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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第5話 史上最大の逆襲 造ラレシ"モノ"ドモノ逆襲 その6

 陸路フェニックスネストに帰還したアイハラ・リュウたちがディレクションルームに踏み込んだ時、そこには部屋をひっくり返したような光景が広がっていた。
 あちこちのパネルが剥がされ、そこから様々な色の配線が這い出している。
 その配線は部屋の中央のディレクションテーブルとシノハラ・ミオのデスクに集められ、凄まじい形相をしたシノハラ・ミオがコンソールのキーボードを叩き続けていた。
 その光景の意味を、アイハラ・リュウだけが理解した。
「――シルバーシャークGをマニュアルで使うのか!?」
 シルバーシャークG。フェニックスネストの鎮座する敷地の前方左右に配備された高出力の光線砲は、大気圏外から降り注ぐ無数の彗星の破片を残らず撃ち落せるだけの連射力と、あのインペライザーすら破壊する威力を誇る。
「そうだ!」
 額に鉢巻を巻いたトリヤマ補佐官がディレクションテーブルの下から這い出てきた。
「アイハラ隊長には懐かしかろう。オオシマ彗星の時以来か」(※ウルトラマンメビウス第16話)
「一応、出来る調整は全部しておきましたから――いてっ」
 反対側から這い出てきたマル秘書官がテーブルに頭をぶつけた。
「あはは。現状、フェニックスネストの通信機能は、光通信ケーブルを用いた秘匿回線のみに制限していますし、例の乗っ取りプログラム電波の影響は受けないと思います」
「トリヤマさん、マルさん……」
 感じ入るアイハラ・リュウに、トリヤマ補佐官は室内を見回しながら得意げに言った。
「全部コンピュータ任せでは問題があろうかと思ってな。出来る限り我々人間の手で――ということで、懐かしの大改装だ。前回はエースストライカー、今回はアーチェリーのオリンピックメダル候補、つくづくこれを使う時のメンバーは恵まれておる! 歴戦のアイハラ隊長を加え、この基地は絶対に落とさせんぞ! なあ、マル!」
「はい! 絶対にです!」
 昂ぶりを隠せないトリヤマ補佐官の横で、激しく頷くマル秘書官。
 アイハラ・リュウたちは帰ってきてから初めて、嬉しそうな笑みを浮かべた。
 その表情を見て、トリヤマ補佐官も満足げに頷く。
「諸君、この作戦はサコミズ総監立案、GUYS総本部承認の全地球規模作戦だ。これなら地上と宇宙、両面の戦いに対応できる。宇宙に出られないぐらいで、地球人は諦めはせんぞ! 敵は多かろうと、強かろうと決して屈しはせん! ――やれるな、諸君!?」
「「「「はっ!!」」」」
 アイハラ・リュウたちは一斉に踵を打ち鳴らすようにして姿勢を正し、敬礼をした。
「わかりました。――リョウコ、準備しろ。トライガーショットにコネクタを繋いで、画面の敵を撃てばシルバーシャークGが連動して撃ってくれる」
「G.I.G」
 表情を引き締め直したヤマシロ・リョウコは、腰のガンベルトからトライガーショットを引き抜き、アイハラ・リュウを真似て銃床部分のソケットにコネクタを繋ぐ。そして、ディレクションテーブルの右側に立つ。その左隣にアイハラ・リュウが立った。
「リョウコ、撃つのはお前の領分だ。俺は基本的にサポートに回る。それでいいな」
「G.I.G。任せてください」
 セザキ・マサトとクモイ・タイチは、それぞれシノハラ・ミオとイクノ・ゴンゾウの脇に立つ。
 そのとき、楽曲『剣の舞』でも叩いているかのごとき勢いでキーボードを弾いていたシノハラ・ミオの手が止まった。
「――シルバーシャークGの有効射程範囲に敵機侵入! レジストコード・無双鉄神インペライザーです!」
「よし!」
 トリヤマ補佐官は指揮官らしく二人の射撃手の後方、ディレクションテーブルの手前に仁王立ちになった。
「周辺区域の住民の避難は済んでおる。手加減の必要はない! 思いっきりやれ! ――ガイズ! サリー・ゴー!!」
「「「「「「G.I.G!!」」」」」」
 六人分の応声がディレクション・ルームに響き渡った。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 夜の住宅街をのしのしと進むインペライザー。
 その進路上にあるフェニックスネストの両側に、それぞれ一基二門づつのシルバーシャークGが立ちはだかっていた。それは不死鳥の砦を守る一対の門番。阿吽の仁王。
 そこから放たれた光線は、いとも容易くインペライザーの正面三連砲塔部分をぶち抜いた。
 さらにとどまることなく連射される高出力エネルギー弾によって、腕がもげ、足が砕け、風穴が開いてゆく。
 がっくり擱坐して爆発を起こすインペライザー。
 その光景はサコミズ総監の指示により、テレビ回線を通じて全世界に放送されていた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「インペライザー擱坐確認。……以前のタイプとは違い、復元性能はさほど高くないようですね」
 イクノ・ゴンゾウがほっとしたような顔で告げる。
 シノハラ・ミオの背後で腕を組んで見ていたセザキ・マサトも頷いた。
「うん。多分、このインペライザーは星間機械文明連合がオリジナルのデータから複製して、製造した粗悪品なんだろうね。機械文明、と銘打つだけあってロボット関係の製造や操作はお手の物のようだけど、ちょ〜っとハードルが高かったかな?」
「――おしゃべりはそこまでよ」
 シノハラ・ミオの厳しい声が飛ぶ。
「都心に新たなインペライザー出現。名古屋にもキングジョー、仙台湾と大阪にクレージーゴンがそれぞれ上陸。それから、千葉上空を分離状態のキングジョーらしき四体の飛行物体が通過。高知にやたら胴の長い正体不明物体が飛来。報告された形状と目撃者の『竜が来た』との証言から、ドキュメントUGに記載のある、レジストコード・宇宙竜ナースに該当すると考えられます」
「まさにロボット軍団総攻撃だな」
 いつになく厳しい表情で呟くアイハラ・リュウ。
「射程さえ届けば、全部撃ち抜いてやるのにっ……!!」
 悔しげに歯を食いしばるヤマシロ・リョウコ。
 シルバーシャークにも射程がある。名古屋、仙台はもちろん、大阪や高知など射程範囲外もいいところだ。
「揺らぐな、諸君!」
 動揺しかけた空気を、トリヤマ補佐官の一喝が引き締めた。
「人間、やれることは限られている! 今は目の前の一戦に集中せよ!」
「ジ、G.I.G!」
 叫んで、アイハラ・リュウが再び正面を向いた時、シノハラ・ミオの下にある報告が届いた。
「大阪の防衛軍より入電。イサナ隊長率いるGUYSオーシャン・イサナ隊と防衛軍がクレージーゴンへの反撃を開始しました。なお、イサナ隊長はシーウィンガーの通信機能を全て封鎖して闘いに臨んでいるそうです」
「……やるな、イサナ隊長」
 アイハラ・リュウとヤマシロ・リョウコは顔を見合わせて頬笑んだ。
 イクノ・ゴンゾウも報告の声をあげる。
「福岡にニセウルトラセブン、釧路にインペライザー出現! それぞれGUYSチャイナとGUYSイーストロシアが応援を申し出ています!」
 むぅ、とトリヤマ補佐官は唸った。
「インペライザーはともかく、通信封鎖したままでニセセブンと戦う気か!? ……だが、助かる。イクノ隊員、それぞれに謝意を伝え、協力を要請したまえ! くれぐれも無理はせんよう念を押しておくようにな! それと、各地元に避難命令を出せ!」
「G.I.G!」
 その時、正面メインモニターに新たな敵影が映った。
 シノハラ・ミオがすぐに報告の声をあげる。
「キングジョー接近! その背後にクレージーゴン!」
 射撃手二人の目の色がさっと変わる。
「了解っ! ガンフェニックストライカーの仇討ちだっ! 隊長、両方ぶち抜くよっ!!」
「おう!」
 二人は銃を構えると、躊躇なく引き金を引いた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 夜闇を裂いて二基四門のシルバーシャークGから放たれたエネルギー弾は、狙いたがわずキングジョーに命中した。

 しかし。

 怯んだようにその足を止めたものの、キングジョーの装甲に傷一つついてはいなかった。
 続けざまにエネルギー弾が着弾する。そのたびにその威力に負けて一、二歩後退するものの、やはり破壊するには至らない。
 やがてクレージーゴンの場所まで後退らされたキングジョーは、クレージーゴンを支えにして両手を上げた。
 その額からイナズマ状の光線が放たれる。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「やらせるかあっ!!!」
 ヤマシロ・リョウコの咆哮がディレクションルームに響き渡った。
 飛んで来るビームに銃口を向けて、引き金を引く。
 同時にアイハラ・リュウは角度を変えてキングジョーの肩を狙った。
 シルバーシャークGの寸前でキングジョーの放った光線は相殺された。そして、アイハラ・リュウの放った光弾でキングジョーはバランスを失い、錐もみするようにぐるりと回って横様に倒れる。
「すごいっ?! 光線を撃ち落した!? ロックオンもしてないのに!!」
 素直な感動を声にしたのはセザキ・マサト。トリヤマ補佐官も、驚きに目を見開いている。
「へっへーん、光線だろうが、ビームだろうが、レーザーだろうが、リョーコちゃんが全部撃ち落してやるさっ! 機械なんかに、あたしらは負けないっ!」
 振り返ってガッツポーズを決めたヤマシロ・リョウコは、戻って以来黙ったきりのクモイ・タイチと眼差しを交わし、頷いて再び正面を向いた。
「とはいえ、このままでは埒があきません。効いていませんよ、こちらの攻撃が」
 冷静かつ辛らつな指摘はもちろん、シノハラ・ミオ。
 トリヤマ補佐官は怒りを封じるように大きく唸った。
「むぅぅぅぅ、やはりここはライトンR弾頭弾が必要なのか」
「キングジョーとクレージーゴンが順序を入れ替えて接近中」
「しつっこいな! 落ちなよっ!!」
 ヤマシロ・リョウコの引き金と共にシルバーシャークGが光の咆哮を上げる。しかし、クレージーゴンにも目立ったダメージは与えられない。
 やがて、トリヤマ補佐官は覚悟を決めたように叫んだ。
「マル!」
「はい!」
「科学班に行き、保管してあるライトンR弾頭弾を拝借して来い! ワシの権限で許す!」
「ほ、補佐官!? ――はい!!」
 一瞬驚いたものの、すぐに顔を引き締めて頷いたマル秘書官は踵を返してディレクションルームを出て行――
「その必要はありません。持って来ました」
 マル秘書官が出る前に扉が左右に開き、アタッシュケースを下げたミサキ・ユキが入ってきた。
「ミサキさん!」
「ミサキ女史!」
 部屋の中を見回したミサキ・ユキは頷いた。
「たった今、総本部の許可が下りました。待たせてごめんなさい。運用にあたって、一発たりとも外すことは許されません。確実に当ててください」
「なら、あたしが――」
「いや、ヤマシロ隊員はここでシルバーシャークを頼む」
 画面に向かって引き金と引き続けるヤマシロ・リョウコを制したのは、クモイ・タイチ。
 進み出たクモイ・タイチはミサキ・ユキからアタッシュケースを預かると、セザキ・マサトを見やった。
「今回必要なのは、ヤマシロ隊員の集中力ではない。武器の習熟度……移動するジープの上でもしっかり命中させられる技術だ。――セザキ隊員」
「ご指名とあらば」
 セザキ・マサトはヘルメットを小脇に抱えると、恭しく頭を下げた。
「ま、その程度のことは防衛軍で散々叩き込まれたからね。任せてよ」
「運転は俺がする。――隊長、いいか?」
 訊ねられたアイハラ・リュウも画面にかかりきりで振り返れない。
「ああ、頼んだ」
「クモイ隊員、セザキ隊員! ……決して無理はするなよ!」
 二人の肩を叩くトリヤマ補佐官、そして任せたとばかりに頷くミサキ・ユキ。
「それでは、CREW・GUYS、サリー・ゴー!!」
「G.I.G!!」
 敬礼を切った二人は、それぞれ頷いてディレクション・ルームを退出して行った。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 二人を乗せたジープが出動すると同時に、シルバーシャークGの攻撃は二人を援護する射撃に変わった。
 真っ直ぐ接近してくるジープを排除しようと攻撃態勢に入ろうとするクレージーゴン。そこへ高エネルギー弾が連続で着弾し、それを阻む。
 ジープはその的確な援護の下、容易くクレージーゴンの足下へ入り込んだ。
 足元のよく見えない夜の中、ドリフトを多用して絶好の狙撃ポイントに止まる――ロケットランチャーを担いだセザキ・マサトが、クレージーゴンの正面、六角形の口に見える窓に狙いをつける。
 クレージーゴンは右腕の巨大なハサミを大きく振り上げ――
「――今だっ!!」
 ロケットランチャーが火を噴く。
 同時にクモイ・タイチはハンドルを大きく切り回しながら、アクセルを踏み込んだ。
 振り下ろされた右ハサミをかいくぐり、クレージーゴンの足下を駆け抜ける。
 ライトンR弾頭弾の直撃を受けたクレージーゴンは、たちまちその動きを止めた。その巨体を支えるには貧弱すぎる足ががっくり砕け、地面に叩きつけた右のハサミを支えに脱力したようになる。体のあちこちから激しい火花が噴き始め、やがて――前のめりに倒れ伏した。
「一丁あがりぃ! ひゅーっ♪ さすが、ライトンR弾頭弾――第二弾セットまで、ちょっと待って!」
 右に左に切り返し、キングジョーの放つ光線を躱すクモイ・タイチに返事をする余裕はない。
 その激しく揺れる座席の中で、上体を右に左に前に後ろに大きく揺らしながら、セザキ・マサトは的確な手つきで弾頭を装填してゆく。
「……できたっ! クモっちゃん、またいい場所ヨロシク!」
「了解した。――攻めるぞ!」
「いぃやっほぉおおおっ!!!」
 爆発の連続する戦場を、ジープが駆け抜ける。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「リョウコ! 奴を倒すぞ!」
「合点承知っ!!」
 アイハラ・リュウとヤマシロ・リョウコは阿吽の呼吸でキングジョーに集中砲火を浴びせかけ、力任せに押し倒した。
 仰向けに倒れたキングジョーに対してジープから火線が伸び、キングジョーもまた火花を派手に吹き上げてその機能を停止した。
 トリヤマ補佐官が思わず拳を握り締め、ミサキ・ユキが喜びを満面に浮かべる。
 そして――シノハラ・ミオが告げる。
「……レジストコード・ロボフォー接近!」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 高度を下げてくる円盤から、ミサイルやレーザーが雨あられと降り注ぐ。
 それを、シルバーシャークGの火線が次々と撃ち落してゆく。
「クモっちゃん、こいつもやっちゃうよ!」
 三発目をロケットランチャーに込め終わったセザキ・マサトは、頭上を覆う巨大な宇宙船を見上げてもなお、怯むことなく言った。
 クモイ・タイチの唇が緩む。
「ああ、無論だ」
 答えるなり、ハンドルを切ってアクセルを踏み込んだ。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ロボフォー内部。
「……あの二体をそれぞれ一撃で破壊か。愚劣なる有機生命体の分際で、よくも」
 ファンタス星アンドロイドの隊長は不機嫌そうな口調で吐き捨てた。
「隊長、敵の兵器の解析が終わりました。原始的な射出装置で撃ち出してはいますが、あの弾頭はペダン合金の結合さえ打ち砕く、恐るべき破壊力を秘めています。また、敵拠点からの高出力光線砲の威力は、この艦(ふね)の装甲を上回っています」
「では、撃てないようにしてしまえばよい。手数では圧倒的にこちらの方が上の――」
 激しい衝撃が伝わり、艦橋が大きく揺れた。
「なんだ!」
「地球人の光線砲が着弾! 左マニュピレータ脱落! ……偶然ではありません。非常に高精度な狙撃です!」
「機械より正確だとでもいうのか!? 増援のキングジョーはまだ到着せんのか。ええい、弾幕を張れ! 手数なら負けぬはずだ! 奥の手も使え!」
「了解しました」
 オペレーターの指が、ボタンを押した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 走り回るジープを追ってロボフォーから放たれるミサイル、レーザーの雨あられ。
 周囲でひっきりなしに起きる爆発、地面をえぐり切り刻む高熱光線。
 その中を驚異的な勘でジープを操り、ことごとく躱してゆくクモイ・タイチ。しかし、あまりに激しいその動きに、さすがのセザキ・マサトもロケットランチャーとアタッシュケースを落とさぬように抱えたままが精一杯で、とても発射態勢をとる余裕はない。
 一方、シルバーシャークGも手をこまねいているわけではなかった。
 だが、ロボフォーがシルバーシャークGに向けて放つミサイルや砲撃、レーザーを撃ち落すのが精一杯で、とても二人を援護できる状況ではない。時折、ヤマシロ・リョウコが隙を見つけて直撃弾を見舞うのが関の山。
 今、両者は非常に危うい均衡を保っていた。
 そして、それを崩したのはロボフォー。
 下部から放たれた光線がシルバーシャークGを一薙ぎし――

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ディレクションルームに、一抹の混乱が生じた。
「う、撃てねえっ!! 反応しねえぞ!?」
 アイハラ・リュウがトライガーショットの引き金を何度も引き直す。だが、シルバーシャークGは何の反応もしない。
「なにかのトラブル……なにこれ!? シルバーシャーク内部の同期用時計が止まってる!?」
 シルバーシャークGの状態を確認したシノハラ・ミオが悲鳴じみた声を上げた。
「これは……限定的な時間停止!? なんてこと! あれがドキュメントにあった時間停止光線なんだわ!」
 その間にロボフォーの集中攻撃が、アイハラ・リュウ担当のシルバーシャークGを破壊した。
「ああ……っ!」
「ちょ――くっそぉぉぉぉおおおっ!!」
 トライガーショットを今にも叩きつけそうな勢いで吼えるアイハラ・リュウ。
 ぎりりと歯噛みをしたヤマシロ・リョウコの形相が、さらに厳しくなった。
 残ったシルバーシャークGの砲撃がいっそう激しくなる。その弾幕はアイハラ・リュウ担当のシルバーシャークGが健在だった時より激しい――ヤマシロ・リョウコの本気、本領。
 そこへ、ロボフォーとシルバーシャークGの間を塞ぐように、壁が落ちてきた。
 いや、壁ではない。
 上空で合体したキングジョーだった。千葉上空を横切っていた奴だろう。
 しかし、着地はしたものの、その驚異的装甲へシルバーシャークGの至近弾を連続で受けたことにより、突き押しを受ける力士のようにドタドタ後退してゆく。
「邪魔だ、邪魔だよっ!! どけ、バカあっ!!」
 殺意のこもった叫びをあげて、乱射し続けるヤマシロ・リョウコ。
 アイハラ・リュウはトライガーショットをディレクションテーブルに置いて、通信用のヘッドセットを取り上げた。
「――マサト、キングジョーより先にロボフォーを落とせ! あの光線は厄介だ!」
『G.I.G! うわ――』
 通信が途切れた。
「マサト!? マサト!!?」
「な、なに!? ちょっとたいちょー! セッチーになんかあったの!?」
 撃ちながらの問いかけに、アイハラ・リュウは歯を食いしばってメインモニターを見やった。
「通信が切れやがった!」
「時間停止光線にジープを捉えられてしまったようです、隊長!!」
 シノハラ・ミオの報告を聞いたアイハラ・リュウは、テーブルに拳を叩きつけた。
「くそっ、マサト! タイチ!」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ロボフォーから放たれた光線がジープを舐めた。
 途端に、その周囲の空間後とあらゆる動きが停止した。
 丁度ギャップを踏んで飛び上がった拍子に止まったため、ジープの車輪が浮き上がり、跳ね飛ばされた小石が宙に浮いている。
 シルバーシャークGの砲撃はキングジョーの壁が全て受け止めている。
 ジープに狙いをつけたレーザー砲の先端が輝きを増し――

 次の瞬間、凄まじい打撃音と共に、ロボフォーは空中でずっこけるように九十度横倒しになった。
 その原因は、横合いから飛んできた蒼い身体の巨人によるドロップキックだった。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「レ、レジストコード・レイガ出現! ……二人は無事です!」
 シノハラ・ミオのその声には、限りない安堵が含まれていた。
 その気持ちは、ディレクションルームにいる者全ての共有するところだった。
 ふと、片膝立ちに着地し、立ち上がるレイガの姿を見ていたヤマシロ・リョウコが、何かに気づいて眼を剥いた。
「た、たいちょー!? レイガちゃん! レイガちゃんが!」
「見りゃあわかるよ! 助けに来てくれたんだろうが!」
「そうじゃなくて、レイガちゃんの脇! あれ、あたしたちの翼じゃないの!?」
「んなにぃぃっっ!?」
 皆が画像を見直す。夜目でわかりにくかったが、確かにレイガは右脇に見覚えのある機体を抱えている。左手には、ガンスピーダーらしきシルエットがまとめて握られている。
「本当だ。……ガンフェニックストライカー……あいつ、わざわざ……」
 感に堪えぬ表情で唇を噛み締めるアイハラ・リュウ。
 画像の中のレイガはガンフェニックストライカーをゆっくり下ろすと、その脇にガンスピーダー二台を並べて置き、一仕事終えたとばかりに両手を二回、叩き合わせた。
 そのまま、ロボフォーを見やり、いっぱしの格闘家のように首を右・左と傾ける。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ロボフォー内部。
 レイガに蹴られた衝撃で席から飛ばされた隊長は、ほうほうのていでようやく席に戻ってきていた。
「お、おのれ、低脳の宇宙警備隊員め! 卑劣な真似を!! ――動きを止めろ!」
 隊長の指示に従い、オペレーターが再びボタンを押す。
 リング状の光線が放たれ、蒼い身体の宇宙警備隊員を拘束する。
「ふあははは、愚か者めっ! 総攻撃で奴を殲滅――」
 瞬間、凄まじい衝撃が下から上に向かって貫いていった。隊長が椅子から自分の座高ほども飛び上がるほどに。無論、落ちたのは椅子の外。
「*〇£★◎¢&◆※§@$――っかぁ! な、なんだ!? 何事だ!?」
 椅子の袖につかまって起き上がる。
 蒼い身体の宇宙警備隊員はまだリング状の光線に拘束されたままだ。攻撃されるはずがない。
 オペレーターが応えた。
「ち、地球人の攻撃です! キングジョーを倒したあの攻撃兵器が着弾、船体最下部の第三艦橋が消し飛びました!」
「し、しまった!! くそ、キングジョーにフォローをさせろ!」
 その時、サイドモニターにはキングジョーが地球人の拠点からの砲撃を受け、ゆっくりと後ろ向きに倒れてゆく姿が映し出されていた。
「キングジョー、転倒! 起き上がるために一旦分離します!」
「それでは遅いっ!! ……あ」
 正面パネルに分割して映る三つの画像。
 光芒を宿す砲台、こちらに砲口を向けた地球人、そして光のリングの拘束を力づくで剥がし、両腕を左に差し伸ばしている蒼い身体の巨人。
「は、反撃だ、反撃を――」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「――なんか、こうしてロケットランチャーででっかい円盤を攻撃してると、懐かしい気分になるんだよねー。なんでだろ」
 そう言って笑いつつ、セザキ・マサトは引き金を引く。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 画面上のロックオンマーカーがロボフォーを幾重にも捉えてゆく。
「人間を、なめんなぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
 怒りを以って、そして背後にいる仲間達の思いを乗せて、ヤマシロ・リョウコの指がシルバーシャークGの引き金を引いた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 左から右へ回した両腕に宿る光を、右手に集め――激しく輝く右手を高々と振りかぶり、地面を蹴るレイガ。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 レイガの右手がロボフォーの装甲を打ち破ってその内部に突き込まれた。
 シルバーシャークの光線が真正面から貫く。
 そして、ライトンR弾頭の衝撃が下から上に向けて貫く。
 ロボフォー内部はあっという間に放電と爆発の坩堝に陥った。
「バカな……っ! なんだこの同期性は!? 愚鈍な有機生命体の分際で、なぜこんなにも正確に……!!」
 ファンタス星アンドロイド隊長は椅子に座ったまま、呆然としていた。
「我々が……次代の宇宙を統べる我々が、そのために生み出された我々が……これほど容易く。なぜだ、コンピュータに解析を――」
「……通信装置全壊。及びロボフォー搭載コンピューター全壊、ワ、タくシも高電圧コンデンサー破損デ、コレ以上、ノ、活ドウ、フ……ノゥゥ……」
 弾ける放電の中でも動き続けていたオペレーターは、全身から白煙を噴いて活動停止した。
 隊長席のコンソールが爆発する。その火花が、隊長に引火した。
「まあいい。宇宙には三千隻の艦があり、この戦いも監視されている。この敗北データを糧とし、次こそ確実に――」
 ひときわ大きな爆発が起き、艦橋は紅蓮の炎の中に消滅した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 三方向から三つの攻撃を同時に食らったロボフォーは、そのまま空中で爆散した。

 しかし、キングジョーは逃げない。
 四機に分離し、再び合体して両手を差し上げる。
 そこへレイガが猛獣のごとく、猛然と襲い掛かった。
 イリエ直伝の大外刈りが炸裂し、再び横倒しに薙ぎ倒されるキングジョー。
 そこへ、再装填し直したセザキ・マサトがライトンR弾頭弾を放った。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 ディレクションルームにシノハラ・ミオの報告の声が響く。
「2機目のキングジョーも沈黙しました。とりあえず東京に残る敵戦力は、都心からこっちへ向かっているインペライザーだけです」
「ミオちゃん、それ望遠で画面に出せる?」
「ええ、出せますけど……」
 ヤマシロ・リョウコのいつもどおりの軽い言い方に、シノハラ・ミオは軽い気持ちで画面を操作し、拡大画像を映し出した。
 表示されるや否や、ヤマシロ・リョウコはそれに銃口を向けた。
「ちょっ……リョウコちゃ――」
 止める間もなく引かれる引き金。
 シルバーシャークGから放たれた光弾が、1秒ほど遅れて画面に現われ、インペライザーの右肩を貫いた。
 それを確認して、少し銃口の向きを調整し、第二射。ついで第三射。
 冷静に、相手の状況を見ながら次々と作業的なまでに矢を放つヤマシロ・リョウコの横顔は、まったく感情を削ぎ落とした冷たいものだった。
 風穴だらけになり、力尽きたように崩れ落ちるインペライザー。
「インペライザー、活動停止……。お見事です」
 イクノ・ゴンゾウの報告に、ヤマシロ・リョウコは大きく一息ついた。
「ありがと。でも、これの性能なら、これぐらい簡単だよ」
「簡単って……地上での有効射程距離の倍はあるわよ」
「ミオちゃん、それは機械がやるときの射程でしょ?」
 画面の中、火事になった花火工場のような勢いで爆発するインペライザーをじっと見つめるヤマシロ・リョウコ。
「まあ、そういう限界を決めるのは、いろいろな制約があるからってことなんだろうけどさ。本気の人間の限界はそんなところにはないんだよ。魂を込めた一撃は、機械に不可能な精度も実現してみせるんだから」
「……奇跡、ですか」
「そんな安っぽいもんじゃないよ」
 つまらなさそうな表情で銃床のソケットを抜き、指先で回したトライガーショットをガンベルトに差し込む。
 そして、シノハラ・ミオを見やってにっこり微笑む。まるで、金メダルを取ったかのように、屈託なく。
「自力でやれると信じてさ、実際にやっちゃったらそれはもう奇跡じゃない。奇跡だなんて、呼ぶべきじゃない。その人の努力の結果。ただの結果。必然。ただ、それだけのもの。結局……奇跡なんて、追い詰められた人の見る夢か、努力の足りない人の言い訳。それがあってほしい人の願望。そんなものにすがっちゃいけない。あると思ってもいけない。特にあたしたちのような、誰かの期待を一身に背負う人間はね」
「精一杯の努力と、決してくじけない心……それがアスリートの基本、なのね」
「そゆこと」
 ウィンクして、再び正面パネルを見やる。
 ふっと一息ついた。
(まあ……とはいえ、ツルク星人の事件の時には、かく言うあたしも奇跡を祈るしかなかったんだけど……。あの娘、元気そうでよかったな)
 夜景の向こうに、天に向かって上る流星がいくつか走った。



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