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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第6話  史上最大の逆襲 生ある"もの"たちの反撃 その6

 ファンタス星近傍の宇宙空間。
 熾烈な戦闘が繰り広げられ、無数の爆光が花開いては消えてゆく。
 その中心にいるのは――

 ウルトラ兄弟屈指の光線技の使い手、ウルトラマンエース。
 地球滞在時は無敗を誇る若き精鋭、ウルトラマン80。

 ファンタス星から次々と飛来するロボフォーを、身軽なアクションと多彩な光線技で撃破しつつ、真っ直ぐ突き進んでゆく。
「なんという数だ! 光の国に押し寄せてきたのは、戦力の一部に過ぎないというのか!」
 叫びながら、額に両手の人差し指と中指を揃えてかざすウルトラマンエース。
 額のウルトラスター(ビームランプ)から放たれた光線パンチレーザーが、正面のロボフォーを貫いた。たちまち爆散する。
「だが、ここで怯む私たちではない! 必ずお前たちの野望、止めてみせる!」
 ウルトラマン80が掲げた右手の中に伸びる光の槍ウルトラレイランス。
 投げ放たれたそれは、二機のロボフォーを貫いた。
「80!」
「エース兄さん!」
「やるぞ!」
「はい!」
 背を寄せ合った二人は、ともに腕を『 L 』字に組んだ。
 メタリウム光線とサクシウム光線。両者のもっとも得意とする光線技が、戦場をなで斬り、爆光の華が帯となって二人の周囲を染め上げる。
 やがて、静寂が訪れた。
 二人の撃破の速度に、応援の飛来が間に合わなかったらしい。
「……とりあえず、一段落か」
 激しい戦いの連続に、張り詰めきっていた心を少しだけ緩めるように、吐息を漏らすウルトラマンエース。
「ですが、油断はできません。敵の本隊はファンタス星の軌道上に展開しています。あの防衛網を突破するのは大変そうだ」
「そうだな」
 若いウルトラマン80の言葉に頷きながら、ウルトラマンエースはファンタス星を見やった。
 星系中心で輝く恒星の光を浴びて、明るく光る惑星。その輝きを汚すかのように、黒い染みが広がっている――衛星軌道上に展開・待機しているロボフォーの軍団。
 それを見ていたウルトラマンエースは再び頷いた。
「だが、我々なら突破できる。ウルトラ兄弟の中でも、我々は次元を超えた戦いの経験が豊富だ。そうだろう、80」
「なにか、考えがあるのですね?」
「ああ。エースバリアを使う」
「エースバリア! あの、異次元に対象を送り込んでしまう大技を……!」
「さすがにあれだけの数を全て、というわけにはいかないが、君をあの惑星に降下させる時間稼ぎはできるし、向こうの得意な時間停止光線への牽制にもなるだろう。それに、宇宙ならある程度エネルギーを気にせずに使える。80、君は異次元を潜り抜けて、ファンタス星の地表にたどり着け。それなら追っ手を撒くこともできる。その後は、任せる」
「しかし、それではエース兄さんが」
 心配する80の肩に、エースはその手を置いた。
「大丈夫だ。私も君もウルトラ兄弟。勝たねばならない理由がある限り、負けはしない。君には私がいて、私には君がいる。そして、お互いに守らなければならない命を背負っている。ならば、君のすることは一つだ」
「ファンタス星の中枢を叩く……」
「そうだ。ウルトラ兄弟唯一の無敗記録を持つ君にこそ、その役目は相応しい」
「やめてください、エース兄さん。それはたまたまのこと。……ですが、わかりました。できる限り早く、決着をつけます。どうか、無理をなさらぬよう」
 力強く頷いたウルトラマンエースが、右腕を突き出す。
 ウルトラマン80はそれに応えて、自らの右腕を合わせた。
「では、行くぞ!」
「はい!」
 異次元への扉を開き始めたウルトラマン80を置いて、ウルトラマンエースは飛翔した。
 軌道上を埋め尽くすロボフォーの大軍団へ、単身。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネスト・ヘッドブリッジ。
 喜々として自席に着いたシノハラ・ミオは、猛烈な勢いでコンソールを叩き始めた。
 様々なデータを呼び出し始める。
「シノハラ隊員、できれば説明を――」
 シノハラ・ミオの勢いに気圧されたように、控えめに聞くサコミズ・シンゴ。
 シノハラ・ミオは作業を続けながら、口を開いた。
「電波です!」
「電波?」
「私たちは敵の乗っ取りプログラム電波対策のため、通信機器を封印していました。念のために電波観測機器なども全て封印していたので、さっきの各種スキャン・サーチのデータにはなかったんですが……連中は、電波で指令をやり取りしているんですよ!!」
 一瞬置いて、サコミズは得心のいった表情になった。ほぼ同時にイクノ・ゴンゾウも。
「なるほど。そうか。中枢であり、艦隊が整然と活動している以上、定期的に指示が出されているはずだ。その電波の発生源に、敵がいる!」
「ここから地球へと送るなら、衛星みたいなものを経由しなければならないんでしょうが……それをたどれば最終的に、ということですね!? シノハラ隊員!」
『……ええと、要するに変な電波が出てるところってことか?』
 不意に割り込んできたレイガの声に、しかし今度はシノハラ・ミオも驚きはしなかった。
「そうよ! 幸い、敵の使用する電波帯域と主な波形はデータとして取得済みだから、後は乗っ取りプログラム電波にだけ気をつけつつ、敵の電波を探索、その出ている方向を重点的に――」
『そんならあそこじゃねーか?』
「はい?」
 ぴたりとシノハラ・ミオの手が止まった。
 GUYSの一同がメインパネルを見ると、レイガがコロレフ・クレーターの一点を指差していた。
「……わかるの?」
 ずり落ちそうになったメガネを戻しながら、ゆっくり立ち上がるシノハラ・ミオ。その視線はレイガの示す指の彼方を見ているが、何かがあるようには見えない。
『わかるっつーか、電波ぐらいなら見えるからな。地球人とは目の構造が違うんだ。正規の訓練を受けてなくったって、それぐらいは見える。でなきゃ、宇宙なんか危なくて飛べねえって。大体こうして電波を加工して声を届けてるんだからよ、ちったぁ信じろよ』
「見えてるんなら、なんで言わないのよ!」
『え、いや。だって……』
 ヒステリックなシノハラ・ミオの怒声に、レイガは見るからにたじろいでいた。
『電波がヒントだとか思わなかったし、電波が変な風に出てるってだけで、怪しいものが見えてるわけでもないし……』
「あー、もうっ!! 一般人か、あんたはっ!!! ウルトラマンのくせにっ!」
 力いっぱいコンソールデスクを両手で叩く。その気迫にサコミズ・シンゴ以下全員が思わず怯んでいた。
『だから、ウルトラマンじゃなくて一般人だって言ってんだろ! だいたい、オレの力を借りないって言ったのはシノハラじゃねーかよー。だから、オレは遠慮して――ああ、もう。そんなことはどうでもいい。とにかく、あそこに隠れてる何かを叩けばいいんだな!?』
「ちょ……どうするつもり!?」
 両腕を大きく左へ振りかぶるレイガ。
『擬装なんてもんは、ダメージ食らえば解けると相場が決まってる! 威力が低かろうが、オレの光線が当たれば正体を――』
「ちょ……何を乱暴なっ! 待ちなさい、レイガ!」
 その時、メインパネルに警告表示が表れた。
「――!? 空間の異常を検知? なんだ!?」
 自らのモニターを見やったイクノ・ゴンゾウが再びメインパネルに目を戻した時、画面の中のレイガは、横合いから飛んできた光弾の直撃を受けて吹っ飛んでいた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所――ではなく、月面裏側の星間機械文明連合総司令本部。
 その中枢。暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
 メインパネルに、こっちを真っ直ぐ指差す蒼いウルトラ族の姿が映っていた。
「どうやら敵はこちらの座標に気づいたようです。迎撃プログラム発動、EprIRタイプ全機転送開始。出現と同時に攻撃」
「同期爆撃の全弾、ウルトラマンジャックによって押し戻されました」
「現在、押し戻された弾頭による我が方の損害ほぼ0。プログラムは想定どおりの効果を挙げています」
「追撃艦隊、惑星防衛戦力と乱戦状態。機動力に差があり、編隊をかき乱されています。効率的な戦果は期待できず」
「敵白兵戦力に機動兵器群が攻略されています。彼我の損害割合、10:1。早急な対応が必要です」
「敵白兵戦力には、高速機動戦を得意とする機動兵器で優先的に迎撃。ウルトラマンジャックによる砲撃反射の条件クリアにつき、残る全機動兵器を爆撃艦隊下方宙域に投入」
「抵抗勢力艦隊、爆撃艦隊外縁の砲撃を避けて移動中。反転攻勢の兆し、見られず。意図が不明です――動きあるまで監視継続」
「爆撃艦隊――同期爆撃の第二射、発射準備開始」

 ロボット長官は次々と入る報告を聞き、ただ頷く。
「……指示などせずとも、当たり前のように反応し、遅滞なく対応する。この整然とした秩序こそ、宇宙の真理。究極の法則。それを体現した我々が敗れることなど、ありえようはずがないのだ。ふははははは……さあ、時は来た。滅べ、愚かなる有機生命体どもよ」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 生協船団旗艦の艦橋。
 最前までメトロン星人が立っていた場所には、ボーズ星人が仁王立ちしていた。
 周囲で飛び交う悲鳴じみた報告の嵐にもまるで動じず、風に向かって立つトドの風情である。
「――ウルトラバリヤーで反射した砲弾による敵の損害、ほぼ0! 戦力差、全く変わりません! あの数であの密度の弾幕を躱すか!? なんて艦隊指揮能力だ!!」
「敵追撃部隊と地球のGUYS部隊、完全に乱戦です! これでは例え接近しても、援護砲撃は困難です!」
「キングジョー、クレージーゴン、ウルトラマンジャック・バルタン星人部隊へ殺到! 組合長率いる部隊には、代わってガメロットとナースが機動戦を仕掛けてきています! 距離を置いてロボフォーとニセウルトラセブンによる砲撃も激化! ピンチです!」
「船団最後方のピット船、敵の砲撃を受けて大破! 乗組員の生死不明! 救助にも向かえません!」
「観測班、それは本当か!? ――報告! 本戦域からインペライザーが一斉に姿を消しました!」
 その瞬間、艦橋から意味のある声が消えた。
 ざわり、とさざめくような声だけが響く。
 それに対して、ボーズ星人は――
「うむ」
 と頷いただけだった。
「ちょ……組合長代理! 何か、指示もしくは見解を!」
「……ん? 組合長代理、誰だー? 呼んでるぞー」
 とぼけた様子で振り返るボーズ星人。
「あんたのことですよ! メトロンの旦那に、あとを任されたんだろう!!」
 危急存亡のこの時に、あまりに呑気な大将(代理)を前にして、思わず出た突込みの声。
 しかし、ボーズ星人は胸を張って笑った。
「はっはっは。私が? まさかまさか。自慢じゃないが、我々ボーズ星人は――とりわけその中でも私は、団体行動というやつが大の苦手なのだ。代わりに単独で隠れ潜むことなら、百年でも二百年でもやってみせるがな。そんな私が組合長代理なんて、無理無理。はっはっは」
 たちまち、艦橋の気温が絶対零度ちかくまで下がった。無論、この場にバルダック星人はいない。ブラック星人も、超獣フブギララも、ポール星人も。
「な、ならあんたはなんでそこにいるんだ!?」
 ごく真っ当なその問いに、艦橋に居合わせた者全てが頷いていた。
「なんでって……。私はボディーガードをするために来たんだ。敵の艦に横付けて、颯爽と乗り込むメトロン星人を守って、この右手の鞭で相手を絡めとり、この左手で叩き殺す。はっはっは。うむ。しかし、まさか機械人形が相手で、しかも白兵戦が宇宙空間になろうとは、夢にも思わなんだ。海の中ならともかく、宇宙空間へ生身で出るのは、浸透圧とかの関係でちょっとマズいしな。多分」
「し、しかし、曲がりなりにもメトロンの旦那に任されたわけだし……」
「なーにを言っている」
 ボーズ星人は鼻から一息強く息を吐いて、腕を組んだ。
「ここまでいろいろ見聞きしているが、君らのやっていることは全くわからん。メトロン星人のやることも、全くわからん。とりわけ、敵のやることなど皆目わからん。全っ然わからんのにヘタに口を出して、全滅したらどうする。君たちに任せるのが一番だろう。はっはっはっはっは」


 生協船団の旗艦艦橋。
 そこには、実に様々な星出身の種族が集まっている。
 その中には、読心に長けた星人もいた。後に、この戦いを生き残ったそうした星人の一人は述懐する。
「――……あの時、私は奇跡を体感した。素晴らしい体験だった。信じられるか? あの時、艦橋には、そうだな……異なる星系出身の者が3、40人はいただろうか。ボーズ星人を除いた全員が、一人として例外なく――そう、私も含め、全員がだ。同じ言葉を心に思い浮かべたんだ」
「いやはや、あまりに一致していたせいで、その瞬間、私は自分の能力が消えてしまったのかと思ったほど、タイミングも言葉も一致していたんだ。いや、あれは本当に素晴らしい体験だった。人は……星の生まれを超えて、一つになれる。その可能性を見た瞬間だったよ」
「みんなが何を考えていたかって? はは、今の話を聞いていればわかるだろう。みんな、こう思っていたのさ。――『ダメだ、こいつ』、そして『我々でやるしかない』……とね」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネスト・ヘッドブリッジ。 
「レイガちゃん!!」
 ヤマシロ・リョウコが席を蹴って立つ。
 自らの席のモニターを確認したイクノ・ゴンゾウの表情が、たちまち強張った。
「――周辺に空間異常反応多数! これは……レジストコード・無双鉄神インペライザーです! その数、20……いや、30! まだ増えます!」
 モニター画面上に、出現した敵を示す点滅が見る見る増えてゆく。
「空間転移で地球の軌道上から呼び寄せたのか!」
 サコミズ・シンゴは唇を噛んだ。しかし、すぐにその唇が笑みに緩む。
「だけど、これだけの反応をしてきたということは、やはりここに守るべき何かがあるということだ。――リョウコ! フェニックスネスト発進! とにかく動き回って敵に的を絞らせるな! ミオとゴンさんはフェニックス・フェノメノン発射準備!」
「「「G.I.G!!」」」
 三人の応声が響き渡り、不死鳥の砦は月面の空に羽ばたいた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 横っ面を張り飛ばされた格好のレイガは、背中から月面に落着したものの、すぐに起き上がった。
(くそったれ!)
 周囲を見回す。高速で離れてゆくフェニックスネスト。
 そして、周囲を埋め尽くす、無数の、と形容しても許されるほどのロボットの群れ。
(こいつら……どっから来やがった?)
 すっくと立ち上がったレイガは首を左右に傾け、拳を鳴らす仕草をしながら、じっと相手を見やる。
 無双鉄神インペライザー。
 二足歩行で二腕を持つヒューマノイド形態ながら、その頭部は顔ではなく三連ビームガトリングガンであり、その両肩からも一対の砲塔が突き出している。そして、その腕は、大剣、ドリル、トゲ付き鉄球、ハンマーなどなど、実に様々な形状になっていた。
 砲撃戦になれば、こちらが不利だ。とはいえ、そのバリエーション豊かな腕の形状を見る限り、接近戦も得意そうではある。
(だったら――オレの得意な間合いで行くまでだ!!)
 そう吼えて、月面を蹴り、瞬時に最も手近な群れへと間合いを詰めた。無論、両腕を左から右へ回し、その右手にエネルギーを集めて。
(砕け散りやがれっ!!)
 突き出した光り輝く手の平――を受け止める、巨大な刃。
(な……に!?)
 その巨大な剣は、ロボットの右腕。そして、その硬度は尋常ではない。アイスラッガーを弾き飛ばせるほどに凝縮したエネルギーを乗せたレイガの右手を、真正面からまともに受け止め、びくともしない。
 火花を散らし拮抗する力――次の瞬間、レイガは自ら身を投げ出すようにして、空中で側転した。たった今自分がいた場所を、別のロボットの大剣が薙いでゆく。
(ちぃぃ! ボスの前の前座にしちゃあ、ちょっとばかり骨がありそうだな)
 そう呟いている間にも、次々と大剣が、ドリルが、鉄球が、金棒が、ハンマーが襲い掛かってくる。
 それらをあるいは躱し、あるいは輝く右手で払いのけ、あるいは受け止め、受け流す。
(――くそ、これは確かにクモイ相手の特訓がなけりゃ、やばかった!)
 頭数が多いだけあって手数は多いものの、その動作はクモイの拳や蹴りに比べれば、まだ遅い。十分対応できる。
 とはいえ、身を翻した先にもインペライザーがおり、待ち受けていたように五角金棒の腕を振りかぶる。
(それと――)
 考えるより先に体が動いた。大きく一歩踏み込んで、右拳の甲から下腕を滑らせるようにして金棒を受け流し、体を捌く。右手の甲が擦った金棒の表面に派手な火花が散った。
(モンキーナイトが役に立ってるぜ、カズヤ! このシチュエーションは、木なんたら拳によく似てる!!)

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネストはコロレフ・クレーター上空を旋回していた。
 それを撃墜すべく、インペライザーから放たれた無数の光弾が飛び交う。
「インペライザーの総数、53機! レイガ周辺に5機、残りは四方から12機ずつの編成で包囲を狭めつつあります」
 イクノ・ゴンゾウがモニターに表示された数字を読み上げる。
「サコミズ総監、この状況を覆すには――」
「敵を一箇所に集めてフェニックス・フェノメノン、しかないな。シノハラ隊員、発射準備は!?」
「フェニックス・キャノン、シリンダーカートリッジにエネルギー充填中。発射準備完了まで、もう少しかかります!」
「わかった。リョウコ、フェニックス・キャノンは連射が利かない。一撃で出来るだけ多くの敵を一網打尽に出来る位置取りを狙うんだ」
「G.I.G。――サコミズ総監。そうなったら、距離を空けて空間転移で肉薄されるとうざいんで、敵の射程圏内を旋回するけど、いいよね?」
「任せる」
「レイガちゃんへの避難指示は?」
「ここで叫ぶ。……彼には届くはずだ」
「G.I.G。その時はあたしも叫ぶよ」

 フェニックスネストが速度を上げて上空を旋回する。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 月面裏側の星間機械文明連合総司令本部・中枢。
 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「移動型防衛拠点、高速で旋回中。高エネルギー反応上昇中、大気圏離脱時に使用したイオンビーム砲を使用する可能性、98.7772」
「敵イオンビームの射幅、射程解析――完了。EprIRタイプ各機の位置取りを、どこから発砲されても最低限の被害で済む座標へ」
「第三惑星上空宙域に新たな船団侵入。所属不明」
「爆撃艦隊下方宙域、ウルトラマンジャックとバルタン星人の抵抗苛烈。特にバルタン星人による重力波攻撃で接近を阻まれています」
「爆撃艦隊外縁部に第三惑星防衛戦力からの遠距離砲撃着弾。及び飛翔体による大規模爆発発生。被害軽微なれど、状況継続。対策の要あり、有効な戦略・戦術展開への解析開始」
「強力な撹乱電波を放射しつつ、所属不明船団が爆撃艦隊に接近中」
「……なに?」
 落ち着いた様子で、秘書の入れてきたコーヒーを飲んでいたロボット長官の動きが止まった。
「早急に確認せよ。第三惑星の宙域防衛戦力ではないのか?」
「第三惑星の戦力データに該当なし。……近傍宙域の戦艦より望遠レンズにて対象補足。データ検索――完了。ペダン星とバンダ星の宇宙船による混成船団と判明。内訳はペダン3、バンダ5。うちバンダの4機は資源回収ステーションです」
「ペダン星とバンダ星だと? ……何のつもりだ?」
「ペダン船より、宙域内全域に全帯域にて通信電波発信」
「なに?」
 たちまち、メインパネルに通信画面が表示された。
 金属製の光沢を放つ、鋭角で構成された背もたれの椅子の前に座る、ヒューマノイドのシルエット。その頭部の両側面及び頭頂付近左右に突起物が生えている。椅子の後ろ側の壁は、青緑色の光がぼんやり浮かんでいる。
『本宙域に存在する、あらゆる知的生命体に通告する。我々はペダン・バンダ星連合船団。当方に攻撃、侵略、戦闘、もしくは現在行われている戦闘への仲裁・介入の意思は一切ない。ただし、それは無抵抗を意味しない。不当な攻撃に対しては、全力でこれを排除する』

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 GUYS総本部大会議場。
 唐突なその宣言に誰もが右往左往する中、タケナカ総議長だけが素早く秘書官を呼んで各種データの提示を指示していた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 GUYS日本支部。地下臨時本部。
「キングジョーとクレージーゴンを作った星人が手を組んで……なにをするつもりなの……?」
 ミサキ・ユキの不安げな呟き。
 その脇でトリヤマ補佐官とマルも息を呑んでいる。
 そして、セザキ・マサトは、ただぽかんと大口を空けてその通信画面に見入っていた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 爆撃艦隊外縁部。
 バルダック星人やバルタン星人、ミステラー星人などの巨大化星人を率いて星間機械文明連合の機動兵器部隊との乱戦の最中にあるメトロン星人は、その報告を通信機で受けて唸った。
「ペダン星人め……このタイミングで来るか。何を考えている?」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 生協艦隊旗艦艦橋。
「こいつは何を言っているんだ?」
 ボーズ星人の言葉に、誰も反応しない。
 あてにならない上司として無視されている、ということ以前に、皆が同じ疑問を抱いていたからだった。
「戦闘にも参加せず、仲裁もしないとなれば、何をしに来て、何のためにこんな通信を流しているのだ? おかしな奴だ」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 津川浦。
 テレビに映ったその通信を、皆が食い入るように見ていた。
 そして、エミが口にした言葉は、遙か上空で青い異星人が口にしたのと全く同じだった。
「どっちとも戦わないし、仲裁もしないけど、やられたらやり返すよって……じゃあ、何しに来たのよ、こいつ。バカじゃない?」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 月面裏側の星間機械文明連合総司令本部・中枢。
 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「……ペダン星人」
 ロボット長官が答えた。
 その声は電波に乗り、宙域全域へ広がる。この戦いに参加している者も、傍観者も、全てがその声を聞いていた。
「そちらにそのつもりがなかろうとも、お前達も有機生命体である以上、殲滅の対象である」
『ああ、言い忘れていたな。人形のお遊びに付き合うほど暇ではない。黙っていろ。……引き続き、本宙域の全知的生命体に宣言する。我々は、我々の星より強奪された資源を回収しに来ただけである。回収が済めば、即座に本宙域を離れる予定である。繰り返す、我々に侵略の意思も、戦闘介入の意思もない。また、どの勢力からの援助も求めてはいない。我々が求めるのは唯一つ、邪魔をしない、それだけだ』
「ここに、お前たちの探す資源など存在しない」
『それを判断するのは我々だ。そして、人形は黙っていろと言ったはずだ。音声インターフェイスを備えていないのか』
「……愚劣なる有機生命体らしく、優越存在に対する口の利き方を知らぬとみえるな」
 そう言いながら、オペレーターの一人を見やって、ハンドサインで発射の指令を送る。
 頷いたオペレーターのアンドロイドは、手早くコンソールを叩いた。
「――爆撃艦隊、第三惑星地表同期爆撃開始します」
「戦闘に参加せぬというなら、好きにしろ。見ておれ、ペダン星人。貴様らの本星もいずれ同じ末路をたどるのだからな」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙戦艦下部のウェポンベイハッチから、一斉に光弾が放たれた。
 対する新マンとバルタン星人は周囲に押し寄せるキングジョー、クレージーゴンを中心とした高硬度機動兵器群に阻まれ、身動きが取れない。

 それでも。
 まとわり着く小型UFOを殴り飛ばし、蹴り飛ばし、間合いを作った新マンは両腕を胸の前で組んだ。
 最後のウルトラバリヤー。
 その意図を的確に読み取り、巻き添えを覚悟でその周囲を固めるバルタン星人。
 決意と覚悟を込めて、押し返すべき光の弾幕を見上げた新マン――しかし、そこに信じがたい光景を見た。

 落ちてくる弾幕と自分達の間に立ち塞がる壁。
 ずらりと並んだそれは、キングジョーとクレージーゴンだった。
 たった今まで、自分達を排除しようと襲い掛かってきていたロボットたちが、今は自分たちを守るかのようにずらりと並んで壁を形成していた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ペダン船内部。
 新マンたちの前で光弾の直撃を受けながらも、微塵も揺るがぬ風情で傲然と立ちはだかっているロボット軍団。
 シルエットのペダン星人は低く笑った。
 通信に乗らぬ程度の小さな呟きを漏らす。
「複製にしては、なかなかの強度ではないか。インペライザーの完全複製には失敗したようだが……こちらはこれで十分だ。光の国襲撃部隊の回収分と合わせれば、相当な戦力が揃う。本星の防衛はもちろん、銀河の勢力地図を塗り替えられるかもしれんな? くくくく」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 月面裏側の星間機械文明連合総司令本部・中枢。
 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「PdnKJ、BndCG、両タイプ全機命令コマンド拒否! こちらの意思に従いません!」
「同期爆撃砲弾、68.3536が両タイプの装甲で防がれました!」
「残りもウルトラマンジャック、バルタン星人、第三惑星地表からの狙撃で次々に迎撃されてゆきます! 最終効果予想は……0.0058!」
「なんだ……どういうことだ!? 理由を解析せよ!」
 ロボット長官の指令に、しかし答えたのはメインパネルに映るペダン星人だった。
『当たり前の話だよ、人形。我々の科学の粋を集めた忠実なしもべが、本来の主人を思い出しただけだ』
「バカを言うなっ!」
 デスクを両手で叩いてロボット長官は立ち上がった。
「あれは我々の戦力だ! 貴様らのものではない!」
 画面のシルエットは、肩を揺らして笑った。
『ふはは、面白い。昨今の人形は盗人の理屈さえ振り回すのか。なるほど、盗んだ物は盗んだ者の所有物、その理屈は一理ある。とはいえ、本来の持ち主が現れたからには、そんな理屈は通じない。そこまでは、流石に人形風情には理解できないようだな』
「貴様こそ脳が溶けたか、有機生命体。視覚異常を起こしている上に計算すら出来ないようだな。知らぬわけではあるまい。我々星間機械文明連合が貴様らから徴発した機動兵器は三体。その全てが既に解体分析され、跡形も残っておらん! ここにあるのは全て、我々が我々の本星で製造した、我々の戦力である!」
『さて、三体だったかな?』
 小首を傾げ、とぼけた風に漏らすその物言いに、ロボット長官の表情が曇る。
「……何を言っている?」
『強奪された機体がそれだけであったかどうか……もっと多かったかもしれん。ともかく、ここにある物は全て、我々ペダンとバンダの機動兵器にそっくりであり、性能的にも同等、さらには我々が秘密裏に埋め込んでおいた絶対命令コマンドまで実行可能である以上、我々の製造した機体である蓋然性はかなり高いと判断せざるを得ない。これらがお前達人形の作り出した玩具なのか、本来我々の所有物であったものなのか……はっきりさせるためには、より精密な診断が必要であるな。ならば、これらは一旦我らが本星に回収し、部品の一つ一つに至るまで全てを精査し、結論を出すとしよう。百年か、千年か……しばらくかかるだろうが、気長に待っていてくれたまえ』
「おのれ、ペダン星人! 我々を自動工場扱いするつもりか! 今、この場で殲滅してくれる!!」
『おお、それはこわいこわい』
 またひとしきり笑い、通信は切れた。
 即座にオペレーターたちが告げる。
「――長官、PdnKJ、BndCG、両タイプが戦場から離脱を始めています。ですが、やはりこちらのあらゆるコマンド、一切受け付けません」
「ファンタス星同志より緊急連絡、これよりペダン船を追撃するとのことです!」
「サーリン星同志からも同じ連絡が!」
「当然だ! ここまでコケにされて、黙って見逃せるものか!!」
 デスクを叩いたロボット長官は、びしりとメインパネルを指差した。
「コンピューターに最適の戦略を解析させろ!」
 オペレーターの数だけ了解、という声が響く。
 やがて、報告が返ってきた。
「――解析完了。PdnKJ、BndCG、両タイプのコントロールを回復するためには、ペダン船団の撃墜が必須です」
「最も効率的かつ成功率の高い作戦を提示。――月面上にて戦闘中のEprIRタイプを空間転移させ、先行して宙域離脱を図るペダン船団の包囲、殲滅。現在、コントロールを奪取されたPdnKJ、BndCG、両タイプはまだ船団に合流していないため、比較的容易に作戦遂行できます。また、全体の配備戦力の変更が少ないため、影響も最小限度で済むとの解析結果が出ています」
「こちらの守りはどうする」
「本拠点の擬装を解き、防衛システム起動にて迎撃。本拠点の防衛システムは、ウルトラ兄弟の襲撃を想定し、その迎撃を基本として造られたものです。データ取得済みの新人の宇宙警備隊隊員一名と移動型防衛拠点一機の排除ならば、全く問題ありません」
「よろしい」
 頷いたロボット長官は、椅子に腰を落とすようにして座った。
「では、それ以外の戦域は現状の作戦を想定通りに続行、遂行せよ。我々はこの程度のアクシデントでは揺るぎはせぬ。愚劣なる有機生命体どもに、その絶望を思い知らせてやれ」


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