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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第5話 史上最大の逆襲 造ラレシ"モノ"ドモノ逆襲 その7

 地球の大気圏外、インド亜大陸上空高度5万km。
 対峙する二つの艦隊があった。
 一方は第四惑星の宇宙戦艦を中心とする星間機械文明連合艦隊約百隻。
 そこへ進攻するは、種々雑多な宇宙船の混じる生協の混成船団約五十隻。
 その中心に位置するのっぺりした巨大円盤の艦橋に、メトロン星人の姿があった。周囲でコンソールを扱っているのは様々な姿の異星人たち。
 青い地球を足下に、行く手に展開しているはずの星間機械文明連合艦隊を見据えているメトロン星人に、毛むくじゃらの犬に似た異星人が報告した。
「日本の東京でGUYSが勝利し、インペライザー二機、キングジョー二機、クレージーゴン一機、ロボフォー一機を撃破した模様。レイガの援護もあったようですが」
 メトロン星人は頷いた。
「その他の地域の状況はどうかね」
「日本では各地で隣接地域のGUYSの応援を得て戦闘が続いていますが、新たなロボットの侵入も続いています。世界各地の人口密集地にも続々とロボット軍団が出現しており、各地のGUYSと防衛戦力はともかく、市民レベルでは混乱しているようです。……地上は持久戦になりそうですね」
「市民レベルでは混乱、か」
 メトロン星人はふう、とため息を漏らした。
「おかしなものだな。我々の多くは、それをもたらすためにこの星へ来た……なのに今、それを聞いて怒りの気持ちが湧き上がってくる」
「皆も同じ気持ちであろうと思います。組合長」
 そう答えたのは、メトロン星人の背後から現われた魚のような異星人。
「君は……ボーズ星人、だったか」
 全身真っ青で、右手が鞭のようになっている姿のボーズ星人は、頷いてその赤い瞳で地球を見やった。
「我々は130年以上前、日本では幕末から明治という時代にこの星へやってきました。この星を征服するために。だが……私と私の仲間はこの星の人々に心癒され、この美しい星を愛するようになりました。初志を貫徹し、征服活動をやめなかった仲間はウルトラマンレオに倒されてしまいましたが……(※)同胞を失った悲しみとこの思いを同胞と共有できなかった後悔はあれど、恨みに思う心はありません。改めて、こうして見るこの星は……やはり、本当に美しい」(※ウルトラマンレオ第19話)
「ふむ。君の意見を否定するわけではないが、惑星の外見的な美しさなど私の価値基準では高くはない」
 そういいつつ、またため息をつく。
「だが……この星のある女性が入れるお茶は、至高の味わいなのだ。形に表わせない美しさがそこにある」
「組合長は、その女性のために戦うのですか?」
「まさか」
 メトロン星人は鼻で笑った。
「私は生協の組合長だぞ? そんな個人的な理由で組合員の皆を動員などしないし、それを理由に皆を戦場に送るくらいなら、一人でこの星を逃げ出した方がましだ。私はただ、求められたからここにいるに過ぎない」
「皆から担ぎ上げられたからだと?」
「いや。この星はウルトラマンに守られている。理由というなら、それが最大の理由だ。それは未来が約束されている、ということと同義だからな。そして、この星の人間は……実に愉快だ。命を懸けてまでとは思わないが、我が知謀を傾けて守るのも悪くはない」
「ふふ、気に入っておられるのですな」
「勘違いするなよ? 私が気に入っているのは、地球人だ。人類だけではない。君も、ミステラー星人も、オリオン星人も、バルタン星人も、地底人やノンマルトも、私にとっては地球人なのだ。生協に集うのは、皆この星で平穏な生活を望む者たち……願わくば、誰一人欠けることなく、待つ者のいる場所へ帰ってもらいたい」
 いつしか、艦橋から人の声は絶え、皆がメトロンとボーズ星人の会話に聞き耳を立てていた。
 頷くボーズ星人。
「その待つ者のいる場所を守るための戦いです。必ず勝ちましょう」
「うむ」
 深く頷くメトロン星人。
 その時、オペレーターの一人が声を上げた。
「南米大陸上空7万5千km、ポイントナンバー25において、ウルトラマンジャック及びミステラー部隊が戦闘に突入!」
 その方向を、ちらりと見上げるメトロン星人。大気圏外にもかかわらず、チカチカと輝く星がある。いや、星ではなく爆光か。
「始まったな。――全艦第一種戦闘配備! バルタン・ペガッサ部隊の布陣は!?」
「すでに完了しています! バルタン第二から第五部隊も展開完了! ペガッサ部隊と共にポイント14から16にて活動開始した模様です」
 艦橋内部は再び活気と緊迫感を取り戻していた。
「連中は相変わらず仕事が早いな」
「組合長、敵艦隊増速! 相対距離縮小! 1分後に相互の射程距離に入ります!」
 メトロン星人はさっと腕を振るった。
「では、全艦機関後進! 相対速度を0にし、敵艦隊との距離を維持せよ。後方の敵艦隊の動きも見逃すな! ……バルタン・ペガッサ部隊、戦闘開始!」

 メトロン星人の指示を受け、生協船団は一転、後退を始めた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 南米大陸上空7万5千km、ポイントナンバー25。
「ジェアッ!!」
 左腕から放たれたウルトラブレスレットが、瞬時に五隻の第四惑星宇宙戦艦を爆散させた。
 帰ってきたブレスレットを腕に装着すると同時にその場で反転し、後方から突進してくる戦艦にスペシウム光線を放つ。
 10万度に達するという高エネルギー流を受けた戦艦の装甲は次々とめくれ上がり、砲塔は内側から爆発する。艦橋が消し飛び、制御を失ったその艦はふらふらと地球方向へ落ちてゆく。
 それを見送ることもなく、新マンは次の標的を探して周囲を見回していた。
 周囲では巨大化したミステラー星人の部隊が暴れている。
 長年戦争をしている星の出身で、実際に従軍していただけあって、その戦い方は容赦なく、そしてまた無駄がない。
 小回りの利かない第四惑星の宇宙戦艦に死角から近づいて取り付き、砲塔や装甲を剥がして内部を露出させ、そこへ直接攻撃を叩き込む。
 今のところ地球側に被害は出ておらず、墜とした戦艦は20を超えてさらにその数を増やしている。
「ウルトラマンジャック」
 馬道龍の執務室で会ったミステラー星人が、背中を合わせてきた。
「敵の動き、どう見る? 機械が操作しているにしては、少々物足りなくはないか? アテリアの無人戦闘機でも、もう少し歯応えがあったぞ。なにか嫌な予感がする」
「……………………」
 無言で考え込む新マン――その顔が不意に跳ね上がった。一瞬遅れてミステラー星人も同じ方向へ顔を上げる。
「なにか来る!? ロボットか?」
 ミステラー星人が聞いている間に、新マンは両腕を頭上に伸ばして、接近して来るものに向かった。
「ここは任せた」
「……む。わかった」
 新マンの意を汲んで、踏みとどまるミステラー。
 その目はすぐに次の標的を捉え、そちらへと突進して行った。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 降り注ぐ砲撃の弾幕を軽快に躱し、迫り来るものへと近づくウルトラマン。
 それは、奇妙な物体だった。色は銀色、大きさはウルトラマンの半分ほど。側面に五つの孔が開いており、第一印象は地球の西洋鎧の胴部分だけが宇宙を飛んでいるような物体。一番大きな穴――鎧で言うなら、首を出す部分――の周囲に赤いカラータイマー状の玉飾りが並んでいる。
 接近してくるなりその物体は、その赤い玉飾りを光らせ、光線を放ってきた。
 両腕を組んでその攻撃を弾くウルトラマン。
「シュワッ!」
 直後に反撃のスペシウム光線を放つ――しかし、火花は飛ぶものの、ダメージを受けた様子もなく飛び去る物体。
 その場に静止して振り返ったウルトラマンは、すぐにウルトラブレスレットを飛ばした。
 しかし、ウルトラスパークも弾き飛ばされてしまう。
 急旋回して戻ってくる謎の物体。
 ウルトラマンは右拳を胸の前に、左手刀を立てたいつもの構えで迎え撃つ。
 猛然と突っ込んでくる物体をがっしりと受け止めた――ものの、足場のない宇宙空間のこと、勢いを殺しきれずに大きく押し込まれる。
「デアッ! ゼェアアアアアアアッ!」
 それでも何とか食い止めたと思いきや、玉飾りで彩られた一番大きな孔から妙なものが飛び出してきた。
 それは顔のように見えた。
 卵の先端のようなのっぺりした突起状の頭部の中ほどに並んだ目が、赤く光る。
 異星のロボットの形状にその表現が適切かどうか知らないが、目尻に行くほど細くなる三角形のいわゆる『目つきの悪い』顔。人間でいえば口に当たる部分には、なぜか格子が嵌められているため、歯を食いしばっているように見える。
 そして、その孔の両側から剣道の篭手を思わせる――いかにも『細かい作業は出来ません』、もしくは『殴るためだけのものです』と主張するかのような――腕が伸び、ウルトラマンの両肩を捕まえる。
 物体の下部からは節くれだち、関節部は蛇腹状になった脚が生えてきた。
 それは、新マンが最初に滞在していた頃に放送していた、あるロボットアニメの脇役が乗り込んでいたボロいロボットそっくりの形状だった。
『――ユウキセイメイタイ、シスベシ。ウチュウニタダシキシンカヲ。ウツクシキチツジョヲ』
 空間そのものを震わせて発する、音声に似た言葉。
「!?」
 つかんだ両肩を引き下げつつ、節くれだった膝蹴りをウルトラマンに叩き込む怪ロボット。
 避ける間もなく直撃を受けたウルトラマンは、思わず身体を屈した――その背中に両拳が叩きつけられる。
「デェアッ!」
 苦悶の呻きをあげて下方へ流れるウルトラマンの背中へ、さらに怪ロボットはキックを叩き込んだ。
『ユウキセイメイタイ、シスベシ』
 大きく跳ね飛ばされたウルトラマンへの追撃は――首の周りの赤い玉飾りが光り始める。
『ウチュウニタダシキシンカヲ』
 ウルトラマンもさすがにそれ以上の攻撃を受ける気はなく、身体を反転しつつ両腕を胸の前で交差させる。
 ロボットが放った光線を交差した腕で受け止め、弾くように両腕を開く。
「ゼアッ!!」
『ウツクシキチツジョヲ』
 再び玉飾りを光らせ始めた怪ロボットに対し、両手の指先をカラータイマーの前で水平に向かい合わせた。左手はそのままに、右腕を大きく振りかぶる。右手に現われるギザギザの光のリング――ウルトラスラッシュ。
『ユウキセイメイタイ、シスベシ』
 振り下ろした右手から唸りを上げて飛んだ光輪はしかし、またもその胴体に弾かれた。
 先ほどのスペシウム光線、ウルトラスパークに続き、ウルトラスラッシュまでも弾かれた――それでも動揺を見せず、ウルトラマンはその場でバック転して勢いをつけるや、文字通り流星と化してキックを怪ロボットに浴びせかけた。
 しかし。
 それでも、効かない。
「ヘア゛ッ!?」
『ウチュウニタダシキシンカヲ』
 再び放たれる光線を躱し、その胸に拳を叩き込む。蹴りつける。
 効かない。手応えがない。
 拳も、蹴りも、頑丈というよりは打撃のダメージが吸収されている感覚が強い。
『ウツクシキチツジョヲ』
 怪ロボットがハンマーのような手を振り回してきた。
 それを躱し、右腕に組みつく。何とか腕を制しようとするウルトラマンだが、敵の力の方が圧倒的で、振り回されてしまう。
『ユウキセイメイタイ、シスベシ。ウチュウニタダシキシンカヲ。ウツクシキチツジョヲ』
 大きく振られて体勢を崩したところへ、左拳の直撃を受けた。
 大きく跳ね飛ばされるウルトラマン――飛ばされながらも、再びウルトラブレスレットを放つ。
「ジェアアッ!」
 頭部を狙った三日月形の光刃は、首を引っ込めて躱された。後方から狙った腕もまた内部に引き込まれてすかされる。
『ユウキセイメイタイ、シスベシ。ウチュウニタダシキシンカヲ。ウツクシキチツジョヲ』
 戻ってきたブレスレットを左腕に戻すのと、敵の玉飾りが点灯を始めるのは同時だった。
「シュアッ!!」
 再び繰り出したブレスレットは、手の中でシールドに姿を変える。
 放たれた光線は一度シールドに吸収され、そのままはね返された。
 しかし、自らの放った光線さえも防いでしまうロボット。自らの強さを誇示するように、両腕を掲げる。
 再びいつものファイティングポーズを取るウルトラマン。だが、すぐに攻撃へ転じられない。
 光線技も打撃技も効かない、ウルトラブレスレットも躱す――攻め手を封じられたウルトラマンに、怪ロボットは遠慮なく襲い掛かった。
『ユウキセイメイタイ、シスベシ。ウチュウニタダシキシンカヲ。ウツクシキチツジョヲ』

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
 第四惑星のロボット長官は不機嫌そうに正面パネルを睨んでいた。
「地球には存在しないはずの宇宙艦隊が出現、地球人と宇宙警備隊以外の異星有機生命体が戦いに参加し、地上に降りたファンタスの同志はやられた。地上制圧につぎ込んでいるロボット軍団も、次々と破壊されている。これは一体、どういうことだ!」
「コンピュータの解析では、緊急事例999999999へのルートフラグ設定に該当しかねないとの警告が出ています」
「緊急事例999999999? なんだ、それは」
「……我が軍の敗北です」
「敗北の可能性が出て来ただと? ふざけるな、たかが人間ごときに我々が負けるはずがない! 人間とは臆病で、怠惰で、諦めが早く、矛盾に満ち、自分勝手で――」
「フォッフォッフォッフォッフォ……(その矛盾を内包するがゆえに、有機生命体は強いのだ)」
 空間に響くは、不気味な笑い声とテレパシー。
「な、何者だッ!!」
 暗がりの中でもひときわ暗い闇の中から、それは姿を表わした。
 先の割れた頭、地球で言うセミを思わせる顔、そして大きなハサミ状の両腕。
 ロボット長官は立ち上がった。
「き、貴様はバルタン星人! どうやって!? なぜここに!?」
「フォッフォッフォッフォッフォ……(我々は宇宙忍者。どこにでも潜み、どこにでも侵入する。そして、なぜかと問われれば、戦争では中枢を破壊するのが合理的な常套手段だからだ)」
「……貴様らバルタン星人は有機生命体の中では、むしろ我々に近い社会と概念、合理的思考を持つと聞いていたのだがな。それに、20億もの同胞を地球人とウルトラマンに殺され、その後も幾度か地球征服を狙っている。それがなぜ、地球を守る!?」
「フォッフォッフォッフォッフォ……(お前が今言った通り、合理的思考のゆえにだ。征服活動を力尽くだけで解決しようなどという思考は、そのものがすでに地球人類にさえ劣るのだと、貴様らは知るまいな)」
「なに?」
「フォッフォッフォッフォッフォ……(合目的行動は一つに限られない。お前達が矛盾と呼ぶ相反する思考や行動さえ、時に一つの目的を達成するための有効な手段なのだ。目的達成の手段を唯一のものとしか認識できず、多様な選択を樹状系統図と例外事項でしか表わせぬお前達機械人形は、決して我々を超えることはできない)」
「そんなはずはないっ! 我々はお前達有機生命体が生み出した、お前達より多様な環境に適応する新たな生命体なのだ! 貴様らより優れた、進化存在なのだ!」
「フォッフォッフォッフォッフォ……(生命か。地球人やウルトラマンの語るその概念、いまだに十分理解しきれてはいないが、今の貴様の言葉には一つだけ間違いがある)」
「我々に間違いなど、存在しないッ!!」
 言うなり、ロボット長官は拳銃を抜き放ち、発砲した。
 しかし、バルタン星人は瞬時に分身してそれを躱してみせた。両腕のハサミを掲げて、笑う。
「フォッフォッフォッフォッフォ……(進化とは、生き残った者のことをいうのだ。優れていたから生き残るのではない。生き残ったものが優れていたのだ。それが進化の真実だ。そして、時にその進化の先は袋小路になっている)」
「貴様らと一緒にするな!」
 再び発砲する。しかし、分身は納まらず、ロボット長官の周囲を何十体ものバルタン星人が囲み、回り――笑う。
「フォッフォッフォッフォッフォ……(最後に教えておいてやろう。お前達が大層に振りかざす進化や有機・無機の区別など、この銀河宇宙では何の意味も持たない。この銀河宇宙で覇を目指すにあたり有効な物差しはただ一つ、知的生命体としてどちらが強いのか。それだけだ)」
 周囲を幾重にも囲んで回るバルタン星人のハサミが、ロボット長官に向けられる。
 一瞬たじろいだロボット長官はしかし、にぃと頬を歪めた。
「ここで私を倒したとて、この戦いは終わらぬ。我々は偉大なるコンピュータの端末に過ぎず、私の消滅は新たな――」
 皆まで言わせず、バルタンの両腕が火を噴いた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 生協船団旗艦艦橋。
「バルタン部隊より連絡、正面の敵拠点艦隊旗艦の機能停止に成功!」
「観測班より報告、前方の敵艦隊に混乱が見られます!」
 その報告を受け、メトロン星人が腕を振るった。
「全艦、後進停止! 全速前進! 斉射攻撃を行いつつ、敵艦隊に突入! 殲滅せよ!」
 生協船団の突進が始まった。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「……指揮権委譲、確認。これより私が全拠点の指揮を取る」
 誰にともなくそう呟いた第四惑星のロボット長官は、不機嫌そうに正面パネルを睨んでいた。
「地球には存在しないはずの宇宙艦隊が出現、地球人と宇宙警備隊以外の異星有機生命体が戦いに参加し、地上に降りたファンタスの同志はやられた。地上制圧につぎ込んでいるロボット軍団も次々と破壊され……各拠点では旗艦をピンポイントに墜とされている。指揮系統はいくらでも移行できるが……手を打たねばならんな。コンピュータの状況分析はどうか」
「敵勢力の部隊数はおおむね6。うち2部隊が艦隊規模、残り4部隊は巨大化した異星有機生命体により構成された白兵戦部隊。ウルトラマンジャックの姿も確認。ただし、現在はサーリン星のガメロット(※ウルトラマンレオ第24話)に足止めされている模様。この他、バルタンを中心とする少数精鋭の隠密部隊が、各拠点の旗艦を中心に被害を与えています。現在、敵との戦力差倍数9.8876」
「ふむ、こちらの艦艇300隻分の戦力か。数で劣る分をそれぞれの特殊能力でカバーしているのだな」
「現状、覆しがたい戦力的劣勢にある敵の攻勢は、第三惑星を基準にした高々度から中高度の拠点に限られており、その戦略・戦術は拠点艦隊の各個撃破それのみと推定されています」
 画面上に表示されている拠点状況の中で、戦闘中の表示がなされているのはほんの一部。後の圧倒的多数の戦力は待機したままだ。
「戦術レベルでの勝利を重ね、戦局を有利に進め、戦略レベルでの勝利を引き寄せるしか向こうに勝ちの道はない……いわゆる死に物狂いの反撃というやつか。だが、この圧倒的戦力差で戦術レベルの勝利を続けられるわけはない。非合理的だ。実に往生際が悪い。これだから有機生命体は愚かで醜いというのだ」
 ロボット長官はコンソールのボタンをいくつか叩いた。メインパネルの表示が切り替わる。
「それで、地表制圧の状況は」
「第三惑星人はペダン星の超合金を破壊する技術・能力を保持している模様。『 高硬度装甲を誇るPdnKG、BndCG両タイプにより防衛兵器からの攻撃を無効化、制圧する 』という当初の作戦は破綻。なお、攻撃特化型のSlmRU7及びEprIRタイプもその威力を生かしきれずに撃破されており、全体として地上制圧に投入したロボット軍団の被害は甚大と言わねばなりません」
「ペダン合金を破壊する兵器か。この先の宇宙平定を考えるならば、是非とも手に入れておくべきだな。コンピュータの判断はどうなっている」
「大きく分けて二つの計画もしくは作戦変更案を並列提起」
「二つ? 提示せよ」
「計画の第四段階である地上制圧を中止し、第五段階である全面的な爆撃により速やかに有機生命体の根絶を優先する案と、あくまで地上制圧作戦を遂行する場合の戦力再配分案となります」
「戦力再配分案を採用する。提示せよ」
「了解。メインパネルに表示」
 正面パネルに表示されていた現状の戦力分布図に、色違いの新しい分布図が重ねて表示される。元々の分布図に表示されていた、拠点同士を繋ぐ線が新しい分布図ではかなり減っている。
「ふむ。拠点同士の情報同期リンクの半分が切れているな。あまり賢明とはいえない戦力再分配に思えるが? 解説しろ」
「まず、各拠点艦隊よりロボフォー及びガメロットのみで構成された部隊を抽出、編成。半分を地上へ降下させ、もう半分を高々度戦域に投入。同時に低高度拠点艦隊は大気圏上層部まで降下後、地上への爆撃を開始、降下部隊の援護と敵防衛拠点の殲滅を図ります。第三惑星防衛戦力は、ペダン合金破壊弾頭を極めて原始的な射出装置にて手動で撃ち込むという、非効率的な作戦を展開しているため、これに対してはロボフォーで足を止め、ガメロット及び分離したPdnKJ、WldNSタイプの機動力で圧倒、拠点構築後はBndCG、SlmRU7タイプを固定砲台化し、遠距離砲撃にて接近を排除、速やかに地表制圧を進めます」
「よろしい。高々度戦域への対応は?」
「残り半分のロボフォー及びガメロット部隊、及び各拠点艦隊配備の予備戦力であるPdnKJ、BndCG、WldNS、SlmRU7タイプを全機投入。同時に中高度拠点艦隊を高々度へ遷移させ、敵部隊を圧倒的火力によって包囲、殲滅します」
「ふむ。それぞれ戦術レベルとしては妥当な提案だな。だが、現在の拠点配備を崩せば、第三惑星防衛戦力の機動兵器コントロール奪取プログラムウィルスを発信する電波の到達にムラが生じる。その対処については?」
「コンピュータによると、すでに第三惑星防衛戦力がこちらの手を認識しており、こちらも視覚擬装を解除した以上、地表同時到達の戦術的意味は相当薄れている、とのことです。そのため、電波が到達しない地域や期間が発生しても問題ありません。むしろ、その空白期間が現在凍結されている機動兵器群を再び起動させる呼び水となり、結局は効率的に戦力の排除を行える可能性がある、とも」
「了解した。全部隊・全艦に作戦変更を通達、速やかに全戦域にて抵抗勢力及び防衛戦力を排除せよ」
「了解。コンピュータから通達発信。ファンタス星同志とサーリン星同志からも作戦変更と遂行の了解を取りつけました。……各拠点艦隊よりガメロット、ロボフォー離脱。再編成に入ります。低高度拠点艦隊は大気圏上層部へ、中高度拠点艦隊は高々度へそれぞれ遷移開始。戦闘中の各拠点艦隊は、敵部隊をその場にひきつけておくため、戦闘効率無視の拠点防衛戦闘へと移行します」
 淡々と状況を報告してくるオペレーターの声を聞きながら、ロボット長官は口ひげを歪めた。
「やはり、コンピュータの予測は的確かつ正確で、隙がない。完璧だ。有機生命体の頭脳ごときでは、これほどの戦術は展開できまい」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネスト敷地内滑走路脇倉庫。
 レイガが持ってきたガンフェニックストライカーは三機に分離させられていた。
 ガンウィンガーのコクピットに座ったアイハラ・リュウは、あちらこちらのスイッチを入れ、各機能を確認している。
「……すげえな。ほんとに全部直ってやがる。ウルトラ族の超能力ってのはこんなことも可能なのかよ」
 感心していると、胸で携帯が鳴った。すぐに出る。ラインが接続されているので、ヘルメットを脱ぐ必要はない。
「はい、こちらアイハラ――おやっさん?」
 通話相手は整備班長のアライソだった。
『どうだ、状態は?』
「ああ。完璧だな。どうやったのか知らねえが、いつものアライソ班長の整備直後とまったく一緒だぜ。何の心配もない」
『いや、いつも以上だ』
「あん?」
『さっき、こっちの若えのがちょっと試したんだがな。アンチウィルスソフトが動いてねえはずなのに、その機体にとって有害なプログラムやデータが侵入できないようになってやがるんだ』
「じゃあ、外した通信機は戻してもいいんじゃ?」
『バカ言え。そいつの効果がいつまで続くかわからねえんだ。そんなあやふやなもんにパイロットの命預けられるか。ともかく、せっかく戻ってきた機体だ。大事に使えよ』
「G.I.G」
 携帯の通話を終えたアイハラ・リュウは、ふとコクピット・コンソールを見つめた。
「……ああ。もう二度と落とさせたりはしねえよ。翔んでこその"俺たちの翼"だからな」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネスト屋上。
 フェニックスネスト・フライトモード時に艦橋となるディレクションルームの上に、ヤマシロ・リョウコの姿があった。
 その手にラインの接続されたトライガーショットが握られ、その顔にアイマスク型のグラスバイザーを装着している。
 手持ち無沙汰にしていたヤマシロ・リョウコはグラスバイザーの横のボタンを押した。
「ミオちゃーん。暇だよ〜。まだぁ?」
『まだです!』
 女教師を思わせる一喝に、思わず肩をすくめるヤマシロ・リョウコ。
『現在、世界各地の天文台や天体観測団体からの提供情報を解析しているところです。それに、シルバーシャークGの出力変更作業も進行中なんです。終わったら連絡入れますから、もう少し――』
「あ、光った。……そういやねえ、ミオちゃん。今夜は流星が多いよ」
『……………………。ヤマシロ隊員、人の話を聞いていますか?』
「何でか知らないけどさ、今日は下から上に上がっていく流星が多いや。なんでだろ」
『知りません』
 ぴしゃりと言い放つや、通信は落ちた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネスト敷地内滑走路脇倉庫。
 ガンローダーのコクピットに座るクモイ・タイチは、しきりに自分の手を握ったり閉じたりしていた。
「……違和感なし、痛みもなし、か。お前の治癒能力は大したものだな」
 折れていたはずの腕を治癒してもらったのはついさっき。
 話を振られたシロウはしかし、ラダー(コクピットへ乗り込むための梯子)からコクピットを覗き込んでいる。
「すげー。なんだかわかんねーけど、すげー」
 まるでオモチャを見る子供のように目を輝かせ、楽しそうにあちこちに顔を巡らせている。
「……聞いていないな。まあいい」
 浮かれているシロウの肩に、クモイ・タイチは手をかけた。
 そこで初めて、シロウはクモイ・タイチを見る。
「あ、なんだ?」
「ここの守りは頼むぞ」
「ん〜……いいけど、かーちゃんたちの方が危ないとなったら、ここは放り出すからな。それだけは言っておくぞ」
「その時は、戦後にお前と決着をつけなきゃならなくなるだろうな」
 そう言ってシルエットのフェニックスネストを見やる。
「レイガ、あそこに誰かいるのが見えるか?」
 怪訝そうにそちらへ向いたシロウは、少し目を細め――頷いた。
「てっぺんに女がいるな。……ああ、トラックの荷台で会ったねーちゃんじゃねえか。エミ師匠みたいな、きっぷのいいやつだよな」
「地球全体のことはともかく、日本の守りはおそらく、彼女が鍵を握っている。ここが狙われた時、一番に彼女を守ってやってくれ。彼女とあの砲台さえ無事なら、相当の戦果が期待できる」
「ふぅん……お前はこいつでどっか行っちまうのか?」
「ああ。他の都市を襲撃しているロボットを倒してくる」
 そう言いながら、膝の上に置いたアタッシュケースの表面を撫でる。その中には、改めて配分されたライトンR弾頭弾が入っている。ガンウィンガーのアイハラ・リュウ、ガンブースターのセザキ・マサトもそれぞれの分を渡され、積み込んでいた。
「隊長もセザキ隊員も、それぞれ別々の方角へ向かうはずだ。だから、この基地を守る者が必要となる。お前の力を貸してくれ」
 シロウはふと上空を見上げた。
 深夜の夜空に流星が走る。
「俺としちゃ、あっちの戦いも気になるんで、行きたいんだがな。ジャックもそっちで暴れてるみたいだし」
「戦い甲斐のある方に行きたいか」
「んー……つうか、ボスがいるとしたら、あっちだろ」
 また一つ、流星が昇ってゆく。
 シロウはそれをうらやましそうに見つめている。
「なるほど」
 クモイ・タイチは頬を緩めた。
「確かにそれは古の時代から戦いを終わらせる最短の戦術だ」
 その時、クモイ・タイチの携帯が鳴った。
「――はい、クモイ」
『ミッション詳細が決まりました。セザキ隊員は西日本、隊長は中部北陸方面、クモイ隊員は北へ』
 通話相手はシノハラ・ミオ。
「北か。北というと――」
『まずは仙台です。現地に展開している防衛軍と協力し、仙台で暴れているレジストコード・クレージーゴンを倒してください。現在、メモリーディスプレイが各機体起動の認証以外では使えませんので、こちらからの通信による指示は出来ません。緊急事態ですので、メテオールの解禁を含め、全てクモイ隊員の判断に委ねられます。仙台での戦闘終了後に改めて指示しますが、その次はおそらく釧路で戦闘中のGUYSイーストロシアとの共同作戦になると思われます』
「G.I.G。……ちなみに、俺はロシア語なんて話せないが」
『英語は出来るでしょう?』
「簡単な日常会話ぐらいは」
『経済評論や外交交渉をしてもらう必要はありませんから、それで十分でしょう』
「G.I.G。……では、出発する」
『御武運を』
 通話が切れ、携帯を閉じたクモイ・タイチはラダーを見やった。
 シロウはすでに姿を消していた。
 ふと見回せば、フェニックスネストへ向かう背中が見えた。
 その背中に親指を立て、クモイ・タイチはコクピット・キャノピーを閉じた。



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