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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第5話 史上最大の逆襲 造ラレシ"モノ"ドモノ逆襲 その8

 南米大陸上空7万5千km、ポイントナンバー25。
 ウルトラマンとガメロットの戦いは続いていた。
 素人目にはほぼ互角の殴打戦と見えるが、実情は圧倒的にウルトラマンが不利だった。
 光線技も打撃技も効かない相手に対し、今はかろうじて相手の攻撃をしのいでいるだけに過ぎない。
「――ウルトラマンジャック!」
 そう呼びかけて、ガメロットの背後から参戦したのは、戦場を任せてきたはずのミステラー星人だった。
「ネオ・MTファイヤーを受けてみよ!!」
 そのチューブ状に突き出した口から灼熱の炎が噴き出し、ガメロットを包む。
 しかし。
『ユウキセイメイタイ、シスベシ』
 その炎を突き破るようにして飛び出してきた鋼の拳は、まともにミステラー星人の顔面をとらえた。
「ぐお、おお……っ!?」
 顔面を押さえながら後方へ飛ばされる星人に向けて、ガメロットの赤い玉飾りが発光を始める。
『ウチュウニタダシキシンカヲ』
「ジェアッ!」
 ほどなく放たれた光線を、二人の間に割り込んだウルトラマンが両腕を交差させて受け止めた。
「――ぐぅ……すまん! ウルトラマンジャック!」
(こいつには光線も打撃も効かない)
「そのようだな」
 ウルトラマンと並んで格闘戦の構えを見せるミステラー星人。
 その二人を前に、恐れた様子もなく両腕を掲げるガメロット。
「だが、こいつだけに構っている場合じゃないぞ。敵が戦術を変更したようだ。各部隊がロボット軍団に襲われて難儀している。それに、敵戦力の一部は地球への降下を始めたようだ」
「……………………」
『ウツクシキチツジョヲ』
 ガメロットの光線が放たれる。
 二人はすいすいとその光線を躱してゆく。
「どうする、ウルトラマンジャック? 地球へ降下するなら、援護するぞ」
(………………。いや、それには及ばない)
 少しの沈黙の後、ウルトラマンは首を横に振った。
(地上のことは、地上にいる者たちに任せよう。差し当たって、我々はこいつを――)
『――ユウキセイメイタイ、シスベシ。ウチュウニタダシキシンカヲ。ウツクシキチツジョヲ』
 業を煮やしたように四肢と頭を内部に引っ込めたガメロットが、突撃をかけてきた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 インド亜大陸上空高度5万km。
「サーリン星のガメロットか。確か、レオのいた時代に現われたことがあったな」
 ひとりごちるメトロン星人。艦橋中に溢れるモニターのうちの一つ、ウルトラマンジャックを映す画像を見ながらの呟きだった。
「身体能力で言えばウルトラ兄弟中最高を誇るレオですら、相当にてこずった相手だ。……さて、あの時はどうして倒したのだったかな」
「組合長! 敵が押し寄せてきています! ……各部隊、包囲されつつあります!!」
 メトロン星人率いる生協艦隊の旗艦艦橋に響いたその報告に、空気が変わった。
 正面メインパネル状に敵味方の勢力図が表示されているが、それぞれの味方部隊周囲に敵戦力が集まってきている。
「河に落ちた獲物に群がるピラニアだな」
 生協組合長の自虐めいたその呟きはしかし、緊迫する空気を転化することは出来なかった。
「依然、地上から上がってきた応援が各部隊に続々参加してくれてはいますが、いかんせん彼我の戦力差はまったく縮まっていません」
「ふむ。……我が艦隊は可能な限り降下。出来れば、日本上空辺りの静止軌道まで後退しろ」
「何か策が?」
 ボーズ星人の問いかけに、メトロン星人は肩をそびやかした。
「ま、一番信用できるのはやはり日頃からよく見ているもの、ということだ。他の部隊も高度を下げさせろ。ただし、大気圏内までは降りるなよ?」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「長官、敵の部隊が高度を下げています」
「その行動について、コンピュータの予測は」
「配備戦力の集積による攻撃力・防衛力の強化が目的の行動、と予測しています。ただ、圧倒的戦力差は埋まっておらず、遠距離索敵により大規模な援軍の存在も認識されていない以上、高度を下げて戦力を集中させても状況好転の要素は全くない、とのことですが」
 第四惑星のロボット長官は不機嫌そうに正面パネルを睨んでいた。
「ふん。有機生命体の好む不合理な感情でも働いたのだろう。あの劣等存在どもは、時折そういう愚かな選択をする」
「解析しますか?」
「やめておけ。時間とエネルギーの無駄だ。集まろうが高度を下げようが、我々は無慈悲に押し包み、殲滅する。それだけだ」
「了解しました。――地上制圧降下部隊、大気圏に突入。地表爆撃艦隊が配置につくまであとカウント1500」
「ふむ、順調だな。あとは、宇宙警備隊隊員の動きにだけ気をつけておけ」
「了解」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 衛星軌道上GUYSスペーシー宇宙ステーション基地。
「隊長、なぜ我々は戦えないのですか!!」
 メインパネル上、多くの巨大宇宙人種族が超能力を駆使して宇宙戦艦艦隊と戦い、雑多な宇宙船が雲霞のごとく襲来するロボット軍団相手に絶望的な奮戦を続けている。
 そのあまりに現実離れしたスペクタクルを前に、地球防衛の最前線は沈黙を守っていた。
 詰め寄る血気盛んなGUYS隊員に、厳しい面構えの隊長は腕組みをしたまま黙りこくっていた。
「メインコンピュータは既に8割以上復旧できています! 全力戦闘は無理でも、彼らの援護は出来るはずです!」
「……そして、彼らともども宇宙の藻屑となるのか」
 隊長の重々しい声に、返す言葉を失う隊員。
「し、しかし、戦えるのに戦わないのは、卑怯者のすることです! あれは! あそこで命を削って戦っているのは、どう見ても異星人だ! 異星人が地球のために命を懸けてくれているのに、我々は命大事で引きこもるなんて――」

「バカものぉっ!!」

 宇宙ステーション全体が震えるような大音声に、意見する隊員だけでなく、各自コンソールに向かっていた隊員たちもびくりと肩を震わせた。
「拳があるから殴るのでは、あの侵略者どもと同じだ! 何よりも大切な物を守るための戦いとは、そんなものではない! ……いいか、なぜ我々に絶対攻撃禁止指令が届いたと思う。それを考えろ」
 ぎりっと歯噛みをした隊員は、テーブルを叩いて叫び返した。
「……地球にいるお偉方がビビったからじゃないんですか!? 現に、戦いは始まっているのにどこの支部もガンフェニックストライカーを出撃させない! 日本支部にはフェニックスネストという巨大戦闘艦さえ配備されてるというのに!!」
「地上にも侵略ロボットが出現している。そんな時に、戦力の全てを宇宙に出せると思うか」
「だったら、そのための我々でしょう! 我々は地上の戦闘には関われない! だからこそ、目の前の戦闘に――」
「我々も戦っている!」
 デスクを殴りつけ、隊長も立ち上がった。
「拳を振るうだけが戦いではないぞ。今、各宇宙ステーションの観測要員とレーダー要員が総動員で敵艦隊の位置を特定し、メテオールを利用した試験的秘匿回線で総本部にその情報を送り続けている。何のためにそんなことをしていると思う? 何のために、お前が今罵った上層部はそんなことを我々に命じたと思う!?」
「なんでって……」
 理由を思いつかず、しどろもどろになる隊員に、隊長は頬を震わせて続けた。
「あるのだ。何か策が。……いいか。若いお前は知るまいが、タケナカ最高総議長は歴戦の叩き上げだ。そのタケナカ最高総議長率いるGUYSに、傍観や諦めなどという選択肢はありえん。見ていろ。あそこで命を削って戦ってくれている異星人に報いる策を、必ず見せてくれる。それを見届けるのが、俺達の役目だ! そしてもし、その策によって戦況がひっくり返ったとしたら、その時こそ俺達にも出撃命令が下る!」
「隊長……」
「お前の歯痒さはわかる。フォワードのお前には、何もしてはいけないという今の状況がなにより辛いこともな。だが、耐えろ。耐えて耐えて耐え切って……最後の最後に、意地の一撃を入れてみせろ!」
「その前に、やられるかもしれないのに、ですか?」
「負けるものか」
 隊長はメインパネルを見やって、無理矢理な笑みを浮かべてみせた。
「負けるものか。見ろ、あそこではウルトラマンが戦っている。……負けるものかよ」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 南米大陸上空7万5千km、ポイントナンバー25。
 ウルトラマン・ミステラー星人とガメロットの戦いは、全く決着のつく様子を見せずに続いていた。
 周囲では第四惑星艦隊と部隊員のミステラー星人たちが、一進一退の戦いを繰り広げている。
 当初は小回りの効く白兵戦で圧倒していたミステラー星人たちも、続々到着するロボット軍団と、戦い方を立て直して整然とした動きと攻撃をするようになった第四艦隊の反撃に、少なからぬ被害を受けている。
「ウルトラマン!」
 ネオ・MTファイヤーの炎を噴き出して飛び回るガメロットを牽制しつつ、ミステラー星人が痺れを切らしたように叫んだ。
「このままでは部隊自体もジリ貧だ! こいつを倒す、何か手はないのか!?」
「……………………」
「ないのなら、俺に合わせろ!」
 言うなり、ミステラー星人は飛来してきたガメロットに組みついた。
 ガメロットは四肢と頭を突き出し、反撃に転じる。ミステラー星人のがら空きの脇へ、拳を叩き込む。
『ユウキセイメイタイ、シスベシ。ウチュウニタダシキシンカヲ。ウツクシキチツジョヲ』
「うるさい! ……ぐ、この……消えるのはお前の方だ!!」
 ガメロットの拳で殴られながらも組み付いた腕を離さず、そのまま加速してゆく。
 大きく回ってきた二体は、そのままウルトラマンに向かって一直線に突っ込んでゆく。
 迎えるウルトラマンは右手刀を腰だめに構え、左手をその手の平に添えている――ウルトラ霞切りの構え。
「今だ!」
 ガメロットから手を離し、自分だけ離脱するミステラー星人。
『ユウキセイメイタイ、シスベシ。ウチュウニタダシキシンカヲ。ウツクシキチツジョヲ』
 勢いのついたガメロットはそのまま真っ直ぐウルトラマンへ突っ込んでゆく――と、思いきや。
 頭と両腕両足を瞬時に体内へ収めたガメロットは、あらかじめ読んでいたかのようにウルトラマンの霞切りの間合いを躱し、その脇の下抜けて背後に回り込んだ。
『ユウキセイメイタイ、シスベシ』
 ウルトラマンが振り返るより早く四肢と頭を突き出し、ハンマーじみた拳をその背に叩きつける。
 しかし、ウルトラマンは二度も同じ手を食わなかった。
 振り返りざまに放った左手刀。手首で輝くウルトラブレスレット。そして、砕け散るガメロットの右拳。
『ウチュウニタダシキシンカヲ』
 放電を放つ手首を振り回しながら、たたらを踏むガメロット。
 再び輝くウルトラブレスレット、手刀が唸って銀色に輝くガメロットの胴を一薙ぎする。
 だが、切れなかった。
『ウツクシキチツジョヲ』
「――さすがに胴は拳とはわけが違うようだな!」
 叫びながら、ミステラー星人が戻ってきた。
「だが、穴さえ開けば!! ネオ・MTファイヤー!!」
 口から噴き出す灼熱の炎。
 ガメロットは前と変わらず炎を突き破ったが、炎に包まれたガメロットの右腕の放電はさらに激しくなっていた。
「ふふ、どうやらそこが突破口のようだな!」
 ミステラー星人の口調に勝利の感慨が浮かび上がった時、ガメロットはその腕をすっと体内に引き戻してしまった。
「ちょ……なんだと!? 隠すな! 卑怯者っ!」
 慌てるミステラー星人に対し、ウルトラマンは冷静にファイティングポーズを取っていた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 インド亜大陸上空・大気圏近く。
「敵ロボット軍団による攻撃苛烈! 第二船団の被害が拡大しています!」
「ダメです! 敵ロボットの装甲が硬く、こちらの砲撃が通じません!」
「現状、こちらの被害の6割がペダン星のキングジョー、バンダ星のクレージーゴン、サーリン星のガメロットの三機種により与えられています!」
「バルダック船撃沈! バルダック星人は脱出し、巨大化して白兵戦闘へ移行!」
「ピット船より救援要請! 機関部をやられたようです!」
「ペガッサ船が救援要請受諾、向かいました! 周辺各船は援護をお願いします!」
「――組合長、このままでは!」
 すがるような声で促されたメトロン星人は、しかしふむ、と唸っただけだった。
「組合長!」
「地表では人類がキングジョー、クレージーゴンを倒しているというのに、我々はてこずるか。なんとも寂しいことだな」
 呑気とさえ思えるその言葉に、ボーズ星人がいきり立つ。
「そんなことを言っている場合では!」
「通信、地上からの連絡はまだか?」
 訊ねられた通信士は首を振った。
「まだで……いえ、今一件来ました! ええと……サーリン星のドドル、と名乗っています。出ますか?」
「あのじいさんか……。こちらに話はない。向こうの声だけ、全帯域で流してやれ」
 その指示を受けて通信士がコンソール上に指を這わせる。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 南米大陸上空7万5千km、ポイントナンバー25。
 まるで読まれているかのようにウルトラマンの攻撃は躱される。
 切れ味鋭い霞切りもスライスハンドも当たらなければ意味はなく、例え当てられたとしてもガメロットは精巧微妙な動きでその威力を殺していた。普通のロボット相手ならそれでも十分なだけの威力があるのだが、衝撃吸収能力のある金属装甲を相手に威力を殺されるのは無力化に等しい。
 何度も交差を繰り返すウルトラマンとガメロットの軌道。
 隙を窺って攻め込むミステラー星人の攻撃も、あらかじめ読まれているかのように躱される。
 ダメージを受ける分、ウルトラマン達の不利な状況は続いていた。
『ユウキセイメイタイ、シスベシ。ウチュウニタダシキシンカヲ。ウツクシキチツジョヲ』
 疲労からか、大きく肩を上下させる(宇宙空間で呼吸しているはずはないのだが)ウルトラマン達に対し、自らの強さを誇示するように、両腕を掲げるガメロット。
『――そいつはサーリン星の戦闘ロボット・ガメロットだ、ウルトラマンジャック』
 ウルトラマンとミステラー星人は顔を巡らせた。どこからともなく響いてきたその声は、その場には不相応なほど弱々しい老人の声だった。
 声を受け取ったウルトラマンだけでなく、ガメロットと呼ばれたロボットまでが動きを止めて首を左右に振っている。 
『そして、この声は戦場の全員に伝える。……ワシの名はドドル。サーリン星最後の人間にして、サーリン星のロボットを作り、星を滅ぼしてしまった罪深き者。数少ないワシの友の第二の故郷にして、孫娘が眠るこの星を守ってくれる戦士たちに伝える』(※ウルトラマンレオ第24話)

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 日本・フェニックスネスト・ディレクションルーム。
 その声を拾ったシノハラ・ミオは顔をしかめた。
「なんなの、これ?」
 声は通信回線だけでなく、スピーカーからも流れていた。
 不安そうに室内を見回しているトリヤマ補佐官とマル秘書官、そしてミサキ・ユキ。
 イクノ・ゴンゾウが告げる。
「アーカイブ・ドキュメントに記載あり。ドキュメントM・A・Cにガメロットの情報があります」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 地球。
 南米アンデス山脈某所。
 見渡す限りの荒野と雪かぶる山脈、そして無窮の空。
 その中に、ただ一つぽつんと建つあばら家――その屋根の上に、建物にも風景にも不釣合いなパラボラアンテナが立っていた。
 そしてその家の中に、もはやベッドから起き上がることも出来ずにいる一人の白髪の老人の姿があった。
 皺だらけの震える手に、角ばったマイクを握っている。
 傍にはサングラスをかけ、黒のビジネススーツに身を包んだ、いささか場違いな男がいた。マイクから配線でつながる機械の前に片膝をついて、なにごとか調整をしている。機械から伸びる配線はそのまま天井へ消え、パラボラアンテナの根元に繋がっていた。
 二人の周囲にはいくつものホログラム・パネルが浮かび上がり、地上・宇宙双方で繰り広げられている戦闘のライブ映像を表示している。その一つに、ガメロットと対峙するウルトラマンの姿があった。
「……ガメロットの弱点は腹部で光る透過装甲の部分、メンテナンスハッチだ。そこを破壊できれば、ガメロットは巡航形態に変形できなくなる。その後、頭部を破壊すれば、完全に機能停止できる」
 もはやミイラのように身体の小さくなった老人、サーリン星のドドルは咳き込んだ。
 調整をしていた男が顔を上げる。
 しかし、ドドルは苦しい呼吸の下から再びマイクを握り直し、弱々しい声で続ける。
「これで……ワシのしたことが……償えるとは思わん。だが……もはや、ワシに諸君の戦う場所へ行くだけの力は残っておらんのだ……。せめて、ワシの知りうる秘密が、諸君の勇敢なる戦いの一助となり、孫娘カロリンと……我が友……オオトリ・ゲンの愛した、この星を、守らん……ことを……」
 なにかの思いを飲み込むように唾を飲み込み、送信スイッチから指を離したマイクを胸に抱く。
 やがて、その手からマイクが零れ落ち――老人はその生涯を閉じた。
 口元をほんの少し緩ませて。

 荒野を渡る冬の風が、窓ガラスを叩いていた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「今の、信じていいのか――あ?」
 ドドルの声が聞こえなくなり、ミステラー星人が振り向く前に、ウルトラマンは右手で左手首を押さえていた。
「ヘア゛ッ!!」
 掲げた右手の中でミサイル状のウルトラスパークが長く伸びる。――『ウルトラランス』。
 投げ放たれた投擲槍の切っ先は、ドドルが示した腹部メンテナンスハッチ――透明な装甲で中の機械が見えるベルトのバックル状の部分――を正確に突き貫き、串刺しにした。
『ユウキセイメェェェェ――タタタ、タイィィ、シスシシスシスベシ、ベシ、ベシッ』
 たちまち火花を噴き出し、ガメロットの動きが怪しげに動揺した。内部の歯車の噛み合わせがずれたかのように、全身が異常な震えを見せる。
『ウウウウチュウニニニニタダタダタダシキシキシンカシンカヲヲヲヲ』
「ジェアッ!!」
 ウルトラランスを戻したウルトラマンは、そのまま再び右手を高く掲げた。ウルトラランスは縮小化し、ウルトラスパークに戻る。それを投げ放つ。
『ウツ・ウツツクシキ・ウツクシクシキチ――』
 三日月形の光刃となって宇宙の闇を裂いたウルトラスパークが、ガメロットの首、腕、脚を根元から瞬時に切り裂く。
 無重力空間では、斬られた部分がポロリと落ちることはない。それはただ、漂うように離れてゆくだけだ。
 そうやって開いた内部のメカに向けて、ウルトラマンは両手を十字に組んだ。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 インド亜大陸上空・大気圏近く。
「――ドドルのアドバイスに従い、ポイントナンバー17のバルタン部隊がガメロット撃墜!」
「ポイントナンバー12、ケンタウルス船大破!」
「ポイントナンバー20でペガッサ船団がガメロット撃墜!」
「ポイントナンバー06でも撃墜確認!」
「ケンタウルス船の救助に向かったメシエ船が、キングジョーの攻撃を受けて足止めされています! ――ザンパ船、援護を!」
「ポイントナンバー09、アテリア部隊がロボット群に包囲されています! 現在、三名が戦闘不能! 二名が負傷! 救援要請は出てませんが、限界です、どなたか援護を!」
 次々飛び込んでくるガメロット撃破と船団・部隊の被害の報告を聞き流し、メトロン星人は戦域全体の動向を表示しているメインパネルを見上げていた。
「……とりあえず、これでウルトラマンジャックは解放されるな。あとは……バルタンとペガッサの動き次第、か。さて、こちらの一手が早いか、こちらが殲滅されるのが早いか……頼むぞ」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 爆散したガメロットの破片漂う宙域に、ウルトラマンとミステラー星人も漂っていた。
「――大丈夫か、ウルトラマンジャック」
 頷くウルトラマン。
 無事を確認したミステラー星人は、ふと地球の方を見やった。
「サーリン星のドドル博士か。無事帰れたら、礼を言いに行かねばならんな」
「……!!! ジェアッ!!」
 何かに気づいたウルトラマンがミステラー星人を押しのけ、とっさに張った四角いバリアをイナズマ状の光線が打った。
「なんだ、ジャック!? ――む、あれは!?」
 それぞれ別々の方向を見やっているミステラー星人、ウルトラマンが、そのそれぞれの方向に同じ物を見た。
 すなわち、それぞれ複数のキングジョー、クレージーゴン、ナース、ニセウルトラセブン、インペライザーに加えて、ロボフォーで構成された大ロボット軍団を。
 ミステラー星人は皮肉げに呟いた。
「――これは……まず、生きて帰ることを心配せねばならんかな」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「サーリン星の同志の損耗率上昇。ガメロットの撃墜率が跳ね上がりました」
 オペレーターの報告に、ロボット長官は苛立たしげな素振りを見せた。
「おのれ、サーリン星のドドルめ。自ら生み出したロボットを裏切り、人類に味方するか。これだから有機生命体は生かしておく価値もないというのだ。現状、今の情報で戦闘の趨勢に変動はあるか?」
「変動はありますが……ガメロットの件を含めても、ほぼ無視できる水準です。問題ありません」
「では、宇宙戦域の戦闘は現状維持で構わん。地表爆撃殲滅作戦を早急に進めろ。帰る場所をなくしてやれ」
「了解。残りカウント980――あ」
 何に気づいたのか、オペレーターが珍しく驚きの声を上げた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 地球の日本。
 フェニックスネスト屋上。
「――よう」
 シロウの呼びかけに、夜空をじっと見上げていた女は振り向いた。
 半目になって見るからにつまらなさそうな表情のヤマシロ・リョウコ――しかし、シロウを見るなり破願した。
「あー! レイガちゃんだ!!」
「……ちゃん?」
 複雑な表情で小首を傾げるシロウ。
 グラスバイザーを額の上に押し上げたヤマシロ・リョウコはシロウの傍まで寄ってきて、その肩を気安く叩いた。
「やぁやぁやぁ、よく来てくれたねぇ。ちょーど暇してたんだ、話し相手になってよ。ね、いいでしょ?」
「んー……」
 よく言えばフレンドリー、悪く言えば馴れ馴れしいその態度に困惑しつつ滑走路の方を見やれば、三機の戦闘機が発進してゆくところだった。
「まあ、いいか」
 どっかりその場に腰を下ろしたシロウの横に、ヤマシロ・リョウコもぺたりと座り込む。そして、強引にシロウの右手を取って握手をした。
「やぁやぁ、さっきはなんやかんやでバタバタしてて、自己紹介がまだだったよね? あたし、ヤマシロ・リョウコ。リョーコちゃんって呼んで」
「じゃあ、俺はシロウで。オオクマ・シロウだ」
「へー、それが地球での名前なんだ。じゃあ、シロウちゃんね」
「ちゃんづけはやめろ」
「いーじゃない。ああ、そうそう。まずお礼言わないとね。ありがと」
 ぺこっと頭を下げるヤマシロ・リョウコに、シロウは顔をしかめた。
「あ、いや……そのありがとうは、何のありがとうなんだ?」
「ん〜……なんやかや全部?」
「だから、その全部ってのがわからん」
 ヤマシロ・リョウコは屈託なく笑いながら指を折り始めた。
「なんだかんだで地球人のために戦ってくれてることと、ツルク星人の時に女の子達を守ってくれたこと、今回はあたしたちと一緒に戦うことを選んでくれたこと、あたしたちの翼を直して持ってきてくれたこと、こうして話し相手になってくれること、ん〜と、それから……そうそう。地球人を好きになってくれたことに、一番感謝かな!」
「……………………」
 興に乗って肩を気軽に叩いてくるヤマシロ・リョウコを、シロウは少し感心したような表情で見つめた。
「あんた、本当に似てるな」
「似てる? あたしが? 誰に?」
「かーちゃんとエミ師匠」
「エミって……あのツルク星人の時の娘で、さっきトラックの荷台で一緒だった娘だよね。あー……確かに、似た空気感じたなぁ。気が合いそうだった。てことは、シロウちゃんのかーちゃんもなかなか太っ腹な人なんだ」
「ふとっぱら?」
 シロウですら違和感を感じる天然ボケに、ヤマシロ・リョウコも違和感を感じたのか腕を組んで考え込む。
「違ったっけ。……ん〜……セッチーがいたら的確な突っ込みしてくれるんだけど。まあいいや。それで? シロウちゃんはなんでここに来たの? 戦いに行かなくていいの?」
「宇宙警備隊隊員じゃあるまいし、別に地球を守る義理はねえからな」
「へ?」
 ヤマシロ・リョウコはきょとんとした顔になった。
「どういうこと? でも、初めて現れた時も、悪島の時も、ツルク星人の時も、さっきだって……」
「守らなきゃいけない奴はいるよ。今言ったかーちゃんとか、エミ師匠とか、トラックで一緒だったユミとか、カズヤとか。そいつらのために戦わなきゃならねえなら、戦うさ。けど……例えば、この島の外側に住んでる連中まで、地球人だからって守ってやる気はないね」
 不思議そうに首をひねるヤマシロ・リョウコ。
「……じゃあ、なんでここに来たの? わざわざガンフェニックストライカー持ってさ。タイっちゃんを守ってあげるため?」
「あいつが俺に守ってくれなんていうタマかよ。あいつの師匠に頼まれたんだよ。あのでっかいのを直して持ってってやってくれって。そしたら面白そうなことやってたんで、つい」
「つい、であの戦いに割り込んだのか、シロウちゃんは」
 腹を抱えてけらけら笑う。
「たのしー。すごい、すごいなー。そんな動機で戦うウルトラマン、初めて聞いた。……でも、いいよ。大層なお題目抱えてしかめっ面で戦うより、そっちの方があたしは好きだな」
 シロウは不思議そうな表情でヤマシロ・リョウコを見やる。
「好きって……怒らねえのか。クモイの奴にはバカにしてるって、怒られたんだがな」
「それもタイっちゃんらしいねぇ」
 薄い微笑でクモイ・タイチが飛び去った北の空を見送る。
「でも、あたしはそれでいいと思う。だって、地球は地球人が守らなきゃ。ウルトラマンが助けてくれるのは嬉しいけど、正義だとか愛だとかで戦ってたら、お互い重たいじゃん。地球人だって、別に全員が全員正義の心を持ってるわけじゃないしさ」
「……………………」
「あたし、ウルトラマンと地球人は友達であるべきだと思ってる。友達でいるのに一番大事なのは正義でも愛でもないよ。一緒にいて楽しく、一緒に笑えること。悲しいことも、辛いことも、一緒に笑うため。楽しい明日のため。一人ではたどり着けない場所へ、手をつないでたどり着くのさ。それが友達ってものだと思わない?」
「しらねーよ」
 ぶっきらぼうに、シロウは吐き捨てた。
「俺、友達いねーもん」
「うっそだぁ」
 笑い飛ばしてシロウの肩を、さっきより強く何度も叩く。
「そんなわけないじゃん。さっきのトラックに乗ってたの、みんな友達じゃん? あたしたちだって、これで友達。だって一緒に笑ってるもの。ね?」
「ねって……」
 困惑しているシロウを置き去りに、よっこいせと立ち上がるヤマシロ・リョウコ。その瞳は遙か夜天の彼方を見据える。
「シロウちゃんが戦いたくないなら、あたしは戦えなんて言わない。でも、せめて見ていてくれないかな。あたしたちの戦いを。こんな理不尽な侵略になんて絶対屈しない、それが地球人だったって。それだけ、覚えていてほしいな」
「……戦う? お前が? ここでか? 何をするつもりなんだ?」
 振り返ったヤマシロ・リョウコの顔を見た瞬間、シロウの背筋を冷たいものが走った。
 彼女の顔に浮かぶ冷たい笑み。
「それは、見てのお楽しみ。――っと」
 不意にヤマシロ・リョウコはグラスバイザーを引き下ろした。腰のガンベルトからラインに接続されたままのトライガーショットを引き抜く。
 グラスバイザーの耳元から漏れてくる声――シノハラ・ミオのものだった。
『ヤマシロ隊員? 誰かそこにいるのですか?』
「ん? ん〜ん。あんまり寂しいんで独り言」
 シロウを見やって、ぺろっと舌を出した。
「で? ミオちゃん、そろそろ準備整った?」
『はい。先ほどの戦いで破損したシルバーシャークGの二番砲塔の全機能を一番砲塔のバックアップに合流させました。連射力、射程、冷却能力、威力、全てにおいて通常の1.2倍から1.5倍の数値を想定しています』
「それ、すごいね。ウルトラマンの援護は要らないかな?」
 シロウを横目に見ながら、ちょっと意地悪げな笑みを浮かべるヤマシロ・リョウコ。
『当然です!』
「ひゃあっ」
 シノハラ・ミオの怒声に、ミオは泡を食った。
「ちょっと、ミオちゃん。耳元で叫ばないでよ。ったくぅ……そんじゃま、ちょっと地球人の意地、見せてやりますか」
『オリンピックメダル候補の技量、期待しています』
「まーかせて。プレッシャーが強いほど燃えるってもんよぉ」
『では、データ投影開始します』
 グラスバイザー脇の小さなLEDがチカチカ光り、シロウの目にもグラスバイザーのグラス部分になにかが表示されたのがわかった。
「……今この小さな画面に、この上空を通り過ぎようとしてる敵の艦隊が表示されてるの」
 明らかにシロウへの解説を呟き、上空を見上げるヤマシロ・リョウコ。
「あたしはそれを――狙い撃つ!!」
 天へ向けてトライガーショットを掲げ、左手をその銃床に添えて支える。
 すると、二人がいる下方で二連砲台シルバーシャークGもその砲口をその方角へと向けた。
 そして――ヤマシロ・リョウコの指が引き金を引く。


 ほぼ同時に、世界中のGUYS基地でヤマシロ・リョウコと同じ役割を背負った隊員が、それぞれに引き金を引いた。



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