウを見やる。
「な、なんだよ」
「……今、俺の愛する妻と娘をどうでもいいと言ったか?」
「いや、あのな……とーちゃんの話をしてんだよ、俺は。お前の妻と娘の話なんか訊いてねえ」
「俺の家族をないがしろにするというのなら、そのケンカ、買うぞ」
 手にメガネとハンカチを持ったまま、妙な殺気を放ちつつ、じりじりと腰を上げるオオクマ・ジロウ。その威圧感は、クモイ・タイチのときとはまた違う。何か黒いものが周囲に渦巻いているような不気味さがある。
「だからな」
 シロウは面倒臭そうにため息をついた。
「お前、さっき俺に無駄な話をするなとか言ってたが……訊いてもねえことをべらべら話すのは時間の無駄じゃないのかよ」
「んむ。……そうだな」
 途端に、それまであった威圧感が霧散した。
 ぺたりと尻餅をつくようにベンチへ腰を下ろす。
「その通りだ。よく言った。うん。……まあ、妻と娘がどれだけ可愛くて素晴らしいかという話は、全く全然どこをとってもわずかたりとも時間の無駄でも労力の無駄でもないんで、それはいずれ聞いてもらうとして」
「いいから、本題に入れってば」
「ふむ……」
 オオクマ・ジロウは拭き終ったメガネを掛け直した。ハンカチは胸ポケットに戻す。
 そして、シロウを真っ直ぐ見上げた。
「それじゃ、先に一つ訊いておこうか。お前、さっき母さんと約束を交わしたとか言っていたが……それはお前の自由を縛っていると思うか? それとも、それを守ることは当然か?」
 顔をしかめて唸るシロウ。二、三度首を捻って、困惑の眼差しをオオクマ・ジロウに向ける。
「なんでそんなことを」
「『約束』というものに対するお前のスタンスを知りたい。それによって話してもいいかどうかを決める。……大事な家族の話をするんだ。お前にその資格があるかどうか、俺には見極める権利があるはずだ」
 シロウはまた少し考え込んだ。オオクマ・ジロウの言葉に反論の余地はない。
 訊いていい話と悪い話があることぐらい、シロウにもわかる。自分だって光の国の両親のことを聞かれれば、聞かせて良い相手かどうか値踏みする。隠すほどの親ではない、というのは別の話として、だが。
 それに、シノブの息子だから、シノブとシロウの関係について知っておきたいのもあるのだろう。イチロウの時もそうだった。テレパシーや相手の記憶を探るような超能力を使えない地球人は、こうして言葉を重ねなければ理解し合えない――というのも、ここ数ヶ月で学んだことだ。
 頷いて、言葉を探しながら話す。
「そうだな。最初は……確かに、不自由だと思ってたな。時々約束破っちまって殴られたしな。気にいらねえ奴ぶちのめすのに、なんで手加減しなきゃならねえのか、他の奴が決めたルールに気兼ねして、わざと全力を出さないなんて馬鹿馬鹿しいと思ってた。けど……」
「けど?」
 その途端、シロウは我知らず嬉しそうに口元を緩めていた。
「かーちゃんとの約束を守ってたから、俺は師匠と会えた。その他のたくさんの人とも絆を結べた。たくさんのことを学んだ。おかげで、自分の小ささに気づいた。弱さを知った。この数ヶ月、知れば知るほど俺なんぞはどうも大した存在じゃないってことを思い知らされてきたけど、そのことに気づけるようになったのは、確実に前の俺より良くなったんだと思う。何が良くなったのかは、ちょっと説明しづれえけど……」
「ふむ」
 オオクマ・ジロウは神妙な顔つきのまま、腕を組んで頷いていた。
「かーちゃんとの約束が俺の自由を縛っているかどうかなんて、もうよくわからねえや。……ま、何をしたいのかなんて、まだ俺自身がわかってねえから、自由かどうかなんて今んとこはどうでもいいんだけどな。ただ……かーちゃんと約束したから、俺は今ここにいられる。それだけはほんとのことだ」
「だから、母さんとの約束を守ることは当然だと?」
 探るような問いかけに、シロウは首を横に振った。
「いーやいや。俺はそこまで善人じゃねえよ。お前の言うとおりバカだしな。これまでにも散々色々と約束破ってきてるしよ。けど、そん時はかーちゃんの拳骨を受ける覚悟ぐらいは出来てるし……そうだな。当然とまでは行かないまでも、支障がないなら守る、って程度には気をつけてるって感じかな」
「……ふむ……………………………………。ま、いいか」
 そう呟くと、オオクマ・ジロウはベンチの背もたれに背中を預けた。
「父さんの話か。さぁて…………どこから話したものかな」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 オオクマ・ジロウにとってのオオクマ・タロウの評価は、『普通のお父さん』である。
 それは、『ごく平均的なお父さん』という意味ではなく、『あるべき姿のお父さん』つまり、『理想的な父親像を体現している父親』という意味である。
 だから、幼い頃から周囲の大人に『いいお父さんね』と言われても、その都度律儀に『いえ、普通で当たり前のお父さんです』と返して、微妙な空気を作り出していた。幼稚園前の子供の謙遜など(本人にそのつもりはないが)、薄気味悪さがつきまとって当たり前だ。
 オオクマ家の掟は、物心ついたときには既に教え込まれていたが、それは世間一般でも当たり前のことだと思っていた。
 兄や弟がどう考えていたかはともかく、幼少のオオクマ・ジロウにとって父オオクマ・タロウは偉大でも何でもないただのお父さん。その意味では、普通の子供として普通に父親が好きだった。
 そんな父が亡くなったのは、十年ほど前。当時、オオクマ・ジロウは高校生だった。兄さんは一つ上、弟はまだ中学生だった。
 病気だったが、最後まで気弱なところを見せなかった。いまだにどれほど辛い病気だったのか、ということも含めて当時の父さんの気持ちや本音を母さんから聞き出せていない。
 居て当たり前の父親を亡くしたものの、オオクマ・ジロウはさほどショックを受けなかった。サブロウなどは辺りはばからず号泣していたし、イチロウ兄さんも流石に表情に陰が差して見えた。しかし、自分だけは感情的になることもなく、淡々と父さんの死を受け入れていた。
 人間はいずれ死ぬ。飛行機の席に座っていただけで血管が詰まって死にうる。落ちてきた辞書の角が頭に刺さるだけでも死にうる。結局のところ、単に父さんの順番が今だっただけだ。
 今までいた人がいなくなるのは寂しさがある。けれど、それにこだわっていては人は前に進めない。
 オオクマ・ジロウは父さんが息を引き取った瞬間から、父さんが居ない世界を生きるという方向へ認識を改めたのだ。
 そちらへ踏み出すと決めた者が、過去に生きていた人間を振り返って感情・思考を乱すなど、あってはならない。その方が、むしろ消えた者を貶めることになる。だから、オオクマ・ジロウはオオクマ・タロウの人生を評価しない。
 評価に値しないという意味ではなく、役目を終えて退場した人間を改めて評価することに意味を見出さないという意味である。
 そう、オオクマ・タロウは役目を終えて退場したのだ。彼がオオクマ・ジロウの父という役割を持っていたことも、その最後が病死だったことも、オオクマ・ジロウの意思でどうにかなるものではなかった。自らの意思で変化を及ぼすことの出来ぬ事象は、全てあらかじめ定められていたことと同義だ。イベントとして設定されていたことが、そのスケジュール通りに消化された、それだけのことだ。そんなものにいちいち囚われて意味を考えるなど、時間の無駄だ。その時間で前へ進める。
 父親の死に格別の意味などない、与えない、と結論付けたオオクマ・ジロウはしかし、この辺りから家族との距離感を感じることになる。
 奇しくも、それは母シノブが兄と弟に掛けた言葉によって、決定的に認識された。


 葬儀が滞りなく住んだ数日後。
 当然のように、大学受験を諦めて働く、と言い出した兄イチロウをシノブは懇々と諭し、大学進学へと意志を曲げさせた。
 母が拳を出さずに言葉だけで兄の意志を曲げさせたのは後にも先にもその時だけだし、兄が自分の意見を取り下げたのもオオクマ・ジロウの知る限り、その時限りである。
 その時、母が言っていた。
「……イチロウ。あんたはね、父さんから人一倍の思いやりと行動力を受け継いでるんだ。それをきちんと花開かせてやるのが、親の務め。あんたはあたしから親の務めを奪うのかい?」
 後に続く弟たちもいるし、苦労は並大抵じゃない。自分ぐらいは母さんを支える役目をしたいと言い返す兄イチロウに、シノブは頑として首を縦に振らなかった。
「苦労をかけるなんてお言いでないよ。あんたなら苦労した分、苦労し甲斐があったと思わせるだけの花を咲かせてくれるって、あたしも父ちゃんも知ってるんだ。いいかい、これはあたしのわがままだ。一世一代のわがままだ。父ちゃんから受け継いで、きれいに咲かせた花を見せておくれ。……よもや、できないとは言えないだろうね?」
 そうして、兄は折れた。これまでわがままを言ったことのない母が初めて主張したわがままに、イチロウは矛を収めるしかなかったのだ。


 また、別の時にはサブロウに言っていた。当時はもう高校生で、少々やんちゃが過ぎた時のことだっただろうか。
「あんたは、父ちゃんの血を受け継いでるねぇ。心に柵がないところも、燃えるような正義感も。……頭の方は兄ちゃんたちと違って、あたしの方を受け継いじまったみたいだけど。悪ぶってたって、あたしがお前を信じてるのは、あんたの中に父ちゃんが見えるからだよ。それが感じられる間は、絶対にお前を見捨てたりはしない。……見捨てたりはしないけど、悪さを見逃すほど甘やかす気もないよ」
 そうして拳骨をくらい、悶絶しているサブロウを冷ややかに見ていた覚えがある。
 そして、オオクマ・ジロウ自身は――まだ、そういう風な言葉を聴いたことはない。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「……多分、俺は父さん似ではないのだろうさ」
 オオクマ・ジロウは自嘲の笑みに唇を歪めていた。
「思い当たる節は色々ある。きつい物言いもそうだし、それが元で本社に居られなくなったこともそうだ。父さんの気遣いや付き合いの良さが少しでも俺にあれば、もっとうまく立ち回れたかもしれない」
 そこで、オオクマ・ジロウはシロウをじろりと見やった。
「だが、勘違いするなよシロウ。そのこと自体はどうでもいい。俺はオオクマ・ジロウであって、タロウではないんだ。父さんから受け継いだものがないのは息子としては確かに残念だが……ないものねだりをするほど人生に絶望してはいないし、それならそれで、俺の人生を俺が独力で切り拓く楽しみもある。それに――」
 そして、背後のずらり墓石の並ぶ石段を見やる。その視線は、さっき郷秀樹たちがいた方向を見ている。
「だからこそ、あの憧れの坂田自動車に出向になったわけだしな! まったく世の中、何がどう転んで上手くいくかわからん。絶望などしている暇はない」
 そう言って笑うオオクマ・ジロウの目は光り輝いている。
 その目を見ながら、自分が本当に訊きたかったことが聞けたのかどうか、改めて彼の発言を思い返すシロウ。
 結論は……わからない。
 少なくとも、人物像や人となりがわかるような情報はほとんどなかった気がする。
 そもそも普通のお父さんと言われても、地球人の普通のお父さんがどういうものか、シロウにはわからない。
 オオクマ・ジロウの言葉としてわかったのは、死期を悟っても気丈であり、物腰柔らかく、付き合いがよいということ。人一倍の思いやりと行動力、心に柵がなく、燃えるような正義感があったとシノブは思い、その死によってあのイチロウが顔色を失い、まだ会ったことのない三男サブロウが泣くほどの相手だった――
「……全然わからんなぁ」
 あまりに漠然としすぎていて、なぜシノブがあれほどとーちゃんとーちゃんと死んだ人間を持ち出すのか、はわからない。
 思えば、死んだ人間を振り返るなど時間の無駄、と言い切るこの男に聞いたのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
 とはいえ、曲がりなりにもシノブの息子で、噂に聞くとーちゃんの息子が、まさかこんな……聞きようによっては冷たい返事をするなどとは思わないではないか。
 軽くため息を漏らすシロウに、オオクマ・ジロウは意地悪そうに唇をひん曲げた。
「父さんのことが詳しく知りたいなら、母さんと兄さん、サブロウに聞け。似てない上に、みんながすごいという父親を普通の父親だと思い、死んだ後も評価することのなかった俺には、父さんがどれほどすごい人間だったかを説明できるだけの土台がないんだよ」
「でも、息子なんだろ?」
「それだけだ。……俺の中に、父さんの遺伝子が半分ある。それだけさ。ま、そのわりに発現してないみたいだがな」
「………………」
「さて、もういいか? 母さんが待ってる」
 そう言いながら、オオクマ・ジロウは腰を上げた。軽く尻をはたく。
 その視線が階段の方を見やった――と、すぐにシロウへ戻ってきた。
「シロウ、もう一つ俺の見解を言っておくぞ」
「あ?」
「死んだ父さんは生きている母さんを支えてなどいない」
「え? けど、かーちゃんは――」
 シロウの言葉を封じたのは、オオクマ・ジロウの瞳の色だった。今まで見たことのない、奇妙な感情。どんな感情とも比べられない、見ようによっては無感情にさえ見えるその目つきに、シロウは思わず次ぐ言葉を忘れていた。
「死んだ人間に意志なんかない。死んだ人間は何もできない。人間も動物も、死んだら等しく無機物となって土に還る。それが自然の摂理だ。……結局、生きてる人間が、死んだ人間の意志を拠り所にしているだけだ」
「………………」
 ふと、オオクマ・ジロウの瞳の色をどこかで見たような気がした。
 そう……クモイ・タイチやイリエ超師匠が、伝えるべき物事の根幹を告げる時の目の色が、これに似ていた。
「もっとも、そういう母さんの心のあり方をどうこう言うつもりはない」
 そう告げたオオクマ・ジロウの瞳が、感情の色を取り戻した。優しい、シノブに似た目を。
「母さんらしいといえば母さんらしいし、俺だって死んだ人の意志を勝手に受け継いで、やろうとしていることがある」
 ちらりと、坂田家の墓の方向に視線が飛ぶ。すぐにシロウへと戻ってきたが。
「ただ……今、母さんの一番近くにいるのはお前だ。だから、これだけは言っておく。母さんは、お前が思っているほど最強無敵に強い人じゃない。その弱さを……父さんが死んでからのこの十年ほど、俺たちに一度も見せたことがないことには素直にすごいと思うがな。あるいは……お前を息子に迎えたのは、そういうことなのかもしれないな」
「でもよ」
 腕組みを解かずに耳を傾けていたシロウは、考え続けながら口を挟んだ。
「とーちゃんがどういう人かは確かに、お前の話からはよくわからねえ。けど、でも、こういうことだよな」
 そこで一旦言葉を切って、言葉を選ぶ。
「……とーちゃんってのは……自分が死んだ後も、かーちゃんに約束を守りたいと思わせるだけの人間で……お前もそれを別段おかしいこととは思ってないってことだな?」
「そうだ」
「ふぅん。……ということは………………ええと……どういうことだ?」
 少しばかりの期待を込めてシロウを見ていたオオクマ・ジロウの表情が、たちまち怒りと蔑みに変わる。
「はぁ……やはりお前はバカか」
「またそれか。……クソ。じゃあ、そのバカにもわかるように説明してみろよ!」
「ふん。簡単な話だろうが」
 思いっきりバカにした鼻笑いを残し、オオクマ・ジロウは歩き出した。
「母さんは父さんを愛してる。今でも。それだけの話だ」
「愛……?」
「好きってことだよ、バカにも判るように言え……ば――?」
 不意に、空の彼方から響いてくる轟音に気づいて、オオクマ・ジロウの顔が横を向いた。
 シロウも思わずその視線を追う。

 その頭上を、GUYSのマークを翼に描いた機体――ガンローダー――が通り過ぎていった。


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