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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第5話 史上最大の逆襲 造ラレシ"モノ"ドモノ逆襲 その9

 地上制圧の任を受け、日本上空の大気圏内へ降下してきたロボット軍団の尖兵ガメロット。
 しかし、地上から突然放たれた高出力光線が、その腹部メンテナンスハッチを撃ち抜いた。
 あまりの威力に真っ二つになり、それぞれ内側から爆砕する――その瞬間に、二機目がまた正確にメンテナンスハッチを撃ち抜かれた。
 さらに、回避行動をとった三機目が、回避行動をとったにもかかわらず撃ち抜かれ、爆散する。
 そして、ガメロットの後方やや遅れて降下して来ていたロボフォー部隊も、地上から放たれる光の矢に撃ち抜かれて次々墜ちてゆく。
 その光景は日本ほど正確なものでないにしろ、地球各地の大気圏上層部で起きていた。 

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
 ロボット長官はデスクを叩くようにして立ち上がった。
「地上降下部隊が全滅だと?」
「全滅したのは例の最大大陸端の弓状列島上空に向かった部隊だけですが……他の空域の降下部隊も、地上からの高出力光線による攻撃により、甚大な被害を――新たな被害報告受信」
「今度はなんだ」
「今、全滅を報告した空域へ爆撃を敢行すべく侵入した艦隊が、地上からの狙撃を受けて次々と撃破されています。コンピュータによると、このままではカウント600以内に壊滅します。撤退命令が推奨されています」
「バカな……なんだそれは!? 視覚擬装は解いたが、ジャミングは働いているはずだ! 第三惑星ごときの科学技術レベルのレーダーでは捕捉も出来ぬはず! ましてロックオンなぞ!」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「お前……地上から、大気圏降下中の敵を狙い撃ってやがんのか!? なんだそれは!?」
 夜空を見上げていたシロウは、その光景に思わず立ち上がっていた。
 光の国にいた時でも聞いたことのない戦術。いや、この目で見てもなお信じがたい戦法。
 しかも、そんな精密射撃を人の手で行うとは。
「――タイっちゃんじゃないけどさぁー……」
 リズミカルに引き金を引きながらヤマシロ・リョウコがふと漏らしたその静かな声に、シロウは背筋を走る悪寒を感じた。
 その横顔には、先ほどまでの屈託ない笑顔は微塵もない。ただ怜悧に、冷静に――そうだ。ツルク星人と戦っていたときのクモイ・タイチの横顔にそっくりだ。
「あんま、地球人なめんじゃないよ? あたしがここにいる限り、こっから先は絶対に通さないぜ♪」
 シロウは空を見回した。彼の目には、確かに日本上空へ侵入して来ようとする艦隊が、次々と炎上撃破される様子が捉えられていた。
(こいつ……スゲぇ!)
 ぞくぞくした何かを感じ、思わず身体を震わせるシロウ。
 地平線、水平線の彼方でも、いくつもの流星が地から天へ、翔け昇っていた。 

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「ロックオンなどという上等なものではないぞ、これは」
 メインパネルに展開されている地球側の反撃に、腕組みをしたGUYSスペーシーの隊長は苦笑気味に漏らした。
「GUYSスペーシー、天文台、各国宇宙開発系団体、アマチュア天文家などなど……それらからただ闇雲に敵戦力の位置を視覚的に確認した情報を集め、その情報を総本部と各支部のスーパーコンピューター総動員フル稼働で解析、位置情報を特定させ、その位置を狙って射っているだけだ」
「? どういうことですか?」
 わからぬげに顔をしかめる隊員。
「つまりね」
 横にいた女隊員が口を挟む。
「頭ン中に、3Dの空間座標図を思い浮かべなさい。みんなが望遠鏡や双眼鏡を覗いて、ここに戦艦がいる、あっちにいるって報告してくるのを、その空間座標図の上に表示していってるわけ。で、地上のスナイパーは、戦艦ではなく表示された座標を撃っているってこと。まあ、スパコンが介在してるから、それなりに予測座標を示して偏差射撃をさせてるんだろうけど」
「すんません」
 目を点にしていた若い隊員は首を振った。
「それ……なんか、すっげえアナログなことをやってるように聞こえたんですが、合ってます?」
「ええ。人の目というアナログなやり方で情報を集め、スパコンの力で撃つべき場所を選び出してるのよ」
「な、なんですか、その力技……」
 先ほどまで吼えまくっていた隊員も、開いた口が塞がらない。
「力技だからこそいいのだ。特に機械文明などと抜かしている連中にはな。人間が一粒一粒浜の砂を数えるような地味で地道な努力を、奴らは思いつきもするまい。そして、そのからくりがわからぬ敵には、なぜ自分達がやられているのか、全く理解できん。ふふん、これで大気圏内に連中は侵入できない。ざまあみろだ」
「すげえ、人類の底力ってやつですね!?」
 豪快に笑う隊長に、隊員も興奮収まらぬ表情で画面に見入る。
 その肩を、隊長は力強く叩いた。
「だから言っただろう。タケナカ最高総議長が、こんなことでビビるようなタマじゃねえってな。誇りに思え、あの人の下で戦えることを!」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「地上からの援護射撃です!」
 メトロン星人を乗せた宇宙船艦橋は喜びの空気に包まれた。
「さすが地球防衛組織の隠し玉だ。敵戦艦も一撃で沈んでゆくぞ!」
「なんて射程だ。それに、ウルトラマンの光線並みの威力はあるぞ!」
 周囲の騒ぎを聞きながらも、メトロン星人は深いため息をついた。
「諸君、喜ぶのは早い」
 すぐに大騒ぎが収まる。
「いかに地上からの援護があろうとも、我々の数的な圧倒的不利は変わらない。――索敵班、敵の総合指揮艦は見つかったか!?」
「ま、まだです!」
「バルタン・ペガッサ各隠密部隊からの報告はまだか!?」
「各部隊、いまだ全艦隊を指揮する母艦の存在を確認できず!」
「……むぅ。いかんな」
 明らかになにか焦りを感じているメトロン星人に、ボーズ星人が訊ねた。
「組合長、何を焦っているのです?」
「我々は全滅必至を覚悟して戦いに臨んでいるわけではない。守り抜かねばならんのだ。我々自身をも」
「どういう意味です?」
「あの大戦力を相手にこの戦力で戦いを挑む以上、正面突撃による敵の壊滅などという勝利条件はありえない。我々を陽動とし、速やかに敵の総本山を墜とさなければ、こちらがどれほど戦果を挙げようと勝利を得ることは出来ない。ジリ貧で戦力を削られ、いずれ飲み込まれるのがオチだ」
「なるほど。それにはまず、敵の大将の位置を特定しなければ、ということですな」
「特に第四惑星人は全てをコンピュータの指示に任せるタイプの半自律型ロボットだったはずだからな。中枢のコンピュータを叩くことができれば、全艦隊が相当動揺するはずだ」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 南米大陸上空7万5千km、ポイントナンバー25。
 ウルトラマンとミステラー星人部隊は完全な乱戦の中にあった。
「地上から宇宙まで!? 届くのか? なんて射程、威力だ!!」
 低軌道で行われている反撃に気づいて驚いたミステラー星人は、身体に絡みつく宇宙竜ナースを振りほどき、ネオ・MTファイヤーで焼き尽くした。
 そうして再び地球を背景に咲くいくつもの爆光と、地球から走る光の矢に納得したように大きく頷く。
「……なるほど。道理でサコミズが慌てないわけだな。地球人、恐るべし」
 そして、すぐに仲間に伝える。
「地球からの援護だ! 高度を下げろ! あの弾幕の助けを借りるんだ!」
(ならば、メトロンの船団と合流した方がいい)
 そうテレパシーで伝えてきたウルトラマンの目前で、クレージーゴンが内側から爆炎を吹き上げて擱坐した。
 硬質な装甲はそのままに、半分開いた正面資材回収口、その上の透過装甲部分、四肢の関節部から絶え間ない爆発が続く。
 その内部から戻ってきたウルトラブレスレットを、ウルトラマンは左手首に受けた。
(道は私が切り開こう。部隊員を連れて、包囲の穴から脱出するんだ)
 言うなり、ウルトラマンはブレスレットを投げた。それは目の前で不思議な光の輪を作った。
 その光の輪目掛けて、腕を『 L 』字に組む。
「ジュワッ!!」
 シネラマショット。
 ウルトラセブンのワイドショットにも劣らぬ威力の光線は、ブレスレットが作った光の輪をくぐるなりさらに輝きを増し、見た目にも威力を増して包囲網の一角を舐めた。
 たちまち、爆光の華が光線の軌跡を追って咲き誇る。
 ニセウルトラセブン、ガメロット、ナースなど、装甲のそれほど硬くない機体が、尋常ではないその高エネルギーの奔流を浴びて次々爆散してゆく。高硬度装甲を誇るクレージーゴンとキングジョーさえ、その場に留まってはおられず大きく後方へ吹き飛ばされていた。
 ミステラー星人もそのあまりの威力に動揺を隠せない。
「すごい威力だな」
(スペシウムエネルギーを増幅しただけだ。……暗黒大皇帝との決戦の折り、地球人はスペシウムエネルギーを増幅する装置を使い、メビウスの戦いを助けてくれたそうだ。その話を思い出したのでな。私なりに再現してみた)
「それにしても、あの包囲網の一角を一撃で殲滅とは……噂に聞くゾフィーの必殺光線並の威力があるんじゃないのか」
 戻ってきたウルトラブレスレットを左腕に戻したウルトラマンは、首を振った。
(さすがにそこまではないだろう――さあ、行け。後ろは私が守る。メトロン星人たちを頼む)
「わかった」
 ミステラー星人は頷いて、ウルトラマンに背を向けた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
 オペレーターが告げる。
「宇宙警備隊隊員所属敵部隊、及び第三惑星地表からの防空攻撃により、戦力損耗率上昇中。特に例の弓状列島上空における損耗率は、群を抜いています。早急な指示変更を要請」
 ロボット長官はしかし、首を振った。
「逆に言えば、その二つを排除してしまえばこの戦局は決するということだろう。宇宙警備隊隊員に対する包囲は現状のまま、ロボット軍団に任せる。地表爆撃艦隊の戦力を全て、弓状列島上空に集めよ」
「非効率的指示と認定。コンピューターは当該空域よりの撤退を再度推奨。敵の攻撃命中率の高さの理由が不明である現在、相当数の戦艦が撃墜されます」
「構わん。また造ればよい。それより、敵防衛戦力の撃墜効率以上の戦力を投入し、地上の無差別爆撃を行え。見せしめも兼ねて、まずあの弓状列島から有機生命体を排除するのだ。数で押し潰せ」
「了解。認定取り消し。――降下艦隊移動、全艦集結開始」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックスネスト・ディレクションルーム。
「――敵の陣形に乱れ!」
 イクノ・ゴンゾウが伝える。
「乱れというより、集結ね」
 正面メインパネルに表示された敵の艦隊配置の簡易図の動きを見やりつつ、ミサキ・ユキが唸る。
 そこへ、屋上にいるヤマシロ・リョウコから連絡が入った。
『ミオちゃーん。撃っても撃っても減らないっつーか、なんか増えてるみたいに見えるんだけど〜?』
 その声には、珍しく深刻な焦りの成分が聞いて取れる。
「実際、日本上空に敵艦隊が集まってきてますからね。頑張って。……とは言うものの、これは危ないかもしれませんね」
「危ないって、何がだね?」
 腑に落ちない表情のトリヤマ補佐官に、シノハラ・ミオはため息をついた。
「……私の手元の情報では、現在最も敵戦力の撃墜効率がいいのは、ここGUYSジャパン上空です。大まかに言って、敵の戦艦一隻を沈めるのに必要なシルバーシャークGの砲撃は1.3発。4発で3隻落としている計算です。他の支部が3〜10発に1隻あることを考えれば、これは異常と言っていい。その異常な拠点を、自軍の戦力損耗を覚悟して攻める構えを見せる以上は、その攻撃は半端なものではありえません」
「半端でない、とは? どのくらいのことを言っておるのかね?」
「おそらく……地表爆撃は覚悟した方がいいでしょう。それも、地形が変わるほどの」
 答えたのはイクノ・ゴンゾウ。驚きのあまりあんぐり口を開けて凍りついたトリヤマ補佐官をそのままに、続ける。
「そもそも有機生命体を滅ぼす、と公言しているわけですから、その攻撃オプションをこれまで選択しなかったことの方が腑に落ちないんですが」
「なななな、何とかならんのかね!?」
「何とか、と言われても……」
 イクノ・ゴンゾウとシノハラ・ミオは困った顔を見合わせた。
「ガンフェニックストライカーは三機に分かれて日本各地。ヤマシロ隊員は屋上で狙撃中なんですよ? これ以上、こちらで選びうるオプションなんて……ありません」
「それでは、このまま爆撃されるのを待てと言うのか!?」
 トリヤマ補佐官の怒声に、しかし答えられる者はいない。
「諦めないで」
 そう声を振り絞ったのは、ミサキ・ユキ。ディレクション・テーブルについた手を握り締め、ぐっと堪えるように唇を引き結んでいる。
「私たちが諦めたら、全てが終わるわ。出来ることを、何か出来ることを探すのよ」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 日本上空・大気圏最上層部。
 大陸及び弓状列島からの砲撃で次々と僚艦を失いながらも、大挙押し寄せる第四惑星艦隊。
 それはとうとう爆撃可能距離まで到達した。
 艦隊行動などどこ吹く風で、砲撃を受けて爆発・四散する味方には目もくれず、射程に到達した艦から順に艦底部のウェポンベイハッチを開く。
 そして、無数の光弾がアジア東北部に降り注ぎ始めた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 高知。
 ガンブースターで駆けつけたセザキ・マサトは、宇宙竜ナースと熾烈な空中戦を繰り広げていた。
 とぐろを巻くように身体を円盤状に収めたナースは、光弾を放ってくる。
 それを躱し、背後を取ろうとするガンブースター。
 しかし、円盤だけあってナースは奇矯な機動を得意としている。船体を回転させ、前方へ飛びながら後ろを向いて光弾を発射してくるのを、かろうじて躱す。
「ちぃっ、味な真似を。……けど、こんなやつにメテオールは使いたくないな」
 また背後についたナースの攻撃を右に左に躱しながら、速度を上げてゆく。
 いつしか戦場は海上へと移っていた。
 ガンブースターは一気に高度を下げる。
「――このターンに、ついてこれるかなっ!?」
 海面着水寸前に機体方向を百八十度回転させ、アフターバーナーとサイドモーターの噴射で横滑りするように機動しつつ、ナースを真正面に捉える。
 突然目標が反転・横滑りしたナースは、それでも海面激突ギリギリで止まった。
 その停止こそが、セザキ・マサトの狙いだった。
「もらった――ガトリング・デトネイター!!」
 ガンブースター全身に配置された六門のキャノンが火を噴き、宇宙竜の装甲を貫いた。
 風穴から放電を放ちながら、とぐろを解いてゆっくり落ちてゆくナース。
 そこへ、突然空から落ちてきた光球が命中し、ナースは派手な爆炎と水飛沫を上げて海中に消えた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 名古屋。
 アイハラ・リュウ搭乗のガンウィンガーは名古屋港上空で、四機に分離したキングジョーと空中戦を繰り広げていた。
 とはいえ、航空機と三次元機動を行うUFO――埒があかない。そのうえ、四機対一機。
「メテオール解禁! パーミッション・トゥ・シフト! マニューバ!」
 業を煮やしたように吼えてシフトレバーを入れたアイハラ・リュウ。メインモニターが効果時間1分のカウントダウンを始める。
 機体全体から金色の粒子が散った。イナーシャルウィングが展開し、ファンタム・アビエイション(三次元機動にともなう残像)が発動する。
 狙うは、一番小さな機体――合体時には腰の部分になるUFO。
 三次元超機動で他の三機を巧みに躱し、敵の光線攻撃をファンタム・アビエイションで透かしつつ目標に接近し、ほぼ0距離に詰める。
「――スペシウム弾頭弾、発射!」
 主翼下のトランスロードキャニスターから放たれたミサイルは、狙いたがわず小型UFOに命中した。
 無論、本家のスペシウム光線より威力の劣るスペシウム弾頭弾では、例えこの距離で直撃させたとしても破壊どころか、大したダメージを与えることさえ出来ない――はず。アイハラ・リュウの狙いは別のところにあった。
 爆発で大きく吹っ飛ばされた小型UFOは、そのまま名古屋港の埠頭に墜落・激突した。勢いが良すぎたのか、埠頭を破壊しながら一跳ねして、倉庫の一つに突っ込んで止まる。
 すかさず残りの三機が、その一機を守るようにガンウィンガーの前方に集まる。
「浅かったか!?」
 その瞬間、警報音が鳴った。メインモニターに上方警戒の表示。
「――なんだ!?」
 ファンタム・アビエイションの残像を突き破って降り注ぐ光弾。
 海上、埠頭、倉庫街、コンテナターミナル、名古屋の街――そして、何の偶然か、墜落した小型UFOへも直撃弾が炸裂した。
「っと、くそ、よっ! ――どこからの攻撃だ、これはっ!」
 アイハラ・リュウは先ほどよりよほど切羽詰った面持ちで操縦桿を操り、光弾の雨をかいくぐりつつガンウィンガーを戦域から離脱させる。
 追撃がないと見たキングジョーは、墜落した小型UFOの元へ集まり、合体し始めた。
 その間に、アイハラ・リュウはガンウィンガーをコンテナターミナルに着地させる。
 キャノピーを開け、ちらりと上空を見やれば、光弾の雨は止んでいた。
 しかし、夜空には異常なほどの流星が走っている。出撃前に見た夜空の様子とはその数も桁違いだが、今度は上から下へ降り注いでいた。
「宇宙で何が起きてるのか知らねえが、ここに落ちたらお慰み、だな。まあ、キングジョーに直撃してたくらいだから、狙ってるわけでもないんだろうが……よし!」
 覚悟を決めて頷き、アタッシュケースとロケットランチャーを引っつかんでコクピットから飛び降りた。
 アタッシュケースを開く前に腰のガンベルトからトライガーショットを引き抜き、チェンバーを青に合わせておいて、足下に置く。
 合体したキングジョーは立ち上がり、両腕を掲げて辺りを見回している。
「よ〜し。そこまでは狙い通りだ、そっから動くなよぉ」
 ちらちらとキングジョーを窺いながら、アタッシュケースからライトンR弾頭弾を取り出し、ロケットランチャーに装填する。
 そして、装填を終えたロケットランチャーを足下に置き、今度はトライガーショットを取り上げる。
「メテオール解禁! キャプチャーキューブ発射!」
 青い尾を引いて放たれたメテオール弾はキングジョーの頭上で閃き、クリスタル状のエネルギーフィールドを展開する。
 アイハラ・リュウは腕時計を確認しつつ、肩にロケットランチャーを担ぎ上げた。
 キャプチャーキューブの中に包み込まれたキングジョーは、それを打ち破ろうと殴りつけて反動でよろめいた。両手を挙げて光線を放つも、それはフィールドの中で乱反射してキングジョー自身に跳ね返ってくる。
 メテオールの解禁期間は1分間。内側から壊せなければ、その間は完全に相手の動きを制することが出来る。
 腕時計で残り時間を確認しつつ、油断なくキングジョーの状態にも目を配るアイハラ・リュウ。
 残り1秒。
 ロケットランチャーの引き金を引いた。
 キャプチャーキューブが光の粒子と化して飛散した瞬間、狙い通りライトンR弾頭弾はキングジョーの装甲を貫いた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 仙台。
 ガンローダーを駆るクモイ・タイチは到着するなり、仙台駅前で暴れているクレージーゴンの上空を通過した。
 いぶかる市民をよそに、市内の防衛軍陸上部隊駐屯地に飛来し、ホバリングしつつ外部スピーカーで通達する。
「こちらCREW・GUYSジャパンのクモイ・タイチ。防衛軍に通達する。市街地にこれ以上被害を出させないため、これよりここへレジストコード・クレージーゴンを着地させ、撃滅する。広場から退避しておいてくれ。以上だ」
 言うだけ言うと、ガンローダーは翼を翻して再びクレージーゴンへと向かう。
 ビル街の真ん中で、あの特徴的な大きなはさみを振り回して周囲を手当たり次第に破壊している。その巨体は足下で起きているのであろう火災によって、夜の町の中に赤々と照らし出されている。
「さて……こいつの装甲にこっちの兵器は通用しないんだったな。なら、牽制は無駄か。とっとと終わらせる」
 クレージーゴンが放ってきた光線を紙一重で躱し、振り回す大バサミを潜り抜ける。
「メテオール解禁――パーミッション・トゥ・シフト。マニューバ!」
 シフトレバーを入れるや、機体が黄金色に輝いた。それは仙台の空を照らす勇気の光。
 両翼内のブリンガーファンが解放され、急速に回転数を高めてゆく。
「荷電粒子ハリケーン!」 
 ブリンガーファン下部に発生した二本の竜巻が、絡みつくようにしてクレージーゴンを捕らえ、錐揉み回転させながら夜空へと巻き上げる。
 敏捷性に難のあるクレージーゴンでは逃れることも、姿勢を変えることもかなわず――

 そこへ、夜空から光弾が降り注いだ。

 仙台市郊外、仙台塩釜港などに次々と落着し、爆発する光弾。
 そのうちの一つが、巻き上げられたクレージーゴンに偶然命中した。
 軌道が変わり、予定していた防衛軍陸上部隊駐屯地ではなく、その手前の仙台市陸上競技場に墜落するクレージーゴン。
「ちぃ……なんだか知らんが――やってくれる!!」
 そう叫びつつも、荒れ狂う二本の荷電粒子ハリケーンの軌道を必死に制御し、バットでも振り回しているかのようにして、仙台駅周辺の人口密集地に落ちてくる光弾をいくつか海上方向へと弾き飛ばすクモイ・タイチ。
 しかし、無情なるかなメテオールの効果時間は1分間のみ。
 制限時間が過ぎ、通常機動に戻ったガンローダーを、即座にクモイ・タイチは陸上競技場の隣にある野球場の駐車場に着陸させた。
 キャノピーを空け、アタッシュケースとロケットランチャーをつかんで飛び降り、隣の陸上競技場へと駆け出す。
 それらの一連の行動に迷いはなく、あらかじめ決められていた通りに動いているかのようだった。


 予想外の展開に出遅れた防衛軍陸上部隊が陸上競技場に到着・包囲した時、既にクレージーゴンは火花を吹き上げて擱坐していた。
 そして、挨拶を交わすこともなく再び夜空へと飛翔したガンローダーは、北へと向かって飛び去った。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 津川浦、野村道場。
 日本全国に降り注ぐ光弾のニュースは、テレビでも持ちきりだった。
 次々に被害と戦況の報告がスタジオに飛び込んできており、アナウンサーがさばききれなくなってきている。
 その画面を腕組みをして見つめているイリエ。
 エミとユミは少し不安げに眉を寄せている。
 カズヤはノートパソコンとにらめっこを続けている。
「……お母さん、大丈夫かな」
 ユミの言葉に、エミも頷き――カズヤを見やった。
「ヤマグチさん、うちの近所の情報、ネットとかに出てないの?」
「ないね」
 ロクに調べもせずに返って来た即答に、エミの表情が曇る。
「ヤマグチさんは家のこと、心配じゃないの?」
「心配さ。けど、うちの周辺みたいな郊外じゃ、よほどのことがない限り情報は流れないよ。だからそれ系の掲示板を探してる」
「掲示板?」
「あっちこっちで、あそこに落ちたここに落ちたって報告用のスレッドが立ってるからさ。日本中あちこちに……いや、韓国や中国にも落ちてるみたいだ。……お、管理人が整理に乗り出した。地域別掲示板に誘導してる」
 なぜかへらへら笑っているカズヤに、エミは大きく鼻息を漏らして腕組みをした。
「ねえ……なんでそんなに笑っていられるの。今、大変なときなのに」
「だって怖いんだもの」
 こともなげに言うその横顔にはしかし、ユミのようなわかりやすい恐れの色は窺えない。
 二人の剣呑な空気に、イリエもちらちらと二人を目で追い始めている。
「今、掲示板じゃあね、ちょっと席を外してると、『直撃弾を受けたか、南無阿弥陀仏〜』みたいな流れが出来ててさ。戻ってきたのが、『死んでねぇよ、トイレだよ、でかい方だよ』って必死でさ。見てると結構面白いよ」
「なによそれ」
 たちまちエミは嫌悪感に顔を歪ませた。
「本当に人が死んじゃってるかもしれないのに、そんなの不謹慎じゃない! 笑っていいことじゃないよ!」
「じゃあ、部屋の隅で膝を抱えて震えてるのが正しいっての? 冗談でしょ」
 苛つきを隠さない口調で、カズヤは鼻を鳴らした。
「確かに、おちゃらけているように見えるかもしれないけど……そうやって、顔も見ず知らずの連中がお互いの無事を確認したり、死ってものを笑いものにすることで、安心を求めてる。みんな怖いんだ。次の瞬間には、死んじゃうかもしれないから。だから、笑おうとする。なにかを笑ってないと、恐怖で押し潰されそうなんだよ」
「…………ヤマグチさんも、ですか?」
「ああ」
 一つため息をついて、マウスをぐりっと動かす。
「今、ボクは現実なんか見たくないね。いつ落ちてくるかわからない爆弾の恐怖に怯えているよりは、こうやって文字のやり取りでお互いを笑いあってるのを見て、ニヤニヤしている方が気が楽だ」
「クモイ師匠やGUYSの人達や、シロウが必死で戦ってるのにですか」
「それでも爆弾を落ちてきてるよね。だったら、ボクが最後の瞬間をどう過ごそうとボクの勝手だと思うけど? それとも、ハラハラしながら応援しなきゃいけないって法律でも? それにさ、苛々して他人に八つ当たりしてる人よりよほどましだと思うね」
 エミはきゅっと唇を引き結んだ。
「そうじゃなくて……」
「祈ってるさ」
「え?」
 不意に痛みをこらえるような表情と口調で漏らしたカズヤに、エミは怪訝そうに顔をしかめる。
「君に言われなくても、みんな、祈ってるよ。戦ってるみんなが勝ってくれるようにって。ボクだって。けど、そればっかり考えてたら、悪い方にしか考えが行かない。だって状況は絶望的だし、それを無条件で否定できるほど、ボクらは頭が悪くない。確率や理屈、科学の世界で生きているボクらは、無条件で勝利を信じるなんて、できっこない。だから、こうやって不安を紛らわすんだ。……今、ボクにやって欲しいことが何もないのなら、放っておいてくれないか」
「そんな言い方……大師匠、大師匠も何か言ってください!」
 悲しげなエミに話題を振られたイリエは、難しい顔をして白いあごひげをしごいていた。
「んん〜……そうじゃのぅ。カズヤ君がワシの孫なら叱りつけておるところじゃがのぅ。まあ、カズヤ君のお父さんもこんな調子じゃったしな。血は争えんというやつか。ほっほっほ」
「そうじゃなくて! 何か……何かあたしたちに出来ることはないんですか!?」
「ないのう」
「そんな……!」
「GUYSやシロウちゃんじゃあるまいし、宇宙からばら撒かれとる爆弾砲弾を、わしらでどうにかできるわけなかろう。――さて、よっこらっしょと」
 イリエは立ち上がった。腰の後ろで手を組んで、エミを見つめる。
「ワシは道場におる。何ぞ用があれば来とくれ」
「道場?」
「なぁに、道場には神棚があるからの。年寄りはこういうときに神様仏様に手を合わせて拝むもんじゃ」
 そして、ちらりとカズヤを見やる。
「カズヤ君からすると、非科学的かのぅ?」
 しかし、カズヤは苦笑して首を振った。
「いいんじゃないですか? 科学的でも非科学的でも、助けてくれるなら、神様でも仏様でも鬼でも蛇でも。今の状況で、科学だのオカルトだのを分けることに意味があるようにも思えないし……それで落ち着くなら」
 続けてユミが立ち上がった。
「じゃあ、私はお食事を作ります。――ええと。皆さん、お夜食食べますよね?」
「あたしは――」
 エミはきっとテレビを睨んだ。
「あたしは見てるよ。戦ってる人たちを。本当に戦ってる人だけじゃなく、今、恐怖と向かい合って必死に心の中で戦ってる地球上の人たちを、見てる。今のあたしには、それしか出来ないから。見てる――絶対、逃げない」
 限りない悔しさを滲ませたエミの決意に、ユミはそっとその肩に手を置いて頷いた。
 イリエは口元に笑みを浮かべ、背を向ける。
 そして、カズヤは小さく一つため息をついて言った。
「……勝手にすれば? そうしちゃいけないって法律もないんだし」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 同時刻・東京P地区、オオクマ家。
 シノブはテレビを見ていた。
 全国の被害報告をしているアナウンサーの声を聞きながら、急須で湯飲みに茶を注ぐ。
 それを一口飲んで一言漏らす。
「はー……おいし」
 ちゃぶ台に湯飲みを戻したシノブは、ふと外を見た。
 網戸越しの夜空を走る光。
 逆に地上から上る光。
 どこかで火事が起きているのか、山の向こうの雲が赤く光っている。
 シノブの表情が、わずかに曇った。
「んー……あの子達、明日ちゃんと帰ってこれるのかしら」

【 つ づ く 】


【第6話予告】
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