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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第6話  史上最大の逆襲 生ある"もの"たちの反撃 その4

 優しげな光が綾なすテレパシー空間。
 シロウの前に、いつもの革ジャンに白髪鬚面の郷秀樹が立っていた――否、ここはシロウの空間だ。郷秀樹はシロウに呼ばれて、ここに居るのだ。
「よぉ、苦戦してるようだなジャック。ウルトラ兄弟も、こうなっちまえばざまあねえやな」
 シロウの軽口に、郷秀樹は肩の力を抜くように大きく一息ついた。
「ああ。さすがに一筋縄ではいかない。だが……負けるわけにはいかん」
 その表情にはいつもの余裕がなく、険しさを隠しもしていない。
 とはいえ、疲れや消耗を感じさせる表情というのでもない。
「それにしてもレイガ。まさか、お前がGUYSと行動を共にしているとはな」
「なぁに、ちょっとした行き違い……じゃねえ、行きがけの駄賃ってやつだ。……多分。いや、行きがヨイヨイだっけな? ええと、イッキカセイ? ………………『イキ』までは合ってると思うんだが……」
「ひょっとして……行きがかり上、と言いたいのか?」
「ああ、それそれ。多分それ」
「まあ、なんにせよ今のは助かった。GUYSの彼らに礼を伝えておいてくれ。だが、今のここはお前たちが来ても――」
「月の裏に敵の親玉がいるかもしれないんだそうだ」
 郷秀樹の警告を遮ったシロウが視線を上方に流すと、そこに月が画像となって表示された。
「連中はここを突破してそこへ殴り込み、この戦いを終わらせるつもりだ。お前も来るか、ジャック?」
「月の裏、か……なるほど」
 納得した様子で、何度も頷く郷秀樹。
 しかし、最後には首を横に振った。
「いや、俺はここで地球を守ろう。月へはお前が行け、レイガ」
「オレが?」
「そのつもりでそこにいるのだろう?」
「いや、成り行きで乗っただけで……まあ、ボスがいるならぶっとばしてやるつもりだったから、それでいいのか」
「相変わらず行動が適当だな」
 郷秀樹は初めて微笑を頬に浮かべた。
 そして、胸の前に持ち上げた左の手首を見やる。
「ウルトラブレスレットを使えば、エネルギーの回復はできる。あと一回、いや……二回は、ウルトラバリヤーを使えるだろう。お前達が決着をつけるまで、地球を守ってみせるさ」
 自信と確信を以って頷く郷秀樹に、シロウは呆れたようにそっぽを向いた。
「けっ、たった二回きりでかよ。地球人の力じゃあ、月へ行くだけでもえらく時間がかかるそうじゃねえか。そんな時間、いくらウルトラ兄弟でも、本当にもたせられんのかよ?」
「守ってみせる」
 微笑が自信ありげな笑みへと変わる。
「このかけがえのない星、地球のために。愛すべき人々のために。それに……俺は一人じゃない。見ろ、レイガ」
 シロウが郷秀樹に視線を戻す――郷秀樹の見上げる空間に、いくつもの画像が映った。

 地球のあちこちから上昇してくる機体――確か、クモイ・タイチ達が乗っていたガンフェニックストライカーとかいう機体だ。
 青い地球を下に、宇宙空間を突き進む円錐状の飛翔体――そのまま視点が引いてゆくと、その数は膨大なものとなってゆく。
 同じく青い地球を下に、虚空に浮かぶ巨大な建造物――そのあちこちから、戦闘機が出撃してゆく。
 漆黒の空間に浮かぶ金属の塊――突然灯が点り、突き出した二本の砲塔を左右に振って照準を合わせる。

 そして……星間機械文明連合の宇宙戦艦やロボット軍団に追撃を受けながらも、必死に抵抗を続けている宇宙船団。
 その外殻に取りついて、至近弾を得意能力で弾いている巨大化した星人たち。

「みな……この星の明日を、命を、愛する人を守るために必死で戦っている。その絆と想いがある限り、俺は決して負けない。負けられない。レイガ、お前にもいるはずだ。決して失いたくない者たちが」
「ああ」
 シロウは素直に頷いた。
「地球人全部なんて、オレには言えねえし、言いたくもねえ。そんなのは、お前ら酔狂な連中に任せるさ。オレはただ――」
「言わなくていい」
 遮った郷秀樹は、全てを心得た優しい眼差しでシロウを見つめ、頷いた。
「言わなくてもわかる。お前のその目を見ていればな。いい目になった。……その目なら、敵が何者であろうと容易く負けはしないな」
「たりめーだ。相手が誰だろうと、はなから負けるつもりなんかねーよ」
 照れ隠しに鼻の下をこすって吐き捨てるシロウの表情は、しかし裏腹に嬉しそうだった。
「とはいえ……連中の足じゃあ月の裏まで到着に時間はかかるし、ボスが本当にいるかどうかもわからねえわだし、不安だらけなんだがな」
 改めて月の画像を見上げる。その目が、わずかに細まる――それを目ざとく見てとった郷秀樹の表情が曇る。
「ま、せいぜい、ボスは倒したけど地球――いや、日本は跡形もなくなってました〜なんてことのないように、頼むぜ。ジャック」
 嫌味たっぷりに冷笑を浮かべて、踵を返すシロウ。
「大丈夫だ」
 シロウの背中を見送りながら、郷秀樹は力強く頷いた。
「俺はお前を信じる。ゾフィ兄さんが言っていたぞ。お前には才能がある、とな。俺もそう思う――だが、大事なのはどんな力があるかじゃない。何をするかだ」
「なんだそりゃ? あ〜……そういう回りくどいのは苦手なんだよ。お前らエリートと違って、こっちは落ちこぼれの不良なんだからな」
「そうか。……では、はっきりと言おう。一人で行くのはよせ」
「――あ?」
 今しも姿を消そうとしていたシロウの足が、ぴたりと止まった。そのまま、動かない。
「地球人だけでは月の裏側に到達するのに時間がかかる……だから、一人で行くつもりだな?」
「……ち、お見通しか」
 頭を掻きながら振り返ったシロウは、悪びれもせずに薄ら笑っていた。
「けど、オレなりに考えたやり方だ。なにが悪い? なぜ止める? オレなら一足先に行って探索できる。敵のボスとやらを先に発見できれば、地球人どもが探す時間は節約できるし、敵のボスがいなけりゃ、それだけ早く次の手を打てるじゃねーか。そっちの方が効率的だろ」
「ああ、確かにな。だが……探し出しただけでは終わらないだろう。お前は」
「ん〜、まあな。どこのバカかは知らねえが、ぶちのめす」
「曲がりなりにも敵の中枢だ。どんな罠を張り巡らしているかもわからん。それに……地球人の誇りを踏みにじるやり方だ、それは。悪いことは言わない。やめておけ」
「地球人の誇り?」
「これだけの爆撃が降りそそぐ中を、地球に生きるものたちの希望と祈りを背に、命を賭けて宇宙へ飛び出した彼らの覚悟。今のお前になら十分わかるだろう。効率などという言葉を理由にして、その覚悟を踏みにじってはいけない」
「はっ、ふざけんなっ!!」
 だん、とシロウは力強く足踏みをした。
「これは戦争なんだろうが! だからオレはやりたくもねえこの星の防衛戦に参加してるんだぜ? 大嫌いなウルトラ兄弟の真似事をしてな! 出来ることがあるんなら、そんな御託をごたごたこねてねえで、とっととやっちまえばいいじゃねえか。覚悟結構、誇り結構! けどな、そんなことを言ってる間にも連中は地球を攻撃してるんだ! くだらねえ。誇りとやらを守るために、本当に守りたいものが失われちまったら、何の意味もないだろうがっ!!」
「だから、ここに俺がいる」
 郷秀樹は再び厳しい表情に戻っていた。だが、それは最初に見せた戦いの厳しさの中で刻まれた表情ではなく、改めて覚悟を決めた者の面持ち。
 その面持ちに気を呑まれ、シロウは思わず口をつぐんでしまっていた。
「この星にウルトラマンがいるのは、ただこの星を守るためだけではないんだ、レイガ。地球人たちが育んだ絆や想いを守り、その成長を見守るためでもある。一見困難で、実現不可能に見える道へ勇気を持って踏み出し、共に切り拓き、進むためにな。……そう。『諦めなければ、必ず夢は叶う』。そのことを証明するために、俺たちは戦ってきた。そして、これからも戦う」
「……要するに……地球人の誇りとやらを守りながら、なおかつ素早く敵のボスを叩け、ってのか」
「それが、ウルトラマンだ」
 シロウは思わず唸っていた。ぐぅの音も出ない。
「レイガ……地球人は頼りにならないか? 地球での暮らしで、地球人の素晴らしいところは何も見つけられなかったか?」
「?」
 不意に矛先の変わった問いかけに、シロウは困惑した表情を見せた。
「なんだ、藪から棒に。……そうだな」
 少し考え込んで、苦笑混じりにため息をつく。
「いやいや、頼りにならねーどころか、とんでもねえやつらばっかりだぜ。機械の力を借りてるとはいえ、大気圏外の戦艦を地表からぶち抜くリョーコに、宇宙の暗殺者を手玉に取るクモイ。そんなクモイが頭の上がらねえ、その師匠。他の連中はよく知らねえが……地球人てことなら、エミ師匠も、ユミも、カズヤだって……それに、かーちゃんも。みんな、オレに出来ねえことを平気でやっちまう。そうそう、お前を助けたさっきの一発だって、オレの光線技じゃあ、ああはいかないよな」
 郷秀樹はいちいち頷いていた。その唇は嬉しそうに緩んでいる。
「そうだ、レイガ。みんな、それぞれに力を、強さを持っている。だから、彼らに出来ることをお前がする必要はないんだ。まして、出来ないことを今ここでしようとする必要もない。出来ることは出来る者に任せ、お前はお前にしか出来ないことに集中すればいい。そしてそれは……本当に一人で月に行くことか?」
「オレにしか…………出来ないこと……」
「誰かに任せたり、その手を借りるというのは、決して手を抜くとか楽をするということではない。場合によっては、より困難な道となることもあるだろう。それでも人は、お互いを信じ合い、守り合い、任せ合うことで幾多の困難を乗り越えて行く。それが――『 絆の力 』だ」
「きずな……」
「お前も、誰かに何かを任されてきたんじゃないのか。誰の思いもその背中に背負ってはいないのか?」
「オレが……? 何かを……任されて? ……思いを……?」
 再び頷いた郷秀樹は、月の映像を見上げた。
「今の俺には、月へ向かうお前とGUYSを信じて、この地球を守ることがその『 絆 』に応える道だ。約束しよう。お前達が帰ってくるまで、必ず守り抜いてみせる。お前の思いを背負って……共に戦うものたちとな」
「共に戦うものたちと……」
 そう呟いたシロウの胸に去来するのは――

『あたしの心と魂、持ってけ』――自信を込めて不敵に笑うエミ。
『……わたしも一緒に戦いたい』――少し恥ずかしそうに、けれど精一杯微笑むユミ。
『考えるんじゃない。感じるんだ』――可笑しそうに目を細めるカズヤ。
『お前があいつらを信頼し、あいつらのために戦うなら、必ずあいつらはお前の信頼に応えてくれる。これまでのいきさつはとりあえず脇に置いて、な。そういう奴らだ』――真っ直ぐな眼差しのクモイ・タイチ。
『一人ではたどり着けない場所へ、手をつないでたどり着くのさ。それが友達ってものだと思わない?』――屈託なく笑うヤマシロ・リョウコ。
 それに……合宿へ手を振って送り出してくれたシノブ、タキザワ、ワクイ。
 エミ達を見守ってくれているはずの超師匠イリエ。
 いつもやかましい、でも憎めないトオヤマ、マキヤ。
 トラックの荷台に乗り合わせたGUYSのアイハラ・リュウ、セザキ・マサト。
 一目で自分を信じたサコミズ・シンゴ。
 その彼を補佐する二人の部下。
 そして、宇宙人でありながら地球のために戦うメトロン星人と、目の前の――


『――だが、ウルトラマンと一緒なら……。かつて、暗黒宇宙の皇帝を僭称した敵でさえ、地球人は退けてみせた。地球人とウルトラマンのタッグは、それだけの可能性を秘めている。お前が、誰かのウルトラマンでありたいと思うなら、そして、それを誇りに思えるのなら……』


 不意にシロウははっとした表情になった。
「そうか……この戦い、リングに立っているのはオレ一人じゃない……。みんなで……そういうことか」
 何も言わず、ただ頷く郷秀樹。
『あたしの心と魂、持ってけ』
『……わたしも一緒に戦いたい』
 再び胸をよぎる二人の笑顔に、シロウは知らず胸を押さえていた。
 カズヤを含め、あの時の三人の拳の温もりが――いや、熱さが甦ってくる。
(そうだ。心と……魂を持っていく……いや、預かったんだ。この戦いは、オレが、オレ自身の意思だけで一人勝手に戦う戦いじゃあない。戦いたいみんなの意志を、気持ちを、オレが代わりに引き受けたんだ)
 知らず知らず、拳を握り締める。強く。震えるほどに。
(そうだ。今、オレが背負っているのは期待とか、希望とか、そんな他人任せなものじゃあねえ。悔しさ、意地、誇り……本気の心……魂なんだ。一緒に行きたい、けど行けねえから、心と魂だけでも、と託された思い――そして、この思いは……この思いを裏切らないということは……)
 胸が締付けられるような感覚に、唇を真一文字に引き結んだシロウは、押さえた胸をシャツごとぎゅっと握り締めた。
 地球人なら、エミなら、『せつない』と表現するであろうその感覚を、シロウはまだ言葉にする術を知らない。
 知らないから、ただ目を閉じてみなの思いを、改めて受け止める。
「わかったぜ、ジャック」
 目を閉じ、胸を握り締めたまま、シロウはうめくように声を漏らした。
「ようやくわかった。……オレは、オレが守りたいと思っている人たちの、本当なら一緒に戦いたいんだっていう悔しさと本気――『 魂 』を預かって、ここにいるんだ。そんなみんなの気持ちさえ裏切っちゃあいけないのに、肩を並べて戦おうって奴らに対して、下らねえ理由で下らねえ真似しちゃあいけないってことだよな」
 目を見開いたシロウの顔つきが変わっていた。ここに郷秀樹を呼び寄せた時の、まだ少し浮ついた雰囲気は完全に消えていた。
「そして、これは勝たなきゃならない戦いなんだ。持てる力の全てを――自分だけじゃなく、みんなの力を集めて、確実に。絶対に」
「そうだ。それでいいんだ。……なら、あとは任せたぞ。レイガ」
 実に満足そうに頷いて、郷秀樹は姿を消した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 南極から放たれたミサイル群は、衛星軌道上の宇宙ステーション近傍を通過する際に、その数を大幅に増やしていた。
 宇宙ステーションから放たれたミサイル群が加わったためである。
 南極から日本上空まで約1万4千km。
 接近する大量のミサイル群に対し、日本上空の星間機械文明連合艦隊は一斉掃射による弾幕を形成、その多くを撃墜したものの――

 撃墜されたミサイルの一つが、爆発した。
 それは凄まじい爆発だった。直径数kmに迫る大火球。地球からでも見える、人工の太陽。
 周囲の全てを巻き込んで大量の衝撃波とエネルギーを放出し、戦場を埋め尽くしていた弾幕さえも消滅させ、防衛陣を敷いていた戦闘不能の戦艦のいくつかを消滅させた。
 その威力は――

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「これは、超爆弾スパイナー……だね」
 上昇加速を続けるフェニックスネストのヘッドブリッジ・ディレクションルーム。
 サコミズ・シンゴは、メインパネルに映る上空の閃光を、複雑そうな表情で睨んでいた。
「少量でも水爆並みの威力を持つという、歴史上最強の火薬……。メテオール指定され、南極のGUYSアンタークティカに封印されたと聞いていたが……タケナカ総議長が、封印を解いたのか」
 その場にいるイクノ・ゴンゾウも、シノハラ・ミオ、ヤマシロ・リョウコ、そしてようやく目を開いたシロウも、画面を白く灼く輝きに言葉が出ない。
「これが、超爆弾スパイナー……。噂には聞いていましたが、これほどの威力が……」
 ようやく漏らしたイクノ・ゴンゾウの声には、隠しもしない恐れの響きが混じっている。
「総監、前にチラッとドキュメントで見たんですが……」
 シノハラ・ミオは嫌悪感を隠さぬ表情で、訊ねた。
「MATの時代に、これを都心で使おうとしたというのは本当なのですか?」(※帰ってきたウルトラマン第6話)
「マジ!?」
 素っ頓狂な声でヤマシロ・リョウコは叫んだ。
「あんなの地上で使っていいものじゃないよ!?」
「つうか、宇宙でも使っていいわけねえだろ。オレの光線なんか目じゃねーぞ、あの威力。ったく、地上の光線砲といい、こいつの主砲といい、ミサイルといい、危ねえな。地球人てのは」
「耳が痛いね、君に言われると」
 シロウの宇宙人らしい感想に、サコミズ・シンゴは思わず苦笑していた。
「ウルトラ警備隊の時代、これの原型である爆薬を宇宙人に強奪されそうになったこともある(※)と以前、総議長に聞いた。シロウ君やヤマシロ隊員の言った通り、今の地球の状況がなければ、決して蘇らせてはならない代物だ」(※ウルトラセブン第28話)
 大きくため息を漏らし、眉間に皺を寄せたサコミズ・シンゴはしかし、全てを吹っ切るようにまなじりを決した。
「とはいえ、チャンスだ。これに乗じて敵の防衛線を突破する。いいな」
 ディレクションルームにG.I.Gの声が響いた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 次々と撃墜され暴発するスパイナーの爆発や、星間機械文明連合艦隊の対空弾幕をくぐり抜け、艦隊外縁にたどり着いたスパイナー弾頭は二発。
 その二発の爆発で、外縁に配置されていたおよそ百隻からなる艦隊が、一瞬にして壊滅した。
 そして、その混乱に乗じて各宇宙ステーションから出撃していたガンウィンガー、GUYSスペースアロー、ガンクルセイダーなどの戦闘機が、地球から上がってきた各支部のガンフェニックストライカーに合流、編隊を組んで襲い掛かる。
 また、同時に軌道上に配置された無人衛星からの高出力光線砲による砲撃も始まった。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「第三惑星側の本格的な組織的反攻が始まりました。地表爆撃艦隊の外縁配置戦力が大幅に消滅。ただし、大半が戦闘継続不能艦です」
「次から次へと、よくもまあ。一体、どれほどの秘密兵器を隠し持っているのだ。この惑星の人類は」
 ロボット長官は相変わらず苛立たしげにデスクの天板を指で叩きながら、吐き捨てた。
「まあいい。特に指示をせずともこの程度の状況、対応は出来るな?」
「了解。被害はありますが、戦力的に状況を覆すほどのものではありません。先ほどのウルトラマンジャックの防御技で打撃を受けた艦の復帰率も順調に上昇中」
「ならばいい。これさえしのげば、もはや歯向かう力は残るまい。確実に、効率的に、無駄なく敵の戦力を削り取れ」
「了解」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 生協船団旗艦の艦橋。
「ふむ。南極からの本命を守るため、宇宙ステーションからのダミーのミサイルを撃ちまくっているのか」
 メインパネルの戦況と、ホロ・コンソール上の情報を交互に見ていたメトロン星人の独り言。
「威力は原水爆以上でも、放射性元素を使わないスパイナーをセンサーだけで判別するのは困難、か……。なるほど。このために今までGUYSスペーシーに死んだふりをさせていたのだな? なんとも老獪というか、いやらしい戦術だ」
「そのわりに、嬉しそうに見えますが。組合長」
 怪訝そうなボーズ星人に、メトロン星人は大きく頷いた。
「いつか知恵比べをしてみたい好敵手を見つけた気分だよ。こういう頭のいい奴の策略というのは、星を超えて、種族を超えて、その結末を見てみたいと思うものだ。うまくゆくにしろ、破綻するにしろな」
「今はうまくゆくにこしたことはないと思われますが」
「違いない」
 その時、報告の声があがった。
「敵艦隊、残存戦力が砲撃再開! 目標は――地表ではなく、ウルトラマンジャックとフェニックスネストのようです!」
「言わんこっちゃない」
 呆れた風に漏らすメトロン星人。
「単艦で敵陣突破をかけようとすれば、その反応は当然だろう。スパイナーミサイルの陽動を当てにしていたのかもしれんが、現状の戦果としては敵の注意をひきつけるにいまいち力不足のようだし……さぁて、サコミズ。どうするつもりだ?」
「――なんとか彼らを援護、もしくは救出には向かえないのか?」
 ボーズ星人の問いに、聞かれたセンサー手は困惑げに首を振った。
「その宙域には近づけないよう、念入りな弾幕が展開されています。射程距離もギリギリで……」
「焦るな」
 メトロン星人の一声に、二人は振り返った。
 当のメトロン星人は、正面を見据えている。
「GUYSの戦力が健闘してくれている。向こうも我々ばかりを追ってはおられまい」
「――船団後方、敵・追撃艦隊後方より、GUYSの編隊が攻撃を開始しました!」
「そら来た」
 表情はないものの、その声に喜色が混じっているのは誰にもわかった――が、それは果たして報告に対する反応だったのか。
 直後にホロ・コンソールをいじり始めたメトロン星人は、ホロ・モニターの一つに映った人型に待っていたぞ、と告げた。
「――無事で何より。見ての通り、我々はまだ動けない。なんとか、頼めるかね? 奴には借りがあるのだろう? ……うむ。わかった。そういうことなら、こちらからも適任を連れてゆく。先行して、少し持ちこたえてくれ」
「組合長?」
 誰と話したのか、興味津々のボーズ星人を無視し、メトロン星人は通信担当に告げた。
「全船・全部隊に通達だ。時機到来の折には転進、後方の追撃艦隊への反撃を開始する! 各員、戦闘準備怠りなく、その時に備えよ! ――それから」
 ボーズ星人に向き直る。
「大至急、バルダック星人を呼べ」
「ここへ、ですか?」
 なぜ、とは聞かない。聞きたかったが、答えてはくれなさそうだ。
「ああ、ここへだ。大至急だ、頼む」
「了解しました。すぐに手配を」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネスト・ディレクションルーム。
「敵艦隊斉射再開。爆撃ではなく、通常砲撃です」
 冷酷なまでに事務的な声で告げるシノハラ・ミオ。
 機体の操縦を行っているのはヤマシロ・リョウコ。
 降り注ぐ光弾の雨を、紙一重で華麗に躱してゆく。それでもいつもの操作感との違いもあって、無駄口は少ない。
「リアクター内圧、正常。上昇速度、加速中。発射態勢完了まであと少し」
 機体をかすめる砲撃にも眉一つ動かさず告げるイクノ・ゴンゾウ。
「フェニックス・キャノン、シリンダーカートリッジにエネルギー充填。メテオール、フェニックス・フェノメノン発射態勢――完了」
「メテオール解禁! ――リョウコ! 撃て!」
 サコミズ・シンゴの声に応えて、ヤマシロ・リョウコが発射ボタンを押す。
「G.I.G!! フェニックス・フェノメノン発射!!」
 フェニックスネストの主砲が1億ボルトのイオンビームを解き放つ。
 再び上空の艦隊を薙ぎ払った光線の軌跡に、爆光の花が次々と咲き誇った。
 戦果がメインパネルに表示されてゆく。
「――ウルトラマンに並びます!」
 シノハラ・ミオの言葉と同時に、メインパネルの片隅に新マンの姿が映し出された。
 先ほどは力尽きた様子で自由落下に任せていたが、今は態勢を立て直している。しかし、その胸のカラータイマーは激しく点滅している。
「サコミズ総監、やはりマグネリウム・メディカライザーでエネルギーの回復を……」
「余計な真似はやめとけ」
 そう口を挟んだのは、ふらりとメインパネルの前に進み出たシロウだった。
「ジャックの持ってるウルトラブレスレットには、エネルギー回復能力もあるそうだ。それより、早く行けとさ。オレ達が帰ってくるまで、ここは必ず守り抜いてみせるってよ」
 レイガの言葉を信じていいのか、とばかりにテーブル越しに顔を見合わせるイクノ・ゴンゾウとシノハラ・ミオ。
 そして、ヤマシロ・リョウコとサコミズ・シンゴ――は、お互いに頷き合った。
「じゃあ、とりあえずこの艦隊を突破しないとね!」
「ああ、それもいらねえぜ」
「え?」
「こいつの主砲がオレの光線技よりすげえのは認めるが、敵の数がこれじゃあ、こんなちまちま撃ってても埒があかねえだろ? 最後にはやられんのがオチだ。まあ、リョーコはとりあえず砲撃躱すのだけ、集中しとけ」
 そう言うと同時に、ディレクションルームに青い光が溢れ始めた。無論、その源はシロウ。
「心配すんな。月にはオレが連れてってやるからよ」

 そして、フェニックスネストから蒼い光球が飛び出した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「――長官、上昇してくる移動型防衛拠点から、新たな宇宙警備隊隊員出現。地上でSlmRU7を撃破した、青いタイプです」
「つまり、宇宙警備隊隊員が一箇所に揃っているのだな? 愚か者め、自ら弾幕に飛び込んでくるとは。PdnKJはまだか」
「今、到着しました」
「では、今参加できる艦だけで地表爆撃開始だ。同期させる必要はない!」
「了解」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 レイガの出現と同時に、二体のキングジョーが飛来した。
 上空からの砲撃をその身に受けながらも、全く頓着することなく新マンとレイガに襲い掛かる。
 同時に、上空の戦艦が一斉に艦底部の爆撃用ウェポンベイハッチを開き始めた。
 二体のキングジョーをそれぞれ受け止めた新マンとレイガに、緊張が走る。
 だが、キングジョーはそう簡単にあしらえる相手ではない。振りほどこうとしている間に、地表爆撃用の光弾が放たれた。
 同期無しにばらばらに放たれた光弾だったが、今、日本支部にそれを迎撃する射手はいない――はずだった。
 それでも、光線は迸った。
 CREW・GUYS日本支部の敷地内から。
 正確無比の射撃は次々と光弾を撃ち抜いてゆく。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「――オリンピック級ではないけれど、ボクだって防衛軍で射撃の訓練はしこたまやらされたんでね。それなりに得意なんだよ」
 そううそぶいて、メインパネルに表示される光弾を次々と射ち落としてゆくのはセザキ・マサト。
 フェニックスネスト離陸の報を受け、命令系統が消失しているのをいいことに急遽基地へと舞い戻った彼は、シルバーシャークGの射撃管制システムがそのまま地下施設でも使えることを受け、ヤマシロ・リョウコの代わりを買って出たのだった。
「ミオさんもリョーコちゃんも、ボクが守ってみせるっ!! くらえっ!!」
 ミサキ・ユキやトリヤマ補佐官などの期待を込めた眼差しを背に受けながら、セザキ・マサトは嬉々として引き金を引き続けた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 あるはずのない地上からの援護射撃に驚いている暇もなく、次の驚愕が出現した。

 新マンとレイガに組み付いていたキングジョーが、突然引き剥がされた。
 きりきり舞いしながら、何かに引き寄せられるように後方へと流れてゆく。何かの目的があってのことではないのは、もがくようなその動きでわかる。
 そして、それは現れた。新マンとレイガ、二人をそれぞれ両側から挟むように。

 太く膨れたハサミ状の腕、先端の割れた頭、セミのような顔――宇宙忍者バルタン星人。

 戸惑う新マンとレイガの前にも、別のバルタン星人が四体、出現した。一様に二人に背を向け、星間機械文明連合艦隊に正対している。
 つまり、降り注ぐ光弾の前に立ちはだかっていた。新マンを守るように。
 その腕が前を向いて開く――同時に、バルタン星人の姿がぶれ始めた。否。増え始めた。
 四体が十二体、十二体が三十六体、三十六対が百八体……凄まじい勢いで増殖してゆくバルタン星人は、やがて二人の視界を覆い尽くすほどに広がった。
 その一体一体が差し向けた腕から、エネルギー流が放たれた。
 竜巻のように回転しながら伸びるエネルギー波は、降り注ぐ光弾を絡めとり、そのまま押し戻し始めた。
(な、なんだ!? 何が起きてる!?)
 驚くレイガに、新マンが頷いた。
(……バルタン星人の重力嵐だ)
 重力を自在に操り、敵の挙動を制して間接的にダメージを与えたり、強力な潮汐力で自壊させることすら可能な超能力。単純な物理法則に任せて射出され、落下してくる砲弾など、お手玉をする程度の簡単なことに違いない。
「フォッフォッフォッフォッフォッフォ……」
 新マンの右側にいるバルタン星人が身体を揺らし、高らかに笑う。
(破壊だけが戦い方ではあるまい。あのロボットの装甲は確かに硬いが、それだけだ。あれの相手は、我々に任せてもらおう。機能を停止させる算段もつけてある)
(助かる)
(君には地上での大きな借りがあるからな、ウルトラマンジャック。だが、次の大規模爆撃には、もう一度先ほどの時空間反転技を使ってもらう。あれほどの規模に対しては、さすがに我々といえども、分身戦法だけでは対応できない)
(わかった)
 頷いた新マンは、今やその数を数えるのもバカらしいほどに分身したバルタン星人に呆然としている隣の若者を見やった。
(レイガ、今のうちに行け。ここは我々が守り抜いてみせる)
 頷き返したレイガは、身を翻してフェニックスネストに取り付いた。右手でフェニックスキャノンに触れたまま、真っ直ぐ月の方向を見やる。
(じゃあ、ちょっくら行ってくるぜ!)
 気合を込め、力を高める。
 その足下から立ち上る光の粒子は、レイガが触れているフェニックスネストをも包み込み――次の瞬間、一人と一機はその場から消えた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 月軌道外部のある空間。
 数機編隊の宇宙船が密かに浮遊していた。
 平べったい正八角形の本体上下を少し小さめの正八角形で挟み、本体の四方から翼に似た板状の突起を生やした十字架状の円盤。
 その中では、シルエットだけの宇宙人が、正面映像パネルに映る地球攻防戦を見ていた。
「……バルタン星人が宇宙警備隊隊員と肩を並べて戦うとは、また珍しい光景だな」
 デスクに着いたシルエットが、さほど感慨のない口調で漏らす。
 傍らに立つシルエットが問うた。
「何か企みがあってのことでしょうか」
「さてな。なんにせよ、あそこで戦っている他の星人と違い、情にほだされてということだけはあるまい。何か連中なりの計算か、思うところがあるのだろう」
「いかがいたしますか」
「連中には一切構うな。我々の目的は、連中ではない。まして、今回は地球ですらないのだからな。――光の国はどうなっている?」
 シルエットがあらぬ方を向くと、すぐにその方向から報告が帰ってきた。
「現在、状況は拮抗。一進一退を続けている模様です」
「ふん。音に聞く宇宙警備隊も、あれだけ圧倒的な数の力で押されてはやむをえんか」
「宇宙各地から、殲滅された惑星の報告が続々届いております。あのアテリア、ミステラー両星ですら、星間機械文明連合に対するために暫定停戦合意に踏み切ったとか」
「ふふん、長続きはするまい。我々の介入があれば、この戦いもすぐに終わる」
「は。それでは、これより作戦を開始いたします」
 デスクに着いたシルエットが鷹揚に頷き、船内がにわかに活気づき始めた。


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