【一つ前に戻る】     【次へ進む】     【目次へ戻る】     【小説置き場へ戻る】     【ホーム】



ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第5話 史上最大の逆襲 造ラレシ"モノ"ドモノ逆襲 その2

 GUYS日本支部・総監執務室。
 壁掛けモニターに夕闇を切り裂いて飛ぶガンフェニックストライカーが映っている。
 サコミズ総監は、それをじっと見つめている。
 その耳奥に、出撃前の話し合いが甦る。


 総監執務室、ディレクションルーム、格納庫の三つを繋いだ回線会議。
『反応炉強制停止?』
 アイハラ・リュウのきょとんとした顔。
 その背後で顔色を変えたのは、イクノ・ゴンゾウとトイレから戻ってきた(らしい)セザキ・マサトだった。二人はその単語だけでなにを理解したのか、表情を硬張らせている。
 整備庫のアライソ整備長は頷いた。
『そうだ。そもそも何でもコンピュータに頼ろうとするから、今回みたいなことになるんだ』
 昭和世代の叩き上げ老エンジニアの言葉は辛らつだ。
『最後に頼れるのはやっぱり人間だ。そこで、ちょいとエンジンをいじって、コクピットから直接エンジンに反応抑制剤を注入させる工作をしておく。無論、コンピュータ制御なんかじゃあなく、ボタン一つで電波飛ばすか電流走らせて、エンジン内部に抑制剤をぶちまける原始的な仕掛けだ。スローダウンなんてまだるっこしいやり方じゃねえから乗ってる奴の危険度もえらいことになるし、当然エンジンもおシャカになる。オーバーホールなんてもんじゃねえ、完全交換だ。下手したら空中分解もありうるし、状況から考えりゃあ、戦場にたどり着く前にやらなきゃならなくなるかもしれねえ。だから言ったんだ。俺たち整備屋と、お前達の誇りを踏みにじるような手だってな。だが……』
 アライソ整備長は、後ろを振り返った。その視線の先に、格納庫で翼を休めているガンフェニックストライカーがある。
『今、あいつを飛ばすことが出来て、なおかつあいつを敵の手に渡さない方法は、それしかない。――どうする?』
『やるぜ』
 腕組みをしたアイハラ・リュウの即答。その表情に一切の躊躇はない。
『オレ達はCREW・GUYSなんだ。"俺たちの翼"は飾りじゃねえんだ。戦う手段があるなら、戦えるなら、出し惜しみはしねえし、したくねえ。ウルトラマンジャックだって、世界を回って戦ってるって時に、オレ達だけのほほんとしてるわけにはいかねえ。地球はオレ達の力で守らなきゃならねえんだ』
 アライソ整備長は頷いた。
『わかった。サコミズ総監……あんたも、いいんだな?』
「ああ。現場の判断を尊重する。けど、出来る限りの安全配慮を頼むよ」
『ああ、わかってる。整備班の誇りにかけて、誰一人死なせやしねえよ』
『……アライソ整備長。一つ、確認と提案があります』
 終わりかけに口を挟んだのはシノハラ・ミオ。そのメガネが、きらりと光を弾く。
 向こうを向きかけていたアライソ整備長は、呼び止められてその動きを止めた。
『? なんだ?』
『確認の方ですが、通信機器を物理的に使用不可能にするということは出来ませんか? 少なくとも、受信装置そのものが存在しなければ、おかしなプログラムも――』
 アライソ整備長は、愉快そうににやり頬を歪めた。
『荒業だな。そういうのは、嫌いじゃないが……しかしな。昔の飛行機ならともかく、今の機体は絶えずデータのやり取りをしなきゃならねえ。GPSしかり、機体状況の把握しかり。第一、パイロットとの連絡が取れなくなって、きちんと作戦遂行が出来るのかい? 百歩譲って、それらをパイロットの技能に委ねたとしても、ガンフェニックストライカーのガンフェニックストライカーたる最大の利点がなくなっちまうぞ』
『利点? なんです?』
『分離・合体だ。どちらもパイロットの技能だけでは補いきれない危険が山ほど潜んでるからな。安全性を高めるため、機体同士の相対速度や相対距離、傾きの角度やなんかを同期させるアシストプログラムが走ってるわけだが、受信装置自体をなくしちまえば、そのデータのやり取りも出来なくなる。さすがにそれは許可できねえな。分離したまま出撃して、合体はしないというなら構わないが……通信無しでの連携がどの程度通用するか、だな』
『やはりそうなりますか……。では、それを踏まえて提案させていただきたいのですが』
『ああ』
『GUYSスペーシーの件から考えたのですが、敵は直接コンピュータのメモリーやプログラムに介入してくるわけではないようです。電波の受信と同時にシステムを乗っ取られたわけではなく、その受信データの解析を行おうとして乗っ取られたとのことでした。無論、敵がこちらの対応を想定し、わざと『受信したデータをメインコンピュータで解析をかける』という状況でのみ発動するよう、条件設定を狭めていた可能性も捨て切れませんが……』
『だから、なんだ』
『通信制御プログラムから、GUYS通信回線以外の受信データを解析するプログラム部分を外していただけませんか。もしかしたら、送られてきた情報データを受信するだけでは――』
『向こうのプログラムが走らないかもしれない、か』
『そうです。解析――すなわち、翻訳があって初めて動き始めるのだとしたら……』
『しかし、解析部分のプログラムってこたあ、アンチウィルス機能やなんかのファイヤーウォールに直結している部分だ。丸裸になっちまうぞ』
『あら、アライソ整備長。今、ご自身で仰ったじゃありませんか』
 ふ、とシノハラ・ミオの唇に薄い笑みが浮かんだ。本来の怜悧な才媛の表情。
『そもそも何でもコンピュータに頼ろうとするから、今回みたいなことになるんだと。相手もこちらのコンピューター頼りを前提にしている節があるなら、それを逆手に取るのも策の一つです。いずれにせよ、乗っ取りプログラムが起動すれば、ガンフェニックストライカーはおシャカになるわけですし、エンジン三基交換より、後でのプログラム洗浄の方が安上がりだと思いますが』
『なるほど……そういや、お嬢ちゃんはそういう損得計算が得意分野だっけな。わかった、若い奴に言ってそっちの作業もさせてみる。アドバイス、ありがとうよ』
『あ、いいえ。お気遣いなく。よろしくお願いします』
 丁寧に頭を下げて、ウィンドウから消える。続いて、アライソ整備長も画面から消えた。



 そして今。
 ガンフェニックストライカーは飛ぶ。その名の通り、不死鳥のごとくに甦り。
「みんな、頼むぞ。そして……無事に帰ってくるんだ」
 サコミズ総監の呟きは、総監室の静寂に飲まれて消えた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「ウルトラマンジャックがバルタン星人の旧式兵器の四機目を撃破し、姿を消しました。残りは一機ですが、次の予想地点はSlmRU7活動地点からはほぼ惑星を挟んだ反対側となります」
「ふむ。予定通りだな」
「第3惑星防衛戦力とSlmRU7、接触。コントロール奪取プログラムウィルス発信準備中。発信までカウント337」
「どうやらこちらが乗っ取るより先に、SlmRU7によって撃墜される可能性の方が高そうだな」
「その可能性、63.4972%」
「低いな」
「地球人は過去におけるウルトラセブンの交戦の記録を所有。対処策を講じている可能性あり」
「ふむ……。SlmRU7が敗北する可能性は」
「5.6239%」
「では、それを0にする策を講じよう。ウルトラマンジャックの帰還への対策も兼ね、想定ケース965から988のシークエンス開始」
「了解」
「次いで、第四段階への準備開始。同盟同志に連絡したまえ。ウルトラマンジャック排除後、速やかに行動に移るとな」
「了解。――秘匿通信での返信あり。了承したようです。タイミングはこちらに預かりました」
「では……愚かなる劣等種族文明最期の宴を、始めるとしよう」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 津川浦上空。

「ガンフェニックストライカー、スプリット!」
 アイハラ・リュウの掛け声の下、ガンフェニックストライカーはガンウィンガー、ガンローダー、ガンブースターの三機に分離した。
 燃える町にさらなる破壊をもたらすべく、歩を進めるウルトラセブン――ニセウルトラセブンの背中に向かって、三機は突き進む。
「作戦通りにやるぞ! 奴を二度と町に上陸させるなっ!!」
 ニセウルトラセブンの左側に回り込むアイハラ・リュウ搭乗のガンウィンガー。
『G.I.G! ――レイガちゃんが現われる前に決着、つけちゃいましょー!』
 ガンブースターを駆るヤマシロ・リョウコは、右方向へ分かれてゆく。
 真っ直ぐ進むのはガンローダー。セザキ・マサト搭乗。
『G.I.G。――ヴァリアブル・パルサー!!』
 ガンローダーの両翼に装備された重粒子ビームキャノンが、対ニセウルトラセブン戦開始のゴングを鳴らした。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 いよいよ始まった地球人対ウルトラセブンの戦い。
 それを遠景に眺めながら、シロウはクモイ・タイチの治癒を続けていた。
「……もういい」
 不意に、クモイ・タイチはその治癒を止めさせた。
「だいぶ楽になった。今はここまでで十分だ。後のエネルギーは、この先の戦いのために残しておけ」
「けど、オレは……」
 悔しげな影を顔によぎらせたシロウに、クモイ・タイチは目を細めて微笑んだ。まだ目の下のクマは消えていない。
「もう、戦う理由はないか? ……あれがニセモノだったからか? それとも負けたからか?」
「違う。約束だろうが。一度破ったからって、全部反故にした覚えはねえ。それに、あいつらが来たのなら、オレの出番は必要ないはずだ。オレは……ウルトラマンじゃないしな」
「ウルトラマンだ」
「違う! オレは地球人のためになんて」
 嫌悪感に頬を歪ませるシロウに、クモイ・タイチは静かに首を振った。
「違わんよ。……元々、ウルトラマンとは自ら名乗るものではない。誰かのために命を顧みず戦う者に送られる称号だ。そして、さっき……お前にその称号が送られた」
「誰が!」
 クモイ・タイチは目だけでシロウの背中に顔を伏せたままのユミを見やった。
「お前が望まずとも、毛嫌いしようとも、その人にとってお前はウルトラマンなんだ、オオクマ――いや、レイガ。そして、その称号は、ツルク星人の事件の時に、既にお前に送られていた。俺が聞いたのがついさっきだった、というだけでな」
 シロウは気づいた。誰のことかを。
 顔だけを背に向けて、肩越しに震えている小さな少女の肩を見やる。
「……ユミ。お前か……」
「ごめ……ゴメンナサイ…………つい……言っちゃって……」
 シロウは大きくため息をついて、肩の力を落とした。
「そっか……なら、しょうがねえな。まあ……ユミならいいや。約束したしな。お前のために頑張るって――わかったよ。オレはこいつのウルトラマンだ。それでもいい。なんとでも言え。けど、だからって今ここで、クモイ、お前に言われて地球のために戦う理由は――」
 あくまで戦うことを避けようとするシロウを、クモイ・タイチは手で制した。骨折したままの腕が痛んだか、一瞬表情が歪む。
「慌てるな。まあ、聞け。……今、地球は未曾有の危機を迎えている。この一週間ほどの動きを見るだけでも、相手が地球征服に来ていることは確かだ。ニセウルトラセブンを倒しても、次の敵が来る。おそらく最後は、全面攻撃となるだろう」
「だから、戦えってのか」
「逃げられるか? オオクマ・シノブ、チカヨシ・エミ、イリエ師範、ヤマグチ・カズヤ、そしてアキヤマ・ユミ。お前が死んでほしくないと思うみんなを、彼らを全員守って地球を脱出し、侵略者の手の届かぬ宇宙に逃れられるなら、それでもいい。だが……彼らはそれに納得するか?」
「う……」
 シロウは答えに窮した。
 誰も地球を離れようとはしないだろう。シノブ一人を助けても、シノブは納得しない。たとえ超能力の全てを傾けてみんなの住む町一つ助けても、離れて暮らすシノブの息子達が残される。孫のタロウもだ。
 ユミだって、一人で逃げることを頷きはしないだろう。
 エミ師匠ともなればなおさらだ。
 クモイ・タイチは、シロウの懊悩を見抜いたように頷いた。
「戦うしかない。誰かのために戦うとは、守りたいと思う戦いとは、そして……侵略者と戦うということは、そういうことだ。怪獣による災害とは、まったく話が違う。……もう、わかっているはずだ。お前が地球に留まりたいなら、チカヨシや母親との約束を守るためには……これから先も、お前を大事に思ってくれる人と一緒の時間を過ごしたいのなら、お前も戦わざるをえないことを」
「地球人だけでは勝てないのか。地球は地球人のもので、これは地球を守る戦いなんだろう」
「勝てない」
 その断言に、シロウではなくイリエの表情が曇った。ユミにも怯えが走る。
 クモイ・タイチは空を見上げた。
「この戦いを仕組んだ敵は、地球のことをよく調査している。現に、火花一つ散らさずに世界中のGUYSの戦力は封じ込まれてしまった。だが、ウルトラマンと一緒なら……。かつて、暗黒宇宙の皇帝を僭称した敵でさえ、地球人は退けてみせた。地球人とウルトラマンのタッグは、それだけの可能性を秘めている。お前が、誰かのウルトラマンでありたいと思うなら、そして、それを誇りに思えるのなら……」
「戦うしかない、か。けど……オレはたった今、無様に負けたばっかで……」
「任せろ」
 のそりとクモイ・タイチは身体を起こした。少しふらつきながらも、松の木を支えに立ち上がる。
「今、言った。地球人とウルトラマンがタッグを組めば、と。今回の合宿の目的からすると、本当は邪道なんだが……お前がもう一度あの下らないコピーロボットと戦い、ぶち壊したいというのなら、一つ策を――いや、新しい必殺技を授けてやる」
 シロウはきょとんとした。同じく、傍で話を聞いていたイリエも。そして、ユミさえも顔を上げて目をぱちくりさせた。
「授けるって……誰が?」
「俺だ」
「は?」
 遠景の町の火の手の明かりの中に浮かび上がるクモイ・タイチのシルエットが、一歩一歩踏みしめて、前へ前へと進み出てゆく。その鋭い眼差しは昏い情熱を浮かべて、燃え盛る町と離れ行くニセウルトラセブンの背中を見つめている。
「俺がお前に、お似合いの必殺技を授けてやる」
 振り返ったその頬には自信ありげな――いや、ユミが思わず怯え、イリエがたじろぐほどの凶悪な笑みが浮かんでいた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「ウィングレッドブラスター!!」
 ガンウィンガーの主翼下から二条の赤いビームが放たれ、ニセウルトラセブンの肩で火花が弾け飛ぶ。
 ニセウルトラセブンは背後をすり抜けるようにかすめて飛ぶガンウィンガーに右手を差し伸ばし、手の先からクサビ状の光線を連続発射した。
 それを、後ろに目がついているかのようなギリギリの操縦で躱し切り、急上昇をかける。
「隙ありっ!! ガトリング・デトネイター!!」
 海面すれすれを飛行して来たガンブースターは、ニセウルトラセブンの背後で高度を上げつつ機体全身に配置された6門のビーム方を一斉射した。
 しかし、すんでのところで気づいたか、ニセウルトラセブンは側転して射線上から逃れた。
「ちゃー! なんであれを避けられんのー!?」
「腐ってもウルトラセブンなんでしょ! ダブルガンランチャー!!」
 ガンローダーの機体中央後方に屹立する尾翼前方に配置された重機関銃が、ガンファイアを吹き上げる。
 重金属弾頭がニセウルトラセブンに叩き込まれ、整えかけていた態勢を崩す。
 そこへ、ニセウルトラセブンの頭上方向からガンウィンガーがほぼ垂直に降下攻撃をかけてきた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!!」
 機首のビークバルカン、主翼下のウィングレッドブラスターが咆哮し、弾幕をばら撒く。
 躱すことは出来ない――と思いきや、仰向いたニセウルトラセブンは額に両手の人差し指と中指をかざした。
 額のビームランプからエメリウム光線が放たれ――
「んんんなあああろおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!」
 アイハラ・リュウ渾身の操縦技術が炸裂した。
 エメリウム光線に巻きつくかのような超絶機動で躱し切り、海上への衝突も避け、無論、町への墜落も防ぎ切って、ガンウィンガーは再上昇をかける。
「うわっ……!」
 悲鳴じみた声を上げたのはセザキ・マサト。
「何だあれ!!?? 防衛空軍のトップガンでもあんなの無理だって!! あの人、何者!?」
「それでこそ、あたしらの隊長ってことぉぉぉ!! 行ぃっくよぉ!! 今度こそ、ガァトリングッ! デェェトネイタァァァアッッ!!」
 ガンウィンガーとのすれ違うようにして射線に入ったガンブースターが、躱しようのない距離、角度で6門全門斉射――全弾命中。
 その威力に、ニセウルトラセブンは大きく後方へ飛ばされ、そのまま仰向けに海中へ没した。
「――やっぱそうだ!!」
 勝利を確信したヤマシロ・リョウコの叫び。
「なになに、リョーコちゃん? 何か気づいたの!?」
「気合だよ、気合いっ!! やっぱ気合いが足りないと当たんないんだよ!」
 コクピットで拳を握り締めている様が目に浮かぶ。
「……最近、出番なかったから、はっちゃけてるねー……」
「ぼやぼやすんなっ! たたみかけろ!」
「は、はいっ!! じゃない、G.I.G!!」
 アイハラ・リュウの叱咤に、セザキ・マサトは緩みかけた背筋を伸ばした。
「――撃滅パターンB7! 開始します!」
「G.I.G!! ガンブースター、弾幕展開! ガァトリングッ! デェェトネイタァァァアッッ!!」
 急旋回して戻ってきたガンブースターが乱射し、海中から身を起こそうとしているニセウルトラセブンを弾幕に包む。
 そのガンブースターの背後に、ぴったりとガンウィンガーがつく。
 ガンローダーは二機の射線を外れたニセウルトラセブンの背後に回り込み、ホバリングで狙いをつける。
「隊長!!」
「メテオール解禁!! ガンローダー、キャプチャーキューブ発射! 続けてガンウィンガー、パーミッション・トゥ・シフト! マニューバ!!」
 ガンウィンガーは全身から金色の光の粒子を放ち、イナーシャルウィングを展開した。ファンタム・アビエイションが発動し、挙動が揺らぐと同時に分身じみた残像が周囲に現われる。
「――スペシウム弾頭弾発射!!」
 ガンウィンガー主翼下のキャニスターからスペシウム弾頭弾ミサイルが放たれる寸前に、前方を飛ぶガンブースターが機体を捻ってその射線から逃れる。
 一方、ガンローダーからは、ダブルガンランチャーに装填されたメテオール弾頭が青い矢となって放たれた。
 それがニセウルトラセブンの頭上で光を放ち、クリスタル状のバリアを展開する――その寸前にスペシウム弾頭が滑り込んだ。
 少し早くても、遅くても成立しない必殺攻撃。
 バリアの中で爆発したスペシウム弾頭弾は、逃れようのない爆発のエネルギーと爆圧を思うさまニセウルトラセブンに浴びせかけた。

 しかし。

 水色のクリスタル型バリア――キャプチャーキューブの効果時間は、他のメテオール同様一分。
 その効果時間を待たずに、水色の光の檻は砕け散った。
 無論、スペシウム弾頭弾の内圧に負けたわけなどでは絶対にない。
 立ち込める爆煙の中から現われたのは、右手でアイスラッガーを逆手に構えたニセウルトラセブンの姿。
「内側から、斬りやがったのかっ!!」
「さすが、ウルトラセブン……エメリウム光線でも出してくれてれば、自分で自分を傷つけたのに!」
 口惜しがるセザキ・マサトの口調はしかし、おののきの成分を含んでいた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「SlmRU7、ダメージを受けました。装甲耐久力30.1333低下。戦闘継続に支障ありませんが、ウルトラマンジャックとの戦闘時における勝率が2.4543低下」
「思ったよりもやるな。コントロール奪取プログラムウィルス発信はどうした」
「発信までカウント57」
「増援はどうした」
「到着までカウント119」
「両方とも待つ必要はない。SlmRU7の全戦闘能力を解放し、速やかに全機排除せよ」
「了解」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「リョーコちゃん、突貫しまーす!! うぅぅぉおおおおおおおりゃあああっっっっ!!!!」
 ガトリングデトネイターを、ニセウルトラセブンは飛び込み前転で躱した。
 そして、アイスラッガーをそのまま投げる。
 狙われたのはガンブースター……ではなく、スペシウム弾頭弾を放ったガンウィンガー。
 ファンタム・アビエイションの残像分身でなんなく躱し切る――しかし、宇宙ブーメランの名は伊達ではない。ありえない急角度で転進した万物を裂く刃は、しつこくガンウィンガーを狙う。
 先ほど見せた超絶テクニックがまぐれでなかったことを証明するかのように、襲い掛かってくるアイスラッガーを何度も何度も超絶三次元機動で躱すガンウィンガー。
「くそ、リョーコちゃん! 隊長を援護だっ!!」
「わかってる! ――隊長、あたしのメテオール解禁を!」
 ニセウルトラセブンへ牽制攻撃をかけるセザキの脇を、すれ違うようにガンブースターが飛び去り、アイスラッガーと戯れるような挙動のガンウィンガーを追う。
「――ついでにボクもお願いします、隊長!」
「両機、メテオール解禁んんんっっっ!!!!!」
 派手に急旋回と高速ロールをかけつつ、二人の求めに応じてメテオールを解禁するアイハラ・リュウ。
「待ってましたぁ!! ガンブースター、パーミッション・トゥ・シフト! マニューバ!!」
「G.I.G! ガンローダー、パーミッション・トゥ・シフト! マニューバ!!」
 次の瞬間、ガンブースター、ガンローダーがほぼ夕闇に覆われつつある夜空に黄金の輝きを放った。
 イナーシャルウィングが展開し、ガンローダーに至っては両主翼に内蔵されたファン機構が開く。
「――スパイラル・ウォォォォォルッッ!!」
 ガンブースターが飛行を続けながら回転を始め、撒き散らされた金色のメテオール粒子が球形のバリアを構成する。
 そのまま、速度を上げてアイスラッガーとガンウィンガーの間に割り込んだ。
「隊長を、やぁらせるもんかああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!」
 ガンウィンガーを守る動きではない。ガンブースターをアイスラッガーにぶつける動きだった。
 金属板を斬りつけたような轟音が響き、ガンブースターのバリアが切り裂かれる。
「――つぁっ!! バリアが!?」
 同時に、アイスラッガーも制御を失ったように弾き飛ばされていた。
 そこへ、セザキ・マサトの叫びが重なる。
「ブリンガーファン開放! 荷電――いや、ちょおおお電磁っ!! たぁぁつ・ま・きぃぃぃぃっ!!!!」
 ヤマシロ・リョウコに影響されたかのような叫びっぷりに、機体が応える。
 両主翼のファンが高速回転し、荷電粒子を含んだ竜巻が二本生じ、海中にひざまずくニセウルトラセブンを捕らえた。
 二本の竜巻の間で、アイスラッガーのないニセウルトラセブンが翻弄され、高速回転する。
「うりゃああああああああああああっっっっ!!!! ウルトラっ、一本釣りいいいいいいいっっっ!!!!!」
 言葉そのままに、竜巻の間に挟みこんでニセウルトラセブンを空中高く巻き上げ、遠く沖合いへ投げ捨てる。
 制御を失ったアイスラッガーがその後を追う。
「――隊長!!」
「たいちょー! 今だよ!」
「おぉう! ガンフェニックストライカー、バインドアップ!!」
 ガンウィンガーとガンローダーが合体し、その背後からガンブースターが突っ込んでくる。
 分かたれた三機が再び一つの機体として合体してゆく。だが、それは――最大の隙でもある。
 空中でアイスラッガーを受け止め、頭部へ戻したニセウルトラセブンは、そのまま両手の人差し指と中指をそろえて額のビームランプにかざす。
 これ以上ないタイミングでエメリウム光線が、合体しきれていないガンフェニックストライカーに襲い掛かる。

 刹那。

 青い太陽が、出現した。
 ガンフェニックストライカーとの間に現われたその光球は、エメリウム光線を飲み込んだ。
 空中に浮遊するニセウルトラセブンが、動揺したような動きを見せる。
 そして、光の中から――

「――ジュアッ!!!」

 左拳を真っ直ぐ伸ばし、返した右拳を胸の高さに構えたポーズで――それは出現した。
 濃紺と深い蒼の身体を持つ、宇宙警備隊員ではないウルトラマン。

 その名は、レイガ。

 ウルトラマンレイガ。



【次へ】
    【目次へ戻る】    【ホーム】