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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第8話  誰がために その2

 この惑星・地球における宇宙警備隊隊員みたいなもの、とエミに説明された『けーさつ』。そいつらの専用移動体であるところの『ぱとかー』が、階段下に集まっている。
 その辺りに散らばった様々な金属棒。そして、集まったパトカーの外側を取り巻く大勢の野次馬。
 シロウは階段の上の鳥居の陰から様子を窺っていた。階段の左右に生えた並木の梢のせいで、下からはシロウは見えないらしい。
「ん〜……あんまりのんびりしてられねえな。この調子じゃ、『がいず』の連中とか、クモイ・タイチも来るかも知れねえ。顔合わせりゃ、なに言われるかわからねえし、さっさととんずらしねえと――」
 そう呟きながら、人影の絶え、鳩ばかりがうろちょろしている神社の境内を通り抜け、社殿の裏手に回り込む。
 そこに、シロウが連れてきた黒マントの男が横たわっていた。
 さっき、ここへ連れてくる時に帽子を剥いで顔を見てみたが、外見は地球人そっくりに化けている。年は――じじい連中よりは年下だが、クモイ・タイチとかよりは年上に見える。(40代から50代と言いたいらしい)
 シロウが近づいてゆくと、男はその気配を感じたかのように呻いた。
「お、意識が戻ったかな?」
 にんまり唇を歪めたシロウは、そのまま近づいてって男の喉元をがっしりわしづかみにした。
 その息苦しさに、男が目を覚ます。
 眩しげに目を瞬かせる男に、シロウは低くドスの聞いた声で告げた。
「今から言うことを正しく認識しろ。俺はウルトラマンじゃねえし、お前の弟にも心当たりはねえ。俺を襲ってきた理由を話すなら、聞いてやる。だが、あくまで問答無用で戦うってんなら、このまま首をへし折る。選べ」
 身じろぎしようとした男の首をさらに締め上げ、ひとしきり苦悶の声を上げさせる。
「動くな。動かなくとも、口だけは動かせるだろ」
 苦しげに呻いた男は、片目を開いてシロウを睨みつける。
「き、貴様こそ問答無用で殺せばいいだろう。弟を殺したみたいに。貴様ら宇宙警備隊は――うがあが、いたたたたっ」
「だーかーら。俺は宇宙警備隊じゃねえっつってんだろうが」
 力を込めた指先に、みしみしと嫌な感覚が伝わってくる。だが、まだ大丈夫。痛みは与えても、首がへし折れるほどではない。
 そうだ。こういう風に落ち着いていると、ある程度ギリギリの力加減は判るし、出来る。やはり力加減の出来ない問題が生じるのは、フラッシュバックに従って体を動かした時だけのようだ。
 ともあれ、今はこの男に集中しなければ。
「お前が問答無用で誰であれぶっ殺すってな悪党星人だったら、俺も問答無用でぶちのめしてやるところだが……弟の仇、とか口走りやがったからな。事情を話せ。納得できたら離してやる。それとも、その仇とやらと無関係な奴にここで殺されてもいいのか?」
「よくは……ない」
 呻きだか呟きだかの声に、シロウはにんまり頬を緩めた。
「よぉし、ようやく話が噛み合ったな。じゃあ、聞かせろ。お前は何者で、弟は誰に殺された。何で俺をウルトラマン呼ばわりしやがった?」
 話しやすいよう、喉をつかむ手の力を少しだけ緩めてやる。
 男は少し躊躇したが、やがて一息ついて話し始めた。
「お前……姿は地球人だが、ウルトラ族だろう。隠しても私にはわかる。そして、地球にいるウルトラ族は、代々ウルトラマンと呼ばれているはずだ」
「確かに俺はウルトラ族だ。だが、宇宙警備隊じゃないし、ウルトラマンでもねえ。ちょいと光の国で騒ぎを起こして逃亡中の身でな。この星に潜伏中だ」
「……本当か?」
「ふん。本当だって言ったら信じるのか? それより、聞いているのは俺だ。質問に答えろ」
 しばらくじっとシロウを見つめていた男は、やがて目を伏せた。
「わかった。……もう抵抗はしない。ひとまずこの手を離してくれ」
 シロウは少し躊躇した。逃げるか、暴れるか――いや、それこそどっちでもいいことだ。元々関わりのない相手だ。逃げれば逃げたで問題ない。
 手を離すと、男は絞められていた首の辺りをさすりながら身を起こした。
 シロウが社殿の壁に背をあずけて話を聞く態勢を取るのを待って、男は話を始めた。
「私は……スチール星人。弟は、この惑星の公転周期で約40回転ほど昔にこの星へ来て、当時この星を守っていたウルトラマンに殺された」
「てことは、ウルトラ兄弟の中の一人か。誰だ?」
「ウルトラマンエース。……ヤプールを打ち破ったという戦士だ」
「ああ……あいつか」
 ウルトラ兄弟の中でもひときわ異彩を放つ姿格好の戦士の姿を、シロウは思い浮かべていた。兄弟の中でも数多の光線技を駆使することに秀でた戦士で、怨念の塊のような異次元人ヤプールと戦い続けた異次元戦闘のエキスパートだと聞いている。
「エースに殺されたってことは、お前の弟は」
 男−スチール星人−は俯き加減になり、ため息を漏らした。
「ああ。恥ずかしい話だが、確かに弟は決して褒められた人間ではなかった。子供の頃から、ひねくれものの変人で通っていてな。あいつのイタズラや嫌がらせには私も手を焼かされたものだ。だが……あいつが地球へ来たのは、地球侵略や人類抹殺のためではなかった」
「ああ? じゃ、何しに来たんだ」
「パンダを盗みに」
「パンダぁ?」
 シロウは顔をしかめた。
「そうだ。その目的も、ほとんど嫌がらせ的なものだったと聞いている。当時、地球で大人気だったパンダを盗み、地球人をがっかりさせるためだったとか……。ところが、本物を捕まえることがほとんど出来ず、代わりにぬいぐるみやおもちゃを盗みまくっていたそうだ」(※ウルトラマンエース第40話)
「みみっちいなぁ。何でまたそんなセコいことを」
「変人の弟の考えることなど、兄である私にだって理解できた試しはない」
「そうか。……ところで、一つひっかかってるんだが」
「なんだ」
「パンダって、なんだ?」
「……………………なに? 知らないのか?」
 怪訝そうな顔でシロウを見上げるスチール星人。
 シロウはあっさり首を振った。
「知らん」
 スチール星人は重いため息をついた。
「なぜ宇宙から来たばかりの私が、先に地球にいた君に説明せねばならんのか合点がいかんが……ともかく、パンダというのは地球の動物だ。体躯は平均的な地球人より一回り以上大きく、全身が毛で覆われており、毛の色は基本白だが、両手両足と尻尾、目の回り、耳だけが黒い。特に眼の周りの黒い毛で、タレ目のように見えるのが人気の秘密だそうだ。あと、地球上の似た動物といえばクマになるが、それらとは違い、竹や笹という植物を喰う草食性の動物と思われているのも、一因らしい。そうだな、地球のこの地域なら……上野動物園とかいう場所にいるそうだ」
「うえのどうぶつえん……ふぅん。てか、よく知ってるなぁ。来たばっかりなのに」
「弟の残していった資料を読み込んでいたら、いつの間にか覚えてしまったのだ。……ひょっとすると、これもあいつの嫌がらせかもしれん」
 スチール星人は苦い水でも飲んだような顔つきで、ため息をつく。
 シロウは苦笑いを浮かべて、肩をそびやかした。
「それで、そのパンダ泥棒の弟の仇を討つために地球へ来たのか」
「そうだ。どうしても納得がいかないのでな」
「んん?」
 シロウは顔をしかめて小首を傾げた。
「地球人からパンダを奪い、悪事がばれてエースに倒された。それだけのことだろう? 何が納得いかない?」
「弟は確かに盗みを働き、地球人に迷惑をかけた。だが、殺されなければならないほどの罪か?」
「?」
「人類殲滅を企んだヤプール、ウルトラ兄弟抹殺を仕掛けたヒッポリト(※ウルトラマンエース第26、27話)、それ以前・以後の様々な侵略宇宙人に比べて考えても、弟の罪はそこまで重いとは到底思えない」
「ふむ。確かに、言われてみればそうだな」
「この星はまだ銀河連邦にも銀河共和連合にも属していない辺境の地。それらの法律の下にはない以上、現地での処断は宇宙警備隊の独断で行われる。そして、私の聞いた話ではエースは頭に血が昇りやすく、勢いで行動しがちだという」
「あはん、なるほど」
 ようやくシロウは納得いった様子で頷いた。
「つまり、エースはやりすぎちまったってことか」
「そうだ。必要もないのに相手の命を奪う。それは銀河連邦憲章でも禁止されている虐殺ではないか。だが、域外である以上、弟の死は何処の司法でも取り扱われない。無論、英雄扱いの光の国でもな。だから、兄である私が仇をとるしかないのだ」
「なるほど。それで、エースと勘違いして俺を襲ったってことか」
 しかし、スチール星人は首を横に振った。
「いや。……ウルトラ族だとわかったから、襲ったのだ」
「手当たり次第かよ」
「お前は奴と同じウルトラ族。だから、エースと同じく独善的な正義を信奉する輩だと思っていた。そんな奴は倒しても構うまい、とな。それに、ウルトラ族のお前を倒せば、同族としてウルトラ兄弟は黙ってはいまい」
「いや、それはねえなぁ。悪いけど」
 シロウの空しげな空笑いが響く。
「さっきも言ったとおり、俺は光の国からの逃亡者でな。連中、俺の生死なんぞ関知しねえだろうよ」
「そうなのか」
「ああ。お前さんと恨みの筋は全く違うが、俺もウルトラ兄弟ってやつが嫌いでな。ちょいと名を上げるために、一番下っ端のメビウスってのを闇討ちしたんだわ。そんで、光の国を逃げ出した挙句、こんな辺境暮らしさ。……ま、ここはここでそれなりに気に入り始めてんだけどな」
 空笑いを苦笑いに変えつつ、シロウはずり下がるようにしてその場に腰を下ろした。
 黒マントのおっさんと目つきの悪い少年が、社殿の裏で並んで壁にもたれて笑っている図は少々シュールだが、当の本人達は全く気にしていない。
「だから余計に、ウルトラ兄弟のせいで殺されたんじゃたまったもんじゃねえや。ったく……だからイヤだってんだ、エリート様はよ。連中の正義とやらのおかげで、関係ねえ俺までこんな目に遭う」
「……………………」
 スチール星人は、シロウの愚痴にじっと耳を傾けている。
「だがよ」
 不意に、シロウはスチール星人に視線を飛ばした。その眼光は鋭い。
「それでも、エースは俺より確実に強いぜ。さっき程度の腕で、どうにか出来る相手じゃない」
「やはり……最後は私を止める話になるか」
 スチール星人の横顔に、失望の色がよぎる――しかし、シロウは首を振った。
「いやいや。やめとけとは言わねえさ。ま、せいぜい頑張れよ?」
「え?」
 驚いて隣を見やるスチール星人に、シロウは唇を歪めて笑っていた。
「そもそもお前の言葉が、真実かどうか俺にはわからんからな。本当にエースがやりすぎたのかどうかもだ。ひょっとしたらお前の弟が強すぎて、力の加減がつかなかったのかもしれねえし? けど……まあ、そんなのはどうでもいい。ただ、お前の目を見りゃあ本気なのはわかる。男の本気を邪魔するのは野暮ってもんだろ。だから止めねえし、邪魔もしねえよ」
 言いながら立ち上がったシロウは、大きく伸びをした。
 その横顔をスチール星人はなんともいえない顔つきで見つめていた。
「けっ。そんな怪しげなもんを見るような目で見るなって。エリート様の御高名は眩しすぎて、俺みたいなはねっ返りにはまともに直視できねえのさ。それに、この話はエースの事情だろうが。てめえのケツはてめえで拭けっつーんだよ。ともかく、お前が何をどうしようと俺は知らんし、どうなっても知らん。そういうこった。だから、もう俺にも関わるな。面倒くせえから」
「お前……ウルトラ族のくせに、案外話のわかる奴だな。名前は?」
「光の国ではレイガ。地球ではオオクマ・シロウだ」
「そうか。……私は――」
 シロウはさっと手を突き出してスチール星人の言葉を制した。
「名乗りはいらねえよ、スチール星人。お前と仲良しこよしになるつもりもねえし、もうこれ以上話すこともねえしな」
「そうか。……すまなかったな。レイガ。いきなり問答無用で襲い掛かったりして」
「まぁ、いいさ。んで、この後はどうするんだ? 他のウルトラ族を襲う気か?」
「お前――いや、君以外にもいるのか? エースは?」
「うんにゃ。エースはいねえな。今、地球にいるのはジャックだ。……あいつも強いぞ〜。嫌になるほどな」
 うんざりした表情であらぬ方を見やる。自然とため息が唇を割った。
「……………………」
 その様子を見ていたスチール星人は、ふっと笑った。
「さっきも言ったが……私はつい今しがたこの地に到着したばかりでな。ウルトラマンジャックもすぐ見つかればいいんだが」
「難しいだろうな。あいつも色々忙しいみたいだしな」
「仕方ない、暴れるか」
 言いながら、スチール星人も立ち上がった。軽くマントの汚れをぽんぽんとはたく。
「地球人相手にか?」
 シロウの探るような目つきに、スチール星人は肩をすくめる仕種をした。
「弟の仇を英雄として崇めているような人種だからな。正直、あまりいい感情を抱いてはいない。ヤプールのように積極的に滅ぼすつもりまではないが、私の復讐の巻き添えにしても悪いとは思わん。死者が出たとしても、同情すらせんだろう」
「そうだな。正直、地球人の身勝手さについちゃあ、俺もいささかうんざりしているところはある。気持ちはわかるぜ。ま、これも地球人自身が招いた結果ってこったな」
「……君はさっき、ここが気に入り始めていると言ってなかったか?」
「『ここ』の範囲が違うって」
 にっと笑ったシロウは、視線を辺りに飛ばす仕を種した。
「俺が気に入ってるのは、本当にこの辺りの、顔見知りの連中だけだ。この島の端とか、星の裏側とか、俺の目のとどかねえ場所のことまで知ったことか。生き残りたかったら、地球人自身で戦えばいいことだ。ここは『地球』なんだからな」
「なるほど。……レイガ。君はやはりウルトラマンではないらしい」
「まぁだ疑ってやがったのかよ。……ま、いいや」
 苦笑いを浮かべていたシロウは、不意に真面目な表情に戻った。
「お前が地球人相手に暴れるってんなら、二つだけ忠告しておくぜ」
「ふむ? なにかな?」
 腕を組んで、頷くスチール星人。
「ジャックは当然だが、地球人も侮らない方がいい。連中、特に防衛隊の連中は相当強いぞ。下手をするとウルトラマン以上の戦闘力を発揮することもある」
「ほう……。なるほど。それは厄介だな。だが、それだけの力があるということは、見合うだけの覚悟もあると受け取ろう」
「見合う覚悟?」
「死の覚悟だ」
 さっきまで頭を悩ませていた問題が閃きのように甦り、シロウは思わず目をそらした。
 少なくともスチール星人は、シロウが抱えてしまった悩みと同種の、迷いのようなものはないようだ。
「それで、忠告のあと一つはなにかな?」
「ああ。……忠告、というより頼みなんだけどな」
「頼み? 君が、私にか?」
「ああ。スマンが、騒ぎを起こすならこの近所は避けてほしい」
「なぜ?」
「あー……と」
 シロウはすぐには答えず、頭を掻いた。弱気に取られぬよう、言葉を選ぶ。
「……ここには、俺がこの地に潜んで以来、世話になってる地球人が大勢いる。他の地球人はともかく、彼らに危害が及ぶなら……話は別だ。俺はウルトラ族の力を遠慮なく振るう。相手が誰であろうとも、だ」
 シロウの放つ殺気を感じたのか、それまで微笑していたスチール星人の表情が険しくなった。
「ふむ。君がそこまで言う、か。なら、本当に大事な人たちなのだな」
「家族さ。地球でのかーちゃんだ」
「なるほど……了解した。たとえ地球人でも、君が家族だというなら考慮しよう。今回のお詫びの意味も込めて」
「ありがとよ」
「いや、こちらこそ貴重な情報をありがとう。助かったよ。それではな」
「ああ。ま、がんばんな」
 頷いたスチール星人は黒いマントを翻し、その場から姿を消した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 社殿の角から若い警察官が顔を出した。裏を覗き込む。
「何か今、人の話し声が聞こえたような……」
 しかし、そこに誰の姿もなかった。
 後から覗いた年かさの警察官は、期待が外れたように顔をしかめた。
「なんだ、誰もいないじゃないか。気のせいだろう」
「そうかな。……おかしいなぁ。確かに……」
「あんまり社殿の裏なんか覗くもんじゃない。バチが当たるぞ。さあ、この辺りをもう少し探そう。下の子供たちによれば、事件後、黒いマントの男を背負った若い男がこっちへ――」
 踵を返して辺りを見回していた年かさの警察官は、ふと言葉を切った。
 その不自然な沈黙に、若い警察官も辺りを見回す。
「どうかしましたか?」
「いや……」
 年かさの警察官の不審げな視線が何度か境内の広場を見回す。
「鳩が……いなくなってるな。いつもはうざったいぐらい集まってるんだが……」
「そういえば。……さっきはたくさん集まってましたね。僕らが来たんで、飛んで逃げたんじゃ?」
「ここの鳩はそんな繊細な連中じゃないぞ。迂闊に近寄った犬や猫を集団で突っつき回して追い立てるような、荒くれ鳩の集団なんだ。人間様の一人や二人が来たぐらいで散ったりはしない……はずなんだがなぁ」
「荒くれ鳩って……古い映画でそんなのあったような」
「こりゃあ、人間様より怖い何かを感じて、いち早く逃げたかな?」
 警察帽を少し持ち上げて、皮肉っぽく笑う。
 若い警察官は、気味悪そうに辺りを見回した。
「……階段下の通りで起きた変な事案といい、何が起きてるんですかねぇ」
「さあな。法律以上のことに対処するのは我々の職務ではないさ。GUYSに任せればいい。それより、今はその事案の捜査を片付けなきゃな。さあ、行くぞ」
「はい」
 二人は鳥居をくぐって階段を下りてゆく。
 残暑厳しい秋空に、寂しげな鳩の鳴き声がどこからともなく聞こえた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 シロウが公園に戻ると、エミとユミは稽古を続けていた。昼飯は終わったらしい。
 遠めに見ると、エミの方はなかなか様になっているが、ユミの方は片手ずつを突き出してリズムを取る不恰好なダンスに見える。
「ふむ。クモイの奴は……と」
 姿が見当たらない。
 辺りに視線を飛ばしながら近づいてゆくと、エミが気づいて大きく手を振った。
「あー、シロウ! どこ行ってたのよー!」
 その声に気づいたユミも、稽古の手を止めて嬉しそうに手を振る。
「シロウさーん! 戻ってきたんですねー♪」
 辺りで遊んでいる子供たちの好奇の視線を集めている二人に苦笑しつつ、シロウは近づいて行った。
「ああ。クモイに聞きたいことができたんで、戻って来たんだが……どこ行った?」
「師匠なら、この近所で妙な事件が起こったって連絡が入って、そっち行っちゃったわよ?」
「ちっ、入れ違いか。――戻って来るって?」
 さあ、と首を傾げるエミに代わり、ユミが口を挟んだ。
「ええ、多分。わたしたちに稽古を続けておくよう言い残されて、現場に向かいましたから。戻って来る気がなければ解散すると思います」
「なるほど。……エミ師匠、連絡取れるか――ます?」
「あ、うん。携帯番号は聞いてるし。でも、師匠は今仕事中だし――」
「あー……実は、その妙な事件に関わることなんで。頼みます」
 片手で拝むようにして頭を軽く下げる。
「あ、そうなんだ。わかった。ちょっと待ってて」
 エミは小走りで荷物に駆け戻り、ボストンバッグから携帯電話を取り出してクモイ・タイチに連絡を取り始めた。
 それを見ていたユミが、ふと隣のシロウに訊ねた。
「そういえば……シロウさんは持たないんですか? 携帯」
「いらん」
 即答だった。
 あまりに素早い返答に、ユミはしばし呆気にとられるほどに。
「え、えと。あの、どうしてですか? 便利ですよ?」
「使わねーもん。使いたいとも思わねーし」
「はあ……って。いやでも、今、必要な場面じゃないですか!」
「師匠がやってくれてるからいい」
「エミちゃんがいなかったらどうするんですか!」
「ユミに頼んで、エミにかけてもらう」
「あ、はぃ……」
 ユミは嬉しそうに少しだけ頬を染めた――が、もちろんシロウは気づいていない。
「ええと……そうじゃなくて。じゃあ、もし、ここにわたしもエミちゃんもいなかったら、どうしたんですか?」
「家に帰って、かーちゃんに頼んで師匠の家にかけてもらって――」
「ああ……なるほど。どこまで行っても誰かを当てにするんですね」
「つーか、いまだに俺あの電話っての、よくわからんしな。相手の番号覚えなきゃならんのも面倒くさい」
 そこまで否定されては、継ぐべき言葉はない。
 ユミは少し考えて――ぽん、と手を打った。
「携帯持ってたら、わたし――もそうだけど、あの、そう! エミちゃんとかからの連絡がいつでも受けられますよ!?」
「? 俺ならたいてい家にいるから、家にかけてくれればいいじゃねえか」
「あう」
 がっくり肩を落とすユミ。
「……シロウさんって、地球の科学なんか遙かに超えた宇宙の人なのに、なぜかアナログですよね……」
「そうか? よくわからんが、ユミがそう言うのならそうなんだろ? ――で、アナログってなんだ?」
 予想通りの問い返しに、苦笑するしかないユミ。
 そこへ、通話状態の携帯を持ったエミが戻ってきた。
「――シロウ。師匠だけど、このまま話す? 戻って来てもらう?」
「直接話がしたい」
「ん、わかった。――もしもし、師匠? 直接話したいそうです。…………はい。わかりました。お待ちしてます」
 ぴ、と通話を切って携帯を折りたたんだエミは、シロウを見やった。
「すぐ戻って来るって。……でも、何があったの? なんか、鉄筋とか鉄柱とかばら撒いたって話だけど……まさか、シロウがやったの?」
 たちまちシロウはむっとした顔になった。
「何で俺がそんなアホなことするんだよ――です……じゃなくて、してません」
「そ、そうだよエミちゃん! シロウさんはそんなことしないよ!」
「そうそう。俺なら全部ぶっ壊す」
「……シロウさん、それもどうかと思うよ……」
「ま、詳しい話は師匠が来てから聞けばいいか」
 ユミとシロウの漫才を華麗にスルーしてジャージのポケットに携帯を突っ込んだエミは、そのまま二人の元から離れてゆく。
「エ、エミちゃん? どこ行くの?」
 思わず呼び止めたユミに、エミは足を止め、不思議そうな表情で振り返った。
「どこって……稽古の続きしないと」
「あ……ああ。そっか」
「ユミもシロウとのおしゃべりはほどほどにしておいて、稽古に戻りなよ? せっかくいいこと教えてもらってるんだからさ」
「あ……うん……」
 頷きながら、ちらりと隣のシロウを見やるユミ。
 無論、シロウはそんな視線にはまるで気づいていない。
「シロウも、ユミの邪魔するんじゃないよ〜? あ、そーだ。暇なら、あたしと一緒に突きの練習する?」
「あ、いや。……俺は――」
「あはは、冗談冗談。シロウの場合、見ただけで再現できるんだもん、今更だよねー」
 軽く笑って、おばさんみたいに叩くような(というか招くような)仕種をする。
 しかし、その一言はシロウの胸に刺さった。自分でもわかるほど、表情が硬張る。
「まぁ、あたしたちみたいに力の使い方をわかってない人間は、一つずつ積み重ねないとさ。ほら、ユーミー!」
「あ、はぁい。――じゃ、シロウさん。ごめんなさい」
 何に対する謝罪なのか、ぺこりと頭を下げてエミの後を追うユミ。
 その後ろ姿を見送りながら、シロウはため息を禁じえなかった。
 どんな達人の技も見ただけで再現できる――しかし、手加減できない。
 以前のシロウなら、それは最強だと胸を張り、高笑いをあげたかもしれない。勝負とは命懸け、手加減の必要などないのだから、と。
 だが、今は……。
「……思い通りにならない力、か」
 自分の右拳を見下ろす。その眼差しに宿る憂鬱。
「足りなかったり、強すぎたり……なんで俺の能力は、こんなに極端なんだろうなぁ」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 戻ってきたクモイ・タイチは、険しい表情をしていた。
 エミとユミも稽古を打ち切り、話を聞こうとシロウを囲む。
「で? どういうことなんだオオクマ?」
「その前に、ちょっと教えてほしいことがあるんだけどな」
 真剣そのものの表情のシロウの問いに、クモイ・タイチは怪訝そうに眉をひそめた。
「お前が教えてほしいとは……また殊勝な発言だな」
「時期はウルトラマンエースが地球に滞在していた頃だ。地球の、パンダとかいう動物が星人に盗まれたって事件、知ってるか?」
 たちまちクモイ・タイチの表情が、変な物でも口に入れたかのように歪んだ。
 二人の女子高生も目を点にして、顔を見合わせている。
「その星人はウルトラマンエースに倒されているはずなんだが」
「オオクマ? 地球侵略ならともかく、星人がパンダを盗んでどうしようというんだ」
 至極真っ当なクモイ・タイチの意見に、シロウも思わず視線を逸らす。
「いやだから……ええと」
 困惑するシロウの服の袖を、ユミがくいくいと引いた。
「シロウさん、そのギャグは……面白いっていうか、ちょっとビックリしましたけど、わざわざクモイさんを呼びつけて話すことじゃあ……」
「誰がギャグだ!」
「そうだよ、シロウ。真面目に話をしなよ。クモイ師匠は仕事のために聞いてるんだから」
 腕組み、仁王立ちで威圧を込めて告げるエミ。
 シロウは焦り顔で、その言葉に抗った。
「俺は至って真面目です、師匠!」
「でもねぇ」
 と呟くエミの視線を受けたユミも、困った顔で苦笑いを浮かべる。
「パンダはちょっと……ねぇ」
「……オオクマ、念のために確認しておくが……本当に冗談の類じゃないんだな? 今ならまだ――」
 クモイ・タイチの確認に、シロウは地団駄を踏んだ。
「かーっ、もう!! しつっこいってんだよ! いいから知ってるのか知らないのか、はっきりしろ! 知らねえってんなら、用はねえ! カズヤんちへ行って、ナットとかで調べてもらうだけだ!」
 シロウの本気の叫びに、エミとユミは再び顔を見合わせる。
「ナット?」
「ネットじゃないかな」
「ああ。さすがユミ」
 腕組みをしてしばし考え込んでいたクモイ・タイチは、ため息をついた。
「わかった。ちょっと待て」
 メモリーディスプレイを取り出し、GUYSジャパンの臨時ディレクションルームを呼び出す。
 画面に現われたのは、シノハラ・ミオだった。
『はい、こちらシノハラ。ああ、クモイ隊員。現場はどうでしたか?』
 クモイ・タイチはちらりとシロウを見やった後、口を開いた。
「現場の映像情報と報告は後で。それより……その……今から言うのは、大真面目な質問なんだが、あー……今回のこの事件に関わりがあるという人物から問い合わせがあってだな」
 画面の向こうでシノハラ・ミオが怪訝な顔をした。
『どうしたの? いつものクモイ隊員らしくないわね? 何か調べてほしいの?』
「あ、ああ」
 クモイ・タイチはなぜかもう一度シロウを見やった。ついでに女子高生二人にもなんともいえない微妙な、弱気めいた視線を送って、画面に戻す。
「アーカイブ・ドキュメントをあたってくれ。T・A・Cの時代らしいんだが……」
『ドキュメントT・A・Cね』
 軽やかなキータッチが聞こえてくる。
「その……パンダを盗もうとした星人なんて、いたのか?」
『……………………いるわよ?』
「そうか、やっぱりいるわけはないよな。…………なに?」
『レジストコード・宇宙超人スチール星人。そっちでも表示できるはずよ?』
 画面上のシノハラ・ミオの上に新たなウィンドウが開き、代わりに奇妙な風体のヒューマノイドが映った。
 まず目を引くのは、その頭部の形状だ。いわゆる生物的な頭部ではない。
 耕運機とかコンボイのフロント部分を思わせる角ばった形状、左右後方と頭頂部の突起の先にはそれぞれ電動丸ノコの回転刃のようなギザギザの飾り――頭部なのか、ヘルメットやマスクの類なのか、判断に迷うデザインだ。
 身体は黄色と黒のツートンカラー。腹部に見られるベルトとバックル状の飾り、肩、腕、腿についているいくつもの四角錐。足元がどう見てもブーツ状の形であることといい、いわゆるバルタン星人などに代表される無着衣で活動するタイプの異星人とは違い、地球で言うウェットスーツに近い何かを着ているように見える。
 そして……両手の人差し指が異常に長く、その先端が膨れている。ちょうどギャグマンガなどでよくある、トンカチで自分の指先を叩いてしまった、という表現をそのまま現実化したような形だ。
 スチール星人を見たクモイ・タイチは、思わず唸っていた。
「むうぅ。なんだ、この……なんというか……見るからに怪しげなのは」
『パンダを盗みに来たとは言っても、被害に遭ったのは中国で星人に捕獲されたらしい一頭きり。当時、日本には中国から友好の証として送られたパンダが上野動物園にいたのだけれど、なぜか星人はそちらを狙わずに街のパンダグッズをアジトの倉庫いっぱいになるほど盗み回っていたそうよ。おまけに、その捕獲してきたパンダもアジトから逃げられて、辺りをうろつかれてるし。それでバレたみたい』
「……………………」
「……………………」
「……………………」
 なんともいえない微妙な表情で顔を見合わせあう、二人の女子高生と非番のGUYS隊員。
 その脇でシロウはそら見たことか、と優越の笑みを頬に刻んでいる。
「……しかし、シノハラ隊員。なぜパンダとパンダグッズなんだ?」
『さあ?』
 シノハラ・ミオは首を捻った。
『ドキュメントでは……んー……その辺りには触れられてないわね。ただ、アジトを発見して単身乗り込んだTAC隊員の証言によると、当時日本で大人気だったパンダをさらって地球人を落ち込ませるのが目的だ、と本人が語ったそうよ。おおかた本物のパンダが捕まらなかったものだから、代替品としてグッズを狙ったんじゃないかしら』
「そんな星人が本当に存在したとは……事実って奴は……予想の斜め上を行くものだな。とはいえ、わざわざ宇宙を渡ってきて、そんなしょうもない嫌がらせをするものか? そんな星人は他にもいたのか?」
『さあ……セザキ隊員辺りなら「宇宙は広いから」って言いそうだけれど……。要するに知能程度が近いんじゃない? 日本人も結局、本物の代わりにパンダグッズを集めてたわけだし……あら?』
「なんだ?」
『いえ……今の話と直接関連はなさそうだけど……動物園つながりで、ドキュメントU・G・Mにバルタン星人が自分の星の動物園にウルトラマン80を展示するために戦いを挑んできた、という記述があったの。……とはいえ、いろいろ信じがたい報告ね。これ書いた人、正気だったのかしら』(※ウルトラマン80第37話)
 聞いていた女子高生二人は、笑っていいのか呆れていいのかわからない様子で顔を見合わせ、首を振り合った。
 シロウはクモイ・タイチに聞いた。
「それで、そのスチール星人はどうなったんだ?」
 頷いて、同じ問いをシノハラ・ミオに返すクモイ・タイチ。
『スチール星人の最期? ……アジトを発見されて巨大化、身軽さを生かした戦い方をして暴れ回ったけれど、最後はウルトラマンエースに倒されているわね』
 他に聞きたいことは、というクモイ・タイチのゼスチャーに、シロウは首を振った。
 頷いたクモイ・タイチは、表情を引き締めた。
「わかった。ありがとう、シノハラ隊員。では、これから現場の映像情報をそっちへ送る。次の連絡はちょっと聞き込みをしてからにする」
『わかったわ。それでは』
 通信画面が切れた。
 クモイ・タイチはデータ送信の作業を手早く行って、シロウに向き直った。
「……要するに、あの現場のありさまは、スチール星人の犯行ということか、オオクマ」
「ああ。復讐に来たんだそうだ」
「復讐?」
 怪訝そうなクモイ・タイチに、シロウは肩をすくめてみせた。
「さっき言ってたろ。しょうもない嫌がらせって。その程度のことで殺されちまった弟の仇討ちだそうだ」
「ふむ……それで、そいつは今どこにいる?」
「知らん」
「あ?」
 怒気を孕んで顔をしかめるクモイ・タイチに、女子高生二人が息を飲む。
 しかし、シロウはじっとクモイ・タイチの瞳を見返していた。
「いきなり襲われたんで一戦交えた。どうも勘違いで襲ってきたらしいってんで、とっつかまえて話を聞いた。んで、納得できたし、勘違いとわかってくれたんで解放した。それだけだ。そのあとどこに行ったかなんぞ知らねえよ。興味もねえしな。だいたい、お前も勘違いしてねえか?」
「勘違い? なんのことだ?」
「俺は地球人のためのウルトラマンじゃねえし、地球人でもねえんだぜ? 俺がお前らに協力してやる理由はないな」
「シロウ!?」
「シロウさん!?」
 二人の非難めいた呼びかけにも、シロウは応えなかった。
「向こうには仇討ちっていう理由がある。直接的にはエースに対するものだが、エースを英雄扱いしてる地球人も嫌いだそうだ。あいつが地球で何かをする限り、あいつとお前ら地球人――あとウルトラ兄弟の間の問題だ。つまり、この件に俺が関わる余地は全くない」
「……………………」
 クモイ・タイチはじっと黙り込んでいる。
 悲しげな表情で進み出てきたのはユミだった。
「でもシロウさん、この間は地球のために戦ってくれたじゃないですか」
「ユミ、それも勘違いだ。地球のためじゃない。この間の戦争は、お互いの利害が一致したから一時的に手を組んだだけだ。エミ師匠や、ユミや、かーちゃんや……俺が守るためには、あの時はああするしかなかった。けどな」
 シロウは再びクモイ・タイチに目を向けた。
「あいつは俺の頼みを聞いて、ここでは暴れないと約束してくれた。俺も約束を守ってくれる限り、あいつがやることを邪魔しない、と約束した。ただ、あいつの言っていることが本当かどうかわからなかったから、ここへ確かめに来たんだ。そして、あいつは嘘をついていなかった。従って、俺もあいつとの約束を守る。……へっ、地球のことなんだ。てめえの星ぐらい、てめえの力で守り切ってみせろよ、地球人――エミ師匠、何か問題あるか?」
「……言葉遣い。師匠に対する言葉遣いじゃないわよ」
「う」
 ジト目で睨んでいたエミは、しかし小さく嘆息した。
「でも、そうね。少なくとも、シロウは間違ってない。間違ってないけど……地球人としては、ちょっと割り切れないよ」
「師匠?」
 怪訝そうなシロウに、エミは少し困った表情で諭す。
「シロウ、覚えておいて。確かにシロウには地球を守る義務はないわ。でも、傷つけても構わない、とあなたが異星人に許した人たちの中には、あなたが知らないだけで、あたしやユミの大事な友達や知り合いも含まれてる。もし、その異星人が暴れてその人たちが傷ついたり、死んだりしたら……あなたは道理として悪くなくても、あたしたちはシロウに辛く当たるかもしれない。その覚悟はしておいて」
「……なんで? ですか?」
 納得できないように顔をしかめるシロウを、エミの険しい眼差しが射抜く。
「筋さえ通せばいいってものじゃないのよ、シロウ。……シロウのした約束は、シロウの立場や考え方なら間違ってないと思う。でも、少なくとも、今の話は黙っておくべきだったわ。地球人の前ではね。だって……あたしたちは地球人だもの。同じこの星の上に生まれ、生きている人たちを傷つけていい、と他の星の人に許した人を、そのまま受け入れられるほどあたしは心が広くない。そして、現実に傷つけられるシーンを見たら……多分、許せなくなる。実際に傷つけた異星人もそうだけど、シロウが傍にいたらシロウを、ね」
「……師匠……」
 エミの強情なまでの意思表明に怯んだシロウは、思わずユミを見やっていた。
 しかし、ユミはふいっと視線を逸らしてしまった。
「ユミ……お前も…………同じか?」
「……ええと………………はい。多分、誰か知り合いが傷つけられたら……どうしたらいいか、わからなくなると……思います」
 うつむいたユミの唇から紡ぎ出される、か細く、消え去りそうな声。
 シロウの頬に引き攣りが走った。
「く……俺にどうしろって言うんだ!」
「どうもしない」
 冷たく一言、そう答えたのはクモイ・タイチだった。
 頭を掻きながら、大きくため息を漏らす。
「お前の言うとおりだ、オオクマ。地球は地球人自らの手で守り抜いてこそ、意味がある」
「クモイ……」
「だから、そいつを探し出し、間違いが起きる前に対処するしかない。それが俺の仕事だしな。そして、いみじくもお前がもう一つ言ったとおり、これはスチール星人と地球人と、ウルトラ兄弟の間の問題だ。お前に関わりはない。傍観者でいるならそれでもいい。俺たちもあてにはしない。だが――」
 クモイ・タイチの視線が、二人の女子高生を見やる。
「同様に、今、ヒビの入りかけてるお前たちの関係は、お前たち自身の問題だ。どうしたいのか、どうするのか、それはお前が決めなければならん」
「……う……」
「ともかく、今日はこれにて解散としよう。スチール星人の地球侵入が確認された以上、これから職務に復帰せねばならんのでな」
「!!」
 素早く、エミは直立不動の姿勢をとった。
「行ってらっしゃいませ、クモイ師匠! どうか、ご無事で!」
 触発されたように、ユミも同じように背筋を伸ばす。
「頑張ってください、クモイさん! GUYSの皆さんのご活躍、応援しています!」
「ああ。ありがとう。それじゃ、また」
 走り出したクモイ・タイチの背中に、女子高生二人が手を振る。
 唇を噛んだシロウも、あっという間に遠ざかりゆくその背中をじっと見つめていた。


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