ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA
火山島の死闘 その4
豪華客船アクア・エリスの発見に少し遅れて、洋上に漂う航空機の残骸が複数、海上保安庁の捜索隊により発見された。
その後も時を置かず、次々と見つかる残骸。
破片の状態、拡散の状況から見て、おそらく航空機は空中分解に近い形で爆散しており、生存者の発見は絶望視された。
そのため、アクア・エリスの生存者捜索に一縷の望みが託されたが、悪島にテロチルスという怪獣が存在する可能性が取り沙汰されるに及び、防衛軍と海上保安庁は捜索と不確定要素の排除(要するに怪獣の存在確認・発見・退治)をGUYSジャパンに一任、後方支援と洋上捜索の続行を公式に表明した。
GUYSジャパンではその表明を受け、救出作戦の立案・準備を開始。
先行するCREW・GUYSの動向が注視されることとなった。
―――――― ※ ―――― ※ ――――――
『アイハラ隊長。こちらフェニックスネスト、シノハラです』
「おう。こちらリュウだ。どうした、ミオ?」
アイハラ・リュウは、セザキ・マサトが操縦するガンローダーの後部座席で通信を受けた。
機は今、悪島に向けて白い雪のような浮遊物の吹雪く空を駆けていた。
『今、ヤマシロ隊員とイクノ隊員がガンブースターに搭乗していますが、少し発進が遅れそうです』
「なんかあったのか?」
『アライソ整備班長が、どうしてもある機材を積んでいけと』
アイハラ・リュウは露骨に顔をしかめた。
「機材ぃ? なんだあのオヤジ、この忙しい時に」
『それが……簡易レーダー波発信装置なんです。ロケット式の、地面に打ち込むやつです』
「はあ? なんのために」
シノハラ・ミオもその意図を測りかねているのか、困惑げに眉根を寄せている。
するといきなり、モニター画面に割り込んできたウィンドウがあった。
画面の真ん中でこちらを睨んでいるのは、がっしりした四角い顔にぎょろりとした眼光鋭い中年オヤジ。
「おわっ、アライソのおっさ――いや、整備班長!?」
アライソ整備班長は、にんまり頬を歪めた。背景に無骨な鉄骨が見えていることからして、おそらく整備エリアからの直通回線だろう。
『よう、小僧ども。話は聞いてる。そっちは視界が悪いそうじゃねえか。こいつが絶対役に立つ。悪いことは言わんから、積んでけ』
「積んでけって、何に使うんだそんな古いもん。それより、救助に役立つ機材を――」
『ガタガタ言うねえ!! べらぼうめっ!』
そのスピーカーの音量限界を無視した怒声に、思わずアイハラ・リュウはモニターから顔を背けた。
前部座席でも、セザキ・マサトが思わず首をすくめていた。
『いいか。ガンローダーのメテオール、ベンチレーション・ボルテクサー(ガンローダーの両翼中央のブリンガーファンで風を起こし、ガスを吹き散らしたり怪獣を竜巻で巻き上げて叩きつける)でも、さすがに一つの島を覆うほどのガス雲は散らしきれねえ。仮に、そうやってガスを散らしたとしても、おそらく二分も保たずにまた元の濃度に戻っちまう。そんな状況でおめえら、まともに怪獣と戦えるのか?』
図星を差されたアイハラ・リュウは、言葉に窮して黙り込んだ。
『だからこそのレーダー波発信装置なんだよ』
「どういうこった、おやっさん?」
『こいつを島のあちこちに打ち込め。そうすりゃ島の上空、どこにいても空飛ぶ怪獣を探知できる。今、イクノとヤマシロが乗り込んだガンスピーダーに、そのレーダー情報をコクピットキャノピーへと投影するプログラムをインストール中だ。ガンウィンガー、ガンローダーにもインストールすれば、どれだけ視界の悪い状況でも怪獣の影を三次元的に追えるって寸法だ』
「すっげー。ほんとかよ、おやっさん」
『こんな時に冗談が言えるかっ!!』
再びの怒声に、セザキ・マサトはまたも首をすくめた。
「悪ぃ悪ぃ。すまねえ。助かるぜ、おやっさん。正直、メテオールでガスを散らした後、ガス雲の外へおびき出して戦う程度しか、案がなかったんだ」
画面の中のアライソ整備班長は、ふん、と鼻を鳴らして笑った。
『おめえのこった、どうせそんなことじゃねえかと思ってたぜ。バカ野郎が』
「ちぇ、おやっさんにゃあかなわねーな」
照れくさそうに鼻の下をこするアイハラ・リュウ。
『たりめーだ、年季が違わぁ』
そこでアライソ整備班長の表情が、再び厳しくなる。
『いいか、小僧ども。客船の連中を救い出すのも大事だが、おめえらも無事に帰ってこなきゃ、何の意味もねえんだ。オレに出来るのはこれだけだが、おめえら――絶対に帰って来いよ』
「G.I.G! おやっさんの気持ち、無駄にはしねえ!」
右拳を突き出すようにして、不敵な笑みをこぼすアイハラ・リュウ。
「ボボボボクもがんばりまぁす!!」
少々頼りなさげな声を上げるセザキ・マサト。
アライソ整備班長はにんまり不器用に頬を歪めて、画面から消えた。
残ったウィンドウに映るシノハラ・ミオは、男たちの熱いやり取りなど全く気にも留めていない様子で、別の用件をしていたようだった。
『あ、終わりましたか? では、次の件ですが』
冷酷なまでに事務的な口調で、くいっとトレードマークともいえる三角メガネを持ち上げる。
『今、悪島に着陸したクモイ隊員と回線が繋がりました。そちらにも回します』
「おう、頼む」
「クモっちゃん、ひょっとして生存者を見つけたんですかね」
回線が繋がり、通信画面が映るまでの間にセザキ・マサトが安堵の笑みをこぼす。アイハラ・リュウは、笑みで応えた。
画面に現われたクモイ・タイチは、ヘルメットのバイザーを引き下ろしていた。
『――こちらクモイ。現在、アクア・エリスの遭難現場までたどり着いた。幸い、海岸沿いはガス濃度も薄めで、視界が取れている。マスクさえ着用していれば、活動には問題ない。ガスが日を遮ってるせいか、少々暗いがな』
「タイチ、こちらリュウだ。怪獣に関して、なにか気づいたことはあったか」
『気づくもなにも』
画面に映っているクモイ・タイチは、即座に首を振った。
『大騒ぎの最中だ』
「なに?」
『今のところ声も聞こえないし、姿も見えないが……島へ上陸した時からずっと、気配を感じてる』
「気配? 狙われてるような、か?」
『いや。そんな生易しいレベルじゃない。空気に殺気が充満している。こいつは……ただごとじゃない。そうだな……あんたら素人にもわかりやすく言えば……睨み合いの空気。一触即発の空気だ』
武術修行と称して全国を回ったことのある男ならではの感覚、表現にアイハラ・リュウも笑い過ごすことは出来ない。
「なにが起きてるんだ?」
クモイ・タイチはまた首を振った。
『わからん。赤いガスの向こうで何かが起きてるのは確かだがな。……状況は隊長の予想の斜め上を行ってるかも知れんぜ』
『アイハラ隊長』
不意にシノハラ・ミオが話に割り込んできた。
『お話の最中に割り込んで申し訳ありません。先ほどクモイ隊員がこちらへ送ってきた画像の解析が終わりました』
アイハラ・リュウは顔をしかめた。
「画像解析? なんかあったのか、タイチ?」
『ああ。ちょいと不審なものを見つけたんでな。こいつだ』
クモイ隊員から送られてきたのは一枚の画像。黒々とした波間に浮かぶ、無数の魚の死骸と……奇妙な形状の物体。
「……なんだこりゃ?」
『怪獣の腕……みたいにも見えるんだがな』
言われて、アイハラ・リュウは改めて見直した。確かにそう見えないこともない。しかしこれは、腕というより……。
『今、すぐ目の前の波打ち際に浮いている。――シノハラ隊員、結果を』
『正確には脚です。形状から検索・検証した結果、レジストコード・原始怪鳥リトラの脚と判明しました。体長はおおむね5m。アウトオブドキュメント(防衛部隊不在時期に確認された怪獣の記録)に同種族を確認。以前の出現時期は、最初のウルトラマンが現れる前――怪獣頻出期史上二番目に確認された怪獣です』
「リトラ? 体長5m? 怪獣にしちゃ小さいな。なんでそんなものが、アクア・エリスの傍に」
『おそらく、より大きな巨大生物に捕食されたのではないかと』
「テロチルス、か」
『それは断定できませんが、少なくとも体長5mの巨大怪鳥を脚だけを残して捕食する何かが、その近辺に存在することは間違いないかと思われます。十分お気をつけ下さい』
「わかった。――タイチ、これから船内の捜索だな?」
画像の中のクモイ・タイチは少し渋い顔をした。
『ああ。生存者が見つかればいいが……上空に比べて薄いとはいえ、依然この周辺のガス濃度は高い。救出作業には、それも考慮に入れて作戦を立てた方がいい』
「わかった。――ミオ、後続部隊への注意喚起を頼む」
『G.I.G』
『では隊長、何かあったらまた連絡する』
「ああ。オレたちも急ぐ」
『G.I.G』
敬礼を切ってクモイ・タイチが通信を切る。
「ここまで来ると、もう怪獣はいるものと思って行動した方がいい、ということっスね、隊長」
前の席から話すセザキ・マサトの声は、そうは言っても少々緊張感に欠けているような印象を与える。
「ああ、そうだ。気合入れて行くぞ、マサト」
「G.I.G!」
元気に答えるセザキ・マサト。
二人の乗るガンローダーのキャノピーの外は、徐々に白いものが混じり始めていた。
―――――― ※ ―――― ※ ――――――
ガンローダーがやがて追いついてきたガンブースターと合流したのは、もう悪島を取り巻く赤いガス雲を目視できる距離まで近づいた時だった。
後方からあっという間に追いつき、ガンローダーの右に並んで速度を合わせたガンブースター。横を見やったアイハラ・リュウとセザキ・マサトに、ガンブースターの前方座席に座るヤマシロ・リョウコが激しく手を振る。
「よう、来たな。リョウコ、ゴンさん。待ってたぜ」
『遅くなりました』
『おっまたせー! あたしが来たからには、あとはおまかせっ!!』
相変わらず機上のヤマシロ・リョウコはいつも以上にテンションが高い。
「リョウコ、今回は視界の悪い中での戦闘になる可能性が高い。慎重に行け。ゴンさん、頼む」
『G.I.G! テロチルスだかテロサウルスだか知らないけど、リョーコちゃんは鳥さんなんかに負けませんよぉ〜!!』
『G.I.G。それから隊長、プログラムの件ですが』
「ああ、それだがよ。おやっさん、何でフェニックスネストから直接送ってこなかったんだ?」
『アライソ整備班長によると、実はこのプログラム、一旦ガンスピーダーの再起動をかけないとインストールが完了しないんです』
たちまちアイハラ・リュウは怪訝そうに眉をひそめた。
ガンスピーダーはそれ自体にもそれなりの攻撃手段と機動性を保持しているが、基本的にはガンウィンガー、ガンローダー、ガンブースターのコクピットブロックとして運用されている。それを再起動しなければならないということは――
「つまりなにか? 一旦着陸なり着水なりしないとダメっつぅことかよ」
『もしくは、一度全部バインド(合体)し、インストール済みの我々が操縦しつつ、他の二機を再起動させるか……アライソ整備班長は不確定要素が多すぎてお勧めは出来ない、と仰っておられましたが』
「だろうな。……どうしたものかな」
『しかし、ちょうどいいかもしれません。悪島に着陸して再起動をかけましょう』
「ちょうどいい? なにが?」
『テロチルスは夜行性ですが騒音に敏感ですので、レーダー波発信装置を空から撃ち込むのは、その途中で襲われる危険が伴います』
「じゃあどうすんだ?」
『ガンウィンガーの接近・着陸には反応しなかったことから考えて、おそらくその傍に着陸するまでは大丈夫でしょう。そのあと、両機のインストール作業を私が行います。その間に、このガンスピーダーで海中から各設置ポイントへ向かえば、空から撃ち込むよりは多少時間のロスはありますが、比較的素早く安全に作業は進められます。残った者はクモイ隊員の手助けを――』
そのとき、フェニックスネストから通信が入った。
「こちらリュウ、どうしたミオ」
『クモイ隊員から通信です。生存者発見。繰り返します。生存者発見です!!』
途端に、二機のコクピットに歓声が湧いた。
「おおっしゃああ!! でかしたタイチ!」
「ひゃっほー! クモッちゃん、さっすがぁ!」
『いやっふー!! タイっちゃん、すてきー!! 帰ったらキスしたげるー!』
イクノ・ゴンゾウは慌てず騒がず、微笑を浮かべただけだった。
「おおし、ミオ! タイチに繋げ!」
『もう繋いでます』
心なしか普段より穏やかな雰囲気の口調のシノハラ・ミオのウィンドウの上に、クモイ・タイチの映像ウィンドウが開く。薄暗い背景は、客船の中の通路らしい。かなり傷んでおり、破損した天井からパネルや配線やパイプがぶら下がっている。
『こちらクモイ。――ああ、隊長、みんな。大喜びのところ水を差して悪いが、状況はあまり芳しくない』
報告するクモイ・タイチの声に高揚の色はなく、またその表情も妙に緊迫している。
たちまち両機の興奮は冷水を浴びたように静まり返った。
「え、ええ? どーしたの、クモっちゃん……?」
『タイっちゃん……まさか……手遅れだったの……?』
クモイ・タイチは首を振った。
『いや。さすがは豪華客船というべきか。火事や浸水の際に使う防火扉や防水扉などを利用して、かなりの人間が気密の高いスペースを作り、その中に逃げ込んでいる。まだ船内の全てを見回ったわけではないが……おそらく数百人はいるだろう。負傷者の数は推して知るべし、だな』
途端にアイハラ・リュウの表情が険しくなった。
「数百人? そいつは……やべえな。空調は機能してねえのか」
『あるにはあるが、生き残りの機関員に聞いたところ、このガスを浄化できるようなフィルターはついてないそうだ。それに現在機関は完全に停止している。直接機関を動かせるかどうか確認しようと部屋を出た機関員は、全てガスにやられたようだ』
「タイチ、お前がやれ。その装備なら自由に動けるだろう」
『無理だ。目をやられた機関員に話を聞いても、さっぱりわからん。それに、ブリッジはあの有様、煙突はじめいろいろな場所が破損していて、下手に稼動させたらどんな惨事が起きるかわからん、と言われた』
冷水どころか、希望が絶望に凍りついてゆくのをアイハラ・リュウは感じていた。
―――――― ※ ―――― ※ ――――――
「ねえねえ、セッチー。なにがやばいんだろね? 慌てず騒がず、ゆっくりやればいいじゃん」
『さあ……』
二人で状況の整理・取りうる対応の相談をしているクモイ・タイチとアイハラ・リュウを尻目に、ヤマシロ・リョウコとセザキ・マサトは呑気な会話を交わす。
「空気だ」
耳はクモイ・タイチとアイハラ・リュウの会話に傾けつつ、イクノ・ゴンゾウが端的に答えた。
「気密が高いということは、逆に言えば外部との空気の交換が出来ないということでもある。現状、部屋の外がガスで充満している以上、空調は動かせない。ガスの中和や浄化には、そのガスに対応したフィルターが必要だが、この赤いガスに対応したフィルターはない。つまり、迂闊に空調を動かせば、外部のガスを室内に引き込むことになってしまう」
『空気の交換が出来ないってことは……呼吸が? イクノさん!?』
ようやく事態を理解したセザキ・マサトの言葉に、イクノ・ゴンゾウは深々と頷いた。
「そうだ。船内に残っている空気がどれだけあるかわからないが、数百人からの呼吸をそう長く維持できるとは思えない。急がなければ……」
「ちょっと待って、ゴンちゃん。数百人だよ? あたしたち現場に着いても、全部救出するのに、どれぐらい時間がかかるの? 急がなければって、それまでほんとに保つの?」
「……………………」
ヤマシロ・リョウコの問いに、クモイ・タイチとアイハラ・リュウもいつの間にか黙り込んでいた。
「ちょ、ちょっと! 何で誰も答えないの!? 手がないってこと? それじゃあ、あたしたちまるっきり――セッチー、何か考えなさいよ!」
『な、なにかって。……ええと、数百人を一気に運び出すのは無理だし、空気って言うか、呼吸に必要な酸素が足りないわけだから……何とか酸素だけでも供給できれば…………ええと……ええと……待てよ…………現場で酸素を作るってのはどう?』
「現場でぇ?」
『酸素を作るぅ?』
ヤマシロ・リョウコとアイハラ・リュウの息の合った突っ込みに、セザキ・マサトは乾いた笑いで答えた。
『あ、あはははは。いや、水さえあれば、電気分解で酸素と水素を発生させてとか考えたんだけど……』
「そんな水、どこにあんのよ! アホセッチー!」
「……足元にある」
イクノ・ゴンゾウの呟きに、全員が一瞬呆気に取られた。
「海水も水だ。真水を使うより効率は悪いが、出来ないことはない。電気はガンローダーのバリアブル・パルサーで供給し、作った酸素と水素を分離すれば――」
そのとき、フェニックスネストからシノハラ・ミオが落ち着いた声をあげた。
『残念ですが、それはやめた方がよろしいでしょう』
「なぜだ? シノハラ隊員」
『港のガス事件に同行した分析班から入った情報によりますと、赤いガスは水に対してかなりの親和性を持っているようです』
『どういう意味だ! わかりやすく言え!』
アイハラ・リュウが吼える。
『つまり、このガスは水に溶けやすいのです。現場で採集した海水に、正体不明の成分がかなり溶け込んでいたそうです。電気分解などすれば、溶け込んだガスがどんな反応を起こすかわかりません』
『あー……だから、海面上はガスが薄めなのか』
セザキ・マサトがとぼけた声で呟いたとき、全員の耳に聞こえるほど大きな音が響き渡った。
アイハラ・リュウがコクピットハッチに拳を叩きつけた音だった。
『くそっ! せっかく生存者が見つかったってのに、なんとかできねえのかよ!』
その叫びは、その場にいる者全ての思い。
そして、それに応えたのはシノハラ・ミオ。
『――隊長。今の話を踏まえて、提案があります』
『なんだ、言ってみろ』
『防衛軍に出撃を要請し、その島周辺に硝酸銀を撒いていただきましょう』
『ショウサンギン? なんだそりゃ』
「……簡単に言えば、雨を降らせる魔法の粉です」
答えたのは、イクノ・ゴンゾウだった。
「高空で撒けば、空気中の水分を集める雲の核となり、雲を発生させ、雲は雨となって地上に降る。そして、このガスは水に溶けやすい……そういうことですね、シノハラ隊員」
画面の向こうで、三角メガネのキャリアウーマンは頷いた。
『あるいは、その雨がガスを薄めてくれるかもしれません。ただ……』
『なんだ、何か問題があるのか』
『我々GUYSは、その防衛軍が到着する前にその島に潜む巨大生物を発見し、撃滅しなければなりません。さもなければ、武装を持たない防衛軍機が襲われる可能性もあります』
途端に、アイハラ・リュウは気の抜けた顔になって、座席の背もたれに背を預けた。
『なんだよ、気を持たせやがって。そんなの、問題でも何でもねえじゃねえか』
『そうですね。ボクらの一番得意領域だ』
セザキ・マサトのいっそ呑気なその発言に、シノハラ・ミオは少し安堵したように目を細めた。
『セザキ隊員……』
「じゃあ、これでやること決まったね」
ヤマシロ・リョウコがはしゃいだような声を上げる。
「現場に着いたら船内の捜索とレーダー波発信装置の設置、プログラムのインストール。それがすんだら、怪獣倒して、防衛軍に魔法の粉をまいてもらって……あれ? 救助者の搬送はどうするの?」
「周囲に展開している防衛軍と海上保安庁の艦船に応援を頼みましょう。怪獣さえ退治してしまえば、彼らも自由にこの島へ近づける」
「おー、さすがゴンちゃん。ん〜、これで道筋見えたじゃん!」
機上の四人にようやく安堵の空気が流れる。
「いえ、もう一つやることがあります」
『なんだ、ゴンさん。この期に及んで』
水を差すようなイクノ・ゴンゾウの言葉に、アイハラ・リュウは顔をしかめた。
「亜硫酸ガスの発生を止めることです。赤いガスはテロチルスの吐く白い糸の成分と亜硫酸ガスが結合したもの。これだけの赤いガスが発生し、島周辺に吹き巻く気流にもまるで薄まる気配がないのは、間断なく亜硫酸ガスが発生しているからだと考えられます。できれば、レーダー波発信装置の設置中にでもその出所を突き止め、速やかに爆撃して発生を止めてしまえば、あとはガンローダーのブリンガーファンで相当程度吹き散らせます。そこへ雨を降らせれば、効果はさらに上がるのではないでしょうか」
『なるほどな。雪だけなら今のところ問題はない、ということか』
「そうです」
『わかった。それも作戦の中に入れておこう』
『それはこちらで』
答えたのは、以外にもシノハラ・ミオだった。
『ガスの成分サンプルは手に入りました。悪島の衛星画像を解析し、赤いガスや亜硫酸ガスの濃度がひときわ高い場所を見つけ、そちらにお伝えします。あ……――今、防衛軍より返信。降雨作戦への協力、取り付けました。発進はこちらの要請に合わせてくれるそうです』
『わかった。……そんじゃ、現場に着いたらリョウコはタイチのバックアップにつけ。マサトは装置の設置作業だ。ゴンさんはインストール作業を頼む。オレはゴンさんの傍で指揮を取る』
キャノピーの外の空気が赤みがかり、前方にうずくまっていた赤いガス雲は視界を圧するほどに近づいている。
『よーし、CREW・GUYS! アクア・エリス乗客乗員救出作戦、開始!!』
四人の『G.I.G』が唱和したその時――シノハラ・ミオが悲鳴を上げた。
『ええっ!? なにこれ……!? ――隊長! 都内から高速飛行体が出現! 進路は……その島に向かってます! なんて速さ!? これは――』
同時に二機のレーダーに6時の方向から飛来する影が映った。
それは見る見るうちに両機に追いつき――あっというまに抜き去って行った。
銀を基調に、濃い青と黒の模様を描いた巨大な人型。その飛び様はまるで空を裂くが如く。
『!!!』
『あ、あれは!』
「レジストコード……」
「ウルトラマンレイガ!」
妙に喜色の混じったヤマシロ・リョウコの声に、アイハラ・リュウが即座に噛み付く。
『リョーコ! あいつはウルトラマンじゃねえっつってんだろ!』
「どっちでもいいです! 助けに来てくれたんだ! やったー!!」
『どーだかな……マサト、急げ! レイガに遅れを取るな!』
『G.I.G!!』
「ぃよーし、あたしも負けないよ〜!!」
ガンローダー、ガンブースターは速度を上げ、赤い空気を裂いて飛び去った銀の巨人を追った。